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2004-12-01501-512

[][]食卓にビールを2 食卓にビールを2 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 食卓にビールを2 - 雲上読記 食卓にビールを2 - 雲上読記 のブックマークコメント

 なんかダメな感じのする少し不思議なセンスオブワンダ短編連作、主人公は16歳で女子高生で人妻で物理オタクで、そしてプチ家出中。なんて素敵でステッキーなんだろうか。一巻と同じくわりとデタラメな脇道を破天荒なスピードでドラフトしながら横転前転前回り受身、何のこっちゃ。おおよそ読者の理解を越えて、いやあ、私さえ楽しければ良いのよあっはっはー、というような感じで進む、本当に。そしてそのはちゃめちゃ具合、ドタバタ具合が実に面白い。この雰囲気はとても良い。ただ、人によっては、物語にストーリィを求めるタイプにとっては、納得がいかない小説だろう。きっとまるで面白くないはずだ。本来は自分もそうだ。小説なんてストーリィがあってなんぼなわけだから、雰囲気に酔わせられてもストーリィがてんでダメだったらダメなのだ。なのだけれど、この作品はいい、抜群にいい。それはもう主人公が最高で旦那が最高で脇役が最高で作者が最高で、そしてそして他の何よりも他の何を差し置いても他の何と比べることもできないまでに最高なのは、ビールビールのある食卓だ。

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12月のベロニカ (富士見ファンタジア文庫)

12月のベロニカ (富士見ファンタジア文庫)

 第14回ファンタジア大賞受賞作品。

 続編にして最近は珍しい短編集『眠り姫』を上梓した貴子潤一郎のデビュー作。ライトノベル界隈で、個々の作品が完全に独立した短編集と言えば、乙一あたりが代表格ではないだろうか。しかもこれが各所で好評なので、どれとひとつ手にとってみた。――が、読み始めて溜息が出た。やはり富士見ファンタジアだな……と、キャラクタにも世界観にも語り口も今一つ好きになれない典型的なファンタジィ。どうしたものかなと読み続けたのだが、135ページの傍点つきの科白で「ひょっとしたら、ループものか?」と思い、真剣に読み始めた。結果として自分の予想はベクトルが違っていたのだけれど、仕掛けがあることには代わりなく、153ページで本書の持つ構造に気がついた。なるほど、この作品は素晴らしい。仕掛けが魅力的なことは勿論、青くてやってられないほどに甘過ぎるキャラクタ世界観は、想像を絶する時間の重みによって深みを得ている。もし自分が今ほどすれてなく、本の粗を自然と見つけてしまうほど本を読んでいなければ、あるいはこの一途過ぎる愛に当てられていたかもしれない。そういった意味では、本書は本を読みなれていない人には絶好の、そして凄惨な読書体験をもたらすだろう。そういう訳で、読書家にはあまり積極的に勧められない。確かに本書の上手さや下手さや若さならではの無謀さ矛盾さを正確に指摘できるだろうが、ときにそういうことをされない方がいい本もあるのだ。本書はきっと、この世にこういう仕掛けがあることを知らず、ファンタジィが大好きという若者にこそ相応しいのだろう。恐らくは、この作品こそライトノベルだろう。

[][][]本格推理委員会 本格推理委員会 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 本格推理委員会 - 雲上読記 本格推理委員会 - 雲上読記 のブックマークコメント

本格推理委員会

本格推理委員会

 冒頭からミステリとは論理であると幾度も主張し続けるだけあって、事件が明晰な論理によって解体される本当のミステリだった。さらに主人公以外の主な登場人物の大半は女性で、しかもキャラクタライズされていて、正しく萌えミステリの融合体と言えるだろう。霧舎巧ほどではないが「ここまでやるか」と唸ってしまうほどに、登場人物のひとりひとりを事件に関係させている点、自分の好みとは外れるが、それでも嫌いなわけではない。本書を熱心に勧める人、多いことだろう。

