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2006-01-27

[][]810 12:10 810 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 810 - 雲上読記 810 - 雲上読記 のブックマークコメント

変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)

 物足りない。ある温厚な青年が脳移植手術を行ったが、術後、徐々に自分の性格が変化してゆくのを自覚し、何とかして元の自分を留めようとしたり、本当のドナー(提供主)を探そうとしたりする。と、実に真っ当に物語が進んでしまうのだ。最後にミステリ的な仕掛けや叙述トリックがあるわけでもなく、実に真摯に取り組まれてしまっている。でも、だとすれば、これは物足りない。

 中盤までは楽しく読めた。無気力な日々を送っていた主人公は、ある日、唐突に活動的になってしまうのだ。仮に秋山の脳が誰かに移植されたら、その人は自分の身に溢れかえるあまりのバイタリティに困惑することだろう。そんなことを楽しく夢想しながら読み進めた。しかし、そこから徐々にサスペンスタッチに移っていって、後はもう予想通りなのだ。結末が、ただの感動物やサスペンス物に落ち着いてしまっていないのはさすがに見事だが、森博嗣柄刀一だったら、もっと洗練されているのだろうなあと思ってしまった。まあ、最後はやっぱり泣きそうになったが。

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2006-01-18

[][]804 22:17 804 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 804 - 雲上読記 804 - 雲上読記 のブックマークコメント

悪意 (講談社文庫)

悪意 (講談社文庫)

 shakaさん(id:shaka)が東野作品の中では随一とおっしゃっていて、貸してくださったので読むことに。秋山は他人の悪意を苦手とする人間なので、推薦がなければ、まずタイトルに負けてしまい手を出さなかっただろう。読んでいる最中も嫌な予感は付きまとっていたが、最終的に不条理さや無意味感はなく、悪意という人間の持つ感情に真っ向から立ち向かっているように思えた。

 構造からして、法月綸太郎『頼子のために』を連想してしまい、それを頭に思い浮かべたまま読み進めたのだが、いい意味でミスリードになった。裏表紙に「超一流のフー&ホワイダニット」とあったが確かにその通り。この動機は『姑獲鳥の夏』や『すべてがFになる』でミステリ読者に投げられた「描かれている動機(あるいは描かれていない動機)」に対する答えなのかもしれない。

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2006-01-15

[][][]800 10:58 800 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 800 - 雲上読記 800 - 雲上読記 のブックマークコメント

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

 本ミス・このミス・文春ミス、三冠を達成し、2005年末の話題をかっさらったミステリと言えば本書に相違ないだろう。その為か、実に意気込んで読んでしまったのだが、読んでいる最中は、それほど面白くなかった。ある母娘が犯した殺人を隠蔽するために天才数学者が骨を折るのだが、警察は彼の術中に嵌まってしまい、彼らの代わりに天才物理学者が容疑者Xのトリックを暴こうとするという倒叙の変形……なのだが、天才同士の激しい舌戦もなければ、論理の応酬もない。もうとにかく地味なのだ。著者が東野圭吾であったり、話題になっていなかったら途中で投げていた可能性もなくはない、それぐらい地味なのだ。が、勿論、最後には全てがひっくり返り凄まじいことになる。

 特筆したい点はふたつ。作中に「凡人はトリックを積み重ねることで問題を複雑にするが、天才はある一点に手を加えることで問題を飛躍的に複雑化させる」というような科白があるのだが、まさにたったひとつのことをすることで事件の構造を完璧に覆い尽くしているのだ。さらにトリックのスライドも素晴らしい。ミステリを読んでいる人間ほど、このずらしには騙されるだろう。柳生新陰流風に表現するなら転の術理である。

 容疑者Xの献身は純愛物とも謳われているらしい。確かに340ページの3行を目にした瞬間、涙が溢れた。その後も度々、泣いてしまったが、考えるまでもなくこの感動は『水の迷宮』の延長線上にあるもの。『水の迷宮』において浪漫こそが真犯人だったならば、『容疑者Xの献身』においては愛こそが真犯人だったのだろう。

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2006-01-11

[][]796 22:00 796 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 796 - 雲上読記 796 - 雲上読記 のブックマークコメント

さいえんす? (角川文庫)

さいえんす? (角川文庫)

 なーんーのーわーるーふーざーけーでーすーかー、これは?

 拍子抜けもいいところ。東野圭吾ってこういう文章が恥ずかしげもなく書けてしまう作家だったのか。「ダイヤモンドLOOP」および「本の旅人」にて連載されたエッセイを集めたもの、400円。まあ、書くのは自由だけれど、どうして『容疑者Xの献身』で注目を浴びているであろう、今この時期に発表したのか理解できない。

 誰に向けて書かれているのか検討がつかない。理系トリビアかと思ったらただの愚痴で、本の話を始めたと思ったら野球の話になり、テレビのコメンテータみたいな発言をした次の瞬間には議論放り投げて結論を出していないし。そもそも面白いものがひとつもなかった。推敲せずにブログに書き散らしたものレベル。出版してしまった角川も連載したふたつの雑誌も、完全に舐められていたとしか思えない。いやあ、何なんだろうね、これは?

