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2004-12-01501-512

[][]いつか、ふたりは二匹 いつか、ふたりは二匹 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - いつか、ふたりは二匹 - 雲上読記 いつか、ふたりは二匹 - 雲上読記 のブックマークコメント

いつか、ふたりは二匹 (ミステリーランド)

いつか、ふたりは二匹 (ミステリーランド)

 ミステリーランドの中でも評判のいい作品だが、正直なところ今ひとつと言った具合。確かに視点を少し変えるだけで事件の様相が180度転換するところや、犬や猫の視点から見た人間のグロテスクさは上手く表現できていたと思うけれど、何故か自分にはそれが完璧な状態で届かなかったように思う。

 ところで西澤保彦は動機や結末に黒い男女の仲を持ってくることが多く、そのため滅入ること頻りなのだけれど本書に関して言えばそれはなかったように思う。後書きで「できればポール・ギャリコのように、リリカルで切ない、ロマンティックな冒険物語にしたい――、と思ったのですが、メインとなる設定を拝借しただけで、あとはなんというのか、「いつもの西澤保彦」(って、何だそれ)になってしまったような気もします。」とあるけれど、これはきっと謙遜です。全然「いつもの西澤保彦」っぽくないし、しっかりリリカルしてたと思います。結末なんてちょっとほろ苦い感じですし、自分はいいと思います。でもストーリィ全体として見ると何だか今ひとつ、と。

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2004-10-01455-482

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パズラー 謎と論理のエンタテイメント

パズラー 謎と論理のエンタテイメント

 六編のノンシリーズ短編からなる短編集。解説で貫井徳郎も言っているが、本書に収録されている短編は、いずれも真っ当なパズラーではない。パズラーという言葉も、本格ミステリ同じく、人それぞれに解釈が為されているだろうが、自分が持っているパズラーという概念と、西澤保彦が持っているパズラーという概念は一致しないように感じられた。自分にとってパズラーとは、いわゆる「読者への挑戦状」をつけることができるミステリだ。探偵が事件を解決させてしまう前に、犯人を推理するに充分な証拠が提示され、論理的に思考することさえできれば誰でも犯人を推理できると言うのがパズラーの基本だ。勿論、基本を抑えているからと言ってパズラーになるのではなく、いかに一見無関係と思われる証拠を論理繋ぎ、いかに探偵が卓越した思考力を見せるか、などがポイントになるだろう。しかし本書に収録されている作品の何点かは、証拠集めをせず、想像と妄想だけで犯人を類推している。物語の中では、結果として真犯人へと至っていることになっているのだが、それが真相であるとは限らない。犯人当てに用いている証拠を得ず、推理を机上で展開しているとは言え、探偵役による解説は微に入り細を穿っており、緻密だ。会話や自問自答の中で、少しずつ推理が進み、犯人が特定されてゆく様は読んでいて心地よいと言えるだろう。

 後書きで筆者本人が言っていることだが、ミステリにおいて世界観や登場人物を共有しない、ノンシリーズ短編は少ない。大抵はひとりの探偵が事件を幾つも解くという形式を取っている。そうすれば探偵役を何人も作り出す必要がないし、たとえ事件そのものが面白くなくても(つまり作品がミステリしていなくとも)キャラクタ世界観が良ければ、それで済まされてしまうのだ。それをミステリが抱えてしまった欠点として、六編の世界観も登場人物の年齢もまるで異なる短編小説を用意した西澤保彦には、ただ素直に感心した。

蓮華の花」伏線を上手く使いこなした珠玉の短編であると思う。やがて枯れることが運命付けられている花を、題材として使っているのも興味深い。きれいに描かれていると感じた。

「卵の割れた後で」海外作品のような趣きを持っている。短いのにどんでん返しがあるし、日本風刺的な面もあって程よくいいと思う。

「時計じかけの小鳥」個人的ベスト。まず、語り口が軽妙。女子高生が主人公で、その内情が垂れ流すように吐露されているのだが、妙に生々しく、妙に面白い。取り扱っているのも重大な事件ではなく、日常の謎で……と見せかけて、という裏がある。結末である人物の悪意が明かされるのだが、これがまた悪くない。