 物語運びとしては米澤穂信の『氷菓』と『愚者エンドロール』を強く思い出した。どちらも主人公が驚異的なまでに論理的な思考を持つ学生であるということと、主人公と親しい女子学生が事件を引っ張っていくこと、青春性を多く含めており優れた青春小説としても読める点が共通している。自分は『氷菓』が大好きな人間だが、あの作品では本題となる事件の前に、主人公のポテンシャルを読者相手に提示する小事件とも言うべきものがジャブ程度に存在する。しかしそういった小事件がこの『本格推理委員会』にはない。主人公は終盤まで徹底して推理することがなく、決定的な場面においても傍観者たろうとする。その、主人公が推理すること&事件に関わろうとすること=本格推理委員会の一員になろうとすることを、ひたすら避けようとしている姿勢が『愚者のエンドロール』的と言えなくもないのだが……もう少し「普通の高校生」と自称し続ける主人公がそうでないところをアピールしても良いのではと思う。……どうでもいいが『クビキリサイクル』では最も一般人らしかったいーちゃんは、『クビシメロマンチスト』では一般人から最も遠かった。

 ミステリのひとつのジレンマとしては、謎解き以外の場面が冗長で退屈だというのがある。探偵役ないしは読者が事件を推理するに充分な情報を提示するのに、結構な分量が掛かるわりに解決編が短いのだ。まあ、その短さが作品の持つキレを生み、それが面白いと言えなくもないだが、文章に牽引力がなければついつい読み飛ばしてしまうことがある。そのジレンマを克服するのに、つまり読み飛ばしがちになってしまう解決編以外の文章を、読者に読ませるために萌えを導入した作家がいる。まあ、その作家が誰か何て言うのはどうでもいいとして、本書の著者である日向まさみちもその一人であることは間違いないだろう。ミステリとして事件を追いつつ、魅力的な先輩や同級生、妹もしくは先生に萌えてみたり、あるいは熱血だったり冷静だったりする男友達に萌えてみたり、真っ当な青春小説として読み込んでみたり、とにかく多様に楽しむことが出来るのだ。――よい作品だった。

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とくまでやる (徳間デュアル文庫)

とくまでやる (徳間デュアル文庫)

 え、いいじゃん。

 はっきり言って、本書を読む気にはなれなかった。同時期に刊行され、本書よりも評価されていた『秘密屋文庫』を今一つ楽しむことが出来なかったし、その前の『キャラねっと』も酷かったし。この『とくまでやる』に手を出すには勇気を要した。きっかけは第三回文学フリマだろう。徳間デュアル文庫のブースで、長髪の「え、清涼院流水?」と一瞬、勘違いしてしまうような売り子に「サイン本なんですよ」と「いや。幾らなんでもサイン……と言うか、彩印しすぎだろう清涼院流水」な本を見せられ、つい買ってしまったのだけれど、読み始めるが長かった。ちなみに彩印ナンバー3476で大吉です。大吉以外を求め、積んであった本のすべてを確かめたのは秘密屋さんしか知らないことです。

 内容に関しては面白かった、ええ、とても。時間があったので一気に読みきってしまったのだが、二ページごとに区切られているので電車の中や休み時間に読むのも適しているだろう。最初のうちは主人公がコロコロ変わるので読みづらかったのだが、そのうち誰かがピックアップされていることは、あまり意味がないことに気付き、すんなりと読み込むことが出来た。それに勿論、イラストに手伝われてはいるだろうが、嫌味のない、等身大のキャラが描けているような気がして、面白く読めた。特に最後の方なんて最高じゃん。清涼院流水作品を漫画化されたものまで含めて読んでいる人には、思わず「キター」と叫びたくなるような展開だし、弓道は最高だし、エンディングもイラストが映えてきれいだったし、いやあ、良かったなあ。秋山肯定。

 後、タイトルに関して。主人公の名前が出有特馬(である・とくま)だから『とくまでやる』。解くまでやるから『とくまでやる』。徳間(デュアル文庫)でやる(=書く)から『とくまでやる』。徳間デュアル(文庫)だから『とくまでやる』。後ろのふたつは不覚にも気付かなかったので、なるほど面白いと思った。メフィスト翔よりは、いいだろう。

 もう一点。2005年3月に刊行が予定されている本書の続編のタイトル当てクイズというのがある。2004年12月31日までにdual@shoten.tokuma.com宛に続編のタイトルを予想して送ると、正解者に「豪華な謎のプレゼント」が、惜しい人&面白かった人に「スペシャル彩印(サイン)本」が贈られるそうです。是非どうぞ。

