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2004-11-01483-500

[][]名探偵の掟 名探偵の掟 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 名探偵の掟 - 雲上読記 名探偵の掟 - 雲上読記 のブックマークコメント

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

 これは相当に愉快。連載ミステリの登場人物たちが、作者の手によって踊らされつつも舞台裏で愚痴ったり文句を言ったりしているのを、小説化しているという凝った構造。名探偵の見せ場を作るために、敢えて犯人でないものを尋問しないとならない愚かな警部。誰も興味を持っていなかったとしても、登場人物を一同に集め、懇切丁寧にトリックを解説しなければならない名探偵。その名の通り、名探偵の掟に従う登場人物たちが、自らの苦労を切々と語っており、実にシニカルで物悲しい。

 十二編の連作短編の形式を取っており、密室・フーダニット・嵐の山荘・ダイイングメッセージ・時刻表・二時間ドラマ・バラバラ殺人・???・見立て・語り手・首なし・凶器、以上のミステリガジェットがそのままテーマになっている。例えば嵐の山荘では、どうして嵐の山荘で殺人を起こさねばならなかったのか、例えば???では、口にするだけでネタバレとなってしまうトリックとはなんなのか、登場人物たちが本来は持ちえないメタな視点を介し、ミステリミステリとしてのフィクションを鮮やかに指摘している。どれも小気味よい落ちがつけられていて、それなりに面白い。しかし、毎回パターンが同一のため、面白さは安定しているのものの飛びぬけているわけではなく、プロローグとエピローグに挟まれた十二編の短編を経て「名探偵のその後」に至るまで冗長と言えなくもない。「名探偵のその後」は後日談的な内容で、これが最も本格ミステリの核心に切り込んでいるのだが、はっきり言ってよく分からない。ひょっとしたら成功しているのかもしれない、想像を絶する斬れ味で持って名探偵は掟を、本格ミステリの呪縛を断ち切ったのかもしれない。が、自分にはよく分からなかった。なので判断に窮する。少なくとも、主となる十二編の短編は面白かった。ある程度、ミステリをこなし、その理不尽さが少しでも気になっているならば、本書を読む価値は十二分にあるだろう。

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 まるで合理的でない。書きながら展開を考えているのか、どこまでも行き当たりばったりで登場人物の誰もに一貫性がなく、なんで戦っているのか理解に苦しむ場面が多々あった。しかし、そういう部分には目を向けないことにする。

 このシリーズの優れている点は、登場人物が無闇に増えないことではないかと思う。確かに西尾維新戯言シリーズのように、一つ前の巻でピックアップされた登場人物が淘汰され、次の巻では顔を出す程度にしか現われなかったりするのだが、鎌池和馬の場合、一つの巻で新規に登場する人物が五人に満たないのだ。新規のキャラが増えないわりに、以前のキャラがあまり登場しないので、結果として主人公と敵とサブヒロイン、もう殆どこの三組だけで話が進行するのだ。これは構図として非常に明快で、読んでいて分かりやすい。ここらへん、ひょっとしたらライトノベルの新しいかたちなのではないだろうか。少し前、ライトノベルは文体が読みづらいとか読みづらくないとかネットで話題になったが、そんなものよりもこういった、いかに少ないキャラで切り回すかがライトノベルの魅力にしてメリットになっている点に注目するべきだろう。

 最後に。あとがきの最後の一文が、傑作でした。徹頭徹尾、どうでもいい記録更新だな(誉め言葉。

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重力ピエロ

重力ピエロ

 大傑作である。この作品を読んで、担当編集者が「小説、まだまだいけるじゃん!」と叫んだそうだが、然り。帯に「オーソドックス だけど古くない/地味で大人しい けどカッコイイ」と書いてあるのだが、然り。本書は確かにオーソドックスで地味である。はっきり言って読みどころがどこにあるのか不明瞭だし、最後は決着がついたのかどうか不明だし、小説を読みなれていない人にとっては、何が面白いのかよく分からないうちに読み終えてしまうかもしれない。だがしかし、そこがいいのだ。ここまで作りこまれ、完成度を高められた作品は他に類を見ないだろう。方向性としては『アヒルと鴨のコインロッカー』に近いが、それよりもっと文学的である。もうとにかく、話としては大したことないのだ。エンタテイメントしているわけでも純文学しているわけでもないのだ。手に汗を握るわけでも、読書に没頭してしまうわけでもない。けれど読んでいて、ああ、なんと表現したものか。とにかく最高なのだ。素晴らしい。

