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2005-11-15

[][]747 17:02 747 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 747 - 雲上読記 747 - 雲上読記 のブックマークコメント

生首に聞いてみろ

生首に聞いてみろ

 評判が良かったので発売当初に買ったのだが、様々なランキングの上位を制するのを、つい読む気を失ってしまった。結局、読み終えるのに一年近くかかってしまった……。

 秋山は法月綸太郎の著作を、それほど読み込んでいるわけではないので、鋭いことは言えないが、読みながら感じたのは、この作品は法月にとって集大成的なものではないだろうかということ。『雪密室』的な面もあれば、『誰彼』的な面もあれば、『頼子のために』的な面もあれば、その他の法月作品を思わせる面もある。そうした法月綸太郎を構成している因子を、改めて再結合し、そのそれぞれに強すぎる主張性を抑えるべく、多少の落ち着きと静けさを与える――。読むのを止められない引きとカタルシスとを引き換えに、本書は端整な本格を手に入れたのではないだろうか。

 と、内容はさておき、秋山はこの小説の舞台に最上の魅力を感じた。町田! 鶴川! 相模大野! 玉川学園前! 秋山の私生活がそのまま作中の舞台に取り込まれているのだ。玉川学園前に自転車が乗り捨てられていたと記述があれば、駅前で乗り捨てられそうなところは、あそこかあそこだろうなと。鶴川図書館の近くにある商店街で昼飯をとったと記述があれば、この人物の性格を考慮するにあの店で食べたのだろうなと。皆、もっと町田を舞台としたミステリを書こう。

 もうひとつ、蛇足ながら付け加えておきたい。帯に書かれた有栖川有栖の推薦文が最高「お帰り、法月綸太郎! 名探偵の代名詞よ。」――素晴らしい。

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2005-01-01513-524

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頼子のために (講談社文庫)

頼子のために (講談社文庫)

 一読して「なるほど、これが」と溜息をついた。

 ミステリだけでなく、ミステリの評論や解説を読んでいると、あの人は密室物ばかり書くだとか、あの人は叙述物ばかり書くだとか、その作家の作品を読んでいないのに知るはめになってしまう。そうした具合で、法月綸太郎がどういう系統の作品を多く書いているのか、どういう系統の作品を得手としているのか、知ってはいたが、具体的にそういった作品を読むには至らなかった。今までは。

 なるほど、この作品が法月綸太郎の真髄なのか。

 本書はある男の手記から始まる。その手記を書いた男は、十七歳の愛娘を殺され、娘を殺した男に復讐することを誓う。ある事情から警察を信用しないと決めた彼は、独自に推理を進め、ついに犯人に至り、鉄槌を下してしまう。しかる後に彼は服毒し、自殺を図る。しかし寸前のところで、彼は救われ生き返ってしまう。意識を失ってはいるが、もう危険な状態は脱し、数日後には目覚めるだろうと医師が判断したところで、名探偵法月綸太郎に依頼が舞い込む。この事件を洗いなおして欲しい、と。

 とにかく物語が魅力的なのだ。インパクトのある書き出しから、法月綸太郎ハードボイルドな私立探偵並に歩き回るところまで。新本格にありがちな、突飛で、現実味の薄い机上の推理を繰り返すのではなく、地道に歩き回って証拠をかき集め、その最中、えたいの知れない人物が浮かび上がり、走り回っているうちに誘拐され、とにかくイベントに富んでおり、話が躍動感に満ち溢れているのだ。ただ、純粋に面白い。そしてラスト。ラストも冴え渡っている。ついに意識の戻った男との対面、その直後……。ラスト二ページを読んで、即座に本につけていたカバーを外し、表紙絵を見る。「ああっ、ここにちゃんとあるじゃないか! しかもカバーデザイン辰巳四郎だし!」完璧に完璧に、これ以上はないという見事さで、本書は一個の物語として完結している。本当に素晴らしい。いやあ、上手いなあ。『誰彼』も良かったけど、『頼子のために』もいいなあ。法月綸太郎、格好いいなあ。うん、面白かった。

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2004-06-01368-396

[][][][][][][][][][][][][][][]本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 のブックマークコメント

 2003年に発表された短編小説と評論のアンソロジィ。『01』『02』『03』に続く四回目となる今回は、十二作からなっている。

 横山秀夫「眼前の密室」調和的で完成度の高い作品。「終身検死官シリーズ」というシリーズにおける一冊であるためか、登場人物の説明も特になく、いきなり始まってしまうのには閉口したが、難なくまとまっていると思う。青木知己「Y駅発深夜バス」これは中々、面白かった。第一部では深夜バスの持つおどろおどろしさを、ホラー小説的な手法で描いているのだけれど、これが第二部に入ると一転、見事なまでにミステリの中に組み込まれてしまう。手際よく謎が解体されていく様と、最後の一文に静かに震えた。鳥飼否宇廃墟と青空」密室トリックは充分に練られているし、解決編の場面も実に雰囲気が出ていてよかった。けれど、ロックについて語りすぎなのと、動機が不鮮明なのが珠に瑕。法月綸太郎「盗まれた手紙」登場人物の名前がカタカナであったことに加え、徹夜明けの妙に高いテンションと眠気がすれ違ったときに読んでしまったので殆ど頭に入ってこなかった。手紙を盗み出す方法は、面白かった。芦辺拓「78回転の密室1930年代を描いているのだけれど、それが抜群に上手い。乱舞する漢字は、意味の分からないものばかりだが、雰囲気を盛り上げるのには一役も二役も買っている。事件の真相も、どこか哀愁漂うもので実に良かった。石持浅海「顔のない敵」対人地雷を取り扱った社会派。作者の主張が確かにそこにあって、威力のあるブローだった。柄刀一「イエローロード」これには骨抜きにされた。田舎のバス停で一日に三本しかないバスを待っていたら、隣に腰掛けた老人が「ちょっと私の話を聞いてみませんか」と何気ない仕草で語り聞かせてくれたような物語。押し付けがましくないさりげない筆致に、整然とした推理が犯人へと導く鮮やかな手腕に、そして朴訥な好意とに、乾杯したいぐらいに良かった。東川篤哉「霧ケ峰涼の屈辱」はははは、これは面白い。カープファンでミステリマニアの主人公による一人称は、お茶目な学生らしさに満ち溢れていて、読んでいて何度も笑ってしまった。この主人公は今まで読んできた学園ミステリの中では、一番、学生らしい。親近感が持てる。トリック自体もやや不自然だけれど、なるほどと頷けるし。良かった。高橋克彦「筆合戦」この作品には、山ほど伏線が敷かれているのだが、見事なのはそれが伏線であると見抜けないようになっている点。最後の最後で、まずそれらが伏線だったと明かされ、さらに全ての伏線を束ねあげてひとつの真実を示すのだが、その様が巧みすぎる。匠の領域。北森鴻「憑代忌」これは難解だった。あまりにミステリ然としていて、ミステリとしては評価できるけれど、ひとつの短編としてはやや力不足なのではないかと思う。アプローチも短いし、もう少し長く読みたかった。松尾由美「走る目覚まし時計の問題」いいねいいね。そろそろのほほんとした日常の謎が欲しいなと思っていたら最後で来た。発表順の収録だから偶然なんだろうけれど、最後にこれが来たのは良かったと思う。面白かった。波多野健「『ブラッディ・マーダー』/推理小説はクリスティに始まり、後期クイーンボルヘスエーコ・オースターをどう読むかまで」難解。タイトル通りのことが書かれているわけだが、てんで分からなかった。残念。(講談社ノベルス

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