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2004-06-01368-396

[][]輪廻ノムコウ 輪廻ノムコウ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 輪廻ノムコウ - 雲上読記 輪廻ノムコウ - 雲上読記 のブックマークコメント

 昔の仲間から連絡を受け来日した魔女の兄弟、アルベールとジルベール。仲間と会う少し前にアルベールは、人間の血を吸っている場面を、好奇心旺盛なひとりの女子高生に目撃されてしまう。面白半分、ふたりに付きまとった高校生たちはやがて、兄弟とそのかつての仲間たちの争いに巻き込まれてしまう。

 ホラー恋愛と今まで単発物の作品を書いてきた著者の最新作は、シリーズ物のアドベンチャー。現在と過去を交互に描くことで、主人公たちの苦悩や行動理由、交錯する人間模様を巧みに描いているが、そのため全体の話の流れが見えにくくなり、現在パートにのみ登場する高校生たちの魅力が薄い。口絵や挿絵、リアリティのある魔女や森の存在、そして何よりもその作風は、電撃文庫というレーベルが持っている破天荒さやいかなるジャンルにも分類できないような突飛なものではなく、むしろコバルト文庫講談社X文庫的な趣きに近い。(2004年04月・電撃文庫

[][]オーデュボンの祈り オーデュボンの祈り - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - オーデュボンの祈り - 雲上読記 オーデュボンの祈り - 雲上読記 のブックマークコメント

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

 コンビニ強盗に失敗し警察から逃げていたた伊藤は、目覚めると見知らぬ島にいた。江戸以来、鎖国を続けているその島の存在は誰にも知られておらず、妙な人間ばかりが住んでいた。太りすぎて一歩も動けなくなった女性、嘘しか言わない画家、地面に寝転がって心臓の音を聞く少女、騒々しい人間を撃ち殺す詩人。そして、未来を予見し、喋るカカシ。ある朝、そのカカシは首を奪われ全身をバラバラにされ殺されていた。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。

 第五回新潮ミステリー倶楽部賞、受賞作。あらすじからファンタジィ的なものを想像していたのだが、史実を織り交ぜたり、現代人である主人公に客観的な視点を与えることで、最低限のリアリティは保持されている。よく言えば慎ましいのだが、悪く言えば冗長で、人によってこの作品を駄作と思うかもしれない。「ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ。/島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」という島に伝わる言葉が、作品を通じて重要な意味合いを持っていて、それが何であるか分かったとき、そして個人的にそれが自分の好きなものであると気付いたとき、この作品の価値は飛躍的に上昇し、首切りの理由も満足がゆくものとなった。読者を選ぶ作品だろう。(2000年12月・新潮ミステリー倶楽部)

[][]トップラン&ランド完 トップラン&ランド完 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - トップラン&ランド完 - 雲上読記 トップラン&ランド完 - 雲上読記 のブックマークコメント

トップラン&ランド完 (幻冬舎文庫)

トップラン&ランド完 (幻冬舎文庫)

 音羽恋子は生後間もなく何者かによって連れ去られ、別の赤ん坊とすり替えられていたのか。1967年、一家の元を去った藤兵侍は何処に行ってしまっていたのか。『トップランド2002 戦士エピソード1』の結末は、一体何を意味していたのか。トップランシリーズ全六巻&トップランドシリーズ全三巻を統合し、残されていた謎を解き明かす完結篇。既刊九冊を読んでから手に取ってもいいし、この本からシリーズに入ってもいいという特異な一冊。

 トップランシリーズは、初めから全六巻という構成で始まり、無事に六冊全てを刊行することができたのだが、トップランドシリーズの方はそうではない。こちらに関しては著者曰く、自分が生きている限り永遠に続くとのことだったのに、それが全三巻で終わってしまったのは出版者の都合であり、平易な言い方をすれば打ち切られたということ。突然の打ち切りに対し著者は、トップランドシリーズの最終巻となる『トップランド2002』に、今後、盛りこむ予定だったネタの一切を注ぎこむという荒技を放った。その結果、長い間、このシリーズは伏線が張られるだけ張られて、そのまま終わってしまったという、何とも続きが気になる後味の悪いシリーズとなっていた。それが本書の発売によって、ようやく謎も解明され、気になっていた点にも答えが与えられ、一ファンとしてはようやく人心地ついた。『トップランド2002』を読んで続きが気になった人には、必読の一冊だろう。(2004年04月・幻冬舎文庫

[][]過ぎ行く風はみどり色 過ぎ行く風はみどり色 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 過ぎ行く風はみどり色 - 雲上読記 過ぎ行く風はみどり色 - 雲上読記 のブックマークコメント

過ぎ行く風はみどり色 (創元推理文庫)

過ぎ行く風はみどり色 (創元推理文庫)

 なんでも実家に祖母の霊を呼び出させようとしている霊能者と、そのインチキを暴こうとしている超心理学者が出入りしているらしい。猫丸の後輩、方城成一は母に助けを求められ、十年ぶりに帰宅した。しかし彼が喧嘩別れしていた祖父と再会を果たす前に、祖父は密室の中で殺されてしまう。犯人は家に憑いている悪霊――?

