2006-02-28
■ [小説][★][浅井ラボ]859


追憶の欠片―されど罪人は竜と踊る〈6〉 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/12
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
『ザ・スニーカー』に掲載された四編に書き下ろし一編を加えた連作短編。
ついに面白い! と叫べるほどに面白くなってきた。
実にドラマと問題提起に溢れているのだ。今までのバトルシーンやアクションシーンは、難解な物事を力技で解決しようという雰囲気だったが、ここに来て戦うことに現実味が出てきた。と言うか、争いは悲しみと憎しみしか生まないのだね……。
また、普段はライトノベルを読まないSF読みの人が、このシリーズだけは読んでいて、ようやくその人がこのシリーズを追っている理由が分かった。アンドロイド問題や宗教問題、自己犠牲に戦争……SFかもしれない。
最高に気に入ったのは「覇者に捧ぐ禍唄」。特に94ページから105ページまでの展開が至上。その後の展開には思わず「なんてことだ……」と呟いてしまった。人はどうしてか弱く、不安を感じてしまう存在なのだろう。
■ [小説][★][浅井ラボ]860


まどろむように君と―されど罪人は竜と踊る〈7〉 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/06/30
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (43件) を見る
『ザ・スニーカー』に掲載された三編に書き下ろし二編を加えた連作短編。
前巻に引き続き、高いレベルの短編集。もうどの作品を取っても不満はない。持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、持ち上げては落とす……と見せかけて幸福のままに終わったり。著者の掌の上で踊らされている感が否めないが、面白いのだから仕方がない。「黄金と泥の辺」には、あまりにもあんまりな結末に唇を噛み。「しあわせの後ろ姿」には、現実的過ぎる恋人の別れ方に身が引き裂かれる思いを感じ。「三本脚の椅子」には、芸術の門を敲くものの孤高と孤独を知り。「優しく哀しいくちびる」には、涙が出るほど大爆笑した挙句、279ページに感動して秋山号泣……までは行かなかった。秋山嗚咽、ぐらい。「翼の在り処」は、まあ、どうでもいいや。
刊行ペースを見ると、そろそろ八巻が出てもいい頃合い。楽しみだ。
■ [小説][高殿円]861


- 作者: 高殿円,エナミカツミ
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2004/12
- メディア: 文庫
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (40件) を見る
主人公その他の内面描写にページを割きすぎているから、展開が冗長で、物語が遅々として進まない上に、一冊でひとつの物語が終わっていない。しかも前巻の引きを放り投げてるし……伏線を忘れないうちに続きを読もうと思ったけれど、これはもう四巻以降は読まないだろう。プルートとキサラがちょっとだけいいキャラだったけれど、物語を牽引する程の力は持っていない。残念。
■ [小説][★][支倉凍砂]862


- 作者: 支倉凍砂,文倉十
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2006/02
- メディア: 文庫
- 購入: 18人 クリック: 471回
- この商品を含むブログ (726件) を見る
今年の電撃小説大賞で銀賞を受賞。こんなに面白くて銀賞とは、今年の電撃大賞はどれだけレベルが高いんだ!
もうとにかく賢狼のホロが魅力的なのだ。狼耳を持った少女の姿に老獪な口調と、分かりやすくも捻った萌えを持っているのだけれど、そんな見せ掛けに頼らなくても十二分に魅力的(こう書くと『GOSICK』のヴィクトリカが連想されるが、ああ言った分かりやすいツンデレではない)。老いているが故に、非常に老練で頼りがいがあり自信に満ち溢れ、そして自分をいかに魅力的に見せるかも知り抜いているのだ。もう骨抜きにされざるを得ない。しかも、存分に賢狼として彼女を立たせた上で、長命な生き物につきものの孤独を描く。堪らないだろう、これは。
物語も悪くない。主人公が何の後ろ楯もない行商人であるため、明日には全財産を失っている可能性もあり、自らは攻撃に転じることができず、耐えず警戒していなくてはならないという緊張感が凄まじい。戦いのシーンもあるにはあるが、アクセント程度だし。面白かった。最後の一行で明かされるタイトルの真意も素敵だ。
難点を挙げるなら、前半と後半とでやや物語が有機的に繋がっていないのと、編集の力不足。誤字脱字誤用は目立つし、口絵にするべきでないシーンを口絵にしてしまっていたり、挿絵のタイミングもずれているように感じた。
■ [小説][三田誠]863


- 作者: 三田誠,双龍
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2004/12
- メディア: 文庫
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (25件) を見る
三田誠は複数のレーベルで複数のシリーズを展開しており、かなりの腕前を持ったライトノベル書きと見て手に取ってみたのだが、びっくりするほどステレオタイプなドタバタコメディで逆に驚いた。主人公はヘタレなのにモテ体質で、彼の身内は全員なんらかの能力を持っていて、変身すると強くなり、設定だけでお腹いっぱい。物語もステレオタイプにステレオタイプを重ねたもので残念。
一通り他のシリーズも読んでみようと思っていたけれど、とりあえず代表作であると思われる『レンタルマギカ』を見て検討したいと思う。
■ [小説][住本優]864