[][]まんだら探偵空海 いろは歌に暗号 まんだら探偵空海 いろは歌に暗号 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - まんだら探偵空海 いろは歌に暗号 - 雲上読記 まんだら探偵空海 いろは歌に暗号 - 雲上読記 のブックマークコメント

上皇がなぜ謀反を起こしたのか探るのだ」。神野天皇の命に空海は友人の橘逸勢と共に平城上皇藤原薬子の周辺を探る。しかし同じ命が最澄にも下されており、ふたりは知恵比べをすることになる……と裏表紙のあらすじに書かれているが、実際に空海最澄が知恵比べをするのは終盤も終盤で、しかも本書のメインではない。本書は薬子と空海の対決や、薬子が平城上皇に謀反を進め、平城上皇が謀反を決意し、失敗し、と長々とドラマを描いているのだ。自分はどちらかと言うと、こちらの方が楽しめた。後半、しつこいぐらいに操りが登場する。彼は彼女に操られており、彼を操っていた彼女は彼に操られており、彼を操っていた彼女を操っていた彼は――としつこいぐらいに操りが操られに操られる。正直、ここまで操りを強調しミステリっぽくせずとも、本書を最初から読めばその切羽詰った動機には充分納得できるし、それが操りを生んだと言われたらすんなりと受け入れることができる。そう、意外なことに、本書にはしっかりと人間ドラマが盛り込まれているのだ。少なくとも自分はそう思った。けしてレベルの高いミステリと言うわけではないけれど、最低レベルのラインは間違いなくクリアされているし、期待度が低ければ充分に満足できるだろう。良かった。

[][]いつか、ふたりは二匹 いつか、ふたりは二匹 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - いつか、ふたりは二匹 - 雲上読記 いつか、ふたりは二匹 - 雲上読記 のブックマークコメント

いつか、ふたりは二匹 (ミステリーランド)

いつか、ふたりは二匹 (ミステリーランド)

 ミステリーランドの中でも評判のいい作品だが、正直なところ今ひとつと言った具合。確かに視点を少し変えるだけで事件の様相が180度転換するところや、犬や猫の視点から見た人間のグロテスクさは上手く表現できていたと思うけれど、何故か自分にはそれが完璧な状態で届かなかったように思う。

 ところで西澤保彦は動機や結末に黒い男女の仲を持ってくることが多く、そのため滅入ること頻りなのだけれど本書に関して言えばそれはなかったように思う。後書きで「できればポール・ギャリコのように、リリカルで切ない、ロマンティックな冒険物語にしたい――、と思ったのですが、メインとなる設定を拝借しただけで、あとはなんというのか、「いつもの西澤保彦」(って、何だそれ)になってしまったような気もします。」とあるけれど、これはきっと謙遜です。全然「いつもの西澤保彦」っぽくないし、しっかりリリカルしてたと思います。結末なんてちょっとほろ苦い感じですし、自分はいいと思います。でもストーリィ全体として見ると何だか今ひとつ、と。

[][]夏と冬の奏鳴曲 夏と冬の奏鳴曲 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 夏と冬の奏鳴曲 - 雲上読記 夏と冬の奏鳴曲 - 雲上読記 のブックマークコメント

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

 なるほどこれは鮮烈である。読み終えて、そう思った。

 秋山はいわゆる叙述物が好きで、綾辻行人東野圭吾西澤保彦あたりを嬉々として読むのだが(本格ミステリ好き相手に叙述物でこのラインナップを言うと、失笑を買うかもしれない)、今まで麻耶にはあまり挑戦しなかった。その理由はデビュー作『翼ある闇』の印象の悪さである。確かに麻耶雄嵩のデビュー作は面白かったし、今でも記憶に残っている。けれどその作風文体は最悪で、おおよそ快読からかけ離れたものだった。確かに最後の数ページは劇的だが、それまでが冗長過ぎて読んでられなかったのだ。しかし乾くるみの『イニシエーション・ラヴ』を読んで、最後の一撃に惚れなおし、『名探偵木更悠也』を読んで、最近の麻耶は意外に読めることに気づき、挑戦することにした。

