2005-11-23
■ [小説][歌野晶午]760


- 作者: 歌野晶午
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 単行本
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祥伝社400円文庫から刊行されていた「生存者、一名」と「館という名の楽園で」に、表題作にもなっている「そして名探偵は生まれた」の三作から構成されている短編集。帯には「密室トリック三部作」と書かれているけれど、特にストーリィ的な繋がりはないし、ミステリ史上に名を残すほど密室に特化している訳でもない。秋山は「生存者、一名」も「館という名の楽園で」既読だったので、書き下ろしの「そして名探偵は生まれた」のみ初読みとなった。なので表題作に関してのみ。
面白かった。帯を見る限りテーマは「雪の山荘」のようだが、どちらかと言うと「名探偵」。探偵論論的な応酬がなされ、タイトルの命名理由が分かった瞬間に感じる感動の波は、冷たいながらも穏やかなもの。ある意味において、後味の悪い作品かもしれない。考えてみれば他の二作も、後味の悪い作品と言えなくもないので、本書は後味の悪い中編ばかりを集めたものと言えなくもない。三作目に収録されている「館という名の楽園で」は、歌野晶午で秋山が一番好きな作品なので未読ならば是非。
2005-10-23
■ [小説][歌野晶午]726


- 作者: 歌野晶午
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2000/10
- メディア: 文庫
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無人島に取り残された人々、ひとりまたひとりと殺されてゆく。生存者は一人、その事実は最初の一ページで明かされている。果たして、熾烈な争いを経て、生き残ったのは誰だ。
魅力的に過ぎる設定の上、最初から生存者は一人と明かされている。当然、読者は生き残る一人を考えながら読み進めると思うのだが、結末に来て「なるほどそう来たか」と納得すると同時に「読者を欺くにはその手しかないか」とも。あまり自分の好みではなかったが、面白い試みではあったと思う。
2005-01-01513-524
■ [小説][歌野晶午]館という名の楽園で


- 作者: 歌野晶午
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2002/06
- メディア: 文庫
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これは中々、いいね。薄く短く、テーマが館に満ち満ちているのがとても魅力。言わば、館物が読みたくて、下手に他のトリックは入れてこなくていい、館だけで勝負してくれというような人にはお勧め。物語はある館に集まった昔の仲間が、自ら推理劇を行い犯人を推測するというもの。設定だけを見れば、東野圭吾の『ある閉ざされた雪の山荘で』が連想されるが、あれほどホラーはしていない。徹頭徹尾、演技に尽きているのだ。その証拠に、被害者役として犯人役に殺されたはずの人が、「俺が見たから」という理由で犯人を言い当ててしまうくらいだしね。そう、犯人は中盤で明かされてしまうのだ。この姿勢も、心地よいです。フーダニットとか、館物に不要なものは削り落としてしまっているのだ。歌野は今回、館だけで勝負してきていますよ。
肝心の館物に関してどうなのかと言えば、易しい。ヒントが多く出されるので少し思考すれば読めてしまう。しかし真に面白いのは、その見せ方のほう。登場人物のひとりが「ああ、何もかも見えた。一つの謎が解ったら、セーターの毛糸がほどけるように、するすると、跡形もなく。冬木が最初に言ったように、過去の二つの怪異が今夜の惨劇と密接に関係していたんだ」と発言するのだけれど、まさにその通り。本書の魅力は何と言っても、解決編だろうな。本当にセーターの毛糸がほどけるように、するすると解明されるのです。とても素晴らしい。繰り返しますが薄くて読みやすいので、お勧め。
2004-11-01483-500
■ [小説][歌野晶午]ブードゥー・チャイルド


- 作者: 歌野晶午,開光市
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2001/08/24
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政宗九さんのネットラジオで「お勧めの歌野晶午はありませんか?」と問い掛けたところ、えんじさんが初心者向けにと紹介してくれた一冊。そういった手前、こういうことを言うのは気が憚るが、あまり面白くなかった。いわゆる前世と呼ばれるものを取り扱っており、そういった非科学的なオカルトと、科学的な遺伝子を繋げている意欲作なのだけれど、今ひとつ有機的に連動している感がなかった。主人公を高校生としているのも、個人的には止めてほしかった。語り口がいかにも現代的な少年なのだが、どうにもずれていて……思うに、典型的な現代的少年は本を読まないので、下手に現代的な少年を描こうとしても、実際に年齢が似ている人間からすれば「俺と違う!」と思うのは必然なのではないだろうか。――主人公は途中で強力な味方を手に入れるのだが、これも多分にご都合主義のにおいがした。いっそ、主人公の父親の方を主人公にしてしまい、その豊かな経験と知識でもってガシガシと攻めてきてほしかったと思う。
批判的な点を幾らか挙げたが、ダイイングメッセージ的な扱いがされていなくもない悪魔の紋章と、主人公の前世の記憶の真相に関しては、実にミステリ的に優れていると思った。前者は実にさりげなく作中に差し込まれているし、後者は目次も意味を持ってくるし、良かったといえる。でもやはり、このふたつのネタだけで一冊の本にしてしまうのはあ、と思わないでもない。
■ [e-NOVELS][歌野晶午]玉川上死

記念すべき500回目のブックレビューは、『e-novels』と『ミステリーズ!』の共同企画、川に死体のある風景の第一回である。これはその名の通り毎号、異なる作家が川に死体のある風景を描くというもので、作品は『e-novels』と『ミステリーズ!』の両方に掲載される。自分は『ミステリーズ!』を購読していないので、『e-novels』でこの作品だけを楽しませてもらった。
作品に関して、一言で言うととても面白かった。「玉川上水を死体が流れている」という通報を受けて警察官が川を流れ続ける死体を何とか捕まえようとするのだけれど、恐怖もあって中々、捕まえにいけない。そこで思い誤って警官は「おい、止まれ」と叫ぶのだけれど、すると死体だと思われていた人物は「僕のことですか?」とむくりと起き上がるのだ。「川に死体のある風景」なのに死体ではなく泳いでいただけというくだらなさ。この一転の後も、二転三転と物語は思わぬ方向に転じていくのだ。そして最後は予想の範囲内ながらも、痛みを感じられずにはいられない解決に……。雰囲気としては、西澤保彦の『パズラー』に掲載された作品のひとつに近い。犯人はこの人物でしかありえない、しかしこの人物を犯人と指摘してしまったが最後……勝者にして敗者、冒さなくてはならないリスク、素晴らしい。