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2004-10-01455-482

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邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

 雰囲気としては高田崇史の『QED』シリーズと共通する部分があるように思う――本書の舞台は、カウンター席だけしかない地下一階のバー。登場人物はバーテンダーの松永に常連客の三谷教授とその助手静香、そして謎の男宮田六郎の四人のみ。物語はこの寂れたバーのカウンターから一歩も動かず、場景描写を最低限に留め、四人の会話によってのみ進行する。基本的な流れとしては、宮田が歴史上の事実とされてきた事項に対し突飛としか思えない仮説を発し、常識と定説を知り尽くした静香が反論を試みるというもの。三谷教授は柔軟な思考で、宮田の口上を促しつつも議論には積極的に参加せず、バーテンダーの松永は客同士の会話に興味をそそられつつも、挑発的な宮田の態度と爆発寸前の静香にあたふたする。短編連作の形を取っている。

悟りを開いたのはいつですか?」実は仏陀悟りを開いていないのではないかという仮説。初っ端からぶっ飛んでいる、仏教を根底から引っくり返すような発言ではないだろうか。

邪馬台国はどこですか?」標題作にもなっている作品で、邪馬台国が実は東北にあるのではないかという仮説。

聖徳太子はだれですか?」推古天皇聖徳太子蘇我馬子の三人が、実は同一人物であるという空前絶後の仮説。この短編集の中で、一番、面白く読めたのがこの作品。到底ありえない結論で幕が落ちるのだが、収録されている作品群の中では、知っている名前も多く親近感が沸いたというのもあるが、三人が同一人物である証拠――あるいは三人を同一人物にしなくてはならなかった動機が“歴史を闇に埋もれさすため”という部分に魅力を感じた。どうにも黒歴史と言うのは、好奇心を抱かされます。

「謀反の動機はなんですか?」織田信長自殺をするために、明智光秀に謀反を起こさせたという仮説。これは、ここに提示されている情報が確かならば、あるいは真実に手を届かせているのかもしれないと思わせてくれた。他の作品は基本的に、もっともらしいものではあるもの「いや、よく出来た冗談だな」という部類なのだが、これだけはあるいは真実かもしれないな、と。

「維新が起きたのはなぜですか?」坂本竜馬を殺した暗殺者の正体を暴くのかと思いきや、明治維新の黒幕は誰かという趣旨。ミステリではありふれた手法を使っており、今ひとつといった感じ。

奇跡はどのようになされたのですか?」キリストとユダが実は同一人物なのだという仮説。これも今ひとつ。

 本編を読んでいる間はどうにもうさんくさい空気が漂い、薄っぺらい登場人物と合わさって味気ない感じがしないでもないのだが、解説を読むと途端に本書が面白いもののように感じられるのだから不思議だ。

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人間は考えるFになる

人間は考えるFになる

 お茶の水女子大学教授でお笑い哲学系エッセイを数多く書いている土屋賢二と、某国立大学工学部助教授ミステリを書いている森博嗣の対談本。『IN★POCKET』に掲載された対談と、土屋賢二による書き下ろし短編と、書き下ろし対談の三つから構成されている。目玉となるのは、やはり前半のふたりの対談だろう。森博嗣ファンならば土屋賢二の著作の一冊や二冊、既に読んでいてもおかしくはないので、森博嗣好きである→土屋賢二も知っている→二倍楽しめる、という論理が成立する……かどうかは不明。自分は森博嗣から土屋賢二に入って、そう嫌いでもない、むしろ好きぐらいなので少なくとも二倍は楽しめた。

 全部で六つに分かれている対談だが、一番、面白く読めたのは六つ目の「(売れる)ミステリーの書き方」。これはこの本の企画として短編小説を書くことになった土屋賢二が、森博嗣アドバイスを貰うという流れなのだが、それが面白い。土屋賢二の方は、いたって真面目に質問しているのだが、森博嗣が真面目に答えているとは一般人にはとても見えないのだ。いや、ファンからすれば、森博嗣の科白の端々に日記やエッセイで語られた理論が見え隠れ、非常に真面目かつ分かりやすく説明してくれているのだけれど、その割りに言葉数が非常に少なく、結果、分かりづらいのだ。その分かりづらい説明をなんとか消化し、執筆活動に役立てようとしている土屋賢二が不憫でならない。

 土屋賢二処女作にして書き下ろし短編は「消えたボールペンの謎」と言う。授業で百万円の値打ちがあるといったボールペンが消え、その犯人を探すために大学関係者に土屋教授が助手と共に調査を行うと言った内容なのだが……一人称で書かれており、かつ作中に大量にぼやきが入っているため、限りなく土屋賢二がいつも書いているエッセイに近いように感じられた。ミステリとしては、正直いかがなものかと思うが、土屋賢二好きであれば悪くないだろう。

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 普通の高校生の恋愛風景を描いたシリーズの三作目。第二巻のときは登場人物紹介のページに悄然となったが、今回はあらすじに悄然となった。作者狙いすぎ。

 ところで自分は後書きが好きな人間で、後書きがある作品の場合、後書きから読むことが多い。しかし、これは後書きから読む人すべてが抱えているジレンマだと思うが、後書きがあるかどうか確認しようとして、本編の最後の一文がどうしようもなく目に入ってしまうということが往々にしてある。ただ単に「夜が更けていった」というような風景描写なら大したことがないが、ミステリにおける最後の一撃(フィニシングストローク)であるとか、結末を容易く想像させてしまうイラストなどが目に入ってしまったときは、もう悲運としか言いようがない。そういうのを見てしまったときは、もう何も見なかったことにして、放りだしてしまう。

 さて、この本についても自分は後書きから読もうとした。そして衝撃的な一文を見てしまう。なんと見開きで十文字にも満たないのだ。その言葉とは、

「あの、うらぎりものめ。」

 思わず「来たあ」と口走ってしまった。八方美人の限りを尽くし、二股に三股に四股をも掛ける主人公に、ようやく天罰が下るときが来訪したのかと予感した。自分は投げ出すことではなく、喜び勇んで本書を読むことにした……が、何と三巻に至っても主人公は好かれる一方で相変わらずの絶倫っぷりを発揮している、最後まで。「あれ、おかしいな」と思っているうちに続いてしまい、それではあの思わせぶりな一文は何だったのかと本編に続く後書きを目に通してみたら……見開き二ページも使った「あの、うらぎりものめ。」という一文は、成功した他の作者への妬みだったのだ。おいおい。

 本編に関して。

 一巻を読んだときは実に低レベルだと感じ、二巻で少し迫ってくるものがあったが、三巻ではさらに腕を上げてきている。しかし、やはり登場人物たちの誰一人をとってもおおよそ信じられないぐらい世界観が狭く、彼氏彼女とエッチに励むことが人生の最終にして最大の目標だと声高に叫んでいる様は不気味だと思う。一巻が楽しめた人は二巻三巻も楽しめるだろうが、一巻が駄目だった人は二巻三巻も駄目だろう。