 はたして、作風はやはり最悪だった。あまりに冗長、あまりに低迷。隠喩と暗喩、迂遠な台詞回し、意味不明な説明群、主人公の名前が烏有なのだから仕方ないのだと諦めてしまうほどつまらなかった。それでも最後にきっと待ち受けているであろうカタルシス和音館という魅力的な“館”、そして登場人物の中で歪さを感じるほどに陽気でプラス思考なヒロイン、舞奈桐璃のために何とか頑張って読んだ。そして、結末。なるほどこれは鮮烈である。

 とりあえず何はともあれ言っておきたいことは、この作品は素晴らしいということだ。この作品の最初の読者であろう編集者は、一読すると同時に自分がこの作家を受け持つことができて恍惚を覚えると同時に、戦慄に震えただろう。この作品単体を評価するならば、はっきり言って全然、駄目なのだけれど、この作品に挑戦した作者、そして書き上げられた作品、このふたつの価値は絶大である。素晴らしい。麻耶の編集者が本当、うらやましくて仕方がない。――逆に言えば、この若い作者の頑張ってる感を、加味しないとやっていけないというわけでもある。しかし素晴らしいことには変わりない。

 ミステリ初心者には圧倒的に向かないだろう。数多く読み例外を許容できる読者にこそ相応しいだろうと思う。……今、気がついたが動機が非常識までに不鮮明で、ヒロインが意味不明までに萌えないこともない作品なので、これこそ萌えミステリと言えないこともないような気がしないでもないような、なんと言うか。

[][][]螢 螢 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 螢 - 雲上読記 螢 - 雲上読記 のブックマークコメント

螢

 帯の文章を書いた人間よ、出てこいと言いたい。「螢が誘う、戦慄の旋律。」「大胆にして繊細。驚きに驚く、あざやかなトリック!」「未逮捕殺人鬼“ジョニー”に」、なんなんだこれは。こんな帯、さっさと捨てて、ただ表紙の美麗さを味わって欲しい。

――さて。面白かった。先に読んだ『夏と冬の奏鳴曲』が瑕疵の多い作品で、これも多かったのだけれど、冗長な地の文が圧倒的に少なく、とても面白く読めた。秋山は事前にこの作品をして「わりと序盤でトリックに気づいてしまい、それを確認するかのように読み進めるのだけれど、終盤でトリックが二重に仕掛けられていることに気づいた。分かりやすいトリックで読者を油断させておいて、隠されていたトリックで驚かす、この技術が凄い」というような評を読んでいたので、警戒に警戒し読み進めた。確かに、前面に押し出されているトリックには簡単に気づいた。ミステリを読み慣れている人間であれば、簡単に分かるだろう。そして、そこで立ち止まって考えるべきなのだ。大抵のトリックは読者を驚かすために存在するが、この作品における前面のトリックは後背のトリックを隠すために存在する。つまり、どうして麻耶はこんな分かりやすいトリックを設けたのかを考えなければならない。そしてこの思考が素晴らしい。まさしくミステリ読者のためのミステリだろう。さらに大きなトリックの背後に隠されているトリックも二重三重に張り巡らされているし、最後の一ページがもたらす本当の戦慄は、それまでに作品内世界で培われたあらゆる常識を否定し、世界を覆す。

 思えば『夏と冬の奏鳴曲』もそうだった。彼女は存在しないという題を掲げたのは浦賀和宏だが、最後の一ページで明かされる真相から、真逆の方向へと物語がずっと続くのだ。それ故に最後に明かされる真相が、ちょっとした驚きではなく、世界が覆されるほどのカタルシスに感じるのだ。素晴らしい。

 少し前に秋山の作品をして「麻耶雄嵩佐藤友哉を足して二で割ったような感じだ」と言われたが、確かにその通りな感じがしなくもない。もし秋山が数年前の時点で麻耶を読み崩していたら、もっと麻耶に傾倒していたかもしれない。

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新・それでも作家になりたい人のためのブックガイド

新・それでも作家になりたい人のためのブックガイド

 本書は人気作家の作品を実例に、主人公の決め方・書き出し・会話の書き方・その他もろもろ、多彩な面から小説の書き方を研究している実用書です。人気作家として挙げられているのは、太宰治三島由紀夫はもちろん、綿矢りさ金原ひとみ舞城王太郎清涼院流水石田衣良宮部みゆき片山恭一浅田次郎小川洋子などにも及びます。人によっては、参考にするために紹介されているのではなく、反面教師にするために挙げられていて、中々に辛辣です。