- 作者: 住本優,おおきぼん太
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2004/12
- メディア: 文庫
- クリック: 16回
- この商品を含むブログ (33件) を見る
第4回電撃hp短編小説賞の最終選考に残り、そこから連作短編でデビュー。あとがきを見る限りでは、本書と応募作はタイトルと世界観だけが共通しているらしいので、そのままではデビューさせられず、編集の手が入ったと言うことだろう。
舞台は戦争に投入させられるはずだった「遺伝子強化兵」という、17歳の夏までしか生きられない学生たちが生活する学園。線の細いイラストと相まって終末感が演出されているが、『ウィザーズ・ブレイン』や『アンダー・ラグ・ロッキング』と比較すると弱い。全体に世界観は悪くないが、感動物としてもキャラ物としても弱く今ひとつ。しかし、三巻まで出たところを見ると、上達しているのかもしれない。
■ [小説][倉知淳]865


- 作者: 倉知淳
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/09/06
- メディア: 新書
- クリック: 13回
- この商品を含むブログ (94件) を見る
あまり評判が良くなかった作品だが、著者が倉知淳なので期待するようなしないような、曖昧な姿勢で臨んだところ、可もなく不可もなくといった具合に面白かった。
猫丸先輩シリーズとしては『日曜の夜は出たくない』『過ぎ行く風はみどり色』『幻獣遁走曲』『猫丸先輩の推測』に続く五作目(外伝として『ほうかご探偵隊』を取り上げてもいいかもしれない)。『メフィスト』に掲載された五編に書き下ろし一編を加えた短編集。主人公はバラバラだが、猫丸先輩なる謎の人物が探偵役を負っている点が共通している。語り口は「さすが倉知淳!」と叫んでしまう引き込ませるものだが、肝心のトリックが今ひとつ。いずれの短編においても謎が魅力的(毎朝ベランダに水の入ったペットボトルが置かれている、呼ばれたタクシーが次から次へとやってくる、など)なのに対し、トリックがちょっとこじつけや過ぎないかと首を傾げてしまうのだ。
なお、収録されている短編は、いずれも某ミステリ作品の題名をもじったもので、以下のページで苔丸さんが元ネタが推理されている。
■ [小説][七飯宏隆]866


- 作者: 七飯宏隆,池田陽介
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2005/06
- メディア: 文庫
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (50件) を見る
第11回電撃小説大賞の大賞受賞者による売れ線を狙ったであろうの一作目。古臭さを感じるイラストに古臭さを感じるロゴ、古橋秀之の『タツモリ家の食卓』みたいな感じかなあと読み出してみたら、そうでもなかった。基本は超能力系学園ドタバタコメディなのだが、そこは大賞受賞者の誇りか、ステレオタイプに陥ることなく、上手く新しい目の要素を取り入れている。具体的には『学校を出よう!』や『悪魔のミカタ』。メインヒロインであろう未麟は元より、アクの強い電波系キャラが何人も登場し、ぐいぐいと物語を引っ張っていくのがやはり魅力だろう。そして主人公が主人公とは思えないぐらい手抜きイラストで、その平凡っぷりが十全に発揮されているのが笑える。
しかし、最も味のあるイラストがイラストレーターの後書きとはいかに。
■ [小説][友桐夏]867


- 作者: 友桐夏,水上カオリ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 文庫
- クリック: 15回
- この商品を含むブログ (76件) を見る
実に評価に困る作品だ。仕掛け自体は中盤で気づけるのだが、最後まで読ませる力を持っているし、その見せ方も上手い。また、前作『白い花の舞い散る時間』を読んだときも思ったが、少女たちが随所随所で放つ科白の斬れ味が凄まじいのだ。「おめでとう。オリジナルはあなたのほうよ」なんて科白には二重の意味でドキリとさせられた。しかし、面白いかどうかと問われると素直に頷けない。近々、新刊が出るらしいので、それも読んでみたいとは思うが、あるいは秋山には向いていないの作家なのかもしれない。
■ [小説][★][綾守竜樹]868


- 作者: 綾守竜樹,しなのゆら
- 出版社/メーカー: キルタイムコミュニケーション
- 発売日: 2005/02/01
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
えらい面白かった。
一ページ目から柳田國男を引用し、読者をサトリや座敷童が現実に存在する伝奇空間へと誘い、人間と妖怪の間に起こった問題を解決する鎮守府審神機構(さなどころ)の一等官*1である主人公に存在感と説得力を持たせているのだ。この世界観があれば、それなりのライトノベルはすぐに書けるだろう。雰囲気としては『腐り姫』や『朝霧の巫女』だろうか。最後の一行で明かされるタイトルの本当の意味も含め、とにかく世界観と語り口が素晴らしかった。
ジュブナイルポルノとしては、肉体的に痛々しいシーンが少ないのが好印象。全体的に羞恥系や焦らし系のSMプレイが多いだろうか。主人公が相手の心情を手に取るように理解できるサトリではあったが、露骨に感情移入するわけではなく、一歩離れた地点から冷静さを持って観察しているようなので、読んでいて気持ちが悪くはならなかった。ラストもなあなあで終わらせるのではなく、きっちり締めてくれたし、良作。
■ [小説][小川一水]870