 以下、ネタバレ。途中までは、いつもの伊坂幸太郎だと思っていた。途中まで冗長(日常を詩的に描く術が十全に発揮されており、それを読みどころとしている読者が多いことは分かるが自分はあまり好きではない)だったので、またきっと最後に全てが収束して終わりなのだろうと思った。しかし、普通にカッコよかった春が、実は狂気にまみれ、落書犯であり放火犯なのではないかという疑問がくすぶり始めた頃より評価が完全に逆転した。魅力的に描かれていた春という人物像は、顔の表面に張り付いたかりそめの笑顔のように思え、その下にある能面のような無表情こそがその本性なのではないかと――とにかく自分の中の春に対する印象が劇的に変わったとき、本書が大傑作であると本能で理解した。いや、素晴らしかった。

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ブードゥー・チャイルド (角川文庫)

ブードゥー・チャイルド (角川文庫)

 政宗九さんのネットラジオで「お勧めの歌野晶午はありませんか?」と問い掛けたところ、えんじさんが初心者向けにと紹介してくれた一冊。そういった手前、こういうことを言うのは気が憚るが、あまり面白くなかった。いわゆる前世と呼ばれるものを取り扱っており、そういった非科学的なオカルトと、科学的な遺伝子を繋げている意欲作なのだけれど、今ひとつ有機的に連動している感がなかった。主人公を高校生としているのも、個人的には止めてほしかった。語り口がいかにも現代的な少年なのだが、どうにもずれていて……思うに、典型的な現代的少年は本を読まないので、下手に現代的な少年を描こうとしても、実際に年齢が似ている人間からすれば「俺と違う!」と思うのは必然なのではないだろうか。――主人公は途中で強力な味方を手に入れるのだが、これも多分にご都合主義のにおいがした。いっそ、主人公の父親の方を主人公にしてしまい、その豊かな経験と知識でもってガシガシと攻めてきてほしかったと思う。

 批判的な点を幾らか挙げたが、ダイイングメッセージ的な扱いがされていなくもない悪魔の紋章と、主人公の前世の記憶の真相に関しては、実にミステリ的に優れていると思った。前者は実にさりげなく作中に差し込まれているし、後者は目次も意味を持ってくるし、良かったといえる。でもやはり、このふたつのネタだけで一冊の本にしてしまうのはあ、と思わないでもない。

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涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

 素晴らしい。

 ハルヒシリーズと学校シリーズとでは、ずっと学校シリーズの方を気に入っていたけれど、今はハルヒの方こそ素晴らしいと思っている。と言うより、今までの三冊、憂鬱・溜息・退屈はこの消失を書くために用意された大きな伏線なのではないだろうかとさえ思っている。これは――とにかく、素晴らしい。

 心底、感じたのはあらすじで損をしているということ。冲方丁『カオスレギオン』や森博嗣の『四季』を読んだときも感じたが、あらすじを用意せず、ぶっつけで本編を読んだ方が絶対にいい。しかし表紙では得をしている。この表紙は見事なまでのミスリード。ページ207で明かされたその名前に自分は完全に驚かされた。

 先に紹介した二作もそうなのだが、何が損をしているかというと「主人公が今、どのような状況に置かれているか」それを気付くまでの経過が抜群に優れているのだ。これからこのシリーズを読み始めようと思っている人のために、あらすじは絶対に読むなよと忠告したい。現状把握という主人公と読者が完全にシンクロするその重要な経過は、あらすじを読んでいたら絶対に為されない。そこには現状が一言で説明され、読者が主人公に先んじて現状を知ってしまうことができるのだから。ああ、もったいない。