『日曜の夜は出たくない』に続く二冊目の倉知作品。猫丸先輩なる奇怪なお調子物が登場するという点は共通しているが、前作がわりとほのぼのとしていて、日常の謎を取り扱っていたり意欲的な作風を披露してきたことに対し、今作においては古典を思わせるガチガチの本格ミステリ。どちらかと言うと前作の雰囲気を望んでいたので、自分にとっては期待外れ。とは言えミステリ的には優れているし、ガジェットや展開からジョン・ディクスン・カーを連想させるらしいので、カーおよび海外ファンでも楽しめるかもしれない。(創元社文庫

[][][]カオス レギオン03 夢幻彷徨篇 カオス レギオン03 夢幻彷徨篇 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - カオス レギオン03 夢幻彷徨篇 - 雲上読記 カオス レギオン03 夢幻彷徨篇 - 雲上読記 のブックマークコメント

 ジークを討ち、ノヴィアを手に入れるために三人の刺客を放った聖地シャイオンの新領主、レオニス。しかしレオニスの思惑から外れ、刺客のひとり調香師フロレスは、他のふたりの追っ手、吸血医師アキレスと影法師トールの時間感覚を狂わすと、ひとりでジークの元に先行してしまう。フロレスの操る香りの持つ効果のひとつは忘却。時間の流れを忘却させ、敵と味方の存在を忘却させ、やがては自分が大切なものを忘れつつあることを忘却させる力……。互いに見分けのつかなくなった、ジークとノヴィアは、フロレスの策略のままに殺し合ってしまうのか。

 主人公が記憶を喪失するという物語は、ライトノベルに限らず世に多いが、この使い古された手をここまで鮮明に、そして斬新に使いこなせるのは、さすが冲方と言ったところか。他の多くのアクション小説がそうであるように、本書も登場人物のひとりひとりが必殺技を持っており、それをいかに工夫するかが見所になっている。しかし本書の場合、主人公がピンチになったときに新たな力に目覚めるなんて安易な方向には流れず、与えられた能力の方向性を的確に切り替えることによって危機を脱している。また、夜が訪れるたびに強制的に夢を見せられ、その夢の中で過去を回想するという二重構造を取っているのだが、その中にミステリ要素が含まれている。誰が誰を殺したのか、それは本当に正しい記憶なのか。――久々に読みながら手に汗を握ってしまい、最後にこんなに本を読んでいて興奮したのはいつだったろうかと記憶を探ってみれば『マルドゥック・スクランブル』を読んでいたときだと思い出した。恐るべし、冲方丁。(富士見ファンタジア文庫

[][]quarter mo@n クォータームーン quarter mo@n クォータームーン - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - quarter mo@n クォータームーン - 雲上読記 quarter mo@n クォータームーン - 雲上読記 のブックマークコメント

quarter mo@n(クォータームーン) (角川ホラー文庫)

quarter mo@n(クォータームーン) (角川ホラー文庫)

「わたしの Huckleberyy friend」謎の走り書きを残して女子中学生ふたりが投身自殺を図った。その一週間後には同じ中学の女性教師が、そのさらに数日後には四人の中学生が自殺をひとりが殺される。八人の死体の傍には、必ず謎の走り書きが残されていた。月の周期ごとに繰り返される自殺&他殺の理由は――?

 警視庁からお目付け役として派遣された女警部補と、叩き上げの巡査部長がコンビを組んで事件解決に奔走するというストーリィ。ほとんどの謎は序盤のうちに解き明かされてしまい、中盤以降は暴走する中学生たちとマスコミを、警察がどう抑えつけるかになってくる。角川ホラー文庫から出ているのだけれどホラーではなく、ミステリでもサスペンスでもない。筆致が気にいれば楽しく読めるかもしれないが、あまり掘り下げられていない人物でいつまでも話を繋げているため、冗長に感じた。子どもたちは最後まで主体性を持たず、大人たちもまた投げやりで打算的だった。もう少し後味をよくしても、良かったのではないだろうか。(角川ホラー文庫

[][]空ノ鐘の響く惑星で3 空ノ鐘の響く惑星で3 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 空ノ鐘の響く惑星で3 - 雲上読記 空ノ鐘の響く惑星で3 - 雲上読記 のブックマークコメント

空ノ鐘の響く惑星で〈3〉 (電撃文庫)

空ノ鐘の響く惑星で〈3〉 (電撃文庫)

 玄鳥の奇襲と第二王子レージクの包囲、ふたつの危機をその類稀な運の良さと持ち前の運動能力で回避した第四王子フェリオ。一時は外務卿ラシアンと共に王都を離れた彼だったが、政務卿ダスティアと師であるウィスタルを救うために密かに王都へと戻っていた。一方、神殿騎士団のリカルドはイリスたち来訪者(ビジター)との接触を果たし、即位表明したレージクの元にはベルナルフォンという下級貴族が怪しい動きを見せていた。

 二巻までにおいて絶大な存在感を放っていたラシアンとウィスタルはちらりとも姿を見せず、メインのヒロインであるリセリナの登場も少なかった第三巻。相変わらず、登場人物たちの幅を広げると同時に、世界観をさりげなく説明し、事態を着実に前へと進行させるその腕前は上手い。複数の主人公に視点を持たし、文字数を稼ぐライトノベルが多い昨今、数ある登場人物の中から何人かを選び、その内面を深く描く技は匠の領域。第四巻も楽しみ。(電撃文庫

