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読書ノート

2013-12-08

pp.306-7

「(…)一九四一年十一月二十七日朝、国務省の最高当局は日本との関係事項は陸海軍の手中に在ると述べ(…)同日に海軍作戦部長および陸軍参謀総長は、ハワイ地区の軍隊に対して、戦争警告(ウォー・ウォーニング)を送っており(…)
十二月六日夜日本の通告を伝える電報を読んだルーズヴェルト大統領は、『これは戦争を意味する。“This means war.”』といっております」
(清瀬一郎『二十五被告の表情』)

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.306-7]

ISBN:9784167366087

pp.297-8

自己の有せざる権限は他人に与うること能わずという法律上の格言は国際条約の解釈の上においてもまた同様であります。(清瀬一郎)[朝日新聞法廷記者団『東京裁判・上』]

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.297-8]

ISBN:9784167366087

p.292

その宣伝効果をより一層完璧ならしめるために、(…)CCDの検閲と呼応して、あるいは「客観的」報道の名の下に(…)報道機関を「指導」して、被告団の生命を賭した陳述に罵声を投げつづけさせたのであった。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.292]

ISBN:9784167366087

p.287

「(…)あなたのお国が、真に太平洋の平和を欲し、譲歩をもってのぞんでくるならば――」(東條英機)[朝日新聞法廷記者団『東京裁判・中』第五篇]

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.287]

ISBN:9784167366087

p.262注(p.277)

Draft of c/n, Subject: War Guilt Information Program, From: CIE, To: G-2(CIS), : Date: 6 February 1948.

(…)レイ・A・ムーア博士から提供された。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.262注(p.277)]

ISBN:9784167366087

p.272

CI&E製の宣伝文書に端を発する空騒ぎ(…)騒ぎが大きい割には、そのいずれもが不思議に空虚な響きを発するのは、おそらく淵源となっている文書そのものが、一片の宣伝文書に過ぎないためにちがいない。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.272]

ISBN:9784167366087

p.271

前書*1の一節が、グロテスクな響きを発せざるを得ないのは、この宣伝文書が、戦争とは国家間の争いにほかならないという自明な「真実」を「隠蔽」したまま、いわゆる「真相」の暴露に終始しているためというほかない。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.271]

ISBN:9784167366087

pp.270-1

実際には日本と連合国、特に日本と米国とのあいだの戦いであった大戦を、現実には存在しなかった「軍国主義者」と「国民」とのあいだの戦いにすり替えようとする(…)

戦争の内在化、あるいは革命化にほかならない。(…)架空の図式を導入することによって、(…)すべて「軍国主義者」の責任であって、米国には何らの責任もない(…)大都市の無差別爆撃も、広島・長崎への原爆投下も、「軍国主義者」が悪かったから起こった災厄であって、実際に爆弾を落とした米国人には少しも悪いところはない、ということになるのである。

 そして、もしこの架空の対立の図式を、現実と錯覚し、あるいは何らかの理由で錯覚したふりをする日本人が出現すれば、CI&Eの「(…)プログラム」は、一応所期の目的を達成したといってよい。(…)以後日本人が大戦のために傾注した夥しいエネルギーは、二度と米国に向けられることなく、もっぱら「軍国主義者」と旧秩序の破壊に向けられるにちがいないから。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.270-1]


ISBN:9784167366087

pp.267-8

昭和二十年暮の、八日から十五日にいたる僅か一週間のあいだに、日本人が戦った戦争、「大東亜戦争」はその存在と意義を抹殺され、その欠落の跡に米国人の戦った戦争、「太平洋戦争」が()め込まれた。(…)戦争の呼称が入れ替えられるのと同時に、その戦争に託されていた一切の意味と価値観もまた、その儘入れ替えられずにはいない(…)すなわち、用語の入れ替えは、必然的に歴史記述のパラダイムの組み替えを伴わずには措かない。(…)決して日本人の自発的な意志によって成就したものではなく、外国占領権力の強制と禁止によって強行されたものだったのである。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.267-8]



ISBN:9784167366087

pp.263-4

新聞に関していえば、この「プログラム*2」は、すでにいちはやく昭和二十年のうちから開始され(…)

以後正確に戦犯容疑者の逮捕や、戦犯裁判の節目々々に時期を合せて展開されて行ったという事実は、軽々に看過すことができない。つまりそれは、日本の敗北を、「一時的かつ一過性のものとしか受け取っていない」大方の国民感情に対する、執拗な挑戦であった。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.263-4]


ISBN:9784167366087

p.259

検閲は、実は「本国政府」の最高意思を受けて実施されていたのである。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.259]

ISBN:9784167366087

pp.249-50

 昭和二十一年(一九四六)九月に、CCD当局は、(…)「世論の刻み目(Public Opinion Tally)」なるものを発足させた。(…)全国を九つの地域に分割し、その各地域について毎日五百通、都合四千五百通の私信をランダムに抽出し、開封して、あらかじめ定められた諸項目について世論の動向を調査するのである。

(…)この結果、CCD当局は、いかなる世論調査機関が企てても果たし得ない、精密極まる日本の世論動向を把握するにいたったのであった(8)

