2005-11-15
■ [漫画][蒼樹うめ]746


- 作者: 蒼樹うめ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2005/10/27
- メディア: コミック
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上手い。絵も上手ければ話の作りも上手い。悪意の排された、ほのぼのとしたギャグが全体的に多く、ワンパターンな落ちや投げっぱなしにして読者が萌えるがままに任せる作品が驚くほどに少ない。堪能した。登場人物の大半が嘘を吐けない、というのも素晴らしいと思った。
ところで、読んでいて著者本人にお会いしたことがあるかもしれないと気付いた。記憶を探ってみると「うめという名前でイラストを描く仕事をしています」と挨拶されたし、お会いした状況を鑑みるに、やはり本人だったかもしれない。と、ここまで思い出して衝撃を受けた。やはり漫画は作家の人柄や人格で描かれるものなのかもしれない。
■ [小説][法月綸太郎]747


- 作者: 法月綸太郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/09
- メディア: 単行本
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評判が良かったので発売当初に買ったのだが、様々なランキングの上位を制するのを、つい読む気を失ってしまった。結局、読み終えるのに一年近くかかってしまった……。
秋山は法月綸太郎の著作を、それほど読み込んでいるわけではないので、鋭いことは言えないが、読みながら感じたのは、この作品は法月にとって集大成的なものではないだろうかということ。『雪密室』的な面もあれば、『誰彼』的な面もあれば、『頼子のために』的な面もあれば、その他の法月作品を思わせる面もある。そうした法月綸太郎を構成している因子を、改めて再結合し、そのそれぞれに強すぎる主張性を抑えるべく、多少の落ち着きと静けさを与える――。読むのを止められない引きとカタルシスとを引き換えに、本書は端整な本格を手に入れたのではないだろうか。
と、内容はさておき、秋山はこの小説の舞台に最上の魅力を感じた。町田! 鶴川! 相模大野! 玉川学園前! 秋山の私生活がそのまま作中の舞台に取り込まれているのだ。玉川学園前に自転車が乗り捨てられていたと記述があれば、駅前で乗り捨てられそうなところは、あそこかあそこだろうなと。鶴川図書館の近くにある商店街で昼飯をとったと記述があれば、この人物の性格を考慮するにあの店で食べたのだろうなと。皆、もっと町田を舞台としたミステリを書こう。
もうひとつ、蛇足ながら付け加えておきたい。帯に書かれた有栖川有栖の推薦文が最高「お帰り、法月綸太郎! 名探偵の代名詞よ。」――素晴らしい。
■ [小説][★★][飛浩隆]749


グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
- 作者: 飛浩隆
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2002/09
- メディア: 単行本
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悲惨、陰惨、凄惨。どれだけ言葉を重ねても、この過酷な終焉は表現不可能だろう。
まず、何と言っても世界観および展開が最高に素晴らしい。「夏の区界」と呼ばれる仮想リゾートでAIたちは、ただのひとりのゲスト=人間の訪問も迎えないまま千年を過ごしてしまう。ある日、蜘蛛のかたちをした謎のプログラムが現われ、永遠に続くと思われていた夏休みに翳りが差す――という出だしから始まり、物語の大半はAIと蜘蛛の交戦で構成されている。だが、ああ、なんてことだろうか。その必死の抵抗は無意味なのだと、行間を読めばすぐに分かってしまう。夏の区界の暗部と、蜘蛛たちの不気味な統率者とがちらつき、中盤に散見されるAIたちの勝利は、一時のものでしかないと、どうしようもなく読めてしまうのだ。
ある種、ステレオタイプな終末風景。死を目前にした最後の、美しく官能的な情交。視覚から侵入し、読者の痛覚を刺激してくる死と破壊。そして全てを許してしまう、頬を撫ぜる夏のそよ風。淫靡なる幻想と透明の破壊に彩られた、極上の冒険小説だ。