- 作者: 小川一水,長澤真
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 2005/07
- メディア: 文庫
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (77件) を見る
うーん、面白くない……。
列車を舞台にした小説は『TRAIN+TRAIN』『バッカーノ』『アリソン』とライトノベルでしか読んだことがなかったが、そのいずれも面白かった。限定的とは言え、閉鎖環境内で繰り広げられる人間ドラマと旅をしている感じが好印象。本書はどうかと言うと、今ひとつ。列車好きは楽しめるのであろうトリビアがちょっと多いのと、何処で盛り上がればいいのか今ひとつ分からない展開に、そして妙にライトノベルが意識されているキャラクタ作り。ローラインなんて、ツンデレのテンプレート。下巻に期待。
■ [小説][小川一水]871


- 作者: 小川一水,長澤真
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 2005/09
- メディア: 文庫
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (68件) を見る
残念ながら最後まで物語に入り込むことが出来なかった。と、言うか本書の在り方を勘違いしていた。結局のところ、表の主人公テオと裏の主人公キッツが主軸に、新しい国が出来るまでを描いたものなのかな。てっきりこのふたりに、ローラインとアルバートを加え四人を主人公に「一夏の」的な気軽な冒険小説が繰り広げられるのかと思いきや、よく分からない、もっと重々しい方向へと物語が流れてしまい首を傾げてしまった。なんだかなあ。
■ [小説][長森浩平]874


タイピングハイ! さみしがりやのイロハ (角川スニーカー文庫)
- 作者: 長森浩平,橘りうた
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/10/29
- メディア: 文庫
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
第9回スニーカー大賞で優秀賞を受賞した作品。
表紙と口絵を見て外れだと確信したが、ライトノベルにおいては作風とイラストが一致していないことは往々にしてありうるので、一応、読んでみた……がしかし、やっぱり外れだった。何処のエロゲー好きの妄想垂れ流しかと、小一時間問い詰めたい。頭のゆるいヒロインが登場するようなエロゲーを選考委員がやっていないから、新しいと錯覚して選んでしまうのか。久しぶりの壁本。酷すぎる。
(追記)……と思っていたのだが、『このライトノベルがすごい!2006』のレビューや、タニグチリウイチさんの評を読むと、良作のように思える。秋山の読み込みが足りなかったのかも……いや、でもなあ……うーん。
■ [小説][★][高田崇史]876


- 作者: 高田崇史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/03/08
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 43回
- この商品を含むブログ (46件) を見る
『メフィスト』に掲載された五編に書き下ろし一編を加えた連作短編。シリーズ四作目。三編既読だった。
うーん、堪能した。
心なしレベルが下がっている気がしないでもないけれど、このシリーズはやはり落ち着くね。パズルや謎々、机上で楽しむ頭を使うゲームを物語に絡めてしまう、日常の謎の亜流。ちょっと頭を使う系のパズルが大好きな秋山としては、随所随所で出題される問題に、つい読む手を休めて頭を捻ってしまう。答えが出せたときは微笑んで、出せなかったときは巻末の解答を見て膝を打つ。いやあ、善哉善哉。
また、ここに来てぴいくんの本名にまつわるヒントが大放出されている。どうしても気になる人は、「ぴいくんand本名」でググれば出てくるだろう。本当だよ。
■ [小説][★][道尾秀介]879『向日葵の咲かない夏』


- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
- クリック: 24回
- この商品を含むブログ (145件) を見る
絶句。
なるほど、確かに本書は凄まじい。一部のコアなミステリファンが注目するのも道理。
雰囲気は麻耶雄嵩『神様ゲーム』を読んだときに感じたものに近い。何処か捻くれた、暑い夏の夕暮れと夜の狭間、実に不気味で居心地の悪い黄昏時が全編を覆い尽くしているような感じだ。描写そのものはふつうでも、次の瞬間に、実に嫌な、神経を逆なでするような、否応なく生理的嫌悪感を催させるシーンが待ち受けているのではないかという、嫌な予感が始終つきまとうのだ。
問題は結末だ。何だろうこの、舞城王太郎と乾くるみを足して二で割ったような邪悪な結末は! 救いも望みもないわけではなく、それがあるかどうかすら分からないのだ。ああ、気持ちが悪かった。寒気がする。しばらくは悪夢を見るのではないだろうか。節足動物にも近寄れなくなりそうだ。ぐええ。
■ [小説][かたやま和華]880『楓の剣!』


- 作者: かたやま和華,梶山ミカ
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2006/01/07
- メディア: 文庫
- クリック: 11回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
第5回富士見ミステリー文庫大賞佳作受賞作。
今年は大賞がなく、佳作が一つに奨励賞が二つ、最終選考作が三つと、何とも微妙なラインナップに加え、一番、面白いであろう佳作の本書も今ひとつな評判で戦々恐々と読んだのだが、意外や意外、面白かった。……期待値が低かったせいかもしれないが。
特筆すべきは100ページから始まる、主人公と幼馴染の婚約者の修羅場だろう。デレの殆どないツン同士の喧嘩! なんて、リアリティ溢れる「強情VS意地っ張りの図」だろうかと読んでいて膝を乱打してしまった。物語自体はテンプレに添って進むので先の先の先まで読めてしまうお約束の嵐なのだが、爽快感はある。主人公が強すぎないというのも好印象。もう主人公が最強で、覚醒しさえすればボスを倒せるというのはうんざり。中々、面白かった。
■ [小説][真嶋磨言]881『憂鬱アンドロイド』


