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2004-09-01437-454

[][][][]大極宮 大極宮 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 大極宮 - 雲上読記 大極宮 - 雲上読記 のブックマークコメント

大極宮 (角川文庫)

大極宮 (角川文庫)

 大沢オフィスホームページ大極宮」に一年間連載された、大沢在昌京極夏彦宮部みゆきの日記を一冊の本にまとめたもの。森博嗣の日記をイメージしつつ手に取ってみたのだが、ギャップに驚いた。まず日記自体が一週間に一度しか書かれておらず、大沢在昌ダイエットに苦労していることが行間から滲み出ており、宮部みゆきゲームへの愛が行間が滲み出ており、京極夏彦は忙しさが行間から滲み出ており、それがそのまま魅力になっている。つまり、いかに行間を楽しむか、が本書の正しい読み方ではないかと思う。特に興味深く読めたのは、宮部みゆきのそれ。彼女のゲームへの愛は、影響力が強く、はっきり言ってこれを読んで自分はゲームをやりたくなったぐらい。軽く読めたので、第二作も機会があれば読みたいと思う。

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秘密屋文庫 知ってる怪 (講談社文庫)

秘密屋文庫 知ってる怪 (講談社文庫)

 本書は講談社ノベルスより刊行されていた『秘密屋 赤』を九割に、『秘密屋 白』を五割以下に改稿し、書き下ろしの『秘密屋 黒』を加えた短編連作である。自分は『赤』より『白』の方が好きだったので、『赤』が一割しか削られていないのに対し、『白』が五割も削られたのは納得が行かなかったが、予想外に『黒』が面白く、またこれは『白』の続きと言っても差し支えのない展開だったので、構成には納得した。

文庫1『秘密屋 赤』――都市の伝説」巻末に参考文献として都市伝説や噂に関する本が列記されているが、そこに書かれてあった話をそのまま転記したような内容。はっきり言って胡散臭い逸話が延々と続くだけなので面白くない。嘘くさいが嘘かどうか、今ひとつ判然としない噂話が好きな人には面白いのかも。

文庫2『秘密屋 白』――仕事師の伝説」『赤』では秘密屋について調べていた主人公の元に間違い電話が掛かってくる場面から始まる。電話の向こうにいる相手は、主人公のことを秘密屋だと勘違いしており、主人公は電話の向こうの相手と口で戦うことになるという内容。清涼院流水の著作に、この手の頭脳バトルは頻繁に登場するのだが、自分はわりと好きでノベルス版と同じく楽しく読めた。

文庫3『秘密屋 黒』――摩訶愛しの伝説」『赤』『白』と続いてきた物語の完結編となる『黒』。清涼院流水なのにトンデモな結末ではなく、極めて真剣に締められており、またちょっとした叙述トリックも仕込まれていて、何て言うか、一言で言って感心してしまった。清涼院流水の入門としてはお勧めできないが、ある程度、清涼院流水を読んで面白いものと面白くないものが判別できるようになれば、本書を面白いと思えるかもしれない。

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 三巻の下巻。都合、第七巻。もうそろそろネタバレを気にするあまり、物語を説明することもできなければ、そもそもあまりに複雑な人間関係や事情の絡まり合いに、説明したくてもできないほどになってきた。しかし読んでいる間だけは、繰り返される説明になんとかついていくことができ、またその中でのみシーンのひとつひとつに心躍らすこともできる。しかし実を言うと、分厚いこともあり何だか途中から訳が分からなくなり、もう訳も分からず感動し、ラストのシーンでは切れ味が鋭いのか鈍いのかも分からないままに斬られ、素晴らしい結末だったと溜息をついてしまった。この感情が果たして、本書を冷静にゆっくりじっくり時間を掛けても得られるものかどうかは、今ひとつ疑問が残るが、やはり同様の感動は得られるのだろうなと予感する。

[][]涼宮ハルヒの憂鬱1 涼宮ハルヒの憂鬱1 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 涼宮ハルヒの憂鬱1 - 雲上読記 涼宮ハルヒの憂鬱1 - 雲上読記 のブックマークコメント

