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■ [小説][太田忠司]美奈の殺人


- 作者: 太田忠司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1994/08
- メディア: 文庫
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殺人三部作と呼ばれているシリーズの二作目。その呼称からてっきり、前作『僕の殺人』における主人公、裕司とヒロインの泉が再登場を果たすかと思い込んでいたので、途中までこの作品の主人公は裕司のその後で、泉もそのうち出てくるのだと思って読んでいた。また、主人公が同一人物でないと気付いた後も、探偵役として裕司がメルカトル鮎のように登場するのではと危惧していたので、今ひとつ作品内世界に入り込めなかった気がする。
そういったメタな視点は置いておいて、作品単体としてどうかと言うと、素晴らしい。『僕の殺人』の主人公と異なり、この作品の主人公は、あまり純ではない。既に世間を知り、その醜さを知り、それを受け入れることで強さを得ている。しかし何処かまだ何か希望が残されているのではないだろうか、と言うような。ミステリだけでなく青春小説としても一流である。
■ [小説][★][田代裕彦]キリサキ


- 作者: 田代裕彦,若月さな
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2005/02/01
- メディア: 文庫
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通常のトリック、例えば密室であったりアリバイであったりは、登場人物の一人として登場する犯人役が、警察や探偵役に対して用意するものである。そして、登場人物には関与しえない、作品内世界とは関係のない次元で展開されるトリック、例えば物語を語る作者が、物語を読む読者に対して用意するものを叙述トリックという。これとは別に、SFに多いのだが登場人物が同じ時間をもう一度、経験するループ物や、他の世界に行ってしまうパラレルワールド物というのがある。どちらも作品内世界で展開される事象である。この事象だけでも魅力的だと言うのに、それを死角として読者のふいを突くレベルの高いトリックが存在する。それを秋山は、四次元殺法と呼んでいる。
本書はその構成と真相から察するに、殊能将之『ハサミ男』の影響を受けていると思う。叙述物としては、『ハサミ男』を越えるには至らなかったが、時間の概念を用いれることと、幾つものどんでん返しを用意することで、かなりミステリとしての完成度は高くなっている。富士ミスだから? ライトノベルだから? そんなことは理由にはならない。ミステリ読みは本書を読まないと駄目だろう。