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2004-10-01455-482

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名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

 これは中々に面白かった。木更津悠也という京都で名を馳せている探偵の活躍を、香月実朝という彼の友人にして推理小説作家が書いているという形式を取っており、カバーの折り返し(と言うのか? 表紙の延長線上のところ)にも香月実朝の名前で「著者の言葉」らしきものが書かれている。四つの短編小説からなる連作短編の形式を取っており、いずれにも京都を騒がす白幽霊の噂が片鱗を見せている。自分は『翼ある闇』を読んで、筆者が得意とする「世界が崩壊しかねない歪んだ結末」を含む展開は気に入ったのだが、どうにも筆致が気に入らなく敬遠していた。この本を手に取ったのは、本書が本格に位置していると聞き及んだのと、また短編集というのが魅力だったからだ。

 結論としては読んで良かったと思う作品だった。印象的だったのは、語り部にして本来はワトソン役に甘んじる立場にある香月実朝が、自らをワトソン役にして木更津悠也を名探偵にするために、彼に推理の手助けをしているのだ。香月実朝はワトソンを気取り、いかにも意味と効果のなさそうなヒントを出すことによって、木更津悠也を真相へと至らせるのだ。傍から見ると、香月実朝と木更津悠也の立場は面白いまでに逆転している。香月が犯人を推理し、木更津が犯人を指摘し、その様子を香月が小説にし、全体を麻耶雄嵩が書いている、というような。非常に興味深く面白い構造である。

「白幽霊」資産家が殺され、犯人は誰かというもの。当然のように被疑者たちは偽証しているのだが、論理とはまるで関係がないところから犯人を示す糸口が見つかる点が面白かった。雰囲気で言えば、雪原に足跡が残っていて、ひとりだけ足の大きさが突出して異なっている人物がいるようなものだ。いかに全員にアリバイと動機があろうと、犯人はそのひとりでしかありえない。

「禁区」個人的にはベストの作品。恐らくは白幽霊が一番、フィーチャーされていると思う。実はミステリにおける探偵と霊媒師などによる幽霊はいるかいないか的な談義は不要と考えていて、そういう会話が出てくると興醒めするのだが、この作品にそういうシーンは少なくて良かったと思っている。事件の当事者が高校生で年齢が近いということもあり親近感が沸いた、動機は嫌いだが。それにしてもミステリで高校生が出てくると、文芸部に入っていることが多い。どうしてだろうか。

「交換殺人」ネットでの感想では、これが人気だったように感じる。題名の通り交換殺人が取り扱われているのだが、とても新鮮に作られているように感じられました。きっと他の三編が本格ミステリしているのに対し、この作品だけ他の交換殺人を使っている本格ミステリ差別化を計っているので人気なのでしょう。最後の一文がいいです、とても。

「時間外返却」期待していただけに普通のミステリでがっかりした。前述の通り、本書は京都に出没する白幽霊がどの作品にも顔を出していて、でもどの作品でもその本当の正体は暴かれていないのだ。きっと最後の一編では、今までの短編長編の一部に過ぎなかったのだ的な展開をし、白幽霊の正体が明かされるのだろうと思っていたので、そうでなかったことが残念。また時間外返却なんて、時間物を予感させる素敵なタイトルなのに、まるでそうでなかったことも残念。

 全体として香月実朝による木更津悠也賛歌なのだが、気持ち悪くはない。この手の設定であると、大抵は語り部の名探偵萌えっぷりが気持ち悪いのだが、本書がそうでなかったのは恐らく、香月実朝も木更津悠也も、どこか欠点のあるキャラクタだからだろう。

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