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2004-11-01483-500

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空中ブランコ

空中ブランコ

 第131回直木賞受賞作ということで読んでみた。連作短編『イン・ザ・プール』の正統な続編で、相変わらず変わりのないパターンであるが、そこがまたいい。『イン・ザ・プール』で予習済みであるので、望んでいたものと読めたものが殆どずれることもなく、過不足楽しむことができた。以下雑感。

空中ブランコ」標題作。ベテランでリーダーを務めつづけていた主人公がある日、ブランコで飛べなくなってしまったというもの。作中に“坊主雑巾がけ”という名称が出てきたが、実際に何人ものプロが同じように苦しんでいるらしい。非常に完成度が高く、素晴らしかった。

「ハリネズミ」尖端恐怖症に罹ってしまったヤクザが主人公。非常によく雰囲気が出ていて面白かった。

「養父のヅラ」これは今ひとつという具合か。人前で大それたことをやりたくて仕方がない男が主人公なのだが、地位も名誉もある養父のヅラを取りたくて堪らなくなってしまう。設定は面白いのだけれど、今ひとつ活かしきれていないような。

「ホットコーナー」一塁にボールが投げられなくなり、意識し始めるとボールコントロールするのも、バットを振るうのも、歩くことすらできなくなってしまった主人公の話。根っからの天才で一度も苦労したことがない人間が、基本に立ち返ろうとして、自分は基本をしっかりやっていなかったことに気付いて愕然とするというのが面白いと思った。

女流作家」これは傑作、非常に素晴らしい。売れる作品を出しつづけていた女性作家が、一度だけ渾身の力を込めて名作を書いたが、これがまるで売れなかった。以来、本気を出すことをやめ、ぽつぽつと売れる作品を書いていたが、やがてそれさえも書けず……というもの。終盤、フリーの編集者で彼女の友人が、激を飛ばすシーンがあるのだが、創作を志す人間で、この言葉に魂を震わせない人間はいない。それほどの迫力と気迫が込められていた。さらに、最後の最後で今までずっと脱力系のアンチ癒しを読者に提供していた看護婦のマユミが信じられないような科白を言うのだ。いや、さすがにこれは作者狙っているだろうと思うが、それでも感動させられてしまった。いや、良かった。最後の最後に期待を上回る変化球を投げられると、とても嬉しい。

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2004-09-01437-454

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イン・ザ・プール

イン・ザ・プール

 直木賞を受賞した『空中ブランコ』の前作となる、伊良部シリーズの一作目。本書も直木賞候補には挙げられたが、受賞はしなかった。オムニバス形式の短編集。毎回、一風変わった妙な病気を抱えた主人公たちが、伊良部総合病院の神経科の扉を叩くところから物語が始まり、伊良部によるとんでもない治療を経て、無事に完治するというのが基本的な構成。読みどころとなるのは、妙すぎる病を抱え心底、困り果ててしまっている主人公たちと、そんな彼らに接する伊良部の開き直った態度だろうか。テーマ自体は、ひょっとしたら真剣なものを取り扱っているのかもしれないが、筆致があまりに馬鹿らしく滑稽で、それが不思議な面白さを産んでいる。そう、本書を一言で形容すれば「面白い」に尽きる。

イン・ザ・プール」標題作となっている一編、身体の調子が悪くなり、それを克服するために運動……スイミングを始めた男の物語。初っ端からぶっ飛んでいる。傍目に見ても、泳ぐことに没頭するあまり、生活や人生がズタボロになっているのに、伊良部はそれを止めるどころか自らも水泳に嵌まり、主人公にそれを推奨してしまっているし。「なんなんだこれは」とはこのシリーズのためにある言葉か。

「勃ちっ放し」下品な題名ではあるが、内容を十全に表しているという点ではこれ以上にないタイトル。持続勃起症になってしまった男性が、どうにかして同僚の目を誤魔化したり、思いつく限りの工夫をして問題を回避していくのが面白い。他人事ではない。

コンパニオン」いもしないストーカーを感じ、重度の被害妄想に悩む女性が主人公。これは中々、面白かった。映画2LDK』が好きな人には、堪らなくお勧めな一作。素晴らしい。

フレンズ」これも素晴らしい。ケータイを手放せなくなり、一日に何百通も送らなくてはならない少年が主人公。色々と努力しているわりに友達とは上辺だけの付き合いだったり、目当ての女の子には歯牙にも掛けられず、ちょっと可哀想ではある。歪んではいるものの、努力をしている点は頑張っていると思うし、けして悪くはないと思う、辛いが。

「いてもたっても」煙草はちゃんと消してきたか、ガス栓はキッチリ閉めてきたか。家のことが気になっていてもたってもいられない男性が主人公。慌ただしい気配は伝わってくるものの、それは完全な杞憂なわけで、失笑が絶えない。この作品が本書に収録されている最後の作品なのだが、最後にちょっとした逆転があって、上手く締められていると思った。

 全体的にとにかく面白いのだ。基本的にはストレスを感じ、病というかたちになって現われ、ストレスが解消され病気がなおるというパターンなのだが、そのパターンをまるで感じさせないレベルの高い作りになっている。実に読後感が爽快である。

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