大和但馬屋読書日記

この日記は

2005年08月19日金曜日

[][][][][]竜とイルカたち ―パーンの竜騎士9(アン・マキャフリイ/小尾芙佐訳,ハヤカワ文庫SF)

SF作品がその魅力を存分に発揮するためには短編であるべきだとは思ふが、大長編SFだつて面白いのである。例へば「パーンの竜騎士」がさうであるやうに。

前巻が出てから随分待たされたといふか、正直待つてゐたことすら忘れかねないくらゐだ。糸降り期が一回抜けたあとの城砦民達の気持ちがよく分るぞ。などと大長編ならではの語彙をつい駆使したくなるやうな作品は、オレにとつてはこれだけかもしれない。ガンダム語はまあ別として。特に初期三部作を繰返し読み、「竜の夜明け」に打震へた身としては、何年待たされても固有名詞に何の引掛りも感じることなく入り込めた。

前巻でひとつのクライマックスを迎へた後、やつと出てきた新刊のテーマがイルカときては「おいおい大丈夫か」とつい思つてしまつたが、まあ何とか大丈夫だつた。イルカの持つ超能力がパーン入植前からの遺伝子改造の結果といふことで、その設定がなかつたらちと受容れられなかつたと思ふ。ニューエイジ小説にならないかと心配だつたのだ*1

それにしても相変らず悪人が描けてないなあ、とは思ふ。トリク太守が間抜けに見えるのは彼以外の全ての人間が底抜けのお人好しだからなのではないかと。ある意味でもの凄く息苦しい社会なのではないか、惑星パーンといふ土地は。そこがどんなに過酷な環境と設定されてゐても結局は克服してしまふのだし(それが作品のテーマなのだから)、パーンは今やアメリカ的理想郷に向けて一直線に突進んでゐる。それを受容れて結末まで見届けるのもひとつの務めだから一刻も早い新刊の訳出を待ちたいところだが、一方でオレが好きなのは一巻二巻あたりの少し陰鬱な雰囲気であつたり、もつと遡つた「竜の貴婦人」のモレタの時代の雰囲気であつたりする。このやうな「中世的な風景の中に身を置きたい」といふ願望に忠実であらうとすればオンラインRPGなどにも少しは興味が出てくるのかもしれないが、まださういふ気はしないな。

‥‥もし「パーンの竜騎士オンライン」なんてゲームがあつたらどうしようか*2。既にありさうだな。いや、そんなのよりどちらかといふと火蜥蜴を飼ひたいのだけれど。竜よりも火蜥蜴。

そんなこんなで、もはやSF的にどうとかではなく、作品世界に耽溺するための環境そのものであり、さういふ意味では「吉永さん家」とかを読むのと動機は何一つ変らない。

つか、メノリ(それかい)。

*1:元からさうではないか、といふ指摘は聞こえない振りをする方向で

*2:因みに「ドラクエ」が海外で「DRAGON WARRIOR」となつたのは「パーンの竜騎士」のTRPGだかボードゲームだかがシリーズ第二巻「竜の探索」の名を関してゐるからだと昔どこかで読んだ気がする

2005 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 12 |
2006 | 02 | 10 | 11 | 12 |
2007 | 02 | 03 | 07 | 08 |

カレンダー

bookグループカレンダー

カテゴリ一覧


タイトル一覧(百日分)



テンポラリ


はてなbookグループ

グループトップページ


管理情報