 つまらない点が逆に面白い点であったりすることは往々にしてあることだが、本書における登場人物たちの世界観の狭さは、魅力的でありさえもする。と言うのも、恋愛エッチすることを真剣に考えていないキャラはひとりもいないのだ。全員が全員、何らかの哲学を持ってそれに挑んでいる。いや、よくやるぜ作者と思わないでもないが。

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工作少年の日々

工作少年の日々

 これは森博嗣小説以外の作品の中で、かなり上位に入ってくる作品だろう。帯に初の連載エッセイと書いてあるのだけれど、『小説すばる』に連載されたものをまとめたエッセイ集である。森博嗣作品でエッセイ集というのは、割と多かった気がするが、その大半は他のいかなるジャンルに分類することもできず、仕方なくエッセイと言われているようなものだ。日記とかチャット集とか質疑応答集とか、普遍性のないジャンルを世間は認めてくれないらしい。

 小説以外の作品の中では上位に入ると言ったが、その理由は本書にはかなり森博嗣色が凝縮されているのだ。例えば日記などの場合、森博嗣らしさは妙に分散されていて、溢れかえる文字列の中から森博嗣特有の詩的さやシニカルさを拾い上げて楽しむのだが、本書の場合、探さずともそこにあるというぐらい森博嗣に溢れている。ファン以外の人間には、全く、何を言っているのか意味が分からないと思うが、森読者であれば共感が得られるだろう。本書はかなりサービスされており、濃く楽しめる。Vシリーズを読んだ後に、S&Mシリーズを読むような感じである。

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黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

 講談社ミステリーランドから出ている一冊。「かつて子供だったあなたと少年少女のための」というキャッチコピーが冠せられており、その作品は全ての漢字にルビが振られていたり、行間がかなり広く設けられていたり、極めて読みやすいデザインになっている。けれど、その作品は大概、主人公が低学年であっても、内容がシュール過ぎたりして今ひとつ子供向けではないと言われている。そこに来て、太田忠司は、ジュヴナイル作家としての本領を発揮したのか、かなりいい物を作ってきてくれている。一言で言えば「この作品は子どもだった頃に読みたかった!」と。

 けれど逆に言えば、その程度でもある。子どもときに読んでいれば驚きもひとしお、物語にも凄まじい勢いでのめりこめて、読み終えた際には感動し、すぐにでも再読したくなっただろうが、さすがにそこまでの感動をこの年になってから得ることはできなかった。同じくミステリーランドの一作、森博嗣探偵伯爵と僕』を読んで、次はどのミステリーランドを読もうかなあと思っていたときに本書をお薦めされたのだが、そこまで面白いほどでもないなと思ったのが正直なところ。――が、政宗九さんのレビューを読んで、なるほどと思った次第。

 ミステリーランドを殆ど読んでいない自分には、知りようもなかったことだが、どうやらこのシリーズは巻末に必ず「わたしが子どもだったころ」という題で後書きがつくらしい。勿論、本書にもこの題による文章が巻末についている。しかし後書きとしてではない、エピローグとしてだ。と、そう思っていたのだが、この部分だけ改めて読み直して見ると、確かに、後書きとして読めないこともない。つまり、ミステリーランドとしてのスタイルを逆手に取って、後書きをストーリィに組み込んでいるのだ。さらに冒頭にあった怪しげなる文字列、この暗号をポーの傑作『黄金虫』に出てきた方法に則って解読すると、このようになる「A fable about summer and children. I am here. You are not alone.」。前半部分は本書の英語題で、後半部分は筆者の太田忠司個人サイト名である。ここまで知ったとき、本書への評価は完全に逆転した。

 本書は素晴らしい。結末で導き出される結論は勿論、構造がとても素晴らしい。ひょっとして太田忠司がずっと書きたかったものを、長い間、暖めてきたものを大放出したのではないだろうか。そう思わせてくれるくらいの、傑作。

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イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

 震撼した、何なんだこれは――!!

 帯には次のような挑戦文が編集部から送られている。

「今年最大の“問題作”かもしれません/ぜひ、2度読まれることをお勧めします。

 目次から仕掛けられた大胆な罠、全編にわたる絶妙な伏線そして最後に明かされる真相――80's苦くてくすぐった恋愛ドラマはそこですべてがくつがえり、2度目にはまったく違った物語が見えてくる」

 問題作、その名の通り本書はネットにおけるミステリファンの間でちょっとした物議をかもした。本書を手放しで大絶賛する声から、正直わけが分からなかったという声まで。自分はその評判を見聞きする最中、誤って「最後の二行までは普通の恋愛小説なんだけれど、最後の二行を読んだ途端、本書が普通の恋愛小説ではないことに気付く(……)つまりヒロインは二股を掛けていたってことなんだけれど、それにしても女性は恐い」というような評を読んでしまった。読んでしまった途端、ガックリ来たが、真に傑作と呼ぶに相応しい作品はネタバレさせてもその真価を全く損なわない、という持論を持っている自分は恐る恐る手を出してみた。読んでみて分かったが、確かに帯にある通り、80年代を予期させる苦くてくすぐった恋愛ドラマである。王道の常道を行き、定石を打ちこれ以上はないというぐらいに冗長に普通の恋愛が進む。はっきり言って、これの何処が傑作なのかと、これの何処が問題作なのかと悔やむ気持ちを抱えつつ読み進めた。――が、最後の二行に至り震撼した、何なんだこれは――!!

 小説内世界を認識し、頭の中に構築していた物語がその瞬間、完全に瓦解した。まるでこの世のものとは思えない秘剣を受け、自分でも知らないうちに斬られていたことに、本書を読み終えてはじめて気がついたと言わんばかりの衝撃である。完敗した。ネタバレされていたにも関わらずこの衝撃である、果たして帯を目にせず本書が問題作であることを知らず、巧妙に張り巡らされた伏線に気付かず、作者のミスディレクションにまんまと嵌められた読者は、最後まで本書が普通の恋愛小説だと思って、その本性に気付かずに通過してしまうのではないだろうかと危惧してしまうぐらいの斬れ味である。

 読了するや否や自分は本書を放り出すと、コンピュータを立ち上げ書評Wikiアクセスし、登録されているレビュー群に端から目を通していった。ネタバレしているレビューの中で特に優れていたのは、氷川透のもの。ほぼ全ての謎とそれに対する解が明らかにされている。謎の大半が、恥ずかしながら自分には全く見抜けなかったもので「ああそう言えば、そんな記述もあったかな」ぐらいのものであった。

 しかし、それにしても素晴らしい。張られていた伏線を把握したく、それらの前後を再読したのだが、本当にさりげなく、巧妙に張られている。しかも、それらひとつひとつが自分の中に入ってくるたびに、本書の評価がどんどんと上がってしまうのだ。それと同時に本書が持っている悪辣さも浮かんでくる。いや、まっこと恐ろしい。

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D‐ブリッジ・テープ

D‐ブリッジ・テープ

 これは……面白いのか?

