雲上読記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2005-10-26

[][][]733 21:08 733 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 733 - 雲上読記 733 - 雲上読記 のブックマークコメント

塔の断章 (講談社文庫)

塔の断章 (講談社文庫)

 まず何よりも優先して言わなくてはならないのは、本書を読むのなら絶対に文庫版でなくては駄目ということ。詳細は伏せるが、手元にノベルス版と文庫版があるのなら、迷うことなく文庫版を手に取って欲しい。

 さて。この作品はただでさえ奇妙な構造をしているのに加え、自分は複数の本を平行して読んでいるので殊更、混乱してしまった。思い返せば確かに多重に張られたミスリードに引っかかっていたし、作者が意図した通りに翻弄されていたように思う。もし一晩のうちに読破していたならば、あるいは他の本に手をつけず本書にだけ集中していたら、きっと数倍もの驚きと喜びを味わえていたのではないだろうかと思う。それは『イニシエーション・ラブ』をはじめ、彼の他の著作にも言えることだ。くれぐれも肝に銘じておくことにしよう、次に乾くるみを読むとき、自分は全身全霊を以って相対しなければならない、と。むしろ、そうしなければ喰われてしまう。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20051026

2004-12-01501-512

[][][]リピート リピート - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - リピート - 雲上読記 リピート - 雲上読記 のブックマークコメント

リピート

リピート

 くあああああああ、激上手ッ! 大・快・作!!

 四次元殺法ッ、メビウスの環! 限りなく本格に近い……思考実験の罠が読者を待ち受ける。『リプレイ』プラス『そして誰もいなくなった』割る一の奇跡。もはや、乾くるみは、傑作しか書かないのか! 秋山絶賛。

 さて、本書はいわゆる時間物である。その中でもループ物と言われる、いわゆる主人公が時間を遡って前とは異なる選択肢を選べるというかたちのもの。この話は風間というリピーターを名乗る謎の男と、主人公たち男女九人からなる十人のゲストが軸となっている。リピーターと九人のゲストは、十ヶ月ほどの時間を遡り、短期間ながら第二の人生を送ることができる。が、何故か選ばれた九人に続々と不可解な死が訪れて、やがて最後には……といったもの。帯に「限りなく本格ミステリに近い」と謳われているように、物語は極めて論理的に進められるし、現実的なものから夢物語としか思えない推理まで乱発される。またリピートの謎や、リピーター殺しの動機も理不尽でなく、悲しくて悲しくて涙を流すほどに、残酷なまでに冷徹に証明される。一寸の過不足もない、最後の最後まで抜かれていない手が、一切の容赦なく読者を切り捨てる。このキレ味の鋭さ、快さ。素晴らしい、これこそ大快作、大傑作。

 とにかく素晴らしい。『イニシエーション・ラブ』のときは最初から最後の二行にどんでん返しが来ると分かっていたから、警戒して読んだ。が、騙された。今回は帯のあおり文句と乾くるみという作者名から、最後の最後に至るまで努々、気を抜かずに全力で挑んだ。しかしっ! それでもっ! 乾くるみは読者の想定したラインを軽々と越え、予定調和的に完璧な一点に物語を収束させ、これ以上はないと言わんばかりの(了)を作ってしまう。素晴らしい、いっそおぞましい程に素晴らしい。

 幾つか文句をつけるならば、主人公の心理が気に喰わないこと(個人的だなあ)と、最後の三行がまだまだ行けるはずだということ。実際、もう少し彼女との関係性に文字数が裂かれていれば、ラストの諦観に満ちた独白は、切々と深々と読者の中に降り積もるのではないだろうかと思う。

 それにしても素晴らしい。全てのテーマが、全てのモチーフがとても好きだ。『イニシエーション・ラブ』のときは伏線が見事だった。全編是即ち伏線と言わんばかりの伏線が圧倒的で、再読しないことを許さない完成度があった。しかし、この場合、やはり再読時に真価が現われることが多い。言わば、後からこみ上げてくるような驚きだ。そういう酩酊感も悪くないが、やはり自分は本書のような伏線もあり、本格ミステリもあり、SFもありな作品が好きだ。欲張りと言われようが何と言われようが、好きなのだから仕方がない。そして自分の嗜好に答えくれるのが乾くるみ、その人である。