- 作者: 真嶋磨言,珈琲
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2005/05
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 238回
- この商品を含むブログ (45件) を見る
第11回電撃小説大賞最終選考作。
四編の短編から構成されている連作短編。シリーズとしての主人公は表紙に描かれているふたりだろうが、短編ごとに主人公は異なる。それぞれに悩みを抱えた主人公が、アンドロイドと人間のふたりに出会い、光を見出すような感動物。
全体的に若いなあという印象が拭えない。悩みもそれに対する回答も陳腐、そして安易。けれど、全編に漂っている明るいとも暗いとも言えない中立の雰囲気は著者独自のものだし、「戯言だけどね」ぐらいのニュアンスで「ぼくはアンドロイドだから」と繰り返す少年に、「君は充分に人間だよ」と答えてあげる少女が身近にいるという設定はかなり落ち着く。イラストはいいし、化ける可能性も大有りなので続きを読もうと決めたのだが、なんとこの著者、デビュー作を出したまま沈黙してしまっている。電撃なのにも関わらず続きが出ないということは、相当、売れなかったのだろうか。残念極まりない。
■ [小説][小林めぐみ]882『食卓にビールを3』


- 作者: 小林めぐみ,剣康之
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2005/02
- メディア: 文庫
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (70件) を見る
いやあ、面白かったなあ。
脱力系日常SFのシリーズ三作目。ファンタジアバトルロイヤルに掲載された二編に書き下ろし六編を加えた連作短編。このシリーズの一作目を読んだときは、何処がSFなのか、何が面白いのかあまり分からなかったが、つまり、この何処までも続くゆるーやかで、おだーやかで、ここちよーいテンションを楽しむ作品なのだと気づいた。それに各所に散りばめられている小ネタらしきものは、きっとSFファンなら分かるものなのだろう。こういう小説が書きたい!
■ [小説][小林めぐみ]882『食卓にビールを4』


- 作者: 小林めぐみ,剣康之
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2005/09
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 15回
- この商品を含むブログ (60件) を見る
ファンタジアバトルロイヤルに掲載された四編に書き下ろし四編を加えた連作短編。
思ったのだが、いわゆるSF女子(今、考えた)は日々こういった妄想を展開しているのではないだろうか。BL回路を内臓している人が、可愛らしい男の子が手を繋いでるのを見たり、秋山真琴×スズキトモユと聞いてコーヒー吹くように、SF回路を内臓している人は、どうってことのない日常からSF現象を連想したり空想するのではないだろうか。とかなんとか。
■ [小説][長谷川昌史]883『ひかりのまち』


- 作者: 長谷川昌史,Nino
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2005/02
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 32回
- この商品を含むブログ (65件) を見る
第11回電撃小説大賞金賞受賞作。
ファザコンとブラコン、そして童貞卒業。中村航の単行本のような表紙から、青春物をイメージしていたのだが少し違った。文章自体はけして下手ではないのだが、著者の自意識が随所随所で見えて、やや気持ちが悪いのだ。後書きや著者紹介も少し痛々しいし。と言うか、村上チルドレンなのではないだろうか。よく電撃からデビュー出来たと思う。それぐらいライトノベル離れしている。そもそも、父親が登場したり、初体験を描いてしまう作品が少ないし。二巻も出ているようだが、手を伸ばすのはやや躊躇われる。
■ [小説][西野かつみ]884『かのこん』


- 作者: 西野かつみ,狐印
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2005/10
- メディア: 文庫
- クリック: 94回
- この商品を含むブログ (120件) を見る
第1回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作。「彼女はごんきつね」を略して「かのこん」だと思ったが、応募時のタイトルが「彼女はこん、とかわいく咳をして」だそうなので、それを略したのかもしれない。
いわゆるドタバタ系ラブコメ。転校初日に美人の狐ッ娘に見初められ、キスすると同化して強くなるという典型的な変身物。ヒロインの源ちずるがデレのみであったり、主人公が地名的なほど鈍感ではないので、何とか読むことができたが、他のキャラクタはことごとくが魅力的でない。ストーリーテリングは上手いけれど、キャラクタ作りが今ひとつだった。
■ [小説][★][石持浅海]885『アイルランドの薔薇』


- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/09/10
- メディア: 文庫
- クリック: 14回
- この商品を含むブログ (71件) を見る
石持浅海という作家について秋山が持っているイメージは、『月の扉』でミステリファンにその名を知られ、『扉は閉ざされたまま』で一躍、有名になったという感じだ。本書は彼の初期の作品で、アイルランドのとあるB&B(いわゆる庶民向けホテル。ベッドと朝食だけを提供する)が舞台で、登場人物は全員カタカナ名で、やや社会派であるという評を聞いて、どうも手が伸びなかった。しかし、ミステリ読みとしてやはり読んでおかなければならないだろうという、謎めいた強迫観念に晒され読んでみたのだが、――面白かった!
確かに登場人物の名前はカタカナで覚えにくく辛かった。北アイルランドと南アイルランドの政治的要素が絡んできて、理解しにくい部分もある。がしかし! この舞台設定と人間ドラマは秀逸過ぎだろう! 悲しいかな、背景が込み入っていて、それを説明できるほど秋山は理解できなかった。したがってこの場では、とにかく面白いのだと連呼することしかできないのが悔やまれる。面白かった面白かった面白かった、ふう。
これで石持作品はデビュー作の『暗い箱の中で』を除いて全部読んだことになる。長編だけで順位をつけるならば『水の迷宮』→『アイルランドの薔薇』→『月の扉』→『扉は閉ざされたまま』→『BG、あるいは死せるカイニス』→『セリヌンティウスの舟』かな。
*1:さなどころのいっとうかん、略して審神官=さないち
2006-02-16
■ [小説][浅井ラボ]855


灰よ、竜に告げよ―されど罪人は竜と踊る〈2〉 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/05
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 21回
- この商品を含むブログ (56件) を見る
濃い描写と軽妙な罵りあいがあるからまだいいとして、正直なところこの長さでこういったバトルが延々と続くのは、読めないほどではないけれど苦痛。事件自体も入り組んでいるので、じっくりと読んだり、要所要所で読み返さないとストーリィを理解できないし。ラスボス登場かと思いきやそうではないし、主人公とジヴの関係をはじめ、幾つかの問題は放り出されたままだし、色々と首を傾げてしまった。何だかんだ言って萌えるキャラクタがいるわけではないし。
次は短編集。やや期待。
■ [小説][浅井ラボ]856


災厄の一日―されど罪人は竜と踊る〈3〉 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/11
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
『ザ・スニーカー』に掲載された短編五編に書き下ろしを一編加えた連作短編集。「翅の残照」のみ既読。全体的には長編と同じく事件があって、それをアクションで解決するという流れなのだが、「道化の予言」と「禁じられた数字」が面白かった。
「道化の予言」は閉鎖空間の中で殺人事件が起こり、犯人が人狼であることは分かったけれど、誰が人狼か分からないというもの。冒頭で呈された手品が、事件全体の構造を暗喩していて、ミステリ風であることに加え、人狼BBS好きの秋山としてはかなり楽しむことが出来た。
「禁じられた数字」はキャラ小説。今までの作品に登場したキャラを使って会話させているだけなのだが、これが抱腹絶倒。本当、浅井ラボは罵倒悪戯悪意不平不満を書かせれば右に出るものを許さない。何度も笑ってしまった。
四巻と五巻は共に長編で表紙が似ているけれど、上下巻の関係にあるのかな?
■ [小説][浅井ラボ]857


くちづけでは長く、愛には短すぎて―されど罪人は竜と踊る〈4〉 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/12
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
後半はやや退屈だったが、全体に緩急がついて、アクションパートがうまくアクセントになっているので流れるように読むことが出来た。しかし、思ったとおり五巻に続いており物語自体は何とも言えないところで終わっている。
それにしても、主人公とその恋人の関係が秀逸。実にリアリティに溢れているのだ。確かにこんな主人公だったら、恋人も愛想を尽かすだろうよ。社会的身分のある男に流れるのも分かる。ふたりの関係だけを抽出すれば、充分、ライトノベル以外の領域でも浅井ラボは書けるのではないだろうか。
■ [小説][浅井ラボ]858


そして、楽園はあまりに永く―されど罪人は竜と踊る〈5〉 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/07
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 15回
- この商品を含むブログ (46件) を見る
「くちづけでは長く、愛には短すぎて。そして、楽園はあまりに永く」
なるほど、これは凄絶だ。ライトノベルの中で酸鼻極まる凄惨なシーンの出てくると名高い著者の真髄を、本書で初めて見た気がした(いや、今までもあるにはあったが、特筆するほどではなかった)。単にグロかったりエグかったりするのではなく、人間の醜い内面を、物理的に精神的に浮き彫りにしているような感じだ。これは中高生が読んだらトラウマになるのではないだろうか? そして結末も、同じように酷だ。『ラグナロク』や『トリニティブラッド』的なものを期待していた読者は、本書で追うのを止めるのではないだろうか。萌えキャラも尽くが、西尾維新の著作と同じような末路を辿るし。そして鬱展開やライトノベルとは思えない、ヘビィでグログロ好きな読者は、ここから熱狂的なファンに変じるだろう。つまりはそういうシリーズ。当然、秋山は次も読みます。
2006-02-15
■ [小説][高殿円]852


銃姫〈1〉Gun Princess The Majesty (MF文庫J)
- 作者: 高殿円,エナミカツミ
- 出版社/メーカー: メディアクファクトリー
- 発売日: 2004/04
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (81件) を見る
タイトルと表紙から、銃姫と呼ばれる女主人公の活躍を描いたものだと思っていたのだが、かなり違った。また、思っていたより正統派ファンタジィで、シリアス色が強いなと感じた。『トライガン』のノベライズという感もある。
かなり奥深い世界観を持っていると思われる。主要登場人物の三人それぞれに深い過去があって、物語を上手く展開させながらそれらを見せようとしているので、やや敷居が高い。それに続き物という前提の元に書かれたらしく、それなりの盛り上がりはあるが、やはり一巻単体で評価されるように物語が構築されていないので、この一冊で評価するのは難しい。とりあえず二巻も手元にあるので読む。
■ [小説][高殿円]853


