雲上読記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2005-07-31687-689

[][][]死神の精度 死神の精度 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 死神の精度 - 雲上読記 死神の精度 - 雲上読記 のブックマークコメント

死神の精度

死神の精度

 一般的には違うだろうけれど、自分の中では現時点、伊坂ベスト。これぐらいが丁度良い。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20050731

2005-01-01513-524

[][]チルドレン チルドレン - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - チルドレン - 雲上読記 チルドレン - 雲上読記 のブックマークコメント

チルドレン

チルドレン

 これは正直、期待しすぎてしまったか。帯に著者直筆で「短編小説ではなく長編小説です」とあったので「なるほど、短編集と見せかけておいて、最後でそれがひとつの大きな事件を描いたものだと明かされるのか」と踏んだのですが、違っていました。どちらかと言うと、オムニバス形式に近く、長編小説とは言えないと思う。短編連作に近い。

 話のひとつひとつは、とても完成度が高い。これは何かの賞を受けてもおかしくはないし、雑誌掲載時に文字を大きくされていても不思議でない。単行本化されてから一気に読んでも面白いし、短編として単独で読んでも面白い。ミステリ的なエンターテイメントを期待した読者には外れなんだろうけど、ただ純粋小説を楽しみたい人には必読だと思う。『重力ピエロ』をもっと煮詰めて短くしたバージョンと考えればといいと思う。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20050101

2004-11-01483-500

[][][]重力ピエロ 重力ピエロ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 重力ピエロ - 雲上読記 重力ピエロ - 雲上読記 のブックマークコメント

重力ピエロ

重力ピエロ

 大傑作である。この作品を読んで、担当編集者が「小説、まだまだいけるじゃん!」と叫んだそうだが、然り。帯に「オーソドックス だけど古くない/地味で大人しい けどカッコイイ」と書いてあるのだが、然り。本書は確かにオーソドックスで地味である。はっきり言って読みどころがどこにあるのか不明瞭だし、最後は決着がついたのかどうか不明だし、小説を読みなれていない人にとっては、何が面白いのかよく分からないうちに読み終えてしまうかもしれない。だがしかし、そこがいいのだ。ここまで作りこまれ、完成度を高められた作品は他に類を見ないだろう。方向性としては『アヒルと鴨のコインロッカー』に近いが、それよりもっと文学的である。もうとにかく、話としては大したことないのだ。エンタテイメントしているわけでも純文学しているわけでもないのだ。手に汗を握るわけでも、読書に没頭してしまうわけでもない。けれど読んでいて、ああ、なんと表現したものか。とにかく最高なのだ。素晴らしい。

 以下、ネタバレ。途中までは、いつもの伊坂幸太郎だと思っていた。途中まで冗長(日常を詩的に描く術が十全に発揮されており、それを読みどころとしている読者が多いことは分かるが自分はあまり好きではない)だったので、またきっと最後に全てが収束して終わりなのだろうと思った。しかし、普通にカッコよかった春が、実は狂気にまみれ、落書犯であり放火犯なのではないかという疑問がくすぶり始めた頃より評価が完全に逆転した。魅力的に描かれていた春という人物像は、顔の表面に張り付いたかりそめの笑顔のように思え、その下にある能面のような無表情こそがその本性なのではないかと――とにかく自分の中の春に対する印象が劇的に変わったとき、本書が大傑作であると本能で理解した。いや、素晴らしかった。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20041101

2004-10-01455-482

[][]アヒルと鴨のコインロッカー アヒルと鴨のコインロッカー - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - アヒルと鴨のコインロッカー - 雲上読記 アヒルと鴨のコインロッカー - 雲上読記 のブックマークコメント

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

 伊坂幸太郎が持っている技の粋が集められた一冊だと評しても過言ではないだろう。全編に渡り伏線を撒き散らし、それを複数の人物を通して描写し、最後の最後で全てが明かされ全てが交錯するという形は。さらに本書では、『ラッシュライフ』や『陽気なギャングが地球を回す』のときのように、複数の人物を用いて同じ時間軸を語るのではなく、複数の人物を用いて異なる時間軸を語っているのである。ブータン人の男性と同居している女性が出会った「ペット殺し事件」を巡る二年前の物語、東京にやってきた大学生が隣人に誘われて実行した「書店強盗事件」を巡る現在の物語。ふたつの物語が実はひとつの長い物語だと分かったとき、二年前に登場し現在に登場しない人物の行方が分かったとき、本書はその正体を現す。