贋作「退職刑事」」都築道夫『退職刑事』のパスティーシュ。『退職刑事』を読んでいないので、登場人物や彼らの関係はあまり分からないが、それなりに楽しめた。

「チープ・トリック」これは却下、気持ち悪い。汚い言葉を乱用しており、海外作者が書いたと言われても信じてしまいそうで、映像化に適している作品なのだが、その汚さが嫌い。トリックやストーリィよりも、その生々しさという生臭さが忘れられない。よくよく考えてみれば、本書に収録されている作品の大半が愛憎や怨恨を取り扱っており、かなり気持ちの悪いものが揃っている。装丁が白を基調としており、荘厳で華やかな雰囲気なのに、中身がどす黒い。こはいかに。

アリバイ・ジ・アンビバレンス」これも面白い。「時計じかけの小鳥」とどちらを上にするか迷ったが、こちらの方が黒いので「時計じかけ」の方に軍配を挙げることに。主人公は男子高校生で、ある日「殺したのは私だ」と自白している同級生が、犯人が殺されたとき別の場所にいるのを目撃してしまう。アリバイがあるのに自白している、この不可解な謎を解き明かすため、クラスの委員長が立ち上がる。この委員長の性格がまた傑作で、言わば『Fate stay/night』の遠坂凛。学校では典型的な委員長なのに、主人公の自宅を訪れた瞬間に傲慢な感じの女の子に変貌してしまうのだ。真相も黒いが良かった。これ以上はないというぐらい切迫した動機で、確かにここまで進退極まってしまったならば殺さざるをえないだろうと感じた。

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2004-09-01437-454

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殺意の集う夜 (講談社文庫)

殺意の集う夜 (講談社文庫)

 なんと言っても裏表紙のあらすじが傑作。「嵐の山荘に見知らぬ怪しげな人たちと閉じこめられた万里と園子。深夜、男におそわれた万里は、不可抗力も働き彼ら全員を殺してしまう。その後、園子の部屋へ逃げこむと、園子も死体となっていた。園子を殺したのは誰なのか。驚愕のラストまで怒涛の展開。」中でも注目したいのは「不可抗力も働き彼ら全員を殺してしまう」の部分。そう、主人公の万里は、お爺さんにセクハラされそうになり、そこからドミノ倒し敵に六人の男女を殺してしまうのだ。そして大量殺人犯となってしまった彼女は、園子を殺した犯人に自分の罪をもなすりつけようと画策する。掴みは正に十二分、これこそミステリなオープニングに思わずがっついてしまった。

 が、結論としては今ひとつ。最後の一行で、それまでの記述のすべてが引っくり返されるフィニシングストロークは、途中でなんとなく予感してしまいその効果を十全に発揮しなかったし、あまりに多くの伏線を(むしろ最終章に至るまでのすべてが伏線と言ってしまっても構わない)回収するために、終盤付近は説明に尽きてしまっていて、なんとなくグダグダしてしまった感がある。

 とは言え、嵐の山荘の内側から事件を語る万里と、外側から事件を追う刑事の三諸のふたりが、最後の最後で交錯する場面は圧巻だし、圧倒的な量の伏線を紡ぎそれを完璧に操りきっているのも素晴らしい。読書スピードが遅く、下手に邪推しないミステリ初心者にこそ相応しい一冊なのかもしれない。

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2004-06-01368-396

[][][]七回死んだ男 七回死んだ男 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 七回死んだ男 - 雲上読記 七回死んだ男 - 雲上読記 のブックマークコメント

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)

 同じ一日を九回繰り返し、最後の一回が決定版となる――主人公の大場久太郎は、そんな不思議な症状「反復落とし穴」を持つ高校一年生。毎年の正月、彼は、一代で成り上がった渕上零治郎の屋敷を訪れ、兄弟や従姉妹たちと共に後継者の指名を待つことになる。今年も同じように祖父の家を訪れた久太郎だったが、なんと祖父が何者かに殺されてしまう、そしてちょうどその日、彼は「落とし穴」に嵌まってしまい、祖父を救うために九回の繰り返しを行うことに……。

 俗に言う同じ一日を何度も繰り返すタイプの作品、ただしその回数は九回と決まっている。主人公は毎回、犯人らしき人物を拘束し、祖父を殺させないようにするのだが、その度にその人物の以外の誰かが犯人になってしまうという捻りが効いている。しかも本書は、ただのシステムが面白いだけの小説に留まらず、しっかりミステリしているし、ラストにはどんでん返しも待ち受けている。時間物が好きな自分としては、同じ日を繰り返すというだけで高評価なのに、思わぬミステリまであって本当に楽しめた。冗長になるのを避けるために、コメディやラブを取り入れているのも良かった。

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