 それにしても、それにしても、ああ素晴らしい。きっと谷川流こそ、自分が求めていた作家なのではないだろうかとさえ思えてきた。もう谷川流がいれば、自分は不要だな、というぐらい。まだ残っている著作が三作もあると思うと、これからが楽しみで仕方がない。

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涼宮ハルヒの暴走 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの暴走 (角川スニーカー文庫)

ザ・スニーカー』に掲載された短編二編に書き下ろしを一編加えた短編集。雑誌に掲載された「エンドレスエイト」と「射手座の日」は、『涼宮ハルヒの消失』よりも作中時間が前なので、未読の人は先に読むことを推奨する。

「エンドレスエイト」夏を満喫するためにプールに行ったり、盆踊りをしたり、夏の風物詩を極めるべくハルヒがSOS団を引き連れて大暴れするという内容……と、見せかけてしっかりとSFしてくれている。扱っているテーマは自分の大好きなもので非常に魅力的なのだけれど、展開がやや唐突なのが残念。主人公に現状を把握させるのと読者を作品世界に導くのを、同調させることを『涼宮ハルヒの消失』では、できているのでもう少し時間と文字数を掛けて、物語の核を見せて、かつそれを解決する方法に説得力を持たせてほしかった。

射手座の日」SOS団がコンピュータ研究部とゲームを使って勝負するといった内容なのだが、時間軸的に『涼宮ハルヒの消失』より前であることを考慮すれば、理に適っている。むしろこれを先に読まなければ『涼宮ハルヒの消失』における展開が理解できないのではないだろうか。良かった。

「雪山症候群」書き下ろしの一編、『涼宮ハルヒの退屈』に掲載されたある一編と対になっているように見えるが、それはミスディレクションであったという罠。『涼宮ハルヒの消失』の後日談的な趣なのだが、実をいうと趣旨がよく分からなかった。まあ、それなりに楽しめたので問題ないのかな。それにしてもこのシリーズ、展開が画一的に過ぎるような気がしないでもない。

 ベストなのは「エンドレスエイト」、実に良かった。

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推定少女 (ファミ通文庫)

推定少女 (ファミ通文庫)

 かなり期待して読んだのだが、あまりよく分からなかった。続き物なのかな。

 もう本当に途中までは面白くって仕方がなかったのだ。主人公がどうして逃げているのかも分からないし、現実なのか夢なのか今ひとつよく分からないところや、作者が読者に対し妙な自覚的なところも。全部が全部、狙ったような台詞回しには首を捻らないでもなかったけれど、全体的に面白いなと思った。けれど問題は後半。はっきり言って、訳が分からないのだ。「これはきっと夢の中だろうな」的な適当な展開が続き、「いつになったら目が覚めるんだろう」なんて思っているうちにそれがずっと続いてしまい、「え? ひょっとして本気で書いてるのか??」なんて頭を抱え、そのままエンディング――と。

 タイトルの意味もよく分からないし、ネットで本書を誉めている人もなぜ誉めているのか分からないし、ひょっとして自分の読解能力が足りていないのではないかとさえ思えてくる。いや、しかし、でもなあ。むう……。

[][]吉永さん家のガーゴイル 吉永さん家のガーゴイル - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 吉永さん家のガーゴイル - 雲上読記 吉永さん家のガーゴイル - 雲上読記 のブックマークコメント

 いやー、これ面白いわ。

 なんと言ってもまず口絵がぶっ飛んでいる。以下引用

「ちわー」

「はい。いらっしゃいませ」

(ここでページが変わる)

「この青龍刀がかわせるかしら?」

「武器ごときで怯むほどやわな教育は受けてねーぜ」

 以上。

 意味不明である。これがいい感じに美人な店主と、どう見ても少年な少女の会話なのだから、頭を抱えてしまう。さらにページをめくれば、菊一文字と名づけられた猫や、エイバリー少尉と名づけられた盲導犬や……もう本当に最高。何が最高かって全部が全部。