 断片的な科白に稚拙な言葉、下半分を切り取ればメモ用紙として使えてしまうぐらい多い改行。最後がもう少し明るければ、ひょっとしたら世間受けしてベストセラーになっていたかもしれない。そういう本の一種である。どうして読んだのかと言えば、キセンさんと町田ブックオフを見て回っていたときに「これ読みやすくて面白いですよ」と手渡されたのである。確かに読みやすかった。ページ数にして150強、さらに猛烈な改行。一時間かそこらで読了しただろう、しかし面白かったかどうかとなると首を捻るところだ。

 確かに結末に感動はあった。けれどそれは涙が溢れたり、思わず愕然となるようなものではなく、『DeepLove』を読んだときに感じたものに近く、言ってみれば安っぽかったのだ。解説にて高橋克彦が絶賛していたことに大きく驚いた。通常、宣伝のために絶賛と言っても、それは本当に絶賛しているわけではないのだが、この解説において高橋克彦は本当に絶賛しているように見える。「もし私がこの作品と十五、六歳の頃に出会っていたとしたらどうだったろうか。恐らく作者の沙藤一樹君を神の一人として認識したに違いない」とあるが到底、信じられない。74年生まれで、23歳のときに受賞した本書がそこまで誉められるものなのか、自分には信じられない。

 しかし、まあ、前述の通りもう少し明るければベストセラーの可能性もなきにしもあらずだったので、そういう感動を求めている人にはお勧めかもしれない。

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アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

 伊坂幸太郎が持っている技の粋が集められた一冊だと評しても過言ではないだろう。全編に渡り伏線を撒き散らし、それを複数の人物を通して描写し、最後の最後で全てが明かされ全てが交錯するという形は。さらに本書では、『ラッシュライフ』や『陽気なギャングが地球を回す』のときのように、複数の人物を用いて同じ時間軸を語るのではなく、複数の人物を用いて異なる時間軸を語っているのである。ブータン人の男性と同居している女性が出会った「ペット殺し事件」を巡る二年前の物語、東京にやってきた大学生が隣人に誘われて実行した「書店強盗事件」を巡る現在の物語。ふたつの物語が実はひとつの長い物語だと分かったとき、二年前に登場し現在に登場しない人物の行方が分かったとき、本書はその正体を現す。

 伊坂幸太郎を語るべきもう一点は、ユニークに満ちウイットに富んだ会話だろう。海外の、非常にスタイリッシュ映画の中において決めゼリフ的に放たれる格好いい科白が、伊坂幸太郎小説においては息つく間もなく連発されるのだ。「楽しく生きるには二つのことだけ守ればいいんだから。車のクラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと。それだけ」なんてどうだろうか、こんなスマートな科白が何でもないもののように口ずさまれてしまうのだ。こんな小粋で詩的な言葉を、現実に言えるやつがいたらきっと楽しいだろうと思う。

 さて、上記は伊坂幸太郎を極めて肯定的に友好的に客観的に見て評した言葉だけれど、自分個人として伊坂幸太郎はあまり好きな作家ではない。最後の最後であらゆる伏線が、ひとつの完成形に向かい謎が謎だと明示され同時に解かれる図は圧巻で、それは素晴らしいと思うが、そこに至るまでがあまりに冗長で退屈なのだ。格好いい科白が飛び交う日常風景に浸かれる人は、途中経過も楽しめるだろうが、自分は駄目である。実際、二年前と現在の二重構造だと知らされた瞬間に(二十ページ目で明かされるので、そう重大なネタバレではないだろう)またいつものパターンかと辟易した。しかし最後で絶対に報われるはずだと何とか読み進めていって、中盤でわりとどうでもいい日常の謎が出てきて驚いた。「へえ、珍しいな。版元ミステリ・フロンティアだから、少しミステリしてみたのかな?」と安易に思いながらまたさらに読み進めていって、ようやく終盤に至り、そして――まさか、こんなありふれたミステリ的手法を使ってくるとはと愕然としてしまった。と言うか、過去と現在の二重構造になっている時点で、あるトリックが使えるという事実に気付けよなどと自分自身に突っ込み、暫くしてこのトリックが持っている本当の意味に気がついた。気付いた瞬間、中盤にあった日常の謎がこの単純なトリックを隠すためのもので、このトリックもまた伏線に過ぎないのだと連鎖反応的に理解した。

 基本的にいい小説である。ジャンル分けしようとしたらネタバレになるので、とりあえずミステリかエンタテイメントと言っておけばいいと思うが、多少、読書好きの彼女であれば十二分に勧められるものだと思う。ただ自分は駄目だった。いい話だと思うし、凄まじい話だとも思うけれど、あまりにいい話に過ぎるし、目を背けているところもあると思うし、自分は好きになれない。勿論、これは個人の趣味嗜好だから、本書を人生で読んだ本の中で一番、素晴らしいものと明言する人があってもいいと思う。と言うか、本書はそう称されるに相応しい内容を備えている。勧めたいし、ぜひ読んで欲しいと思うけれど、やっぱり自分は好きになれないなあ……。

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グラスホッパー

グラスホッパー

 これは面白い。目が合った相手を自殺させる「自殺屋」の大男・鯨、ナイフを使い格闘戦のプロフェッショナル・蝉、妻を戯れに殺されその復讐を誓った一般人・鈴木。物語はこの三人を軸にして進むが、そこに叙述トリックが入り込む余地はなく、ただひたすらにスマートでストイックアイデンティティの危機を感じている殺し屋殺し屋の視点と一般人の視点とで描かれている。イメージとしては、『陽気なギャングが地球を回す』に近いが、ずっと発展している。過去の作品ほど散文的でも詩的でもないので、結末での驚きが少ないぶん、全体的に面白く読めるようエンタテインされている。キャラ萌え小説と言い換えてもいいかもしれない。

 興味深いのは「押し屋」という、人を突き飛ばし事故死に見せかけて殺すという殺し屋の存在だ。物語の中盤までは槿(あさがお)という男が非常にそれらしく描かれているのだが、中盤になって桃という女性が「実は押し屋は存在しないのではないか」という仮説を持ち出して、それを呼んだ途端、槿が押し屋ではないように思えてしまうのだ。しかも最後には……まあ、押し屋に関しては「いるかもしれない、いないかもしれない」ぐらいでいいのだろう、きっと。その曖昧さが、またひとつの面白さを演出しているのも事実だし。