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2004-11-01483-500

[][]名探偵の掟 名探偵の掟 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 名探偵の掟 - 雲上読記 名探偵の掟 - 雲上読記 のブックマークコメント

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

 これは相当に愉快。連載ミステリの登場人物たちが、作者の手によって踊らされつつも舞台裏で愚痴ったり文句を言ったりしているのを、小説化しているという凝った構造。名探偵の見せ場を作るために、敢えて犯人でないものを尋問しないとならない愚かな警部。誰も興味を持っていなかったとしても、登場人物を一同に集め、懇切丁寧にトリックを解説しなければならない名探偵。その名の通り、名探偵の掟に従う登場人物たちが、自らの苦労を切々と語っており、実にシニカルで物悲しい。

 十二編の連作短編の形式を取っており、密室・フーダニット・嵐の山荘・ダイイングメッセージ・時刻表・二時間ドラマ・バラバラ殺人・???・見立て・語り手・首なし・凶器、以上のミステリガジェットがそのままテーマになっている。例えば嵐の山荘では、どうして嵐の山荘で殺人を起こさねばならなかったのか、例えば???では、口にするだけでネタバレとなってしまうトリックとはなんなのか、登場人物たちが本来は持ちえないメタな視点を介し、ミステリミステリとしてのフィクションを鮮やかに指摘している。どれも小気味よい落ちがつけられていて、それなりに面白い。しかし、毎回パターンが同一のため、面白さは安定しているのものの飛びぬけているわけではなく、プロローグとエピローグに挟まれた十二編の短編を経て「名探偵のその後」に至るまで冗長と言えなくもない。「名探偵のその後」は後日談的な内容で、これが最も本格ミステリの核心に切り込んでいるのだが、はっきり言ってよく分からない。ひょっとしたら成功しているのかもしれない、想像を絶する斬れ味で持って名探偵は掟を、本格ミステリの呪縛を断ち切ったのかもしれない。が、自分にはよく分からなかった。なので判断に窮する。少なくとも、主となる十二編の短編は面白かった。ある程度、ミステリをこなし、その理不尽さが少しでも気になっているならば、本書を読む価値は十二分にあるだろう。

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2004-09-01437-454

[][]仮面山荘殺人事件 仮面山荘殺人事件 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 仮面山荘殺人事件 - 雲上読記 仮面山荘殺人事件 - 雲上読記 のブックマークコメント

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

 八人の男女が集まった山荘に、逃亡中の銀行強盗が訪れる。ふたりの銀行強盗によって一時的な人質とされた八人は様々な手段を用いて、外部と連絡を取ろうとするが、その全てが何故か失敗に終わる。極度の緊張状態が続く中、殺人事件が発生する。容疑者は九人、ふたりの銀行強盗と七人の男女。冷静に考えて銀行強盗は、殺人事件の犯人なりえない、ならば犯人は七人の中にいるのか? 銀行強盗によって拘束され、もはや隣にいる昨日までの味方さえ信用できず、ついに待ち合わせていた三人目の銀行強盗が現われてしまい……。

 タイトルは仮面山荘、しかし作中に仮面は、たったの一回しか登場しない。解説の折原一によって、本書は最後の最後にとんでもないどんでん返しが用意されていると知らされ、それを期待したのだが、どんでん返し自体は、驚愕の、と言うほどでもなかった。むしろどんでん返しがあった後の、どうにもならない虚無的で、沈みきった空気が胸を打った。題名に冠せられた仮面という言葉の真意、そして結末を迎えた後の、登場人物が残りの人生をいかに生きるのか。選択肢を究極的に誤ってしまった一例がここにある。

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2004-08-01420-436

[][]ある閉ざされた雪の山荘で ある閉ざされた雪の山荘で - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ある閉ざされた雪の山荘で - 雲上読記 ある閉ざされた雪の山荘で - 雲上読記 のブックマークコメント

ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

 オーディションに号作した七人の男女が山奥のペンションに集まった。電話は通じ、バス停も近く、雪も降っていないが、そこが吹雪の山荘であるという設定で彼らは舞台稽古を行う。「死体ピアノのそばに倒れていた」というメモと共に消えうせる俳優や、ゴミ箱の中に捨てられた「この紙を鈍器とする」というメモ、そしてペンションの裏に落ちていた血液の付着した花瓶――。果たして一連の事件は芝居なのか、それとも現実なのか。

 状況が非常に面白い。雪は降ってないし、電話も通じるのに、吹雪の山荘に閉じ込められたという設定で演技の稽古をする登場人物たち。電話を使ったが最後、オーディション合格が取り消されてしまうという理由で、事件が現実なのか芝居なのか確認できないというジレンマ。中盤部分が中だるみしないと言う、究極的に魅力あふれる設定なのだが、結末はややもったいないと思った。裏表紙に「驚愕の終幕が読者を待っている!」とあったので、つい最後の一ページでどんてん返しが来ると思ったのだが、さすがにそれはなかった。

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