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2006-02-03

[][][]823 18:38 823 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 823 - 雲上読記 823 - 雲上読記 のブックマークコメント

光の帝国―常野物語 (集英社文庫)

光の帝国―常野物語 (集英社文庫)

 最高に面白かった。

 常野と呼ばれる人の姿をしていながら人ならざる力を持った一族をめぐる連作掌編集。常野という土地から来たから常野と言うのか、それとも「常に在野にあれ」という意味をこめて常野を名乗っているのか、それは明確ではないが、この不思議な一族は、一様に慎み深く穏やかで、読んでいて実に心地よい。収録されている十の掌編は、いずれも未完成で大河小説並の長さを誇る長編小説の一部を抜粋したかのよう……と言えば悪くないが、実際は断片的すぎて話にならない。設定を積み込みすぎで、常野というキーワードがなければとてもじゃないが一冊の本にまとめることは出来なかっただろう。と言うか、常野というキーワードで一冊にまとめているけれど、ちょっとこれはいかがなものかという気がしないでもない。それでも何故、本書が傑作かと言うと。

 本書が、萩尾望都ポーの一族』を彷彿とさせるからだ。

 社会の中に埋もれるように暮らそうとする常野一族。しかしその異能ゆえ、どうしても浮き彫りになってしまい、ときに人に狩られ、ときに人から逃げだし。それでもひっそりと生きながらえようとする。その生き方が実に素晴らしいのだ。『ベルカ、吠えないのか?』風に表現するならば「常野よ、常野よ。お前はどこにいる?」。

[][]824 22:04 824 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 824 - 雲上読記 824 - 雲上読記 のブックマークコメント

蒲公英草紙―常野物語

蒲公英草紙―常野物語

『光の帝国』に続く常野シリーズの第二作。読み始めてびっくり。まさか戦前の話だとは思わなかった。と言うか、うっかり三作目の『エンド・ゲーム』と内容を勘違いしていて、いつ話が現代に飛ぶのかと待ち構えてしまった。さらに常野一族の物語かと思いきや、常野一族は物語に彩りを与えている存在以上の価値はなく、むしろ桜庭一樹が書く小説のように、主人公と聡子というふたりの少女を巡る小説のように思われた。そういった訳で、とにかく意表を突かれた。

 話自体は及第点を越えるほどに面白かった。常野一族が読みたかった秋山としては、不満がないでもないが、やはりただの小説としてみれば十二分に面白いと言えるだろう。

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2006-01-18

[][]803 10:20 803 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 803 - 雲上読記 803 - 雲上読記 のブックマークコメント

Q&A

Q&A

 東京郊外の大型商業施設で発生したとある事故(事件?)を巡る質疑応答集。質問とそれに対する答え、つまり会話だけで構成されているような小説。「これぞ小説! 質問と答え(Q&A)だけで物語が進行する、リアルでシリアスなドラマ。謎が謎を呼ぶ〈恩田陸ワールド〉の真骨頂。」と壮大な売り文句が帯に書かれていて、逃げ惑う人々のイラストと共に目を引く。ネットに目を転じたら、抜群の宣伝効果により多くの人が手に取ったらしいが、結末に不満という声が一様にして見受けられた。しかし、会話の中に謎が生まれたり、その場の場景が想像できたり、読んでいる間は楽しめるだろうと判断して最後まで読んでみた。

 結論として、この結末で良かった。読み始める前は、ひとりの人物に対しインタビューをするだけだと思っていたが、実際は複数の人にインタビューをしていたし、インタビュー以外のQ&Aも後半になるにつれ増えていった。中盤まで読んでいて感じたのは、これが戸梶圭太のように悪趣味な笑いや悪意を描いたものではないかという嫌な予感。幸い、この予感は外れた。悪趣味であることには変わりないが、悪意はなかったというように思う。また、そうでなくともこの結末は、この質問と答えを取り扱った作品に相応しいように思う。会話文だけしかないという、不自然な形式が、最後の最後で生まれる物語に絶妙に絡み付いている。

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2005-12-29

[][]786 19:41 786 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 786 - 雲上読記 786 - 雲上読記 のブックマークコメント

puzzle (祥伝社文庫)

puzzle (祥伝社文庫)

 廃墟が横たわる無人島で発見された三つの死体。学校の体育館に餓死死体、高層アパートの屋上に墜落死体、映画館の座席に感電死体。そして限りなく近い死亡時刻。

 極めて魅力的な謎を取り扱った短編。ピース・プレイ・ピクチャの三節に分かれており、バラバラだったジグソーパズルが推理を経て、一枚の絵に戻るという構造になっている。しかし、謎が魅力的な作品は概して結末が杜撰だけれど、本書もその例に漏れず、実に落胆を誘う終わりに落ち着いてしまっている。なけなしの幻想が涙を誘った。

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2004-09-01437-454

[][]ライオンハート ライオンハート - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ライオンハート - 雲上読記 ライオンハート - 雲上読記 のブックマークコメント

ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)

 17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀パナマフロリダ。時空を超え、幾たびも巡り会ってはまた別れを繰り返す恋人の物語。「エアハート嬢の到着」「春」「イヴァンチッツェの思い出」「天球のハーモニー」「記憶」の五編からなる連作短編で、それぞれ同名のイラストが扉絵に配されている……と言うか、恐らくは著者が好きな絵を見ながら着想を得たり、絵を題材にして物語を構想したのだろうと思われる。輪廻転生の時間もので、結ばれない恋愛とすれ違いという、これ以上は望むべくもない魅力的なテーマを取り扱っているのだけれど、十全に楽しむことができなかったと言うのが正直な感想。恩田陸の著作を読むのは『六番目の小夜子』に続き、これが二冊目になるが、多分、次に読む恩田陸も、その作品世界に浸れないだろうと予感する。

 相性の問題だろうか。取り扱っているテーマも、特異な発想も、外装に関して言えば何もかもが自分の趣味とぴったり合致するのだ。しかし実際に読んでみると、どうもしっくりこない、何かが足りないように感じてしまう。掴みとして充分な「エアハート嬢の到着」、二重の虹という幻想的なシーンにラストの驚きを持っている「春」、思い入れのあり大好きな絵を使った「イヴァンチッツェの思い出」、思わず震えてしまった「天球のハーモニー」、ようやく結ばれたふたりを祝福すると同時にエピローグに深く溜息をついてしまった「記憶」。いずれも素晴らしいことには素晴らしいのだが、何故か「素晴らしい!」と声を大にして賞賛するには、はばかれる。

 いずれ。恩田陸作品を十全に楽しめる日が来ることを、願って止まない。

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2004-06-01368-396

[][]六番目の小夜子 六番目の小夜子 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 六番目の小夜子 - 雲上読記 六番目の小夜子 - 雲上読記 のブックマークコメント

六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

 その学校には三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が選ばれ、学園祭で特殊な劇を行うという風習があった。サヨコの伝説は謎に満ちており、誰もそれが行われる真相を知らない。そして「六番目のサヨコ」が誕生する年、津村沙代子という転校生が現れた……。

 所々に光るものはあったと思うけれど、全体的に不完全燃焼で、膝を打って面白いと言えるほどではなかったと言うのが正直な感想。確かに春夏秋冬を通して、高校三年の一年を描くその力量は見事だったし、青春というものが確かにそこにあったような気がするけれど、下手にホラータッチにせずにそれに徹した方が良かったのではないかと思う。でも、やはり、本書はサヨコ伝説があったからだと映えたのだと思わないでもない。……難しい。楽しめる要因は充分に揃っていたのに楽しめなかった。残念。

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