 谷川流原作の同名の小説漫画化したもの。一枚一枚に迫力のある絵を得意とするようだが、構成が画一化されてしまっているのと単純に絵の上手い下手の問題から原作負けしているように感じた。惜しいのはキャラクタを立てるのに最重要と思われる箇所が、幾つか軽く薄く流されてしまっていることだ。漫画という媒体においては、そういう重要な場面で確実に稼いでいかなければならないのに、それができていなかったので残念だ。なお、一巻となる本書は、原作の一巻を忠実に再現しているのではなく、短編で語られた逸話を物語の中に取り込んでおり、その点はとてもいいと思う。

[][][]スペース スペース - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - スペース - 雲上読記 スペース - 雲上読記 のブックマークコメント

スペース (創元クライム・クラブ)

スペース (創元クライム・クラブ)

 デビュー作『ななつのこ』とその続編『魔法飛行』に続く、駒子シリーズ第三弾。ファンが長らく待ちわびていた本書も、手紙を重要な要素と扱っており、『スペース』と『バック・スペース』という二部構成が、見事な妙を見せている。シリーズの主人公である入江駒子がメインを張るのは『スペース』だけなので、『バック・スペース』はやや物足りなさを感じたが、終盤になって自分が加納朋子に求めていたものがしっかりそこにあったので大変、満足。『ななつのこ』も『魔法飛行』も、勿論、本書『スペース』も素晴らしくどれか一冊これと挙げることができない。

[][]銀盤プリンセス 生意気なMドレイ 銀盤プリンセス 生意気なMドレイ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 銀盤プリンセス 生意気なMドレイ - 雲上読記 銀盤プリンセス 生意気なMドレイ - 雲上読記 のブックマークコメント

 高飛車な振る舞いを貫く史上最悪のヒロイン――海原零銀盤カレイドスコープ』に登場する桜野タズサを陵辱できるなら? そういった仮定の元に書かれたと思われる小説。主人公は氷上の女王と呼ばれている高校生の須藤理沙と、その後輩の如月雅人のふたり。基本的に三人称で進むが、メインとなる視点はふたりの間を交互する。発行がフランス書院であるので、そういった描写が本書の大半となるが、一応それなりのストーリィは付け加えられている。

[][]喜劇ひく悲奇劇 喜劇ひく悲奇劇 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 喜劇ひく悲奇劇 - 雲上読記 喜劇ひく悲奇劇 - 雲上読記 のブックマークコメント

喜劇ひく悲奇劇 (ハルキ・ノベルス)

喜劇ひく悲奇劇 (ハルキ・ノベルス)

 鯨統一郎を読むのは初めてだったけれど、これは初めてには適していないと思った。泡坂妻夫喜劇悲奇劇』をリスペクトした作品らしく、全編に渡り回文が張り巡らされている。題名もそうだし、章の名前や登場人物、著者コメントに至るまで回文で書かれている。ひとつのページの中に最低ひとつは回文が太字で書かれていて、多いページになると十以上の回文が地の文や会話文の中に出てくる。特に圧巻なのは、136ページから始まる古今東西のミステリをネタにした回文。また探偵・犯人・凶器・動機・アリバイまで回文で、本当に凝りに凝っている。しかし、凝りすぎているがゆえに不自然な箇所が多く、回文を盛り込むために犠牲にしているなと感じる場面が多々あったように感じた。きっと本書では、鯨統一郎らしさを十二分に発揮できていないと思うので、次は鯨統一郎らしい作品を読みたいと思う。

 作中に面白い回文が出てくる小説として、都築道夫『最長不倒距離』、岡島二人『三度目ならばABC』、『文章魔界道』、泡坂妻夫喜劇悲奇劇』『亜愛一郎の転倒』などが紹介されていたので、機会があれば読みたいと思う。

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仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

 八人の男女が集まった山荘に、逃亡中の銀行強盗が訪れる。ふたりの銀行強盗によって一時的な人質とされた八人は様々な手段を用いて、外部と連絡を取ろうとするが、その全てが何故か失敗に終わる。極度の緊張状態が続く中、殺人事件が発生する。容疑者は九人、ふたりの銀行強盗と七人の男女。冷静に考えて銀行強盗は、殺人事件の犯人なりえない、ならば犯人は七人の中にいるのか? 銀行強盗によって拘束され、もはや隣にいる昨日までの味方さえ信用できず、ついに待ち合わせていた三人目の銀行強盗が現われてしまい……。