 公式サイトのロングインタビューで筆者も言っているが、殺し屋という非日常的存在を、鈴木という何処までも一般人な日常の視点で描いているのは『オーデュボンの祈り』を彷彿とさせた。鈴木は、亡き妻の亡霊に縛られており(と言っても暗い感じではなく、あくまでも明るく)ことあるごとに彼女の言葉を思いだし「やらないとだめだ」であるとか「頑張らないとだめだ」と、ついつい頑張ってしまうのだ、殺し屋相手に、そして失敗する。が、そこはそこ、見事にエンタテインしてくれているわけで、最終的にはうまく挽回し、すべてが終わった後で「僕は、君のために結構頑張ってるんじゃないかな」と漏らす。これが実に切ない! 鈴木以外の人物も素晴らしい。人を自殺に追い込み、自殺させた人間がなった亡霊に付きまとわれる鯨。自分の言葉で話すことができない岩西に、彼に人形扱いされることを嫌う蝉。毒を専門的に用いるスズメバチという殺し屋エロ本を売っている桃、完全な脇役の鳥。もうとにかく、あらゆるキャラが魅力的なのだ。

 それにしても引き出しの多い作家である。ペースは遅くとも構わないので、じっくりと作品を積んでいって欲しい。

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9S(ナインエス)〈4〉 (電撃文庫)

9S(ナインエス)〈4〉 (電撃文庫)

 毎回、素晴らしい盛り上がりを見せてくれるシリーズだが、今回もやってくれた、見事なまでに。三巻と四巻とで上下巻構成になっており、三巻以前で配置していた伏線を絡め取るように回収しながら、それを物語上の発展へと役立てる様は壮観で、しかも今回は「このシーンだけで一冊分の結末に相当するだろう」と言うこともできるほど豪華なものを幾つも持ってきており、非常に読み応えがある。

 特筆すべきは坂上闘真と峰島由宇の対決と、坂上闘真と真目蛟の対決だろう。特に前者は一巻の終盤から衝突しそうでしなかったふたりの対決であり、ついに来たかという感がある。前述したが、個人的にこのシーンだけで一冊、本が書けてしまうのではないだろうかと思う。普通の、量産タイプの作家であれば、まず間違いなくこれだけで一冊、ものにしているだろう。そうせず、因縁の対決を、その後に続く対決の伏線にしてしまうところが、凄いと思う。……しかも、闘真と由宇の対決には挿絵がないのだ。もう本当に、豪気と言うか何と言うか、凄い。

 キャラクタについて雑感。以前から登場する度に思っていたのだが、真目不坐は実に自分の友人、雨下雫に似ている。剛毅なところ、傲慢なところ、幼稚なところ、冷静なところ、徹頭徹尾、いっそモデルが雨下雫なのではないかと勘繰ってしまうぐらいに似ている。まあ、どうでもいいか。

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名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

 これは中々に面白かった。木更津悠也という京都で名を馳せている探偵の活躍を、香月実朝という彼の友人にして推理小説作家が書いているという形式を取っており、カバーの折り返し(と言うのか? 表紙の延長線上のところ)にも香月実朝の名前で「著者の言葉」らしきものが書かれている。四つの短編小説からなる連作短編の形式を取っており、いずれにも京都を騒がす白幽霊の噂が片鱗を見せている。自分は『翼ある闇』を読んで、筆者が得意とする「世界が崩壊しかねない歪んだ結末」を含む展開は気に入ったのだが、どうにも筆致が気に入らなく敬遠していた。この本を手に取ったのは、本書が本格に位置していると聞き及んだのと、また短編集というのが魅力だったからだ。

 結論としては読んで良かったと思う作品だった。印象的だったのは、語り部にして本来はワトソン役に甘んじる立場にある香月実朝が、自らをワトソン役にして木更津悠也を名探偵にするために、彼に推理の手助けをしているのだ。香月実朝はワトソンを気取り、いかにも意味と効果のなさそうなヒントを出すことによって、木更津悠也を真相へと至らせるのだ。傍から見ると、香月実朝と木更津悠也の立場は面白いまでに逆転している。香月が犯人を推理し、木更津が犯人を指摘し、その様子を香月が小説にし、全体を麻耶雄嵩が書いている、というような。非常に興味深く面白い構造である。

「白幽霊」資産家が殺され、犯人は誰かというもの。当然のように被疑者たちは偽証しているのだが、論理とはまるで関係がないところから犯人を示す糸口が見つかる点が面白かった。雰囲気で言えば、雪原に足跡が残っていて、ひとりだけ足の大きさが突出して異なっている人物がいるようなものだ。いかに全員にアリバイと動機があろうと、犯人はそのひとりでしかありえない。

「禁区」個人的にはベストの作品。恐らくは白幽霊が一番、フィーチャーされていると思う。実はミステリにおける探偵と霊媒師などによる幽霊はいるかいないか的な談義は不要と考えていて、そういう会話が出てくると興醒めするのだが、この作品にそういうシーンは少なくて良かったと思っている。事件の当事者が高校生で年齢が近いということもあり親近感が沸いた、動機は嫌いだが。それにしてもミステリで高校生が出てくると、文芸部に入っていることが多い。どうしてだろうか。

「交換殺人」ネットでの感想では、これが人気だったように感じる。題名の通り交換殺人が取り扱われているのだが、とても新鮮に作られているように感じられました。きっと他の三編が本格ミステリしているのに対し、この作品だけ他の交換殺人を使っている本格ミステリ差別化を計っているので人気なのでしょう。最後の一文がいいです、とても。

「時間外返却」期待していただけに普通のミステリでがっかりした。前述の通り、本書は京都に出没する白幽霊がどの作品にも顔を出していて、でもどの作品でもその本当の正体は暴かれていないのだ。きっと最後の一編では、今までの短編長編の一部に過ぎなかったのだ的な展開をし、白幽霊の正体が明かされるのだろうと思っていたので、そうでなかったことが残念。また時間外返却なんて、時間物を予感させる素敵なタイトルなのに、まるでそうでなかったことも残念。

 全体として香月実朝による木更津悠也賛歌なのだが、気持ち悪くはない。この手の設定であると、大抵は語り部の名探偵萌えっぷりが気持ち悪いのだが、本書がそうでなかったのは恐らく、香月実朝も木更津悠也も、どこか欠点のあるキャラクタだからだろう。