 内容的には、吉永家の門番となったガーゴイルが、町の動物をまとめ上げたり、泥棒を退治したり、まあ俗に言うドタバタコメディによる連作短編である。面白いのはやはりこの町内感が実によく描けていることかな。チェーンソーを振り回す少女も、青龍刀を振り回す店主もガーゴイルもケルプも、皆が皆、見事なまでにこの町の中に溶け込んでいるの。いやあ、面白かったなー。最高。

[][]食卓にビールを 食卓にビールを - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 食卓にビールを - 雲上読記 食卓にビールを - 雲上読記 のブックマークコメント

食卓にビールを (富士見ミステリー文庫)

食卓にビールを (富士見ミステリー文庫)

 ファンタジアバトルロイヤルに掲載された短編四編に五編の短編掌編を加えた短編集。十六歳の女子高生小説家物理オタクで人妻であるというぶっ飛んだ設定を持つ主人公が、様々なSF事件に遭遇し、これを出鱈目に解決しつつビールを楽しむという妙なお話。これがまたはっきり言って訳が分からない。本当にSFなのか、そうではないのか。作者は何処まで本気なのか、何処まで考えて書いているのか。何も分からないのだけれど、それでも何だか楽しいのだ。文章は最近ありがちな一人称による思考垂れ流し的なのだけれど、主人公が自意識過剰な青少年ではなく、家計を第一に考える人女子高生なので、語り口があっけからんとしていて実に読みやすい。旦那との会話も素直な愛があるもので、読んでいるとこちらまで微笑んでしまう。挿絵もたまに顔が縦に細長いのがあるのだけれど、全体的にラブリィな感じなのでいい感じ。

 いやあ、いい小説を読んでしまったなあ。良かった良かった。二巻も読もう、これはとっても楽しみ。

[][]平井骸惚此中ニ有リ 其参 平井骸惚此中ニ有リ 其参 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 平井骸惚此中ニ有リ 其参 - 雲上読記 平井骸惚此中ニ有リ 其参 - 雲上読記 のブックマークコメント

 第一巻は大賞を受賞したにも関わらず今ひとつで、二巻はいきなりミステリしてきて探偵小説に関する考察も含んでいて好感が持て、三巻目となる今回はさらに腕を上げてきており非常に楽しめた。富士ミスの中では数少ない、しっかりとミステリやっているシリーズなのではないだろうか。

 今回は平井骸惚ではなく、その弟子を自称する、最近すっかり粗忽者が板についてしまった河上太一が探偵役を務めている。また珍しいことに彼の相棒としてメインに登場するのは、口絵で色香の漂っている涼ではなく、その妹の溌子。さらに太一の許婚だというゲストヒロインまで出てきて、――主人公は好かれすぎ。ミステリとしてもしっかりと作られていて、楽しむことができた。

[][]魔法使いは缶詰にいる 完全版 魔法使いは缶詰にいる 完全版 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 魔法使いは缶詰にいる 完全版 - 雲上読記 魔法使いは缶詰にいる 完全版 - 雲上読記 のブックマークコメント

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/nov/a003/a0030016.html

 この脱力っぷりが堪らない、傑作。

 週刊アスキーに連載されたものなのだろうか、編集部はよく許したなと思うぐらい、浅暮三文の世間的にはあまり認められないであろう魅力が十二分に注がれている。「とにかく肩の凝らない小説を目指しました」と作者が言っているとおり、スクリーンで読んだのに全く肩が凝らなかった。途中、やや中弛みしたかなと思わないでもなかったが、最後の最後まで一気に読むことができたし、落ちもなかなか、いやあよくやるぜ、いや! よくあってくれたグレさん!! とでも言うか。

 しかし、あれだよなあ。本書は誉めては駄目だ。誉めないことが誉めることに通じるような気がする。意味不明だ。

[][]ホーンテッド! ホーンテッド! - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ホーンテッド! - 雲上読記 ホーンテッド! - 雲上読記 のブックマークコメント

ホーンテッド! (MF文庫J)

ホーンテッド! (MF文庫J)