銃姫〈2〉The Lead In My Heart (MF文庫J)
- 作者: 高殿円,エナミカツミ
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2004/07
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (50件) を見る
意外や意外、面白かった。
前巻から打って変わって、いきなり主人公がヘタレになっていて驚いたが、バロットが登場してから俄然、面白くなった。やはりライトノベルはキャラありきだ。豪快な性格のチンピラみたいだが、決めるところは決める男キャラ。そして彼と対をなすような冷静な狼の敵。大勢を救う手段としての決闘、そして覚醒。展開事態は「普段は弱いが覚醒したら最強系」なのだが、そこに至るまでの道が丁寧に描けているし、何より熱い。終盤のお涙頂戴には負けてしまったし、次巻以降も期待できそうな引きがあったし、このシリーズは面白いかもしれない。
しかし、表紙で描かれているキャラの登場頻度が一番少ないのは、どういうことだろうね。
■ [小説][浅井ラボ]854


- 作者: 浅井ラボ,宮城
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/01/30
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 42回
- この商品を含むブログ (107件) を見る
3年ぶりに再読。以前に読んだときは、第8章までの筆致があまりに不躾で、西尾維新を劣化させたように思えたが、古川日出男や舞城王太郎を経た今、たいして苦ではなかった。むしろ読みやすくなってしまう後半より、アイデアとキーワードをこれでもかとぶち込んだ前半の方が、味わい深いかもしれないとゲテモノ趣味を覚えてしまいさえする。
落ちを覚えていたので、展開に驚きは感じなかったが、意外に構造がしっかりしていたのだなと思った。角川スニーカーの中では人気シリーズで、後の方ほど人気が高いので、きっと語り口と罵りあいが洗練され、展開に緩急がつけられていることだろう。
2006-02-14
■ [小説][★][鳥飼否宇]849


- 作者: 鳥飼否宇
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/04/20
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
読みながら何度も吹き出してしまった。もう何と言うか、色々とやりすぎ。収録されている五編の連作短編のうち、最初の三編は、まだ寒蝉主水(ひぐらし・もんど)なる謎めいた人物が様々な架空の芸術家や芸術作品を批評し、それなりに楽しむことが出来たが、四編目から何だかよく分からない、筆舌に尽くしがき、名状しがたき世界に突入するのだ。ちょっと、もう図を見た瞬間に笑ってしまった。いかにすれば、あんな狂った物語が思いつくのだろう。最後までミステリという形式を取ってはいるが、どちらかと言うと幻想奇想に近いだろう。鳥飼否宇、超最高!
■ [小説][森野一角]850


- 作者: 森野一角,千葉千夏
- 出版社/メーカー: フランス書院
- 発売日: 2005/09/01
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 18回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
評判のいい作品だったので、期待して読んだのだけれど正直なところ今ひとつ。
メインヒロインはドジっ娘で、失敗したらすぐに「かくなるうえは!」と切腹しようとして、居間が汚れるから止めさせようとしたら、「お詫びに!」と切腹しようとする。失敗→切腹→静止のコンボだけで、30回はあるのではないだろうか。キャラ付けさせようとしているのだろうが、あまりにワンパターンで飽きる。その他のキャラクタに関してもステレオタイプが多かったように思う。特に主人公の母親。苦手。
格別、シチュエーションがエロいわけではないし、プレイがエロかった訳ではないけれど、全体的にエロい。不思議な魅力があった。
■ [小説][鳥飼否宇]851


- 作者: 鳥飼否宇
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
- クリック: 12回
- この商品を含むブログ (31件) を見る
『本格的』と『痙攣的』で存分に頭の悪い作家ぶりを披露した鳥飼否宇。次はどんな破格の作品が飛び出るのかと期待に胸を膨らませて本書を読んだがしかし、思っていたよりまともな作品で残念。「事件→ヒント→解決→どんでん返し」というミステリの展開を忠実に守った短編が12連続で続き、中には首を傾げるようなトリックや解決を含んではいるが、全体に基本に忠実に作られている。帯に「ライト感覚の本格ミステリー」とあったが、鳥飼否宇を読むというより、寝しなに少しだけ読みたいときに相応しい本。
2006-02-13
■ [小説][藤岡真]845


- 作者: 藤岡真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/04/09
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (35件) を見る
「なにもかもが信じられなくなったとき、呑むのに相応しいものがいいな」
上司をゴルフ場まで送り届けるため、主人公は彼の自宅まで迎えにゆく。しかし、上司は30分以上も前に家を出ていると彼の息子は言う。果たして上司の行方は――?
出だしから何となく佐藤正午『ジャンプ』を想像していたのだが、いやいや、凄まじかった。デコボコしているスーパーボールのように、ひたすら読者の期待を裏切る方へ、予想だにしない方向へ跳躍するのだ。次々と明かされてはひっくり返される真相は、驚愕を通り越して、唖然の領域にある。そしてラスト、これ以上はないという驚きの、と言うかある種の呆れでさえ結末に至り、主人公と読者の心は完全に一致する「もう、なにもかもが信じられない」。凄かったなあ。
■ [小説][獅子宮敏彦]846