 およそ同じ時期に日本を訪れた米国人ジャーナリストの眼には、CCDの検閲が日本の新聞・雑誌に及ぼしつつある効果は、次のように映じていた。

 «占領軍がおこなっている寛大な検閲の限度内で、新聞は相当自由な議論を許されている。(…)実際、米国人の信条や慣習に関するコメントは、一般にあまりに好意的で、ほとんど阿諛追従の域に近づいている» (ジョン・ラサーダ『お茶にやって来た征服者――マッカーサー治下の日本』第八章「潜伏する熊」一一〇頁・傍点引用者(9)

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.249-50(傍線=傍点)]

ISBN:9784167366087

p.246

CCDの検閲は、(…)ラング(社会的な言葉)のパラダイム*3を組み替えるのに(とど)まってはいなかった。(…)いや、言語というものの性質上、パロールの変質を企てることなくラングのパラダイムを組み替えるなどということは、もともと不可能なのであった。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.246]


ISBN:9784167366087

p.132

 そこに透けて見えるのは、日本の行政や日本の社会そのものに対するアメリカの徹底的な不信感である。

[関岡英之「拒否できない日本」p.132


ISBN:9784166603763

pp.241-2

検閲を受け、それを秘匿するという行為を重ねているうちに、被検閲者は次第にこの網の目にからみとられ、自ら新しいタブーを受容し、「邪悪」な日本の「共同体」を成立させてきた伝統的な価値体系を破壊すべき「新たな危機の源泉」に変質させられていく。

 この自己破壊による新しいタブーの自己増殖という相互作用は、戦後日本の言論空間のなかで、おそらく依然として現在もなおつづけられているのである。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.241-2]


ISBN:9784167366087

pp.229-31

日本人検閲員の俸給を支払わされていたのは、皮肉なことにほかならぬ日本政府であった。(…)「聯合軍常備使用人俸給基準表」によれば、(…)「普通」で七百円乃至九百円、「高級」で九百円乃至千二百円(…)これは「聯合軍常備使用人」中、最高給に属する金額である。(…)

検閲員に応募してCCD入りした人々の当初の動機は、ほとんど例外なく経済的なものであったにちがいない。(…)CCDは、語学力と引替えに(…)高給を提供した。そして、これらの人々がCCDの提供する報酬を手にしたとき、彼らは自動的にあの闇の世界に属する者となったのである。

(…)ATIS*4勤務の日本人を併せれば、その数は優に一万人以上にのぼるものと思われるが、そのなかにのちに革新自治体の首長、大会社の役員、国際弁護士、著名なジャーナリスト、学術雑誌の編集長、大学教授等々になった人々が含まれていることは、一部で公然の秘密になっている。もとよりそのうちの誰一人として、経歴にCCD勤務の事実を記載している人はいない。

(…)戦後日本の言論空間の起点には、これらの人々の沈黙が潜んでいる。その沈黙の重さは、あの影と闇の世界の深さと正確に釣合っているのである。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.229-31]

ISBN:9784167366087

pp.222-3

CCDの実施した占領下の検閲は、従来日本で国家権力がおこなったどのような検閲と比較しても、全く異質なものだったといわなければならない。(…)

戦前戦中の日本の国家権力による検閲は、接触を禁止するための検閲で(…)

CCDの検閲は、接触を不可避にするための検閲であった。(…)敢えてタブーに接触させ、共犯関係に誘い込むことを目的としていた。(…)いわば日本人にわれとわが眼を()()かせ、肉眼のかわりにアメリカ製の義眼()めこむことにあった。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.222-3(傍線=傍点)]


ISBN:9784167366087

pp.221-2

看過ごすことができないのは、(…)検閲者と被検閲者とのあいだにおのずから形成されるにいたったと思われる一種の共犯関係である。

(…)被検閲者は、検閲者に接触した瞬間に検閲の存在を秘匿する義務を課せられて、否応なく闇を成立させている価値観を共有させられてしまうのである。

(…)両者の立場は、他のあらゆる点で対立している(…)にもかかわらずこの表の世界での対立者は、影と闇の世界では一点で堅く手を握り合せている。(…)

 タブーは伝染すると、文化人類学者はいっている。(…)

動因となっているのは、恐怖以外のなにものでもない。(…)表の世界の〝解放〟は、影と闇の世界の黙契を支える〝恐怖〟の裏付けを得て、はじめて日本人の「精神にまで立入り」、これを変質させる手がかりをつかんだのである。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」pp.221-2]


Mind Killer / Adam Freeland - ニコニコ動画

ISBN:9784167366087

p.219

出版関係者のあいだで、(…)民間検閲支隊(CCD)は、しばしば(…)民間情報教育局(CI&E)と混同されていたらしい。おそらくそれがCI&Eと思い込みながら、実際にはCCDに校正刷や納本用の書籍を届けていた編集者が、少からずいたらしいのである(6)

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.219]

ISBN:9784167366087

p.217

通達*5の第九項を補うものとして、(…)注意書が各出版社に配布された。いうまでもなく、検閲の秘匿を徹底させるためである。

[江藤淳「閉された言語空間/占領軍の検閲と戦後日本」p.217]

ISBN:9784167366087

*1:『太平洋戦争史』

*2:「CCDの提供する確度の高い情報にもとづいて、(…)
開始されたCI&Eの、「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」」(pp.261-3)

*3:pp.182-3

*4:(Allied Translators and Interpreters Section)

*5:「「日本における太平洋陸軍民間検閲基本計画」第二次改訂版(…)
に基づいて(…)定期刊行物の事前検閲について(…)発せられた」(pp.212-4)