 アンチ・正統派ラブコメディという言葉がここまで似合う言葉も珍しい。良くも悪くも最近のライトノベルの典型なのだけれど、主人公の燃えっぷりのベクトルが通常と180度異なる。《墓穴掘り人形》を自称する主人公は、ここぞという場面でことごとく墓穴を掘るのだが、その度に自に《墓穴掘り人形》という二つ名を与えることを思い出し、その名前を免罪符のように扱うのだ。非常に歪である。二番目のために三番目を犠牲にし、一番目のために二番目を犠牲にし、三番目のために一番目を犠牲にする。その異様な矛盾を、主人公は「墓穴を掘った」と弁明し、あるのかないのか分からない目標のために突っ走る。非常に歪である、そしてかなり駄目、人によっては読んでいて虫唾が走ることこの上ないだろう。読む前は西尾維新と比較されることが多かったように感じたが、実際に読んでみて思ったのは、鎌池和馬に近いな。出発点が鎌池和馬に近いのだけれど、その向かう先がまるで違うというか、行ったり来たり戻ったり、実に歪。

 文体に関して。空白を使って文字を中間に揃えたり、太字・傍点・四倍角の乱用が目立った。その回数があまりに多いため、西尾維新うえお久光ほど、科白に与えようとしている効力が見られない。

 それにしても《ブーメランばばあ》がかなり格好いい。ババアババアと作中では言われたい放題だし、九十六歳と高齢のはずなのに、ありえないぐらいの活躍っぷり。いやあ、格好よかったなあ。

[][][]リプレイ リプレイ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - リプレイ - 雲上読記 リプレイ - 雲上読記 のブックマークコメント

リプレイ (新潮文庫)

リプレイ (新潮文庫)

 例えば『十角館の殺人』を上梓して、綾辻以前・綾辻以後という言葉を作らせた綾辻行人のように、何かを越えてしまった作品は、歴史に楔のようなものを打ちつけるのではないだろうか。そこに来て本書『リプレイ』は凄まじい、これ以上はないというほどに深く、そして鮮やかに時間物、あるいはループ物と呼ばれるジャンルに楔を打ち込んでいる。

 本書の内容を紹介するのは実に容易い。冒頭で唐突に死んでしまった男性が気がついたら記憶を保ったまま二十五年前に戻っていたというものである。「人生をもう一度やり直せるなら」あまりに陳腐すぎるテーマであるが、それをここまで重厚に、精緻に、丁寧に紡いだ作品は、本書が初ではないだろうか。

 真に素晴らしいのはその筆力である。意外性のある構造も、予断を許さない展開も、確かに素晴らしいのだが、それらはそれなりに予想の範疇にある。時間物を得意とする作家を十人ほど集めたならば、何人かと被るかもしれない、そういう物語である。テーマは陳腐だし、物語運びもありきたりと言えなくもないだろう。けれど、それでいてなお本書が素晴らしいのは、ひとえに文章が巧みで真に迫っているからである。もう本当に読んでいて面白いのだ。続きが気になって仕方ない、だと言うのに勿体無くて一字一句読み逃す気になれないのだ。何度も人生を繰り返すという設定上、ひとつひとつの繰り返しが冗長あるいは味気のないものになるという危険性は無視できない。が、それを飛び越えてしまったのが本書なのである。テーマもプロットも誰にでも書けるものだが、それらを小説という現実的なかたちにできたのは、やはりこの筆者をおいて他にいないだろう。素晴らしい。

 さらに言えば、この誰にでも書けるといったテーマとプロットは、逆説的に、だからこそ難しいのだと言える。スパゲッティにおいて、ペペロンチーノは最も簡単で誰にでも作れるものだけれど、だからこそオリジナリティや完成度の要求値が高く、グルメを満足させるペペロンチーノはなかなかに作れないのだ。「人生をもう一度やり直せるなら」この誰でも考えるような空想に、物語というかたちといういれものを与え、幻想の域にまで昇華させたこと。それがまた素晴らしいのだ。