[][]終わりのクロニクル3 中 終わりのクロニクル3 中 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 終わりのクロニクル3 中 - 雲上読記 終わりのクロニクル3 中 - 雲上読記 のブックマークコメント

終わりのクロニクル 3(中) AHEADシリーズ (電撃文庫)

終わりのクロニクル 3(中) AHEADシリーズ (電撃文庫)

 3rd-Gが抱えている穢れ、そのために今まで3rd-Gの武神とたったふたりで抗戦していた飛場・竜司と美影。しかし荒帝を召喚することのできる美影は、敵が待つ概念空間の中に連れ込まれてしまう。彼らを追うのは飛場と全竜交渉部隊(チームレヴァイアサン)の面々。一方、名が力を持つ2nd-Gの純血、月読・京は3rd-Gの自動人形たちに名前を与え、軍はUCAT本部へと乗りこみはじめる。

 一巻、二巻と上下分冊構成が続いていたが、この三巻に至っては上中下の三分冊。多い登場人物の把握と、複雑に絡みあう人間関係と、単純な分量とに飽き飽きすることが多かったが、今回はテンポよく読み進めることができた。その理由は、ワンパターンなギャグが回避されたところにあるのではないかと思う。戦闘における描写や、平和な日常なども、AHEADシリーズのそれと言うより、都市シリーズに近いものがあって、存分に楽しめた。(電撃文庫

[][]銀盤カレイドスコープ vol.1 ショート・プログラム:Road to dream 銀盤カレイドスコープ vol.1 ショート・プログラム:Road to dream - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 銀盤カレイドスコープ vol.1 ショート・プログラム:Road to dream - 雲上読記 銀盤カレイドスコープ vol.1 ショート・プログラム:Road to dream - 雲上読記 のブックマークコメント

 極悪な性格と毒舌、そして人並外れた美貌を有する桜野タグサは、16歳のフィギュアスケーター。練習では上手に滑れるのだが、本番では実力が出せず、ライバルの響子と比較されるなど記者から露骨に挑発され、逆上し嫌味をついてしまう。トリノ五輪への切符が遠ざかる中、彼女にカナダ人の青年の幽霊ピートが取り憑いてしまう。試合での失敗と、幽霊によるプライバシー侵害で彼女はスランプに陥り……。

 第2回スーパーダッシュ小説新人賞、大賞受賞作。フィギュアスケートという非常に珍しい競技を、題材にしているところが面白い。メインとなっているのは、フィギュアスケートの美しさや魅力を伝えるところではなく、主人公タズサの成長。前半はピートにトイレや風呂を覗かれることを恥じたり、大会での失敗を当り散らすだけだが、後半においては勝利を手にいれ五輪への切符を掴むために励みはじめ、ちょっとしたスポーツ物になる。試合のシーンでは、緊迫感を残しながらスケーティングしている最中の選手としての楽しさを、テンポよく語っており、不思議と白熱する。(集英社スーパーダッシュ文庫

[][][]肉食屋敷 肉食屋敷 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 肉食屋敷 - 雲上読記 肉食屋敷 - 雲上読記 のブックマークコメント

肉食屋敷

肉食屋敷

 日本ホラー小説大賞短編作家による短編集恐竜を現代に蘇らせようとした科学者は、誤って恐竜の滅亡の原因となった、地球に衝突した隕石を分析し地球外生命体を復元してしまった「肉食屋敷」、人間の身体でさえ機械の道具と化し、死体が商品として取り扱われている腐敗した遠未来を描いたSF「ジャンク」、妻に当てた三通の手紙、未来から過去へと三通の手紙を遡る中、少しずつ狂気が見え隠れする「妻への三通の告白」、主人公は自らの中に眠るもうひとりの人格に脅えている、彼(彼女)は主人公が眠っているときにだけ目を覚まし様々な凶行を働く……「獣の記憶」、以上の四篇からなる。

「肉食屋敷」小林泰三の本領が存分に発揮されている一篇。陰鬱とした心象・風景描写から緩やかに異界に入りこみ、一息に広げた翼で読者を包み込み、闇の中に突き落としてしまうように、容赦がなかった。久しぶりに読んだと言うこともあり、ちょっと夜が恐くなりそうだ。「ジャンク」人造馬と人面租から『吸血鬼ハンターD』を思いだした。あれと比べると格段に頽廃的で腐敗臭が漂っているけれど、ミステリ要素も含んでいて、面白かった。「妻への三通の告白」構造としては面白い。まず最初に三通目の手紙があって、次が二通目で、最後に一通目の手紙。当然、一通目の手紙には様々な謎への解答が書いてあるわけだけど、そのパワーが弱い。前二作が良かったものだけに、やや残念。「獣の記憶」は序盤が退屈だったが、最後の解決編および最後の一行の攻撃力が絶大。なるほどなるほど、そう来たかと。

[][][][][][][][][][][][][][][]本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 本格ミステリ04 二〇〇四年本格短編ベスト・セレクション - 雲上読記 のブックマークコメント