- 作者: 獅子宮敏彦
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/04/09
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (23件) を見る
戦国時代を舞台に、歴史とミステリを融合させた四編の連作短編集。
残念ながら、今ひとつの出来。四人の鎧兜で素性を完全に隠した側近に守られる中、姫が消失するという最初の一編だけ面白かったが、後は瑕疵が多く、また探偵役と助手役だけが妙にキャラクタライズされているのも不満。個人的には三編目「大和幻争伝」には少し笑ってしまった。忍者と僧兵による戦いの最中に使われた忍術や幻術をトリックに、探偵役がそれを暴くという形式を取っているのだが、いやあ、素敵な伝奇だった。
■ [小説][★★][連城三紀彦]847


- 作者: 連城三紀彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/01/01
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 42回
- この商品を含むブログ (88件) を見る
果たして人情は、人を、殺人に至らしめるのか。
読み手の心すら切り裂きかねない、極上の小説を読んでしまった。
「花葬シリーズ」と呼ばれる八篇の短編小説が収録された短編集。舞台や登場人物などが共通しているわけではなく、ミステリと恋愛というテーマと、どの編にもガジェットとして菊や菖蒲などの花が使われている点が共通している。30代以上のミステリ読みがベスト10などを挙げるとするならば、本書は必ずや上位にランクインするだろう。聞いて回ったわけではないので、推測ではあるが、その筋の人の言によると、まず間違いないだろうとのこと。聞きしに勝る、傑作であった。
特にどれが素晴らしいとは挙げづらい。実に優劣がつけにくいのだ。よしんば面白くない作品があったとしても、著者が連城三紀彦でなければ、傑作と言えてしまうのだ。だが、それでも敢えて、敢えて一作だけ挙げるとすれば「花緋文字」だろう。あまりに凄惨、あまりに凄絶である。
■ [小説][★★★][田中芳樹]848


- 作者: 田中芳樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/07/07
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (60件) を見る
田中芳樹が面白い! 信じられない、こんなにも面白い小説を書く人だったなんて。『創竜伝』と『薬師寺涼子の怪奇事件簿』を読んで「はあ、こういうのを書く人なのね」と思っていた。完全に誤解。『銀河英雄伝説』も『アルスラーン戦記』も読むつもりはなかったが、食わず嫌い以外の何物でもなかったと気づいた。それほどまでに本書は傑作! 素晴らしい!! だって、もう読んでいて大興奮。勇気以外なにも持ち合わせない少女が、祖父に認められたい一心で頑張るのを、それぞれ特徴ある大の大人三人が守りながら一緒に旅をし、お互いに成長してゆくのだよ? ちょっと、もうどうすればいいの。本書を最高傑作級と呼ばずして何を最高傑作級と呼ぶのだろう。ああ、他のシリーズも読もう。絶対に読もう。
2006-02-11
■ [小説][蘇部健一]844


- 作者: 蘇部健一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 新書
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (49件) を見る
これは酷いバカミスですね。
『六枚のとんかつ』に第二作が出ると吉報(?)を聞いて、色めき立ったら、なんとタイトルは『六とん2』。どうして略称なのかと言うと、著者が『六枚のとんかつ』という言葉を口にするのも嫌だかららしい。えー!? しかも、第二作なのに続編は三編、何故か『動かぬ証拠』の続編が四編、そしてノンシリーズが四編。えー!? まあ、でも面白いところ揃いなら読んでもいいかと読み終えたのだが。えー!?
とにかく叫びたい。声高にして。「えー!? これ、面白い……よ??」と!(註:面白いかどうかは激しく人によります)
2006-02-10
■ [小説][松尾由美]840


- 作者: 松尾由美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/01/26
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (40件) を見る
初松尾由美。申し訳ないけれど、面白くなかった。叔母に頼まれて彼女のアパートに代わり住むことになった主人公は、そこで女性の幽霊と出会う。彼女は世間的には自殺とされているけれど、実は殺されたのだという。犯人を求め、主人公は彼女の探偵となる……のだが、まず謎が魅力的でない、探偵パートが面白くない、彼女との会話が面白くないと、ないない尽くしなのだ。
帯には「ありえない恋/ラスト2ページの感動」や「2005年ベスト1確実!のラブストーリー」とあるが、これにも疑問。確かに恋愛要素はあるが、それ以上に主人公は探偵活動しているのだ。ジャンル的にはミステリに振り分けた方が正しいだろう。しかし、ミステリとして読むとあまりにつまらない。かと言って恋愛物として読んでもつまらないし、泣き作品でもないし。ちょっと、売り方&書き方を誤ったのではないかなと思う。
2006-02-09
■ [小説][ほしおさなえ]838