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ユリイカ2004年9月臨時増刊号 総特集=西尾維新

ユリイカ2004年9月臨時増刊号 総特集=西尾維新

 西尾維新特集。表紙は竹、これがまた上手い。萌え萌えせずにデザイン的には堅実で、キャラクタ的にはカラフルでミラクルなデフォルメがされているのだ。西尾維新による書下ろし小説斎藤環との対談、東浩紀との対談、西島大介による漫画佐藤心による辞典などが収録されている。また笠井潔佐藤心スズキトモユ、野崎六助、仲俣暁生が評論を書いている。

西尾維新「させられ現象」面白くない。語り口が『ダブルダウン勘繰朗』を意識させ、展開が佐藤友哉を連想させ、きっと結末がぶっ飛んでいて面白いのだろうと期待して、なんとか最後まで読んだが結局、駄目だった。面白くない。

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 京極夏彦島田荘司森博嗣といった講談社ノベルス三大売れ筋(と言えなくもない)作家による読み切り小説が掲載された号。発売直前だった奈須きのこ『空の境界』の「1/俯瞰風景」が丸々、収録されている。新本格を代表する人間のひとり、故辰巳四郎氏を追悼し、遍歴・紹介・作品、そして綾辻行人有栖川有栖京極夏彦森博嗣高田崇史による言葉などで特集が組まれている。自分はこの特集のためにこの号を買ったのだが、やはり何度見ても、綾辻行人迷路館の殺人』ノベルス版の表紙と、森博嗣作品の表紙は素晴らしい。傑作である。

森博嗣「刀之津診療所の怪」『Φは壊れたね』から始まる山吹早月・加賀谷恵美・海月及介の三人が活躍するQシリーズの短編。日常の謎に挑戦したのかどうかは分からないが、極めて小振りな謎に挑戦し、無難な解答が得られるというかたち。はっきり言ってあまり面白くなかった。謎が謎であることの説明も今ひとつだったし、答えが与えられたときも「あっさりしてるなあ」と淡々に思った。が、最後の一行を読んで評価逆転。最後の五文字を読んで、思わず立ち上がってしまったぐらいだ。もう本当、予想もつかないところで森博嗣はファンサービスをやってくれる、嬉しい、実に嬉しい。森博嗣作品を全部読んでいるようなファン(例えば自分)は必読だ。

高田崇史「桜三月三本道」千葉千波くんシリーズ。あるおじさんに証言を求めるのだが、そのおじさんは「三回に一回、本当を言う」か「四回に一回、本当を言う」か「三回に一回、嘘を吐く」らしく、はっきり言って当てにならない。しかしそこはそこ、千葉千波くんが己の頭脳の限りを尽くしておじさんの証言の何が本当で何が嘘かを見抜こうとするという趣旨。何回かに一回、本当を言う、というネタは以前もあったのでそのバージョンアップ版だろう。まあ、普通に楽しめた。

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パズラー 謎と論理のエンタテイメント

パズラー 謎と論理のエンタテイメント

 六編のノンシリーズ短編からなる短編集。解説で貫井徳郎も言っているが、本書に収録されている短編は、いずれも真っ当なパズラーではない。パズラーという言葉も、本格ミステリ同じく、人それぞれに解釈が為されているだろうが、自分が持っているパズラーという概念と、西澤保彦が持っているパズラーという概念は一致しないように感じられた。自分にとってパズラーとは、いわゆる「読者への挑戦状」をつけることができるミステリだ。探偵が事件を解決させてしまう前に、犯人を推理するに充分な証拠が提示され、論理的に思考することさえできれば誰でも犯人を推理できると言うのがパズラーの基本だ。勿論、基本を抑えているからと言ってパズラーになるのではなく、いかに一見無関係と思われる証拠を論理繋ぎ、いかに探偵が卓越した思考力を見せるか、などがポイントになるだろう。しかし本書に収録されている作品の何点かは、証拠集めをせず、想像と妄想だけで犯人を類推している。物語の中では、結果として真犯人へと至っていることになっているのだが、それが真相であるとは限らない。犯人当てに用いている証拠を得ず、推理を机上で展開しているとは言え、探偵役による解説は微に入り細を穿っており、緻密だ。会話や自問自答の中で、少しずつ推理が進み、犯人が特定されてゆく様は読んでいて心地よいと言えるだろう。

 後書きで筆者本人が言っていることだが、ミステリにおいて世界観や登場人物を共有しない、ノンシリーズ短編は少ない。大抵はひとりの探偵が事件を幾つも解くという形式を取っている。そうすれば探偵役を何人も作り出す必要がないし、たとえ事件そのものが面白くなくても(つまり作品がミステリしていなくとも)キャラクタ世界観が良ければ、それで済まされてしまうのだ。それをミステリが抱えてしまった欠点として、六編の世界観も登場人物の年齢もまるで異なる短編小説を用意した西澤保彦には、ただ素直に感心した。

蓮華の花」伏線を上手く使いこなした珠玉の短編であると思う。やがて枯れることが運命付けられている花を、題材として使っているのも興味深い。きれいに描かれていると感じた。

「卵の割れた後で」海外作品のような趣きを持っている。短いのにどんでん返しがあるし、日本風刺的な面もあって程よくいいと思う。

「時計じかけの小鳥」個人的ベスト。まず、語り口が軽妙。女子高生が主人公で、その内情が垂れ流すように吐露されているのだが、妙に生々しく、妙に面白い。取り扱っているのも重大な事件ではなく、日常の謎で……と見せかけて、という裏がある。結末である人物の悪意が明かされるのだが、これがまた悪くない。

贋作「退職刑事」」都築道夫『退職刑事』のパスティーシュ。『退職刑事』を読んでいないので、登場人物や彼らの関係はあまり分からないが、それなりに楽しめた。

「チープ・トリック」これは却下、気持ち悪い。汚い言葉を乱用しており、海外作者が書いたと言われても信じてしまいそうで、映像化に適している作品なのだが、その汚さが嫌い。トリックやストーリィよりも、その生々しさという生臭さが忘れられない。よくよく考えてみれば、本書に収録されている作品の大半が愛憎や怨恨を取り扱っており、かなり気持ちの悪いものが揃っている。装丁が白を基調としており、荘厳で華やかな雰囲気なのに、中身がどす黒い。こはいかに。

アリバイ・ジ・アンビバレンス」これも面白い。「時計じかけの小鳥」とどちらを上にするか迷ったが、こちらの方が黒いので「時計じかけ」の方に軍配を挙げることに。主人公は男子高校生で、ある日「殺したのは私だ」と自白している同級生が、犯人が殺されたとき別の場所にいるのを目撃してしまう。アリバイがあるのに自白している、この不可解な謎を解き明かすため、クラスの委員長が立ち上がる。この委員長の性格がまた傑作で、言わば『Fate stay/night』の遠坂凛。学校では典型的な委員長なのに、主人公の自宅を訪れた瞬間に傲慢な感じの女の子に変貌してしまうのだ。真相も黒いが良かった。これ以上はないというぐらい切迫した動機で、確かにここまで進退極まってしまったならば殺さざるをえないだろうと感じた。

