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読書ノート

2013-10-08

p.36

 ヘルダー*1のやうに固有の幸福を最重要視する(…)彼,或いは彼女が,例へば,我が日本国民は,全体として固有の幸福感を味はつてゐるとは言い難い,その幸福感を妨げてゐるのは,何であるか,と問ふのは必至であらう。妨げとなってゐるのは,文明開化以来,我が国で思想の代名詞となってゐる啓蒙思想の支配力の強さであると言ってよいが,(…)一産物として身近に具体的な形で日本国憲法を有してゐる,と注意を喚起するのは,無駄ではなからう。(…)日本国憲法は,必ずしも押し付けられたものではない。なぜなら,文明開化以来,啓蒙思想の産物として我が国の知識層の間に猛威を振ったものの中には,単にマルクス主義やマルクス主義文芸(プロレタリア文学)だけでなく「日本主義」もあったからで,大東亜戦争中幅を利かせたこの「日本主義」なるものは,日本に固有のものとは殆ど関係がなく,寧ろ,保田與重郎が説いてゐるやうに,文明開化の頽廃した形態と看做し得る底のものであり,(…)戦時中,「知性の保身術」として役立つただけでなく,戦後も,憲法擁護が唱へられる際に,大いに役立つたと言へる。

 「重心」を日本国内に置く事をしない啓蒙思想的思考が,戦前戦後を通じて,「知性の保身術」として,機能したのである。

[照屋佳男「〈特殊〉の存在理由 」『ソシオサイエンス』Vol.9 p.36]


ISSN:1345-8116

*1:(Johann Gottfried Herder)