- 作者: ほしおさなえ
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/07/08
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (38件) を見る
挑戦したいことは充分に理解できるし、今まで誰も考えたことがないような構造を持つ作品を出したいというのは共感さえする。しかし、幻想小説にも青春小説にもSFにもミステリにも届かない。敢えて言うならば、ほしおさなえという新しいジャンルなのだが、一個のジャンルとするには余りに力不足。
とにかく書き出しは魅力的なのだ。書き手の分からない謎めいた手記に、白骨死体と日付の刻印されたボールペン。単体なら問題ないが、両方一緒では時間的に不都合が生じる、という実に魅力的な謎が提示されているのだ。この謎を論理的に解決すべく、ドッペルゲンガーやタイムスリップなどが、まるでミステリのガジェットのように取り扱われるのだが、どうしても、弱い。もう少しパンチ力があれば面白いのだが。
2006-02-08
■ [小説][北野勇作]834


- 作者: 北野勇作
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/08/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
夢と現実、リアルとアンリアル、マトリョーシカ、フラクタル。そういった曖昧な境界によって区切られた不思議な世界の戦争を描いたもの……と思いつつ読んでいたのだが、読めば読むほど困惑が進むのだ。どんどん定型から脱却してやろうという著者の意気込みが見えるぐらい、意外な方向へ意外な方向へと突き進み、その結果なんだかよく分からない形容しがたきものになっている。百三さん(id:stickyend)が絶賛していたので面白いのだろうけれど、よく分からないごめんなさい、というような感じだ。
裏表紙に「9つの短篇と10の掌篇が織りなす、不条理で情けなく、けれどヒトに優しい戦争の話」とあるが、むしろ9つの掌篇と10の短文だ。一段落で改行多め、短すぎ!
■ [小説][戸梶圭太]835


- 作者: 戸梶圭太
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2001/12
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
息抜き代わりに読める本を探していたところに遭遇。著者は戸梶圭太、タイトルも表紙もアホそうだし、えらい薄い。「これだ!」と思って読んでみたら、想像に違わず満足。これ以上はないというぐらいに脱力して楽しく読めた。
裏表紙に「ちょっとエッチでコメディな能天気ミステリ」とあったが、正確には「ちょっとの間隔でエッチする能天気な夫婦のコメディ」が正しい。
■ [小説][佐々木俊介]836


- 作者: 佐々木俊介
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/12/11
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (38件) を見る
奥田哲也の『三重殺』や法月綸太郎の『誰彼』。新たな証拠が手に入るたびに首切り死体の正体が万華鏡にように目まぐるしく変わるミステリがある。ひとつの証拠が死体と犯人とを別人にするのだ。
本書に出てくるのは首切り死体ではなく、顔を包帯でぐるぐる巻きにした男ふたり。郷愁感に溢れる筆致の元、ふたりの正体は目まぐるしく入れ替わる。どちらが本者でどちらが偽者なのか。しかしラスト、物語は実にアクロバティックにジャンプし、想像だにしなかったポイントに着地するのだ。憎たらしいほど巧い、と言って差し支えないだろう。実に充実したミステリを読んでしまった……。
■ [小説][清水マリコ]837


- 作者: 清水マリコ
- 出版社/メーカー: フランス書院
- 発売日: 2005/10/01
- メディア: 文庫
- クリック: 20回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
作中で描かれているエロシーンの幾つかは陵辱や鬼畜とは別の領域、イジメに近い。主人公は少女で、エロいイジメを同級生の女子から受けつつ、片想いの相手のために処女を守ろうとするのだが、うーん、これは……。正直、とても上手い。心情描写が上手い故に、主人公に感情移入してしまい、その結果、イジメられる自分自身を読んでいるような気分になるので、とても苦しい。けっしてつまらなかったわけではないが、残念ながら楽しめなかった。
2006-02-07
■ [小説][飛鳥部勝則]833


- 作者: 飛鳥部勝則
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
- クリック: 21回
- この商品を含むブログ (52件) を見る
昨年の半ば、鞘鉄トウさん(id:sayatou)がサイトで取り上げていて、山本タカトのある種、不気味とも言える表紙の魅力に取りつかれた。しかも本書は書き出しが凄い。
推理小説に禁じ手などあるのだろうか。
おそらく、ありはしない。
面白ければそれでいい。
なんて挑戦的なんだろうか。これはちょっとやそっとの自信がなければ書けないだろう。しかし、飛鳥部勝則の著作には必ず、知識の偏向した登場人物が己の知識をひけらかすようなシーンがあるらしく、それが苦手な秋山は、やや手を伸ばしづらかった。と、そうこうしているうちに盗作疑惑が書評系サイトを席巻し、原書房は本書を絶版にすると同時に回収を始めた。だが、そこで返って話題を呼び、売れてしまうのも皮肉な話だ。
本編に関しては、まあ、面白かったかな。知識の披露は苦ではなかったが、それぞれの主張を叫びあうシーンには、やや嫌悪感を感じた。仕掛けられている「禁じ手」と作中作の外のトリックの両方も何処かで見たことのあるもので不満が残らないわけでもない。とは言え、ミステリをそう読んでいない人ならば、充分に驚ける範疇である。もう少し古ければ、驚愕を持って迎えられていたかもしれない作品。
(追記)盗作絶版回収に関して、やや間違っていました。詳細は以下をご覧ください。