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2011-02-28

ゴーゴリ「外套」

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外套

ゴーゴリ

平井 肇 訳

岩波文庫

友達のブンさんがロシア文学を読み始めたというので、胸にふつふつと懐かしさがわき上がって、大昔に読んだ、そして今も大好きな、ゴーゴリの「外套」を本棚の奧から引っ張り出してみる。これはうだつの上がらない万年9等書記官のアカーキイ・アカーキエヴィッチの物語である。

「或る省の或る局に・・・併し何局とはっきり言わない方がいいだろう。おしなべて官房とか聯隊とか事務局とか、一口にいえば、あらゆる役人階級ほど怒りっぽいものはないからである。今日では総じて自分一個が侮辱されても、なんぞやその社会全体が侮辱されでもしたように思いこむ癖がある。」-本文より引用

冒頭の引用だけでロシア文学であることが分かるほど、ロシア文学にはその文体に特徴がある。とにかく、何を描写する際にも、微に入り細を穿っているのである。このようなごく微少な砂粒のようにも思われる一つひとつの言葉を膨大に集めることによって大きな精密画が描かれる、ロシア文学はそんな感じがする。一つひとつの言葉が愛おしくなる。

この話はそれ自体も大変好きだが、この訳文がとても良い。訳文に使用してある漢字一つひとつ、言い回し一つひとつの細やかさを充分堪能して欲しい。日本語が本来のまろやかさを失っている今日ではなかなか味わえない文章だ。

これは1938年の初版である。あの時代だからこそできた訳文かもしれないと思うと、ちょっと悲しい。それとも、今以てこの本が出版されているということに幸運を見いだすべきか。