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Φは壊れたね (講談社ノベルス)

Φは壊れたね (講談社ノベルス)

 D2大学院生となった西之園萌絵を中心に据えて、加部谷恵美、海月及介、山吹早月の三人が三角形を描き事件に遭遇するというかたちを持ったS&Mシリーズ、Vシリーズに続くQシリーズ(海月及介がシリーズにおける探偵役だから)。基本的には前述の三人が主人公であると同時に若者担当として配置しており、S&Mシリーズの主役であった犀川創平、国枝桃子西之園萌絵などは彼らよりひとつ上の次元にいる大人として配置されている。『メフィスト2004年05月増刊号』に掲載された短編と見比べると、加部谷恵美の名前が変わってしまっているが、恐らく今後はこちらで通されるだろう(可能性は低いがだが、ふたりが別人であるというのも考えられなくはない)。

 森博嗣の詩的さを気に入っているファンとしては、Vシリーズに輪を掛けて薄くなったと言わざるを得ない。ミステリ的にも事件は、ひとつしか起こらないし、推理の大半が証拠を介されたものではなく空想上のものであるし、探偵役の海月及介は事件解決の直前まで徹頭徹尾、沈黙を守っている。したがって解決編はわりと唐突に与えられることになる(真相事態は甘く、推測は容易い)。――それにしても薄い。薄い小説が端的にどういう本であるかと言うと、読後に感想が殆ど残らない本である。本書に際して言えば、主役級の三人を紹介するための本であるとか、西之園萌絵ファンへのサービスであるとか、国枝桃子ファンへのサービスであるとか(自分はS&Mシリーズでは国枝桃子が一番好き)、もうキャラクタに注目するしかないのだ。とは言え、薄いというのは逆説的に洗練されていることの証拠でもあり、森博嗣色が意識して抑えられた本書は、理系ミステリという幻想を食わず嫌いする読者であっても読むに堪えうるものだろう。

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血の12幻想 (講談社文庫)

血の12幻想 (講談社文庫)

 恩田陸A型)、菊地秀行AB型)、北原尚彦AB型)、倉坂鬼一郎(A型)、小林泰三A型)、柴田よしきA型)、竹河聖A型)、田中哲弥A型)、田中啓文A型)、津原泰水鳴原あきらB型)、山村正夫A型)。以上、十二名の作家陣による「血」をテーマにしたアンソロジィ。そのテーマ故か、参加作家血液型が記載されているのだが、A型が圧倒的に多い。自分の記憶が正しければ、日本では、A:B:O:AB=4:3:2:1という割合であったから、仮に世界がこの十二人で出来ていたら、大半がAで残りはBとABになってしまう可能性がある(監修の津原泰水血液型を明かしていないので、Oもゼロではないかもしれない)……A以外は輸血のとき、困りそうだ。

小林泰三タルトはいかが?」小林泰三にしては、ミステリ的手法を多く用い、小林泰三色が薄くなっている短編であると思う。最後にどんでん返しがあるあたり、らしくないなあと思うが、ミステリ的には面白くて良かった。

鳴原あきら「お母さん」本書を読むきっかけになった作品。鳴原あきらさんは、『回廊』第二号の特集に協力してくれた方で、そのお礼を兼ねて読んでみたのだ。結果としては、たいへん面白かった。血というテーマもあることで、きっとスプラッタ120%でグログロな話ばかりが展開されるのだろうなと思っていた自分に、渇を入れてくれたと言うか、こういう方法もあるのかと驚いた。

田中哲弥「遠き鼻血の果て」いやあ、笑った笑った。目覚められた記憶が混濁していて、鼻から垂れ落ちた鼻血で湯船のお湯が凝固してしまい、身動きが取れなくなっているという話。読点が信じられないぐらい少ないため、とにかく読みにくいが、しつこくない程度に空行が挟まれているので読みやすくもある。ラストがこの手のホラーアンソロジィに、一編は必ず入っているものなので興醒めだったが、全体的には良しとしておこうというレベル。

恩田陸「茶色の小壜」恩田陸にしては、真っ当な、とでも言うのか。何かを予感させる、悪く言えばありきたりなOL描写から始まって、少しずつ不思議へと流れ込んでいく。最後まで淡々と進み、ポンと放り出されるように終わったため、今ひとつ「読んだなー」という実感が薄かった。

[][]スカイワード スカイワード - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - スカイワード - 雲上読記 スカイワード - 雲上読記 のブックマークコメント

スカイワード (電撃文庫)

スカイワード (電撃文庫)

 端的に言って、期待しすぎた。電撃文庫からの新人で、面白いと評判だったので手にとってみた次第だが、まるで駄目。力量があまりに足りていない。最下層の貧民街に住む男性でも女性でもない中性体の主人公と、空に一番近い首府城で八女神から託宣を受け取るために踊る舞巫女姫が出会い、何日か共に生活をし惹かれあいでも離れ、再び出会うという話だがあまりに王道。主人公以下、大半の登場人物が皆に虐げられている設定を持っていて、虐げられているもの同士が仲良くなりようやく救われるというのも安易だし、全体的にご都合主義な展開も気に入らなかった。

 それでも目を見張る部分はあり、ひとつは果てしない空への憧憬。タイトルになっているスカイワードとは、主人公が持っているリュージュ(まあ、飛行機のようなもの)の名前で、意味は「空へ向かう」……だったかな。実際、物語は舞巫女姫が待っている空に向かうように進行し、地下街での生活の中にも度々、絶妙なタイミングで空の描写が紛れ込み、空がどうしようもなく美しいものだと思い込んでしまわせる力を持っている。もうひとつは八女神の存在。ストーリィの中盤でヒロインが八女神という、この物語世界にて信奉されている神を否定する場面があるのだが、それに対する主人公の反論が真に迫っている。これは素晴らしい。仮に「神は死んだ」と言った人間に真っ向からこの理論をぶつければ、並大抵の人であれば思わず前言を撤回してしまいたくなるぐらいに論理的で説得力がある。

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 雲上回廊におけるブックレビューでは、面白かった本を区別するために星を与えているが、その平均点は一以下であったように記憶している。大抵の本はゼロであり、ちょっと面白くても一で、それなりに面白くて初めて星がひとつ与えられる。星が二つにもなればかなり面白いと言ってよく、三つで傑作、四つで名作、五ではもう想像に絶する面白さである。そんな中で、星四つを獲得した『Dクラッカーズ』の著者による新たなシリーズが本書である。期待しないわけがない。――結論として、申し分のない出来だった。

