茗荷丸読書記録 RSSフィード

2005-05-21博士の愛した数式

博士の愛した数式

■博士の愛した数式(小川洋子)


図書館で予約を入れたとき予約待ちが200番目くらい。ようやく読むことができました。

各所でべた褒めの『博士の愛した数式』ですが、私はまずとまどいました。ちっとも小川洋子さんらしくないのです。

これまでのようこりん勝手にそう呼んでます)の作品ならば、ちいさな存在である「わたし」が博士の(悪魔の囁きに似た)数学の世界に美しく呑み込まれてしまう、といった話になるはずです。

でも違う。

「わたし」と博士との間には個人対個人の関係が貫かれ、「わたし」はいつまでも「わたし」であり、博士もずっと博士のまま。なのにそこによそよそしい冷たさはなく、儚くも深い交流が確かにあります。

私は随分とようこりんの作品を読んでいますが、こんなのは初めてです。

また、粗さも目だちました。

これ以前のようこりん作品はおしなべて、精巧に作られた工芸品よろしく、一分の隙もありません。

しかしこの作品では「わたし」のかつての恋人放置プレイだし、博士と義姉の関係もあやふやな記述のままです。ラスト部分もちょっと性急に感じました。

それでも、それでも本屋大賞に選ばれるだけのすばらしい物語です。

そして、ようこりん改新の野心作でもあります。闇を覗き込む/闇に吸い込まれるのではなく、闇を抱えた人間をおもんぱかり、そのような人と適切な距離を保って幸せにもっていくか、という、平凡にして底の知れないテーマにようこりんは一歩足を踏み込んだのです。

闇に耐えきれず、自殺に話を持っていく著者はあまたいます。それを(設定の妙があるとはいえ)ハッピーエンド(?)に持っていったようこりんの手腕は大したものです。

トラックバック - http://book.g.hatena.ne.jp/gennaio/20050521