 タイトルは仮面山荘、しかし作中に仮面は、たったの一回しか登場しない。解説の折原一によって、本書は最後の最後にとんでもないどんでん返しが用意されていると知らされ、それを期待したのだが、どんでん返し自体は、驚愕の、と言うほどでもなかった。むしろどんでん返しがあった後の、どうにもならない虚無的で、沈みきった空気が胸を打った。題名に冠せられた仮面という言葉の真意、そして結末を迎えた後の、登場人物が残りの人生をいかに生きるのか。選択肢を究極的に誤ってしまった一例がここにある。

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空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 非常に知的である。五編の短編小説からなる連作短編で、どれも日常の謎を取り扱っているのだけれど、遊び心を満遍なく散らして、余裕を見せつつきれいにしめてくれるのだ。きっと教養のある人は、本書の随所に張り巡らされた雑学に気がつけるのだろうし、作者のレベルの高さを十全に受け取れるだろう。自分が一番、気に入ったのは「砂糖合戦」という一編。謎が何であるのかというところから問いかけが始まり、若者が抱きがちなネガティブな感情を掘り出すように描ききり、最後の一行でようやく事件の全貌が見えるという非常にストイックな作品なのだ。言わば、最初の一口で満足してしまうハンバーガーではなく、最後まで食べ終えてようやく一つの味がする精進料理のような感じだ。非常に知的で心地よかった。

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ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)

 17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀パナマフロリダ。時空を超え、幾たびも巡り会ってはまた別れを繰り返す恋人の物語。「エアハート嬢の到着」「春」「イヴァンチッツェの思い出」「天球のハーモニー」「記憶」の五編からなる連作短編で、それぞれ同名のイラストが扉絵に配されている……と言うか、恐らくは著者が好きな絵を見ながら着想を得たり、絵を題材にして物語を構想したのだろうと思われる。輪廻転生の時間もので、結ばれない恋愛とすれ違いという、これ以上は望むべくもない魅力的なテーマを取り扱っているのだけれど、十全に楽しむことができなかったと言うのが正直な感想。恩田陸の著作を読むのは『六番目の小夜子』に続き、これが二冊目になるが、多分、次に読む恩田陸も、その作品世界に浸れないだろうと予感する。

 相性の問題だろうか。取り扱っているテーマも、特異な発想も、外装に関して言えば何もかもが自分の趣味とぴったり合致するのだ。しかし実際に読んでみると、どうもしっくりこない、何かが足りないように感じてしまう。掴みとして充分な「エアハート嬢の到着」、二重の虹という幻想的なシーンにラストの驚きを持っている「春」、思い入れのあり大好きな絵を使った「イヴァンチッツェの思い出」、思わず震えてしまった「天球のハーモニー」、ようやく結ばれたふたりを祝福すると同時にエピローグに深く溜息をついてしまった「記憶」。いずれも素晴らしいことには素晴らしいのだが、何故か「素晴らしい!」と声を大にして賞賛するには、はばかれる。

 いずれ。恩田陸作品を十全に楽しめる日が来ることを、願って止まない。

[][][]あなたを、ほんとに、好きだった。 あなたを、ほんとに、好きだった。 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - あなたを、ほんとに、好きだった。 - 雲上読記 あなたを、ほんとに、好きだった。 - 雲上読記 のブックマークコメント

 村上春樹リスペクトしている官能小説家による恋愛小説――『ノルウェイの森トリビュート小説東京町田にある大学四年生の主人公は、他の学生たちのように怠惰な生活を過ごすことはできなかった。かと言って、真面目に就職活動する気も起きず、どうしようもなく中途半端で宙ぶらりんな生活を送っていた。そんな中、彼女は学生寮の二〇九号室にカフェバーを作ってしまった、年下のヒロくんと出会う。意味深な言葉を呟くヒロくんには、二股を掛けていたことが発覚し自殺してしまった彼女がいたという噂があり、その真偽を疑いながらも、彼女はヒロくんに惹かれていってしまう。