 伊坂幸太郎を語るべきもう一点は、ユニークに満ちウイットに富んだ会話だろう。海外の、非常にスタイリッシュ映画の中において決めゼリフ的に放たれる格好いい科白が、伊坂幸太郎小説においては息つく間もなく連発されるのだ。「楽しく生きるには二つのことだけ守ればいいんだから。車のクラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと。それだけ」なんてどうだろうか、こんなスマートな科白が何でもないもののように口ずさまれてしまうのだ。こんな小粋で詩的な言葉を、現実に言えるやつがいたらきっと楽しいだろうと思う。

 さて、上記は伊坂幸太郎を極めて肯定的に友好的に客観的に見て評した言葉だけれど、自分個人として伊坂幸太郎はあまり好きな作家ではない。最後の最後であらゆる伏線が、ひとつの完成形に向かい謎が謎だと明示され同時に解かれる図は圧巻で、それは素晴らしいと思うが、そこに至るまでがあまりに冗長で退屈なのだ。格好いい科白が飛び交う日常風景に浸かれる人は、途中経過も楽しめるだろうが、自分は駄目である。実際、二年前と現在の二重構造だと知らされた瞬間に(二十ページ目で明かされるので、そう重大なネタバレではないだろう)またいつものパターンかと辟易した。しかし最後で絶対に報われるはずだと何とか読み進めていって、中盤でわりとどうでもいい日常の謎が出てきて驚いた。「へえ、珍しいな。版元ミステリ・フロンティアだから、少しミステリしてみたのかな?」と安易に思いながらまたさらに読み進めていって、ようやく終盤に至り、そして――まさか、こんなありふれたミステリ的手法を使ってくるとはと愕然としてしまった。と言うか、過去と現在の二重構造になっている時点で、あるトリックが使えるという事実に気付けよなどと自分自身に突っ込み、暫くしてこのトリックが持っている本当の意味に気がついた。気付いた瞬間、中盤にあった日常の謎がこの単純なトリックを隠すためのもので、このトリックもまた伏線に過ぎないのだと連鎖反応的に理解した。

 基本的にいい小説である。ジャンル分けしようとしたらネタバレになるので、とりあえずミステリかエンタテイメントと言っておけばいいと思うが、多少、読書好きの彼女であれば十二分に勧められるものだと思う。ただ自分は駄目だった。いい話だと思うし、凄まじい話だとも思うけれど、あまりにいい話に過ぎるし、目を背けているところもあると思うし、自分は好きになれない。勿論、これは個人の趣味嗜好だから、本書を人生で読んだ本の中で一番、素晴らしいものと明言する人があってもいいと思う。と言うか、本書はそう称されるに相応しい内容を備えている。勧めたいし、ぜひ読んで欲しいと思うけれど、やっぱり自分は好きになれないなあ……。

[][][]グラスホッパー グラスホッパー - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - グラスホッパー - 雲上読記 グラスホッパー - 雲上読記 のブックマークコメント

グラスホッパー

グラスホッパー

 これは面白い。目が合った相手を自殺させる「自殺屋」の大男・鯨、ナイフを使い格闘戦のプロフェッショナル・蝉、妻を戯れに殺されその復讐を誓った一般人・鈴木。物語はこの三人を軸にして進むが、そこに叙述トリックが入り込む余地はなく、ただひたすらにスマートでストイックアイデンティティの危機を感じている殺し屋殺し屋の視点と一般人の視点とで描かれている。イメージとしては、『陽気なギャングが地球を回す』に近いが、ずっと発展している。過去の作品ほど散文的でも詩的でもないので、結末での驚きが少ないぶん、全体的に面白く読めるようエンタテインされている。キャラ萌え小説と言い換えてもいいかもしれない。