 歴史にその名を残す傑作。

 乾くるみ『リピート』を読む前に、参考程度に読むつもりだったが予想外に読み込ませられてしまった。

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撲殺天使ドクロちゃん〈4〉 (電撃文庫)

撲殺天使ドクロちゃん〈4〉 (電撃文庫)

 一巻が最もインパクトを持っていて、二巻三巻と下り気味だったが、四巻で持ち直した――というような話を各所で聞いていたが然り。確かに面白かった。特に第三話と第四話は、目眩めくハイテンションでの大疾走で、ぐいぐいと作品内に引き込まれてしまった。また後書きでは、渡瀬草一郎時雨沢恵一にしか言及していないが、川上稔中村恵里加成田良悟といった作家の作品も微妙に使われており、電撃文庫を広く読んでいる人間にとっては「おおっ! こんなところに……ッッ」と思わず声を上げてしまうだろう。例えるなら、ある作家のあるシリーズに別のシリーズの登場人物が少しだけ顔を覗かせるような感じだ。両方のシリーズを読んでいる読者だけへのサービスを、他の作者でやってしまったような感じだ。そう言えば、似たようなことを成田良悟が『デュラララ!』でやっていたが、あれを読んだときも嬉しくなった覚えがある。

 もう電撃文庫好きを自称するならば、ドクロちゃんは外せないな。

[][][]HyperHybridOrganization 00-02 襲撃者 HyperHybridOrganization 00-02 襲撃者 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - HyperHybridOrganization 00-02 襲撃者 - 雲上読記 HyperHybridOrganization 00-02 襲撃者 - 雲上読記 のブックマークコメント

Hyper Hybrid Organization 00-02 (電撃文庫)

Hyper Hybrid Organization 00-02 (電撃文庫)

 熱い、熱すぎる。

 電撃hpに連載された『H2O』の外伝二巻なのだが、自分は途中までしか読んでいなくて後半の展開は文字通り、目が外せなかった。時間軸的には本編よりも前で、外伝において生死の危機に陥った人間がどうなるかであるとか、登場人物たちの行方もある程度は分かっているのだが、それでも読ませる文章だった。さすが高畑京一郎、やるぜ。

 個人的には本編よりも外伝の方が好きなのだが、それはやはり登場人物の大半が任侠の世界に生きるヤクザだからだろう。アクション的には本編に座を譲るかもしれないが、熱い生き様であるとか、生きるか死ぬかの狭間の戦いは読んでいて興奮しないわけがない。実際、高畑京一郎ライトノベル市場でなくともやっていけるだけの文章力を持ち合わせているので、広く勧められるはずだと確信している。仮面ライダー世代ならば尚更だ。

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的を射る言葉

的を射る言葉

 帯を見ると「わざと的を外すことに真理がある/的を狙わずに本質を射抜く108のメッセージ。/「気付かされ」、そして「気付く」ための言葉。」とある。題名が『的を射る言葉』なのに「的を外すことに真理がある」とはこれいかに。後書きを読めば分かるのだが、つまりは的の中心を射抜いてしまっては、ありがたくとも何ともない言葉になってしまうから、わざと的の中心を外すのが大事なのだそうだ。また108のメッセージというのは厳密には嘘で、108のテーマとそれに合った言葉が150点ほど紹介されている。この150ほどの言葉とは、森博嗣が日記を書き続けていた頃に「本日の一言」として書いていたものなので、この本を出すために書き溜めたものではない。その点、注意が必要である。

 掲載されている言葉の数々は、いかにも森博嗣らしいものばかり。少し、引用してみよう。

「議論がしたいんだよ」とは、「僕の意見を聞いてよ」と同義である。

「自信がない人間ほど、「自信がないのか?」と他人に問いかける。

楽な仕事を見つけて逃避する人は、本当に仕事熱心な人よりも、ずっと仕事熱心に見える。

「こんなこと言いたくありませんが」と言いたがる奴。

 などである。どうだろうか、本当にいかにも森博嗣らしいだろう。実際のところ、森博嗣好きにとって本書は全くもって問題ないのだが、上の言葉が耳に痛い人にとっては読みたくない本であることは間違いないだろう。したがって本書は、森作品の中でも最も勧めたくなる本でありながら、実際には勧められない本だと思う。