 これは傑作、素晴らしい。一人称文体で語られるのだが、ヒロくんがとても魅力溢れる男性として描かれているのだ。非常に好印象で、裏表のない、夢を持ちそれを一生懸命に追いかけていて、つい応援し傍で励ましてあげたくなるような、年下なのにしっかりしていて頼れてしまう人物なのだ。これは惚れない訳がない。彼の詩的な科白、意味深な科白、一挙手一投足が魅力に溢れているのだ――が、問題は終盤。ヒロくんのあざとさや、いかに主人公を裏切っていたかが凄まじい勢いで暴露されてゆくのだ。そして当然のように訪れる破局。それも主人公の精神世界を崩壊させ、世界を引っくり返し、読者をも巻き込んで――それこそ「嘘! ヒロくんがそんな酷い男性だなんて、信じられない! 私はここに書いてあることより、ヒロくんを信じる」などと叫んでしまうぐらいに真に迫っているのだ。やがてヒロくんと別れたことによるショックから立ち直り、見事に自活を始める主人公……それもヒロくんとの恋愛を描いた小説家として。

 とにかく展開と人物の内面を描く力、そして構造が上手すぎる。上のははっきり言ってネタバレもいいところだが。ネタバレされた上でも十二分に楽しめる。傑作中の傑作。

[][]ミニチュア庭園鉄道2 欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の大躍進 ミニチュア庭園鉄道2 欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の大躍進 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ミニチュア庭園鉄道2 欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の大躍進 - 雲上読記 ミニチュア庭園鉄道2 欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の大躍進 - 雲上読記 のブックマークコメント

 大躍進と言われて最初に思い浮かべるのは、毛沢東によって展開された大躍進政策だが、本書は別に赤くともなんともない。内容に関しては、森博嗣が趣味でやっているミニチュア庭園鉄道レポートと言ったところ。基本的なところは一巻のそれに準じるが、一巻と異なるのはシステムの大半がすでに完成されているので、あまり物事が完成へと近づいていく経過において感じられる感動が少ないと言うこと。また、専門的な物事にも言及しているので、ミニチュア庭園鉄道に興味を持っている人には、ほんの少しだけためになるかもしれない(本当にほんの少しだろうけどね)。

 巻末には視察記録と称して、オフレポのようなものが付録されている。興味を惹いたのは「ガリバー線訪問」の項で、ミニチュア鉄道をやっている方の自宅を森博嗣が訪れるという企画。「なるほど、こういうミニチュア庭園鉄道のかたちもあるのか」と感心させられた。

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新本格魔法少女りすか (講談社ノベルズ)

新本格魔法少女りすか (講談社ノベルズ)

 戯言シリーズで有名な西尾維新による魔法少女もの。『ファウスト』に掲載された短編二作に書き下ろしの一作を加えた短編連作。自分でも驚いたが、このシリーズは素晴らしい。

 第一話「やさしい魔法はつかえない。」――シリーズの一作目。魔法使い魔法の国などというファンタジィが現代に現実に存在するという舞台説明と、登場人物たちの紹介を兼ねた作品の尽き、語られている事件自体はわりと小振り。ちょっとしたミステリ仕立てになっているが、あくまでちょっとしたもので『ファウスト』第一号にこれが掲載されたときは僅かな失望を感じたことを覚えている。扉絵の「……なぜ、魔法はあるの?/……なぜ、変身するの?/……なぜ、大人になるの?/……なぜ、少女なの?」というキャッチコピィが素晴らしいものであっただけに残念だった。

 第二話「影あるところに光あれ。」――基本的に第一話と変わらない。一行目から犯人が指摘されており、ミステリ色はないに等しい。アクションパートも最初から見え見えの切り札で切り抜け、パターンも第一話と大差なく、拍子抜けの感は否めない。また第二話に至っては、主人公の性格の悪さが本当に極まって、吐き気すら抱いた。最悪な話だと思った。

 第三話「不幸中の災い。」――これを読む前に『ファウスト』第三号に掲載された第四話を読んだのだが、それはわりと面白かった。なので本書を手にとってみようと思い立ったのが、果たして大正解だった。第一話も第二話も今ひとつだが、第三話は素晴らしい。敵となる魔法使いの攻撃がパターンに富んでいて魅力的なのもさることながら、りすかの出番を減らすことでマンネリ化することを避けているのもポイントだ。……いや、他の何よりも特筆すべきは、228ページの上段だろう。待ち合わせに遅れた男女がよく交わす、何の変哲もないありふれた科白をまさかここに持ってくるとは、そしてそれがこれほどの効力を持つとは。またこれの前後も素晴らしかったし、最後の一行も思わず身が捩れた。いや、捩れはしなかったが。とにかく良かった。いーじゃん、いーちゃん