 興味深いのは「押し屋」という、人を突き飛ばし事故死に見せかけて殺すという殺し屋の存在だ。物語の中盤までは槿(あさがお)という男が非常にそれらしく描かれているのだが、中盤になって桃という女性が「実は押し屋は存在しないのではないか」という仮説を持ち出して、それを呼んだ途端、槿が押し屋ではないように思えてしまうのだ。しかも最後には……まあ、押し屋に関しては「いるかもしれない、いないかもしれない」ぐらいでいいのだろう、きっと。その曖昧さが、またひとつの面白さを演出しているのも事実だし。

 公式サイトのロングインタビューで筆者も言っているが、殺し屋という非日常的存在を、鈴木という何処までも一般人な日常の視点で描いているのは『オーデュボンの祈り』を彷彿とさせた。鈴木は、亡き妻の亡霊に縛られており(と言っても暗い感じではなく、あくまでも明るく)ことあるごとに彼女の言葉を思いだし「やらないとだめだ」であるとか「頑張らないとだめだ」と、ついつい頑張ってしまうのだ、殺し屋相手に、そして失敗する。が、そこはそこ、見事にエンタテインしてくれているわけで、最終的にはうまく挽回し、すべてが終わった後で「僕は、君のために結構頑張ってるんじゃないかな」と漏らす。これが実に切ない! 鈴木以外の人物も素晴らしい。人を自殺に追い込み、自殺させた人間がなった亡霊に付きまとわれる鯨。自分の言葉で話すことができない岩西に、彼に人形扱いされることを嫌う蝉。毒を専門的に用いるスズメバチという殺し屋エロ本を売っている桃、完全な脇役の鳥。もうとにかく、あらゆるキャラが魅力的なのだ。

 それにしても引き出しの多い作家である。ペースは遅くとも構わないので、じっくりと作品を積んでいって欲しい。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20041001

2004-07-01397-419

[][][]陽気なギャングが地球を回す 陽気なギャングが地球を回す - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 陽気なギャングが地球を回す - 雲上読記 陽気なギャングが地球を回す - 雲上読記 のブックマークコメント

陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)

陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)

 人の嘘を必ず見抜くことができる成瀬、気付かれずにスリをすることができる久遠、嘘と演説が大得意の響野、そして精確な体内時計を有する雪子。四人は熟練した銀行強盗で、計算され尽くした計画は完璧だった。しかしある日、銀行強盗を成功させた四人は闘争途中に、現金輸送車襲撃犯と遭遇してしまいその売り上げを盗まれてしまう。……盗まれた金を盗み返すために奔走する四人。

 ときに手を組みながら、別行動を取ることになる四人を、順々に追っていく三人称形式の小説。四人の必殺技とも言える特徴を上手く使いながら、また四人を順々に描写するその間隙をついて放たれるトリックは見事の一言。最初の方にさりげなく敷かれた伏線の回収ぐあいも、どんでん返しに次ぐどんでん返しも、ただひたすらに面白かった。純粋に群像劇を楽しみたいという人に。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20040701

2004-06-01368-396

[][]オーデュボンの祈り オーデュボンの祈り - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - オーデュボンの祈り - 雲上読記 オーデュボンの祈り - 雲上読記 のブックマークコメント

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

 コンビニ強盗に失敗し警察から逃げていたた伊藤は、目覚めると見知らぬ島にいた。江戸以来、鎖国を続けているその島の存在は誰にも知られておらず、妙な人間ばかりが住んでいた。太りすぎて一歩も動けなくなった女性、嘘しか言わない画家、地面に寝転がって心臓の音を聞く少女、騒々しい人間を撃ち殺す詩人。そして、未来を予見し、喋るカカシ。ある朝、そのカカシは首を奪われ全身をバラバラにされ殺されていた。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。

 第五回新潮ミステリー倶楽部賞、受賞作。あらすじからファンタジィ的なものを想像していたのだが、史実を織り交ぜたり、現代人である主人公に客観的な視点を与えることで、最低限のリアリティは保持されている。よく言えば慎ましいのだが、悪く言えば冗長で、人によってこの作品を駄作と思うかもしれない。「ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ。/島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」という島に伝わる言葉が、作品を通じて重要な意味合いを持っていて、それが何であるか分かったとき、そして個人的にそれが自分の好きなものであると気付いたとき、この作品の価値は飛躍的に上昇し、首切りの理由も満足がゆくものとなった。読者を選ぶ作品だろう。(2000年12月・新潮ミステリー倶楽部)

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20040601