 実を言うと彼の著作で『匣の中』と『塔の断章』は未読だ。『匣の中』を読むために『匣の中の失楽』を読んだのに、筆致が苦手で放り出してしまったのだ。考えてみれば麻耶雄嵩もそうだ。デビュー作を読んで筆致が気に入らず、目を離していれば傑作ばかり出す作家になっていた、と言うような。それにしても素晴らしかった。2004年乾くるみ麻耶雄嵩、後は谷川流の年だったということでいいや。何か、異議ある?

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20041201

2004-10-01455-482

[][][]イニシエーション・ラブ イニシエーション・ラブ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - イニシエーション・ラブ - 雲上読記 イニシエーション・ラブ - 雲上読記 のブックマークコメント

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

 震撼した、何なんだこれは――!!

 帯には次のような挑戦文が編集部から送られている。

「今年最大の“問題作”かもしれません/ぜひ、2度読まれることをお勧めします。

 目次から仕掛けられた大胆な罠、全編にわたる絶妙な伏線そして最後に明かされる真相――80's苦くてくすぐった恋愛ドラマはそこですべてがくつがえり、2度目にはまったく違った物語が見えてくる」

 問題作、その名の通り本書はネットにおけるミステリファンの間でちょっとした物議をかもした。本書を手放しで大絶賛する声から、正直わけが分からなかったという声まで。自分はその評判を見聞きする最中、誤って「最後の二行までは普通の恋愛小説なんだけれど、最後の二行を読んだ途端、本書が普通の恋愛小説ではないことに気付く(……)つまりヒロインは二股を掛けていたってことなんだけれど、それにしても女性は恐い」というような評を読んでしまった。読んでしまった途端、ガックリ来たが、真に傑作と呼ぶに相応しい作品はネタバレさせてもその真価を全く損なわない、という持論を持っている自分は恐る恐る手を出してみた。読んでみて分かったが、確かに帯にある通り、80年代を予期させる苦くてくすぐった恋愛ドラマである。王道の常道を行き、定石を打ちこれ以上はないというぐらいに冗長に普通の恋愛が進む。はっきり言って、これの何処が傑作なのかと、これの何処が問題作なのかと悔やむ気持ちを抱えつつ読み進めた。――が、最後の二行に至り震撼した、何なんだこれは――!!

 小説内世界を認識し、頭の中に構築していた物語がその瞬間、完全に瓦解した。まるでこの世のものとは思えない秘剣を受け、自分でも知らないうちに斬られていたことに、本書を読み終えてはじめて気がついたと言わんばかりの衝撃である。完敗した。ネタバレされていたにも関わらずこの衝撃である、果たして帯を目にせず本書が問題作であることを知らず、巧妙に張り巡らされた伏線に気付かず、作者のミスディレクションにまんまと嵌められた読者は、最後まで本書が普通の恋愛小説だと思って、その本性に気付かずに通過してしまうのではないだろうかと危惧してしまうぐらいの斬れ味である。

 読了するや否や自分は本書を放り出すと、コンピュータを立ち上げ書評Wikiアクセスし、登録されているレビュー群に端から目を通していった。ネタバレしているレビューの中で特に優れていたのは、氷川透のもの。ほぼ全ての謎とそれに対する解が明らかにされている。謎の大半が、恥ずかしながら自分には全く見抜けなかったもので「ああそう言えば、そんな記述もあったかな」ぐらいのものであった。

 しかし、それにしても素晴らしい。張られていた伏線を把握したく、それらの前後を再読したのだが、本当にさりげなく、巧妙に張られている。しかも、それらひとつひとつが自分の中に入ってくるたびに、本書の評価がどんどんと上がってしまうのだ。それと同時に本書が持っている悪辣さも浮かんでくる。いや、まっこと恐ろしい。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/sinden/20041001