[][]イン・ザ・プール イン・ザ・プール - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - イン・ザ・プール - 雲上読記 イン・ザ・プール - 雲上読記 のブックマークコメント

イン・ザ・プール

イン・ザ・プール

 直木賞を受賞した『空中ブランコ』の前作となる、伊良部シリーズの一作目。本書も直木賞候補には挙げられたが、受賞はしなかった。オムニバス形式の短編集。毎回、一風変わった妙な病気を抱えた主人公たちが、伊良部総合病院の神経科の扉を叩くところから物語が始まり、伊良部によるとんでもない治療を経て、無事に完治するというのが基本的な構成。読みどころとなるのは、妙すぎる病を抱え心底、困り果ててしまっている主人公たちと、そんな彼らに接する伊良部の開き直った態度だろうか。テーマ自体は、ひょっとしたら真剣なものを取り扱っているのかもしれないが、筆致があまりに馬鹿らしく滑稽で、それが不思議な面白さを産んでいる。そう、本書を一言で形容すれば「面白い」に尽きる。

イン・ザ・プール」標題作となっている一編、身体の調子が悪くなり、それを克服するために運動……スイミングを始めた男の物語。初っ端からぶっ飛んでいる。傍目に見ても、泳ぐことに没頭するあまり、生活や人生がズタボロになっているのに、伊良部はそれを止めるどころか自らも水泳に嵌まり、主人公にそれを推奨してしまっているし。「なんなんだこれは」とはこのシリーズのためにある言葉か。

「勃ちっ放し」下品な題名ではあるが、内容を十全に表しているという点ではこれ以上にないタイトル。持続勃起症になってしまった男性が、どうにかして同僚の目を誤魔化したり、思いつく限りの工夫をして問題を回避していくのが面白い。他人事ではない。

コンパニオン」いもしないストーカーを感じ、重度の被害妄想に悩む女性が主人公。これは中々、面白かった。映画2LDK』が好きな人には、堪らなくお勧めな一作。素晴らしい。

フレンズ」これも素晴らしい。ケータイを手放せなくなり、一日に何百通も送らなくてはならない少年が主人公。色々と努力しているわりに友達とは上辺だけの付き合いだったり、目当ての女の子には歯牙にも掛けられず、ちょっと可哀想ではある。歪んではいるものの、努力をしている点は頑張っていると思うし、けして悪くはないと思う、辛いが。

「いてもたっても」煙草はちゃんと消してきたか、ガス栓はキッチリ閉めてきたか。家のことが気になっていてもたってもいられない男性が主人公。慌ただしい気配は伝わってくるものの、それは完全な杞憂なわけで、失笑が絶えない。この作品が本書に収録されている最後の作品なのだが、最後にちょっとした逆転があって、上手く締められていると思った。

 全体的にとにかく面白いのだ。基本的にはストレスを感じ、病というかたちになって現われ、ストレスが解消され病気がなおるというパターンなのだが、そのパターンをまるで感じさせないレベルの高い作りになっている。実に読後感が爽快である。

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撲殺天使ドクロちゃん〈3〉 (電撃文庫)

撲殺天使ドクロちゃん〈3〉 (電撃文庫)

 中学二年生の草壁桜くんにまとわりついて、ぴぴるぴしている天使――ドクロちゃんの物語。毎回、超絶ハイテンションで展開される撲殺空間だが、今回は今ひとつと言った感が強かった。短編連作。

「恐怖! 林間学校の怪だよ! ドクロちゃん!」これは電撃hpに掲載された作品で、掲載時に一度、目を通した。桜くんが想いを寄せている静奇ちゃんを大きく取り扱っているようで、実はそれほどでもない。

スポーツの秋だよ! ドクロちゃん!」これは今までの脇役を少しずつ使って、短編をひとつどうにかして捻り出したという感のある一編。おかゆまさきの作るキャラは、どれも個性が強いのでこういう使い方もできるが、勿体無いと思う。