 2003年に発表された短編小説と評論のアンソロジィ。『01』『02』『03』に続く四回目となる今回は、十二作からなっている。

 横山秀夫「眼前の密室」調和的で完成度の高い作品。「終身検死官シリーズ」というシリーズにおける一冊であるためか、登場人物の説明も特になく、いきなり始まってしまうのには閉口したが、難なくまとまっていると思う。青木知己「Y駅発深夜バス」これは中々、面白かった。第一部では深夜バスの持つおどろおどろしさを、ホラー小説的な手法で描いているのだけれど、これが第二部に入ると一転、見事なまでにミステリの中に組み込まれてしまう。手際よく謎が解体されていく様と、最後の一文に静かに震えた。鳥飼否宇廃墟と青空」密室トリックは充分に練られているし、解決編の場面も実に雰囲気が出ていてよかった。けれど、ロックについて語りすぎなのと、動機が不鮮明なのが珠に瑕。法月綸太郎「盗まれた手紙」登場人物の名前がカタカナであったことに加え、徹夜明けの妙に高いテンションと眠気がすれ違ったときに読んでしまったので殆ど頭に入ってこなかった。手紙を盗み出す方法は、面白かった。芦辺拓「78回転の密室1930年代を描いているのだけれど、それが抜群に上手い。乱舞する漢字は、意味の分からないものばかりだが、雰囲気を盛り上げるのには一役も二役も買っている。事件の真相も、どこか哀愁漂うもので実に良かった。石持浅海「顔のない敵」対人地雷を取り扱った社会派。作者の主張が確かにそこにあって、威力のあるブローだった。柄刀一「イエローロード」これには骨抜きにされた。田舎のバス停で一日に三本しかないバスを待っていたら、隣に腰掛けた老人が「ちょっと私の話を聞いてみませんか」と何気ない仕草で語り聞かせてくれたような物語。押し付けがましくないさりげない筆致に、整然とした推理が犯人へと導く鮮やかな手腕に、そして朴訥な好意とに、乾杯したいぐらいに良かった。東川篤哉「霧ケ峰涼の屈辱」はははは、これは面白い。カープファンでミステリマニアの主人公による一人称は、お茶目な学生らしさに満ち溢れていて、読んでいて何度も笑ってしまった。この主人公は今まで読んできた学園ミステリの中では、一番、学生らしい。親近感が持てる。トリック自体もやや不自然だけれど、なるほどと頷けるし。良かった。高橋克彦「筆合戦」この作品には、山ほど伏線が敷かれているのだが、見事なのはそれが伏線であると見抜けないようになっている点。最後の最後で、まずそれらが伏線だったと明かされ、さらに全ての伏線を束ねあげてひとつの真実を示すのだが、その様が巧みすぎる。匠の領域。北森鴻「憑代忌」これは難解だった。あまりにミステリ然としていて、ミステリとしては評価できるけれど、ひとつの短編としてはやや力不足なのではないかと思う。アプローチも短いし、もう少し長く読みたかった。松尾由美「走る目覚まし時計の問題」いいねいいね。そろそろのほほんとした日常の謎が欲しいなと思っていたら最後で来た。発表順の収録だから偶然なんだろうけれど、最後にこれが来たのは良かったと思う。面白かった。波多野健「『ブラッディ・マーダー』/推理小説はクリスティに始まり、後期クイーンボルヘスエーコ・オースターをどう読むかまで」難解。タイトル通りのことが書かれているわけだが、てんで分からなかった。残念。(講談社ノベルス

[][][]Hyper Hybrid Organization00-01 訪問者 Hyper Hybrid Organization00-01 訪問者 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - Hyper Hybrid Organization00-01 訪問者 - 雲上読記 Hyper Hybrid Organization00-01 訪問者 - 雲上読記 のブックマークコメント

Hyper Hybrid Organization 00‐01―訪問者 (電撃文庫)

Hyper Hybrid Organization 00‐01―訪問者 (電撃文庫)

 新たな若頭を決める組の勢力争いに敗れた速水敬介とその片腕、高杉一也。斜道組内における地位が揺らぐ中、速水の元を初代組長の息子、宮内志郎が訪れる。風来坊の宮内は、アスラ細胞を研究している三人の遺伝子工学者を連れてきていた。速水を窮地から救うために宮内が考え出した奇策とは、そして三人の医学博士の正体は。

 悪の秘密結社ユニコーンの誕生を描く前日談的な外伝シリーズ、その一巻。登場人物はヤクザや姐御肌の女医など、おおよそライトノベルらしくない雰囲気のキャラが揃っている。ストーリィの展開も、任侠以外の何物でもなく、ひたすら渋く燻しのあるものになっている。勿論、相変わらずの構成力と文章力も健在で、レベルの高い小説に仕上がっている。普段、ライトノベルを手に取らない人でも、時代物が好きなら一読の価値はある。(電撃文庫

[][]機械仕掛けの蛇奇使い 機械仕掛けの蛇奇使い - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 機械仕掛けの蛇奇使い - 雲上読記 機械仕掛けの蛇奇使い - 雲上読記 のブックマークコメント

機械仕掛けの蛇奇使い (電撃文庫 (0916))

機械仕掛けの蛇奇使い (電撃文庫 (0916))

 権力を欲しいがままにするのではなく、ただ平和の象徴として座しているだけを求められる皇帝。十七歳の皇帝ローティフェルドは面倒な伝統や義務に追い立てられるのを嫌い、ただ骨董品を愛でていられる時間が好きだった。ある日、彼は千年前に封印された“闘争と破壊の化身”ルルド・バイパーを解放する実験を執り行なう決意をする。

