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2004-11-01483-500

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重力ピエロ

重力ピエロ

 大傑作である。この作品を読んで、担当編集者が「小説、まだまだいけるじゃん!」と叫んだそうだが、然り。帯に「オーソドックス だけど古くない/地味で大人しい けどカッコイイ」と書いてあるのだが、然り。本書は確かにオーソドックスで地味である。はっきり言って読みどころがどこにあるのか不明瞭だし、最後は決着がついたのかどうか不明だし、小説を読みなれていない人にとっては、何が面白いのかよく分からないうちに読み終えてしまうかもしれない。だがしかし、そこがいいのだ。ここまで作りこまれ、完成度を高められた作品は他に類を見ないだろう。方向性としては『アヒルと鴨のコインロッカー』に近いが、それよりもっと文学的である。もうとにかく、話としては大したことないのだ。エンタテイメントしているわけでも純文学しているわけでもないのだ。手に汗を握るわけでも、読書に没頭してしまうわけでもない。けれど読んでいて、ああ、なんと表現したものか。とにかく最高なのだ。素晴らしい。

 以下、ネタバレ。途中までは、いつもの伊坂幸太郎だと思っていた。途中まで冗長(日常を詩的に描く術が十全に発揮されており、それを読みどころとしている読者が多いことは分かるが自分はあまり好きではない)だったので、またきっと最後に全てが収束して終わりなのだろうと思った。しかし、普通にカッコよかった春が、実は狂気にまみれ、落書犯であり放火犯なのではないかという疑問がくすぶり始めた頃より評価が完全に逆転した。魅力的に描かれていた春という人物像は、顔の表面に張り付いたかりそめの笑顔のように思え、その下にある能面のような無表情こそがその本性なのではないかと――とにかく自分の中の春に対する印象が劇的に変わったとき、本書が大傑作であると本能で理解した。いや、素晴らしかった。

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