「聖なる夜はメリークリスマスだよ! ドクロちゃん!」口絵の時点で「これは成年指定にしなくていいのか」と思ったが、危険な一編。南さんはマイペースで、無表情無感情萌えを狙い撃ちしたキャラかと思ったが、最後で「やっぱりおかゆキャラだな」と思わせてくれた。また、サバトちゃんの悪運具合が感極まっている。彼女はどうしてここまで悲運なんだろうか。

「また逢う日までだよ! ドクロちゃん!」最終話……と見せかけて、そうでもない。終盤までは完全にシリアスで、『ドラえもん』の最終回を意識したか! と思わせるほど丁寧な作りなのだが、最後の最後でやっぱりおかゆまさき。もうお前はどうしておかゆまさきなのかと思うぐらいおかゆまさき。これでいいのかと、これがエンターテイメントなのかと、これで本当に良かったのかと小一時間問い詰めたい

[][][]殺意の集う夜 殺意の集う夜 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 殺意の集う夜 - 雲上読記 殺意の集う夜 - 雲上読記 のブックマークコメント

殺意の集う夜 (講談社文庫)

殺意の集う夜 (講談社文庫)

 なんと言っても裏表紙のあらすじが傑作。「嵐の山荘に見知らぬ怪しげな人たちと閉じこめられた万里と園子。深夜、男におそわれた万里は、不可抗力も働き彼ら全員を殺してしまう。その後、園子の部屋へ逃げこむと、園子も死体となっていた。園子を殺したのは誰なのか。驚愕のラストまで怒涛の展開。」中でも注目したいのは「不可抗力も働き彼ら全員を殺してしまう」の部分。そう、主人公の万里は、お爺さんにセクハラされそうになり、そこからドミノ倒し敵に六人の男女を殺してしまうのだ。そして大量殺人犯となってしまった彼女は、園子を殺した犯人に自分の罪をもなすりつけようと画策する。掴みは正に十二分、これこそミステリなオープニングに思わずがっついてしまった。

 が、結論としては今ひとつ。最後の一行で、それまでの記述のすべてが引っくり返されるフィニシングストロークは、途中でなんとなく予感してしまいその効果を十全に発揮しなかったし、あまりに多くの伏線を(むしろ最終章に至るまでのすべてが伏線と言ってしまっても構わない)回収するために、終盤付近は説明に尽きてしまっていて、なんとなくグダグダしてしまった感がある。

 とは言え、嵐の山荘の内側から事件を語る万里と、外側から事件を追う刑事の三諸のふたりが、最後の最後で交錯する場面は圧巻だし、圧倒的な量の伏線を紡ぎそれを完璧に操りきっているのも素晴らしい。読書スピードが遅く、下手に邪推しないミステリ初心者にこそ相応しい一冊なのかもしれない。

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大極宮〈2〉 (角川文庫)

大極宮〈2〉 (角川文庫)

 大沢在昌オフィスホームページで週刊連載されている、作家三人の日記を文庫化したもの。前作では三人の日記ごとに別けられた三部構成になっていたが、今作は時系列順に三人のが順々に並んでいる。また縦書きが横書きになったのも大きい。やはり横書きで表示されることを意識して書かれている文章は、横書きで読むのが快適だろう。もう一点、一週間分の日記の後に三人によるチャット風の対談が入っているのだが、これが前作に比べて長めになっている。あるいは三つに分けられていた一週間が一箇所に纏まったからかもしれないが……いや、やはり長くなっている。思わず読み飛ばしたくなってしまうぐらいに長かった。ファンは嬉しいだろう。

 今回、目玉となるのは宮部みゆきによる『幻想水滸伝3』の先行体験記ではないだろうか。これは『幻想水滸伝3』が発売される前に、コナミホームページ上で週一で連載されたもので、イメージとしては「これからプレイする皆さんに、プレイした感触を実際にお伝えしますよ!!」といったゲーム雑誌コラム。で、これがえらい面白いのだ。自分はこのシリーズの1と2だけプレイしていて、外伝以降が未プレイなのだが、下手に部分的に知っているだけにとても面白く読めてしまったのだ。と言うか、これを読んで猛烈に『幻想水滸伝3』がプレイしたくなった。同様の感想は前作のときも思った記憶がある。宮部みゆきは本当にゲームが好きなのか、その文章にもゲームに対する愛が感じられる。それらを読んだだけで、自分もかつてゲームへそれだけの愛を注いでいたことを思いだし、それらを思い返したくなってしまうのだ。

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