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2006-02-28

[][][]885『アイルランドの薔薇』 23:16 885『アイルランドの薔薇』 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 885『アイルランドの薔薇』 - 雲上読記 885『アイルランドの薔薇』 - 雲上読記 のブックマークコメント

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

 石持浅海という作家について秋山が持っているイメージは、『月の扉』でミステリファンにその名を知られ、『扉は閉ざされたまま』で一躍、有名になったという感じだ。本書は彼の初期の作品で、アイルランドのとあるB&B(いわゆる庶民向けホテル。ベッドと朝食だけを提供する)が舞台で、登場人物は全員カタカナ名で、やや社会派であるという評を聞いて、どうも手が伸びなかった。しかし、ミステリ読みとしてやはり読んでおかなければならないだろうという、謎めいた強迫観念に晒され読んでみたのだが、――面白かった!

 確かに登場人物の名前はカタカナで覚えにくく辛かった。北アイルランドと南アイルランドの政治的要素が絡んできて、理解しにくい部分もある。がしかし! この舞台設定と人間ドラマは秀逸過ぎだろう! 悲しいかな、背景が込み入っていて、それを説明できるほど秋山は理解できなかった。したがってこの場では、とにかく面白いのだと連呼することしかできないのが悔やまれる。面白かった面白かった面白かった、ふう。

 これで石持作品はデビュー作の『暗い箱の中で』を除いて全部読んだことになる。長編だけで順位をつけるならば『水の迷宮』→『アイルランドの薔薇』→『月の扉』→『扉は閉ざされたまま』→『BG、あるいは死せるカイニス』→『セリヌンティウスの舟』かな。

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2006-02-04

[][]825 17:32 825 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 825 - 雲上読記 825 - 雲上読記 のブックマークコメント

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

 フェミニストが読んだらどう思うのだろうか、と思った。生まれてくる子どもはみな女性で、出産を経験した女性の四分の一が男性化するという世界で発生した、レイプ事件を描いたもの。

 石持浅海と言えば、複数人物が閉鎖空間に集まって、限られた証拠を手に事件の真相を喧々諤々と議論させる作品が多く、またその経緯が石持作品の魅力だが、本書は珍しいことに主人公の女子高生が探偵活動を行っていた。不思議な世界観と相まって、面白く読むことができたし、終章のもたらした衝撃は大きかった。舞台が現実世界ではないので、ある意味でファンタジィミステリやSFミステリと呼べるかもしれない。面白かった。

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2006-02-02

[][]820 16:26 820 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 820 - 雲上読記 820 - 雲上読記 のブックマークコメント

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

 これは、どうしたものか。久々に感想に迷う本を読んだ。

 まず、ミステリとしては、いかがなものかと異議がある。自殺と判断された女性がいて、その友人たちが集まって、彼女がどのように死を選んだのか議論するのだが、そこに着目すると、ミステリの中でも実に悪趣味な部分が集まっている。加えて「ひょっとして、彼女は自殺したのではなく、殺されたのではないだろうか」という問いに発展しないのもミステリ的でない。登場人物が全て彼女の親友であるということを考えるとリアリティはあるが、ミステリ的にはどうだろうかと思うのだ。しかし自分で使っておいて何だが、このミステリ的という表現にも問題はある。本書は長編本格推理と銘打たれているが本当にミステリなのだろうか? そもそもミステリとは何だろうか?

 そういった話をここでするつもりはないが、もし、著者が本書をミステリとして書こうとしたならば、もっともっと短く出来たはずである。ネタだけを抽出すれば短編向きのものだからだ。しかし、敢えてここまで長くしたり、太宰治の『走れメロス』と関連付けたのは*1、著者に人の死や人の繋がりを真剣に考えようという意識があったからではないだろうか。

 ミステリとしては不満が残るが、小説としてはそうでもなかった。石持浅海の新しい境地を感じた。

*1:タイトルになっているセリヌンティウスとは、メロスの友人で彼の身代わりになった男の名前

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2005-10-31

[][][]735 14:12 735 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 735 - 雲上読記 735 - 雲上読記 のブックマークコメント

水の迷宮 (カッパノベルス)

水の迷宮 (カッパノベルス)

 序章の僅か五ページで完全に心を掴まれた。ひとりの男の凄惨さを感じさせるほどに強烈な、夢を実現に導こうとする情熱。本書は大傑作なのではないだろうか。もう熱い、熱すぎる。それはもう人も殺してしまうだろう。この夢は、その壮大さは幾つもの人間の生命を容易く喰らってしまうだろう。――かつてここまでに非現実的だがしかし、情熱的な動機があっただろうか。大傑作だよ、これは。

 この事件は概要もまた魅力的。「東京湾の汚染はひどいですね」と水族館宛てにメールが届き、東京湾を模した展示水槽を確認してみたところ、水槽には意図的に配置されたゴミに混ざって不審な瓶が転がっていて……と、衝撃的な事件から幕が上がるのだ。姿の見えない犯人の放つ攻撃に、職員は後手に回るしかなく、水族館という守るべき空間を持つ者たちが、その立場ゆえに守ることしかできないという状況も焦燥感を煽る。解決編に前後して、『月の扉』と同じく多少、中弛みすることはあるが、最終的に明かされる怒涛の真相という嵐の前の静けさのようなもの。大傑作。