 本書を実用書として用いたいなら、第二講義「ブックガイド篇」が、本書を小説について語っている対談として読みたいなら、第一講義「心構え篇」と第三講義「実践篇」が力を持ってくるだろう。第二講義の「小説入門書ミシュラン」や、第四講義「必読書一〇〇選」なども充実している。

 仮に小説を書く人間に小説家小説屋がいるならば(このふたつがどう違うかは定義しない)、この本は徹底的に小説屋を貶し、小説家として小説家を書くこと、ひいては小説家として生きることを指南している。少しでも真剣に小説を考えるつもりがあるならば、本書はそれこそ必携必読だろう。ただし、とても難解である。読み終えて一言「難しい」と漏らし、ページを繰ったら、本書の旧版である『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』の宣伝が打ってありました。曰く――「10年前に出版した『それでも作家になりたい人のブックガイド』が難しすぎるという声に答えて新版にしたのが『新それなり』です。新版を読んだ方に、上級編として旧版『それなり』をお勧めします。――どうやら、新版の本書は易しく書かれたようです。

 最後に。234ページより二葉亭四迷の「言文一致」の解説から引用「よく考えてみれば、ほとんど崩壊しつつある話し言葉やメール文体を使って携帯小説を書く行為などは、第二の、しかし安直な言文一致といえてしまうかもしれない。」

[][]しずるさんと底無し密室たち しずるさんと底無し密室たち - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - しずるさんと底無し密室たち - 雲上読記 しずるさんと底無し密室たち - 雲上読記 のブックマークコメント

 シリーズ二作目、前巻を読んだときは前期『ブギーポップ』に見られる上遠野節は少ないし、ライトノベルとしてもミステリとしても今ひとつだなと感じたけれど、二巻となる本書は比較的、楽しく読めた。

 読んで感じたのは、上遠野浩平、いい意味で力を抜いて本書に当たっているなと。彼が得意とする作風や台詞回しを敢えて抑えることで、ある種の押し付けがましさ――これが多いと面白いと同時に、読者を疲弊させる――が減っていて、本書はとても読みやすい。事件ひとつひとつも奇怪な怪奇事件でありつつも、幻想味を保っているのが優れていると思った。以下、雑感。

「しずるさんと吸血植物」死体を囲むように花が咲いているというのは、幻想を感じさせる。事件そのものも陳腐ながら、順当に解決されているし、良い。

「しずるさんと七倍の呪い」個人的には一番、好きかもしれない。作中に出てくるカードゲームが面白そうだというのもあるが、既に終わってしまっている事件というのが好きだ。

「しずるさんと影法師」前二作が幻想的であったりスプラッタであるとするならば、これは都市伝説的と喩えるべきだろうか。ブギーポップ然り、上遠野浩平は、こういうのを書かせると途端に上手くなると思う。

「しずるさんと凍結鳥人」モチーフその物はとても好き。狭い空を滑空する凍てついた死体。よーちゃんが(どうでもいいが、しずるさんがよーちゃんと口にする度に瑶ちゃんと呼ばれているような気がしないでもない)東京の空は狭いことに気づいた瞬間、何故かとても物悲しかった。

 ふと気付いたが、『GOTH』のライトノベル版が『しずるさん』なのかもしれない。いや、『GOTH』もライトノベルだけれど。

[][]キノの旅8 キノの旅8 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - キノの旅8 - 雲上読記 キノの旅8 - 雲上読記 のブックマークコメント

 後書きが凄いだの、口絵が凄いだの、本編が凄くないのだとか色々と聞いていたけれど、読んでみて、実際にその通りだと感じてしまった。冷静に読んでみると、このシリーズで面白いのは三巻ぐらいまでではないだろうかと思うが、それ以降もまあ、面白く読める。しかし本書はいくらなんでもちょっとなあ、と。以下、雑感。