[][]空中ブランコ 空中ブランコ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 空中ブランコ - 雲上読記 空中ブランコ - 雲上読記 のブックマークコメント

空中ブランコ

空中ブランコ

 第131回直木賞受賞作ということで読んでみた。連作短編『イン・ザ・プール』の正統な続編で、相変わらず変わりのないパターンであるが、そこがまたいい。『イン・ザ・プール』で予習済みであるので、望んでいたものと読めたものが殆どずれることもなく、過不足楽しむことができた。以下雑感。

空中ブランコ」標題作。ベテランでリーダーを務めつづけていた主人公がある日、ブランコで飛べなくなってしまったというもの。作中に“坊主雑巾がけ”という名称が出てきたが、実際に何人ものプロが同じように苦しんでいるらしい。非常に完成度が高く、素晴らしかった。

「ハリネズミ」尖端恐怖症に罹ってしまったヤクザが主人公。非常によく雰囲気が出ていて面白かった。

「養父のヅラ」これは今ひとつという具合か。人前で大それたことをやりたくて仕方がない男が主人公なのだが、地位も名誉もある養父のヅラを取りたくて堪らなくなってしまう。設定は面白いのだけれど、今ひとつ活かしきれていないような。

「ホットコーナー」一塁にボールが投げられなくなり、意識し始めるとボールコントロールするのも、バットを振るうのも、歩くことすらできなくなってしまった主人公の話。根っからの天才で一度も苦労したことがない人間が、基本に立ち返ろうとして、自分は基本をしっかりやっていなかったことに気付いて愕然とするというのが面白いと思った。

女流作家」これは傑作、非常に素晴らしい。売れる作品を出しつづけていた女性作家が、一度だけ渾身の力を込めて名作を書いたが、これがまるで売れなかった。以来、本気を出すことをやめ、ぽつぽつと売れる作品を書いていたが、やがてそれさえも書けず……というもの。終盤、フリーの編集者で彼女の友人が、激を飛ばすシーンがあるのだが、創作を志す人間で、この言葉に魂を震わせない人間はいない。それほどの迫力と気迫が込められていた。さらに、最後の最後で今までずっと脱力系のアンチ癒しを読者に提供していた看護婦のマユミが信じられないような科白を言うのだ。いや、さすがにこれは作者狙っているだろうと思うが、それでも感動させられてしまった。いや、良かった。最後の最後に期待を上回る変化球を投げられると、とても嬉しい。

[][]玉川上死 玉川上死 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 玉川上死 - 雲上読記 玉川上死 - 雲上読記 のブックマークコメント

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/nov/u001/u0010001.html

 記念すべき500回目のブックレビューは、『e-novels』と『ミステリーズ!』の共同企画、川に死体のある風景の第一回である。これはその名の通り毎号、異なる作家が川に死体のある風景を描くというもので、作品は『e-novels』と『ミステリーズ!』の両方に掲載される。自分は『ミステリーズ!』を購読していないので、『e-novels』でこの作品だけを楽しませてもらった。

 作品に関して、一言で言うととても面白かった。「玉川上水死体が流れている」という通報を受けて警察官が川を流れ続ける死体を何とか捕まえようとするのだけれど、恐怖もあって中々、捕まえにいけない。そこで思い誤って警官は「おい、止まれ」と叫ぶのだけれど、すると死体だと思われていた人物は「僕のことですか?」とむくりと起き上がるのだ。「川に死体のある風景」なのに死体ではなく泳いでいただけというくだらなさ。この一転の後も、二転三転と物語は思わぬ方向に転じていくのだ。そして最後は予想の範囲内ながらも、痛みを感じられずにはいられない解決に……。雰囲気としては、西澤保彦の『パズラー』に掲載された作品のひとつに近い。犯人はこの人物でしかありえない、しかしこの人物を犯人と指摘してしまったが最後……勝者にして敗者、冒さなくてはならないリスク、素晴らしい。

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