『電撃hp SPECIAL』に掲載された「虚無を心に蛇と唱えよ」に加筆修整を加えたファンタジィ。何人かのキャラクタの名前、バイパーの性別、結末などに変更が加えられている。特に結末は、雑誌掲載版がグッドエンド的なものであったのに対し、文庫版はトゥルーエンド的なもので、より深みが増している。また文庫化されたことで入った挿絵の中でも、最初と最後の挿絵因果関係は、きれいにまとまっている。とは言え、初期の上遠野浩平が持っていた青春小説的要素はなく、『冥王の獣のダンス』と、徳間デュアル文庫の「虚シリーズ」の中間に位置するような雰囲気の作品。単発作品を手っ取り早く読みたい人には、いいかもしれない。(電撃文庫

[][]GOSICK2 その罪は名もなき GOSICK2 その罪は名もなき - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - GOSICK2 その罪は名もなき - 雲上読記 GOSICK2 その罪は名もなき - 雲上読記 のブックマークコメント

 外出許可がなければ学園から一歩も出られないヴィクトリカ。彼女に好意を持っている留学生の九城一弥は、退屈を払拭する謎を求めるヴィクトリカに、ある新聞の記事を見せた。その晩、学園を脱け出そうとしているヴィクトリカを見つけた一弥は彼女を止めようとするか、強引な彼女に引きずられ山奥の村にまで連れて行かれてしまう。外界から閉鎖された、その孤独な村では、ある祭が執り行なわれようとしていた。

 前作と比較してサスペンス的な要素は少なくなっているが、萌えミステリは大きく上昇している。特に〈名もなき村〉の正体は、ミステリ的な定番で期待通りに決めてくれて大いに満足した。ストーリィ的な前進もあったし、一作目が楽しめれば二作目も期待できる作品だと思う。またイラストも特筆したい。ゴシックファッションや長髪から背景まで、緻密な描きこみは、ストーリィを盛り上げるのに一役も二役も買っている。(富士見ミステリー文庫

[][]ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!? ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!? - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!? - 雲上読記 ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!? - 雲上読記 のブックマークコメント

「もし女性にモテる能力というのが男に備わっていて、それが偏差値のように示せるとすれば、自分はきっと三十を割らないまでも、四十を上回ることはあるまいと思っていた」――高校生の絹川健一は、ある日、一度も話したことのないクラスメイトに呼び出され愛の告白を受ける。次に会った時に返事をすると言って別れた帰り道、健一は道端に倒れていた不思議な女性と出会い、彼女の部屋にお邪魔し……。

 本書の評価は、読み手によって大きく分かれるだろう。作中の出来事を虚構と割り切ることのできる人間ならば、本書を新しい視点からの恋愛物として読めるかもしれない。しかし、作中における主人公と同じく、自身のモテ偏差値を低く捉えている男性や、恋愛小説に甘く切ないロマンティシズムを求めている人には、やや新しすぎて不向きと言える。著者のもうひとつのシリーズ『DEAR』と異なりゲームライクな要素は、一切、含まれず恋愛のみで構成されているので、ミステリを求めている人は注意が必要。(富士見ミステリー文庫

[][]届かぬ想い 届かぬ想い - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 届かぬ想い - 雲上読記 届かぬ想い - 雲上読記 のブックマークコメント

届かぬ想い (講談社ノベルス)

届かぬ想い (講談社ノベルス)

 最愛の娘は誘拐されたまま戻ってこず、最愛の妻もまた娘を失ったことに絶望してか自ら命を絶ってしまう。「ぼくは、きみとこれから生まれてくる子供を命を懸けて守る」というプロポーズの言葉が、残された小早川嗣利を縛りつける。届かぬ想いを届けるために、彼が取った最後の手段とは、時を駆ける機械、タイムマシン。そして彼の前に立ちふさがるは、タイムパラドックスという壁。

 羽住都による表紙イラストと、届かぬ想いというタイトルから、感動系の話を想像していた。てっきり映画の『タイムマシン』のように何度も過去に舞い戻って、娘と妻を救おうとする話なのかと思いきや、そういった派手な場面は少なく、堅実にそして地味に進んだ。それで恋愛物に終始するのかと思いきや、最後の最後で謎解きが始まって、思わぬ結末とそのいびつさに思わず震えてしまった。読後感が非常に悪く、何とも悪趣味なのだ。これが届かぬ想いの正体なのかと、これが表紙イラストの真意なのかと。感動系の話を期待して読むと、とんだしっぺ返しを食らうだろうと言っておく。

[][]第四の扉 ツイスト博士シリーズ 第四の扉 ツイスト博士シリーズ - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 第四の扉 ツイスト博士シリーズ - 雲上読記 第四の扉 ツイスト博士シリーズ - 雲上読記 のブックマークコメント

 オックスフォード近郊に建つダーンリー家の屋敷に、自称霊能力者のラティマー夫妻が越してくる。その後、行われる交霊会、現れる夫人の幽霊、失踪する息子、そして密室殺人……。コニャック・ミステリ大賞受賞作。