 今度のシリーズは、現実世界に吸血鬼が登場する俗に言う現代ファンタジィ。吸血鬼と言っても最近の「売れるから」という理由で吸血鬼が登場するような小説や、従来の吸血鬼と区別を計るため妙な設定が付与されている吸血鬼が登場するような小説とは一線も二線も画す。確かに登場する吸血鬼たちは、現代ファンタジィらしく色づけされているのだが、何処までも真っ当で基本に忠実なのだ。計算された起承転結に、あざの耕平にしか出来ないであろうと思わせる迫力の戦闘シーンから……いや、何を差し置いても235ページだろう、素晴らしいのは。これこそ吸血鬼の醍醐味である、これが全てだと言っても差し支えない。いや、素晴らしい。続きも大いに期待させていただこう。

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墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)

『回廊』第二号にて基線さんが書評を書き、また町田ブックオフをふたりでぶらついていたときに「これ本当に面白いですから」と手渡された一冊。確かに面白かった。一冊の小説としてこれは実に素晴らしかった。『回廊』で基線さんが言っていたことの繰り返しになるが、本書はたったの170ページしかない、しかもそのうちの40ページは後書・解説・挿絵などで本編は130ページ前後しかない。これは中編程度の長さで、一冊の文庫本にして売り出してしまおうという思考は、通常、生まれえない。しかし現にこれは、これだけで文庫本が作られており、定価362円で売られているのは、これが通常や普通といった概念で括れないから。つまりこれは極上の小説なのだ。この小説には、小説に必要な全てが詰まっている。これ以上、減らすことも増やすこともできない、完全に過不足ゼロの一冊なのだ。

 著者は『後宮小説』で第一回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した酒見賢一。これを生涯で読んだ最高の小説として挙げる人も少なくなく、実力は充分だろう。本書はその酒見賢一中国戦国時代を描いたものである。主人公は非攻の哲学と呼ばれる墨子教団の俊英、革離。防衛のプロフェッショナルで、戦争を作業的に捉える彼は、極めて論理的に人心を得、極めて効率的に城を堅強なものへとしていく。二万の敵勢が攻め入る中、革離はいかに数千の手勢で城を守りきるのか――。主題となるのは、言うまでもなく勝負の行方だろう。最終的に勝利するのは革離と数千の兵(女子供を含む)なのか、それともやはり城抜きの名人が率いる趙の二万の軍勢なのか。最初から背水の陣を引いて戦う革離の決意や苦しみも興味深いどころだ。また墨子の兼愛や非攻という概念も面白く解説されており、それらに対して革離が少なからず疑いを抱いている点も面白い。

 とにかく本書は小説として素晴らしい。薄いし安いし、オススメの一冊である。

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小生物語

小生物語

 乙一ホームページおよび幻冬舎のサイトにて掲載された日記を本にしたもの。基本的に脱力系であり、面白くない。乙一と言えば後書きが面白い作家だが、やはりあれは少ないから面白いのではないだろうかと思う。本書ぐらい延々と脱力されては、さすがに飽きてくる。――これは乙一の後書きが、どちらかと言えば好きな人間が言っているのだから、乙一の後書きが嫌いな人であれば、なおさら面白くないだろうと推測する。

 しかし読み終わった後に再度、パラパラと捲ってみて思ったが、この淡々とした筆致は息抜きとして読む分には面白いかもしれない。ペースの問題だろう。乙一を読むぞと意気込んで読むよりかは、ちょっと時間が空いたから乙一でも読むかぐらいの心地がいいのだろうと思われる。

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http://www.so-net.ne.jp/e-novels/nov/a003/a0030009.html

 週刊アスキーに連載された小説の序盤部分、無料で読める。一ページ最大575文字までスペースが確保されており、小説部分は26ページあるので、改行などを考慮すれば原稿用紙にして30枚ほどになるのだろうか。「あなた」が主人公の二人称小説で、いつもの浅暮三文らしい軽妙でコミカルな筆致なので割り合い楽に読めたという印象が強い。

 ストーリィはゴールデンウィークを最大活用し、合計九日間の連休を得た「あなた」の話。とりあえず最初の一日を怠惰に過ごすために、スーパーマーケットで酒やら食材やらを買い求めたあなたは、帰宅して早速、一杯、引っ掛けようと買ってきた缶詰を肴代わりに開けようと思ったらそこから魔法使いが出てきて……というような、至ってシンプルでライトな話。二人称小説ゆえか、少しずつ「あなた」=「自分」が見えてくるという構造が何となく新鮮で良かった。二人称小説と言えば、北村薫の『ターン』が印象深い。あれは傑作だったと記憶している、本作品も中々に素晴らしい。続きを読むには完全版を購入する必要がある、まずは無料で読めるこの第一回から第二回を、試してみてはいかがだろうか。

[][]電波的な彼女 電波的な彼女 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 電波的な彼女 - 雲上読記 電波的な彼女 - 雲上読記 のブックマークコメント

電波的な彼女 (スーパーダッシュ文庫)

電波的な彼女 (スーパーダッシュ文庫)

 なるほど、これは確かに面白い。

 周囲を隔絶し不良を気取りその実、完全な不良になりきれない自分自身を悩む柔沢ジュウ。唐突に現われジュウに忠誠を近った電波少女の堕花雨。クラスメイトの全員と仲がよくクラスの腫れ物であるジュウにも自然と接してくる紗月美夜。前半はジュウと雨の衝撃的というか電波的というか、おおよそボーイ・ミーツ・ガール的でない、むしろ第一次接近遭遇に近い出会いとジュウを巡る日常を描き、後半はこのところ社会を騒がしている(しかし事件が派手でないためにその規模は他の猟奇事件には劣る)連続殺人事件をジュウが追いかけるという構成。今、気がついたが予備知識なくこの本を、ライトノベルとして読んだ読者は、終盤の展開に驚きを隠せないかもしれない。あるいは『クビシメロマンチスト』や『りすか(第二話)』を書いた西尾維新的であると言ってもいいかもしれない。しかし自分の場合は、本書がもえたんの課題本になるかもしれないと思い、先回りして読んだわけで、つまり最初から「敵はミステリだ!」と食って掛かっていたのだ。その結果、「なんだこの構造は、初期の佐藤友哉じゃねえか。犯人はきっとこいつだな……かぁ、やっぱりこいつか!!」と。――とは言え、優れた小説トリックや犯人が見抜けたとしてもそれなりに楽しめる。しかし、しかしなあ。