「道の国」上手くできている。シリーズ物でなければ機能しないのが難点だけれど、いいと思う。

「悪いことはできない国」口絵で一部の人間を狂喜させた一作。話としても落ちているし、キノの性格も出ていて楽しく読める。

「歴史のある国」これは構造がとても上手い。英語題も機能しているし、端整な一編だろう。収録された作品の中でも一番、好き。

「愛のある話」「ラジオな国」「救われた国」は駄目。以前に同じことをやっているし、構造も弱いし、時雨沢ならもっと書けるはず。

「船の国」これは程々に良かった。最後の挿絵前後の展開は、露骨に泣きを誘っていて、それはそれで雰囲気に浸れるのだけれど、これを読んですぐにプロローグに戻らないと、ネタに溢れた後書きを目にする羽目になり、一気に興醒めする。――シズが主人公格で、陸が語り手としてあるのだけれど、これは割りと面白い。普段はボケっぱなしのエルメスが、狂言回しとして活躍しているのが面白いと思った。

[][][]リピート リピート - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - リピート - 雲上読記 リピート - 雲上読記 のブックマークコメント

リピート

リピート

 くあああああああ、激上手ッ! 大・快・作!!

 四次元殺法ッ、メビウスの環! 限りなく本格に近い……思考実験の罠が読者を待ち受ける。『リプレイ』プラス『そして誰もいなくなった』割る一の奇跡。もはや、乾くるみは、傑作しか書かないのか! 秋山絶賛。

 さて、本書はいわゆる時間物である。その中でもループ物と言われる、いわゆる主人公が時間を遡って前とは異なる選択肢を選べるというかたちのもの。この話は風間というリピーターを名乗る謎の男と、主人公たち男女九人からなる十人のゲストが軸となっている。リピーターと九人のゲストは、十ヶ月ほどの時間を遡り、短期間ながら第二の人生を送ることができる。が、何故か選ばれた九人に続々と不可解な死が訪れて、やがて最後には……といったもの。帯に「限りなく本格ミステリに近い」と謳われているように、物語は極めて論理的に進められるし、現実的なものから夢物語としか思えない推理まで乱発される。またリピートの謎や、リピーター殺しの動機も理不尽でなく、悲しくて悲しくて涙を流すほどに、残酷なまでに冷徹に証明される。一寸の過不足もない、最後の最後まで抜かれていない手が、一切の容赦なく読者を切り捨てる。このキレ味の鋭さ、快さ。素晴らしい、これこそ大快作、大傑作。

 とにかく素晴らしい。『イニシエーション・ラブ』のときは最初から最後の二行にどんでん返しが来ると分かっていたから、警戒して読んだ。が、騙された。今回は帯のあおり文句と乾くるみという作者名から、最後の最後に至るまで努々、気を抜かずに全力で挑んだ。しかしっ! それでもっ! 乾くるみは読者の想定したラインを軽々と越え、予定調和的に完璧な一点に物語を収束させ、これ以上はないと言わんばかりの(了)を作ってしまう。素晴らしい、いっそおぞましい程に素晴らしい。

 幾つか文句をつけるならば、主人公の心理が気に喰わないこと(個人的だなあ)と、最後の三行がまだまだ行けるはずだということ。実際、もう少し彼女との関係性に文字数が裂かれていれば、ラストの諦観に満ちた独白は、切々と深々と読者の中に降り積もるのではないだろうかと思う。

 それにしても素晴らしい。全てのテーマが、全てのモチーフがとても好きだ。『イニシエーション・ラブ』のときは伏線が見事だった。全編是即ち伏線と言わんばかりの伏線が圧倒的で、再読しないことを許さない完成度があった。しかし、この場合、やはり再読時に真価が現われることが多い。言わば、後からこみ上げてくるような驚きだ。そういう酩酊感も悪くないが、やはり自分は本書のような伏線もあり、本格ミステリもあり、SFもありな作品が好きだ。欲張りと言われようが何と言われようが、好きなのだから仕方がない。そして自分の嗜好に答えくれるのが乾くるみ、その人である。

 実を言うと彼の著作で『匣の中』と『塔の断章』は未読だ。『匣の中』を読むために『匣の中の失楽』を読んだのに、筆致が苦手で放り出してしまったのだ。考えてみれば麻耶雄嵩もそうだ。デビュー作を読んで筆致が気に入らず、目を離していれば傑作ばかり出す作家になっていた、と言うような。それにしても素晴らしかった。2004年乾くるみ麻耶雄嵩、後は谷川流の年だったということでいいや。何か、異議ある?

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