 密室殺人幽霊屋敷・交霊会・分身・奇術・等々、ディクスン・カーを強く連想させる作風を持つ、ポール・アルテによる、ツイスト博士シリーズの一作目。本の四分の三が事件の描写で、ツイスト博士は一瞬も登場せず、やや冗長。逆にラスト四分の三は、必然性のあるメタ構造に加え、博士の鮮やかな指摘が見事で一気に読みきってしまった。カーの著作を一冊も読んだことがないので、どの当たりが類似しているのかは分からないが、オカルトミステリに終始する展開は、ストイックミステリ作家らしいと思った。

[][]少年計数機 池袋ウェストゲートパーク2 少年計数機 池袋ウェストゲートパーク2 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 少年計数機 池袋ウェストゲートパーク2 - 雲上読記 少年計数機 池袋ウェストゲートパーク2 - 雲上読記 のブックマークコメント

少年計数機 池袋ウエストゲートパークII (文春文庫)

少年計数機 池袋ウエストゲートパークII (文春文庫)

 池袋を舞台に、トラブル相談屋として名を馳せているマコトと、彼が巻き込まれた事件を描いた短編連作の第二巻。インターネットの覗き部屋のアイドルとそのストーカーを巡る「妖精の庭」。絶えず目に入るものの数を数えるヤクザの息子の誘拐事件「少年計数機」。七十過ぎの老人とタッグを組み、引ったくり事件を解決する「銀十字」。女子高生監禁事件と大人のパーティ潰しが相手の「水のなかの目」。

 相変わらずのぶつ切り短文と断章構成だが、前作である程度だが慣れているので、すんなり入っていくことができた。後半の二篇は、ドラマ化に間に合わなかったのか、自分の知らないストーリィだった。特に「水のなかの目」は素晴らしかった。これまで散々、リアリティを説いておきながら、今ひとつ現実感に薄かった作品群の中で、この一篇に含まれる死の味は鮮烈で凄惨。取り扱っている事件の性質も、現実にあったものに即しているし、問題点への指摘もしっかりとしていた。

[][]探偵儀式1 探偵儀式1 - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 探偵儀式1 - 雲上読記 探偵儀式1 - 雲上読記 のブックマークコメント

探偵儀式 (1) (角川コミックス・エース)

探偵儀式 (1) (角川コミックス・エース)

 浮気調査や迷子のペット探しから解放され、殺人事件は必ずJDC立ち合いのもとに捜査しなければならないというシステムが作られた探偵歴2290年。その時代、警察は捜査をJDCに丸投げすることに慣れ、JDCは密室や首切りなどの事件しかやりたがらず、むしろ芸能界ミステリ小説界での活動に力を入れていた。そんな中、生まれながらの探偵たちによって構成されるボランティア探偵倶楽部(BDC)という中学生の三人組が現れる。BDCがJDCに先駆けて、そして無料で事件を解決していく中、探偵開祖を名乗る謎の人物から世の探偵たちに探偵儀式への招待状が送られる。

 清涼院流水が原作を、大塚英志が原案・脚本を、そして箸井地図漫画を担当しているコラボレーションにしてJDCトリビュート。後書きを読む限りでは、清涼院流水大塚英志のふたりが、本書のテーマに「反則」を挙げ、とにかく反則しようと心掛けているのに対し、箸井地図が頑張ってストーリィを収拾しエンターテイメントさせようとしているらしい。太田克史・笹山徹・N月R太郎といったキャラが登場したり、JDCの探偵たちが原作から掛け離れていたり、BDCの探偵たちはJDC以上に突飛だったり……ストーリィも世界観も全部、破天荒で支離滅裂で意味不明なのだけれど、それでも面白いのはきっと、匙加減が絶妙だからだろう。

[][]左巻キ式ラストリゾート 左巻キ式ラストリゾート - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 左巻キ式ラストリゾート - 雲上読記 左巻キ式ラストリゾート - 雲上読記 のブックマークコメント

 目が覚めたときユウがいたのは、12人の少女たちが生活する学校だった。記憶をなくしていたユウは、生徒にして理事長に日本刀で脅され、連続強姦事件の犯人レイプマン=トーチ・イーターを探すように命令される。外部から隔絶され、学校だけしかない狭い世界の中で、ユウは被害者となった少女たちと会い証拠を集める。果たして犯人は誰なのか、そしてこの世界は何なのか。

 テーマそのものは作りこみが甘く、まだまだ余地があるのだが、構成とデザインに飛びぬけたものがある。まず構成。前半は捜査と称してトーチ・イーターが被害者の女の子たちに行ったのと同じ行為を繰り返し、ある種の追体験を取り入れている。後半ではユウとトーチ・イーターはほぼ完全に分離し、一気にミステリ色とサスペンス色が濃くなっている。次にデザイン。これは凄まじい。文字の大きさや濃さ、フォントの変更は勿論、背景に文字を入れたり、手書きで書き込んだりしてたりするのだ。『紙葉の家』をはじめ、デザイン的に凝った本を今までに何冊か読んできたが、本書のそれはかなり挑戦的で前衛的だ。アダルト小説なので読者を選びはするが、セカイ系ファウストなどのエンターテイメントを研究しているならば必読だろう。

[][]嘘つきは妹にしておく 嘘つきは妹にしておく - 雲上読記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 嘘つきは妹にしておく - 雲上読記 嘘つきは妹にしておく - 雲上読記 のブックマークコメント