 本書のヒロインは題名からも分かるとおり、かなりの電波だ。帯にある初登場時の科白を引用すれば「我が身はあなたの領土。我が心はあなたの奴隷。我が王、柔沢ジュウ様。あなたに永遠の忠義を誓います」とこんな感じである。この出会いの後も、雨は度々、電波な発言を繰り返しジュウを引かせる。しかし同時に知的な会話をできたりするところを見せたり、電波でない言動をできるところも見せ、確実にジュウと読者とにその存在をアピールしてくるのだ。それがどうにも気に食わない。中盤、連続殺人事件がジュウの日常と交錯する段になって、ジュウは雨のことを「犯人ではないか?」と疑うのだけれど、その根拠が実に薄弱だし、それまでに読者相手に散々、見せ付けられた雨の言動から読者は当然「彼女は犯人なりえない」と思うだろう。問題はここだ。もし仮に、雨に多少のミステリアスさが残されていたら「どっちが犯人だろう? それとも別にいるのか?」的なドキドキ感を持ちつつ読み進められたかもしれない。と言うわけでこの点においてミステリ的には明らかに失敗。次に終盤になってようやく「何故、雨が主君として選んだのはジュウなのか」という問いに答えが与えられるのだが、これによって雨は電波キャラから○○○キャラになってしまう。勿論、○○○萌えな読者からしたら「キター」な展開だろうが、ミステリアスな電波が好きな自分としては、勿体無いの一言。

 グダグダと本書が自分の好みから外れていることを述べたが、本書をライトノベルとして楽しんでいこうという姿勢を持って読んだならば、かなりの満足感が与えられるであろうことは保証する。本書は第3回スーパーダッシュ小説新人賞の受賞作ということで、いわゆるデビュー作なのだけれど、デビュー作らしい迫力と勢いがあって、ライトノベル新人賞を専門的に読んでいる人ならば、まず間違いなく楽しめると言っておく。

[][]ワシントンの桜他 浅暮三文B級掌編集 ワシントンの桜他 浅暮三文B級掌編集 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ワシントンの桜他 浅暮三文B級掌編集 - 雲上読記 ワシントンの桜他 浅暮三文B級掌編集 - 雲上読記 のブックマークコメント

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/nov/a003/a0030001.html

 いやあ、笑った笑った。これは面白い。計八編の掌編からなる掌編集なのだけれど、そのいずれも不条理だったり、俗っぽかったり、くだらなかったりして、妙に面白くて笑ってしまうのだ。全く、我ながら馬鹿馬鹿しいなと思いつつも、それでも読むのを止められない。何だかよく分からないが、とにかく最高なのだ。

「海驢の番」海驢はアシカと読む。これは訳が分からない、のだがそこがまたいい。海驢の番というのは他の海驢が休息を取っている間、一匹だけ起きて見張り番をする海驢のことである。では、その海驢が起きてしっかりと見張りをしている海驢がいるのではないか。不思議な妄念に取り付かれた男の物語。

「貰ったけれど」これは幾つかの御伽噺や昔話を、くだらなくリミックスしたもの。玉手箱を貰ったけれど、蓋が開かなかったので開けなかった浦島太郎の物語。トロイの木馬を送ったけれど、入口が開かなくて奇襲することができなかった兵士たちの物語。雀のツヅラを貰ったけれど開かなかった老夫婦の物語。くだらねえ。

「砂子」これはエロい。鳥取砂丘に鳴き砂という、踏むとキュッキュッと音を立てる砂があるらしい。鳴き砂を見物にいった男は、そこで喘ぎ声を上げる砂を見つけ……。

ワシントンの桜」これも俗っぽい。途中まで不条理系で、最後になってワシントンが桜の木を切った本当の理由が明かされるんだが……そんな理由かよっ!

ベートーベンは耳が遠い」かなり最初のうちから結末が予想できるが、やはり面白い。ベートーベン、アホだなあ。

「黄金の果実」これも不条理系か。御伽噺風なのだけれど、いくらなんでもロシアバナナ栽培ってどうよ。ああ、くだらねえくだらねえ。

「箴言」新宿下落合にあるアパートには、ソクラテスプラトンキルケゴールニーチェが逗留しているという。もう初っ端から訳が分からない。そしてアルサロに行ってソクラテスの名を騙ったり、行列のできるラーメン屋を探しているプラトンがあまりに情けない。そんな理由で残された箴言かよ。

「生徒」最後に持ってこられたのは、わりと堅実なショートショート。浅暮らしいブラックさが映える(主人公の名前はそのまんまブラッキー。……この名前は『カニスの血を継ぐ』のカバー折り返しに出てきた犬じゃないか!)珠玉の一編。途中まで訳が分からないのだが、ラストでなるほどと膝を打って、そのブラックさに震えられる一作。

 全体としてもうとにかくくだらない。こんな馬鹿っぽいの、浅暮でしか真面目に書かないだろう、そしてe-novelsでしか読めないだろうと。ショートショート好きであれば、是非とも一度は読んでもらいたい。

[][]目を擦る女 目を擦る女 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 目を擦る女 - 雲上読記 目を擦る女 - 雲上読記 のブックマークコメント

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

 とうとう小林泰三ハヤカワ文庫に進出した。もうホラー作家としては勿論、SF作家としても完全に認められたのだろう――と言うのが、本書を手に取った瞬間の感想である。しかし実際に読み出して落胆した。なんと言うか、薄いのだ。確かに語り出しや設定は、何処までも小林泰三なのだけれど、結末があまりに弱すぎる。標題作になっている「目を擦る女」は標題作であるにも関わらず、平均的な小林泰三の上に『奇憶』とネタが少なからず被っているし、続く「超限探偵Σ」『密室・殺人』に比べると数段も落ちるし、「脳喰い」もありきたり。最初の三編を読んで駄目だと思った。同じく、雑誌に掲載された短編を集めた『海を見る人』と比較するとレベルがあまりに落ちている。酷い。――が、不思議とそれ以降は面白いのだ。以下、雑感。

「目を擦る女」前述の通り、標題作であるにも関わらずつまらない。とは言え、小林泰三という作家を、過不足なく現している作家でもある。ぬめりを演出し微妙にミステリさせ、クトゥルー分が足らなくはあるが、堅実にらしさは作っている。しかしファンには少し足りないし、初心者には唐突過ぎて駄目……どうしてこんなのが標題作なのだろう。

「超限探偵Σ」期待外れ。初出が『SFバカ本 天然パラダイス篇』であるのには、真っ当なメタ小説であるだけに首を捻る。最初からメタであることを意識し、きっちり二段構えで仕掛けてきてくれている点は好感。でも『密室・殺人』に比べると弱いんだよなあ。

「脳喰い」今ひとつ。これに関しては、もうとにかく今ひとつと言わざるを得ない。名前は忘れたが『海を見る人』にかなり似た設定の小説があったし、もうそれのデッドコピィにしか読めなかった。

「空からの風が止む時」ここから本書は本領を発揮する。今までの作品と微妙にリンクしつつも、しっかり

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