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2005-10-09

[][]713 18:42 713 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 713 - 雲上読記 713 - 雲上読記 のブックマークコメント

月の扉 (カッパ・ノベルス)

月の扉 (カッパ・ノベルス)

 前半はあまりに冗長で寝てしまったぐらいだ。極めて可能性の少ない、逆説的に言えば分かりやすいトリックを解明するのに、積んでいる検証が長すぎる。が、ハイジャックの理由が明かされてからは俄然、白熱した。座間味が天に吠え、事件が終息するまでの展開が早すぎるのが難だけれど、皆既月食の制限時間を演出しているのだと考えれば納得。ミステリというより、ファンタジィとして楽しんでしまったかもしれない。

 それにしても、いい表紙だ。

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2005-06-20629-632

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扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

 これが、石持浅海か。とても面白かった。読んでいる間は、どこか人工的な雰囲気を感じさせる登場人物に違和感を覚えたが、じきに気にならなくなった。物語自体も面白いし、カバーの裏で著者が伝えようとしているテーマも、しっかり伝わってきたし、最高に面白かった。

 どうでもいいが秋山と伏見は、とても似ている。

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2004-06-01368-396

[][][][][][][][][][][][][][][]本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 のブックマークコメント

 2003年に発表された短編小説と評論のアンソロジィ。『01』『02』『03』に続く四回目となる今回は、十二作からなっている。

 横山秀夫「眼前の密室」調和的で完成度の高い作品。「終身検死官シリーズ」というシリーズにおける一冊であるためか、登場人物の説明も特になく、いきなり始まってしまうのには閉口したが、難なくまとまっていると思う。青木知己「Y駅発深夜バス」これは中々、面白かった。第一部では深夜バスの持つおどろおどろしさを、ホラー小説的な手法で描いているのだけれど、これが第二部に入ると一転、見事なまでにミステリの中に組み込まれてしまう。手際よく謎が解体されていく様と、最後の一文に静かに震えた。鳥飼否宇廃墟と青空」密室トリックは充分に練られているし、解決編の場面も実に雰囲気が出ていてよかった。けれど、ロックについて語りすぎなのと、動機が不鮮明なのが珠に瑕。法月綸太郎「盗まれた手紙」登場人物の名前がカタカナであったことに加え、徹夜明けの妙に高いテンションと眠気がすれ違ったときに読んでしまったので殆ど頭に入ってこなかった。手紙を盗み出す方法は、面白かった。芦辺拓「78回転の密室1930年代を描いているのだけれど、それが抜群に上手い。乱舞する漢字は、意味の分からないものばかりだが、雰囲気を盛り上げるのには一役も二役も買っている。事件の真相も、どこか哀愁漂うもので実に良かった。石持浅海「顔のない敵」対人地雷を取り扱った社会派。作者の主張が確かにそこにあって、威力のあるブローだった。柄刀一「イエローロード」これには骨抜きにされた。田舎のバス停で一日に三本しかないバスを待っていたら、隣に腰掛けた老人が「ちょっと私の話を聞いてみませんか」と何気ない仕草で語り聞かせてくれたような物語。押し付けがましくないさりげない筆致に、整然とした推理が犯人へと導く鮮やかな手腕に、そして朴訥な好意とに、乾杯したいぐらいに良かった。東川篤哉「霧ケ峰涼の屈辱」はははは、これは面白い。カープファンでミステリマニアの主人公による一人称は、お茶目な学生らしさに満ち溢れていて、読んでいて何度も笑ってしまった。この主人公は今まで読んできた学園ミステリの中では、一番、学生らしい。親近感が持てる。トリック自体もやや不自然だけれど、なるほどと頷けるし。良かった。高橋克彦「筆合戦」この作品には、山ほど伏線が敷かれているのだが、見事なのはそれが伏線であると見抜けないようになっている点。最後の最後で、まずそれらが伏線だったと明かされ、さらに全ての伏線を束ねあげてひとつの真実を示すのだが、その様が巧みすぎる。匠の領域。北森鴻「憑代忌」これは難解だった。あまりにミステリ然としていて、ミステリとしては評価できるけれど、ひとつの短編としてはやや力不足なのではないかと思う。アプローチも短いし、もう少し長く読みたかった。松尾由美「走る目覚まし時計の問題」いいねいいね。そろそろのほほんとした日常の謎が欲しいなと思っていたら最後で来た。発表順の収録だから偶然なんだろうけれど、最後にこれが来たのは良かったと思う。面白かった。波多野健「『ブラッディ・マーダー』/推理小説はクリスティに始まり、後期クイーンボルヘスエーコ・オースターをどう読むかまで」難解。タイトル通りのことが書かれているわけだが、てんで分からなかった。残念。(講談社ノベルス

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