嘘つきは妹にしておく (MF文庫J)

嘘つきは妹にしておく (MF文庫J)

 ある日、ヨシユキは鞄の中に見覚えのない本を見つけた。登場人物と幾つかの科白以外は、何も書き込まれていない未完成脚本。謎の本を捨てようとすると、彼の前に「本の妖精」を名乗る不思議な少女が現れる。彼女はバラバラになった物語を集めてほしいと頼みこみ、ヨシユキは脚本を完成するために失われたページを持つ人々を探し出すことに……。

 妖精=みど=妹は特に萌えないし、失われたページを手に入れる上で派手なシーンがあるわけでもない。最後は切なさを漂わせながら読者を感動へと導く、静かな筆致で締めており、余韻も楽しめる。可もなく不可もないエンターテイメントと言ったところ。多少、瑕疵があっても派手で思いきりのいい作品を求めている人には不向きだが、堅実に構築され確実に楽しめる作品を求めている人には向いているだろう。

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お葬式 (角川ホラー文庫)

お葬式 (角川ホラー文庫)

 主人公は大学受験を間近に控えた女子高生。ある日、父を失った彼女は、母親の指示に従い、先祖伝来の弔い方で父親を弔うことになる「お葬式」。新米フロントマンの杉野は、ホテルに伝わる怪談に脅えながらトラブルを処理していく「ホテルエクセレント怪談」。無言電話に困っていた西田直人はある晩、交通事故に遭遇しゾンビとなってしまったバイトの後輩を部屋に泊めることになる「十二月のゾンビ」。恋人を殺してしまった主人公は、山奥で不思議なお寺に迷いこむ「萩の寺」。東ヨーロッパ原発事故が発生したのを知った鳥山は、大学中の知り合いにそれを言いふらして不安感をあおる「心地よくざわめくところ」。

 第6回日本ホラー小説大賞短編賞、受賞作を標題作に、四篇の書き下ろしを加えた短編集ホラーと言えば、大抵はおどろおどろしい作風で、異様な物語と奇々怪々と綴るものだと思っていた。まさかこんなに爽やかで、心地よいホラーがあるとは思ってもみなかった。標題作の「お葬式」は、ちょーテキトーな感じの女子高生による一人称で、語られている内容は不気味なのに、その筆致はあまりに軽く、あっけない。他の四篇も、事件そのものはホラーで恐怖を感じるもののはずなのに、あっけからんと書かれているため、読んでいながら笑ってさえしまう。軽いタッチに加え本当に短いので、非常に読みやすかった。

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 貧乏退魔師の菊名隆生は、幽霊屋敷の調査依頼を不動産屋から勝ち取って、アパートに家賃を払わずに住むことになった。はたしてアパートには幽霊と、伊勢滋也と楓という兄妹が住んでいた。数日後、うさんくさい霊能力者が現れ、アパートに巣食う幽霊を退治するという。しかしその霊能力者は……。一方、村西結宇は国内最大のテーマパークに、怪しい男たちに追われているところを、伊勢楓に救われ……。

 八百万の神々の戦争を描いた『月と炎の戦記』の続編……という位置づけになるのだろうが、ライトノベル色が大幅に増している。主人公はバイトで生活するのではなく、退魔師にこだわって貧乏しているし、現代社会に復活した月読と楓のふたりは、限定的な空間でしか神の力を揮えないようだし。典型的な現代ファンタジィと言える。さらに第四章からは、それまでの文脈にまったく関係なく、怪しげな組織が現れ、さらにライトノベル色が高まっている。盛岡浩之のSF作品が好きな人には、不向きなシリーズかもしれない。

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七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)

 同じ一日を九回繰り返し、最後の一回が決定版となる――主人公の大場久太郎は、そんな不思議な症状「反復落とし穴」を持つ高校一年生。毎年の正月、彼は、一代で成り上がった渕上零治郎の屋敷を訪れ、兄弟や従姉妹たちと共に後継者の指名を待つことになる。今年も同じように祖父の家を訪れた久太郎だったが、なんと祖父が何者かに殺されてしまう、そしてちょうどその日、彼は「落とし穴」に嵌まってしまい、祖父を救うために九回の繰り返しを行うことに……。

 俗に言う同じ一日を何度も繰り返すタイプの作品、ただしその回数は九回と決まっている。主人公は毎回、犯人らしき人物を拘束し、祖父を殺させないようにするのだが、その度にその人物の以外の誰かが犯人になってしまうという捻りが効いている。しかも本書は、ただのシステムが面白いだけの小説に留まらず、しっかりミステリしているし、ラストにはどんでん返しも待ち受けている。時間物が好きな自分としては、同じ日を繰り返すというだけで高評価なのに、思わぬミステリまであって本当に楽しめた。冗長になるのを避けるために、コメディやラブを取り入れているのも良かった。

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星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 月面で真紅の宇宙服をまとった死体を発見される。調査の結果、驚くべきことにその死体は、五万年前に死亡しているのだった。果たして謎の死体の正体は、月面にその死体があった理由は、その死体は本当に五年前からそこにあるのか。

 傑作である。本書は素晴らしい。――「巨人たちの星」と呼ばれる四部作の一作目で、シリーズの中もっともミステリ色が高く、同時にSFとして傑作。月面にて発見された死体科学的に分析する場面は、非常にリアルでSF色に富んでいるのだけれど、本書の素晴らしい点はそこではなく(SFファンにとってはそここそが読みどころかもしれないが)、すべての証拠が集まった時点で明かされる死体の正体と、そこから導き出される今日の現代世界の存在性である。あらゆる伏線を回収し、謎のすべてに整合性のある解を与え、これ以上はないという夢のある解釈、そして儚くも哀しい結末。終盤に至るまでSF色が濃いのだが、壮大な物語やミステリが好きな人は諦めずに最後まで読んでもらいたい。ラスト数ページの盛り上がりは、呼吸数を減じさせ、瞬きすらも封印する。

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悪の恋愛術 (講談社現代新書)

悪の恋愛術 (講談社現代新書)

 自分がエゴイストであることを認め、「いい人」であることを捨てなければ真実の恋愛は生まれない――。プレゼント術から嫉妬の有効活用法まで、芳醇な過日を得るための方法論を満載。(表紙より)

 題名の通り、本書は恋愛の方法論について書かれたものだけれど、実にあくどい。打算的で計算に満ちており、誰もが無抵抗に信じている愛や恋というものを、徹底的に解体し尽くしてしまっている。この徹底ぶりには、快感を感じるぐらいだ。プラトニックなラブを信じている人には、完全に向かないだろう。ある程度、現実の恋愛を知っていて、その上で様々な術を知りたい人向けの一冊だ。

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第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

 サハラ砂漠南極大陸、ヒマラヤ山脈、海中――数々の極限環境下で建設を物にしてきた御鳥羽総合建設に、月面開発計画が依頼される。2025年、御鳥羽総合建設・天竜ギャラクシートランス社・エデンレジャーエンターテイメント社、幾つもの人々が協力しあい、人類の、月への架け橋を築く。

 SFを根底にライトノベルの手法を取り入れており、セカイ系ではない。本書を一言で説明するとそうなるだろう。最初から説明しよう。まず2025年という近未来を取り扱っているのだが、世界観が非常に緻密で現実的。しっかりと社会の情勢――日本は勿論、日本以外の国家もその特徴を抑え不自然にならない程度に――を捉えており、さらに金銭面も考えられている。場所によってはやや不自然に思わないでもないが、検証が多く、全体に隙がないと言えるだろう。次にライトノベルの手法を取り入れていると言うのは、登場する人物がちょうどいい具合にキャラクタライズされているのだ。努力屋で理想を高く掲げているものの冷静な主人公、幼くして天才と呼ばれる美少女、孫のよき理解者であり理想的な会長、部下思いで夢を現実にすることにひたすら熱い社長、現実的で損得勘定に有能な美女、その他大勢。もうこれ以上は無理というぐらいなまでに有能な人物が揃いに揃っている、しかしこれだけ魅力的な人物を揃えておいてなお、月の環境は苛烈を極め、発生確率数パーセントの異常事態が発生し、世間からバッシングを食らい、他国に参入され、もうとにかく泣きっ面に蜂なのだ。しかしそれでも彼らは諦めず前へと進み、月に人が住める建物を建てようと努力する。読みながら、どんどん作中に引きずり込まれ、終盤にあった大きな企画が成功したときには思わず泣きそうになった。今すぐに後編を、そして他の著作を可及的速やかに読みたいと思わせる、間違いなく傑作。

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六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

 その学校には三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が選ばれ、学園祭で特殊な劇を行うという風習があった。サヨコの伝説は謎に満ちており、誰もそれが行われる真相を知らない。そして「六番目のサヨコ」が誕生する年、津村沙代子という転校生が現れた……。

 所々に光るものはあったと思うけれど、全体的に不完全燃焼で、膝を打って面白いと言えるほどではなかったと言うのが正直な感想。確かに春夏秋冬を通して、高校三年の一年を描くその力量は見事だったし、青春というものが確かにそこにあったような気がするけれど、下手にホラータッチにせずにそれに徹した方が良かったのではないかと思う。でも、やはり、本書はサヨコ伝説があったからだと映えたのだと思わないでもない。……難しい。楽しめる要因は充分に揃っていたのに楽しめなかった。残念。

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10センチの空

10センチの空

 大学卒業して、何になりたいか。未来に対し漠然とした恐怖は感じるが、何か行動を起こすほどの気力はない。大学四年生の敏也は、就職活動に専念することもできず、日々を曖昧に過ごしていた。ところで敏也には、他の人は持たないちょっとした能力を持っている。彼は十センチだけだが、空を飛ぶことができるのだ。

 質素だがセンスのいい装丁に、分厚くなく、普遍的なテーマを取り扱っていて、深くはないが、薄いわけではない。クリスマスプレゼントにできる本を目標に作られたと聞いて頷ける、丁寧な一冊。しっとりとした感動系だ。主人公が十センチだけ空を飛べることが明かされ、彼がどういった経緯でその能力を身に着けたか、その未熟な能力は何のためにあるのか。様々な謎が錯綜し、後半は一気に読めるが、逆に前半は徹底的に冗長な上、気取って書かれているから、本を読みなれていない人には放り投げられてしまう可能性がある。中々、難しい。

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