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2004-10-11『なおかつ、お厚いのがお好き?』

『なおかつ、お厚いのがお

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ISBN:4594047920

前編『お厚いのがお好き?』の時点では出るかどうか分からなくてちょっと不安だった後編。出て良かった。ふたつ並べると表紙の色が『ノルウェイの森』みたいで、ねらってます*1

誤植が多かったり、編集の面で粗も目立つ(絵と字の配置や関係性、配置*2が投げやり)し、例えの点でも前編よりちょっとパワーダウン(特にこの本の最初の方。ちょうど番組としては中だるみだったのかな)している感が否めないけど、取り上げる本が魅力的なので十分楽しめた。企画・構成の小山薫堂と富増章成(書籍版哲学監修者)の対談もついていてお得。

以下、哲学素人の感想。

全冊感想

凡例:◎…ぴったりだ!/○…なるほどー納得/△…関係…ある?/×…全然関係ないじゃん

  1. ケーキで読み解くマルクスの『資本論』△
    • 「ケーキ」=「景気」としょっぱなからダジャレで読者をがっかりさせるけど、『資本論』の内容の解説はわかりやすい。やっぱり人間ちょっとだけ働いて、あとはみんなで遊んで暮らしたいよなぁ。*3しかしなんで『資本主義の欠点とその克服法』みたいなタイトルにしなかったのか。
  2. お茶で読み解くユングの『人間と象徴』×
    • 「緑茶、紅茶、ウーロン茶、結局ぜーんぶお茶」「シンクロニシ茶(ティー)」またダジャレですよ…中身はふつうに紹介してあるけど、ユングはやっぱりトンデモ*4だなと思いました!
  3. 宝くじで読み解くウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』△
    • 「意味のある言葉=宝くじが当たった事実/意味のない言葉(語り得ぬこと)=宝くじが当たったら~しよう」という例えなんだけど、うーん? 「私が最後の哲学者である」っていうせりふはかっこいい。でもなんだか後出しじゃんけんみたいでもある。ちなみに世界と言語の関係については、ソシュールを連想したけど、google:ソシュールとウィトゲンシュタイン自明すぎて話題にもならない?/ISBN:4788503727を読むしかなさそう?
  4. グルメで読み解く、デカルトの『方法序説』△
    • これはそもそも科学の基礎なわけで、グルメに限らず、どんな物にも応用可能なんでは…。蘊蓄コーナーの「デカンショ」の起源(デカルト・カント・ショーペンハウアー)が最大の収穫。
  5. 女子高生ファッションで読み解くフーコーの『言葉と物』◎
    • 女子高生のエピスメーテーはまあ順当。そして、「生の権力」とルーズソックスのくだりが、読み解くというよりそのものなんだけど、「きまったー」という感じで爽快。しかしフーコーがこんな人だったなんて知らなかった…。
  6. 鍋料理で読み解くジョイスの『ユリシーズ』◎
    • 全編、鍋という素材を最大限に利用。最高の鍋料理というより、むしろヤミナベみたいな感じではあるけど…。手にとっては最初の3ページくらいでいつも挫折しているので、簡単に紹介してもらって助かりました。なるほど、『文体練習』ISBN:4255960291のもうちょっとストーリーがある長い物と思えばいいのか。「これで読まなくてすむ」と思わないでもないけど…。
  7. 女性ファッション誌で読み解くセルバンテスの『ドン=キホーテ』△
    • 例えとして適当かどうか以前に「女性ファッション誌がいかに現実性のないものか」って間接的に言っちゃっていいのかっていう別の問題が(…NIKITAとか連想して笑う)しかしこんな深遠な小説だなんて思いませんでしたよ。つまり人ごとと思って笑っているお前たちはドン=キホーテじゃないと言えるか?ってことなんですね。*5
  8. テレビショッピングで読み解くカントの『純粋理性批判』○
    • テレビショッピングの例えより、むしろ118pの絵が直感的で分かりやすい。大岡裁き。なんかちょっとウィトゲンシュタインと似た展開。欲望の因果律を抑えたところに道徳的な行為があるっていうのはどうかなぁ。だってそこには「物が増えたらじゃまになる→買わないでおこう」という別の因果律があるだけって気がする。蘊蓄コーナーより…「批判」は「吟味する」ということである…なら吟味って訳してよ!
  9. 別府温泉・地獄巡りで読み解くダンテの『神曲』○
    • 例えはストレートすぎて評価のしようがないです。合ってはいるけど。しかし、むかし煉獄編だけ読んだときに分からなかった部分が、これ読むとよく分かる。やたらとダンテの同世代人(今の日本人からは何がなにやら)が出てきてたのは、ダンテが恨んでた人たちなんだな。神戸の事件の少年が冒頭を引用したのでそういう話かと思ってたけど、文脈が根本的に違う(なんたって原題が「神聖な喜劇」)。
  10. コレクターで読み解くゲーテの『ファウスト』◎
    • これは結構納得。考えてみればコレクターって魂売っちゃってそうな人ばっかりだし。
  11. サウナで読み解くショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』○
    • 人生=サウナの例えもおもしろいんだけど、この本自体がおもしろすぎる。この本読むこと自体が「同苦」なんだなぁ。こんなわけわからんタイトルじゃなくて『人生は最悪だ!』とかにして、文庫で安倍吉俊の絵で装丁すると売れそう。*6しかし「でも、やるんだよ!」って枡野浩一オリジナルじゃなかったのか…。
  12. 携帯電話で読み解くドゥルーズ=ガタリの『アンチ・オイディプス』○
    • 「いわば哲学界の藤子不二雄」のつかみでがっちり。本の中身*7より著者ふたりの関係がおもしろかった。挿絵が醸し出す幸福感が素敵。ドゥルーズはガタリが亡くなって絶望して自殺したんでしょうか。この本だけ読むとそんな感じです。*8
  13. チョコレートで読み解くガルシア・マルケスの『百年の孤独』×
    • チョコレートは無理がありすぎ。小説の特徴と良さはわかりやすく表現できていると思うけど…。他になんかなかったのか…。
  14. 寿司で読み解く新渡戸稲造の『武士道』
    • 素材同士がつきすぎ。いっそのこと日本でよく知られた物を持ち出して対比することで外国の精神を知らしめた物にすれば良かったかも。(たとえば何かって言われると困る)
  15. アロマテラピーで読み解くジェームズの『プラグマティズム』○
    • 「効果は自己申告!あなたが効いたと思えば効いたのです!」というメイド・イン・USAの哲学。なんでアメリカが、あるかどうか分からない大量破壊兵器を根拠にイラク攻撃したかよく分かった(ような気になった)。「あるかどうかわかんないけど、とりあえずやっつけてしまえ!…結局なかったけど独裁者を排除して民主化できたから結果オーライだね」途中に出てくるダンベルの例えもバカっぽくてブッシュを思い出す。思想の原点が不安って言うのもアメリカっぽい。
  16. マジックで読み解くフッサールの「イデーン」△
    • 見たままを楽しむマジックって、そんな。*9それよりも、他者問題における意味の転移の「「ひとりだけの世界」というヤバイ思想」というくだりが大変面白いです。
  17. 焼酎で読み解くアリストテレスの「形而上学」○
    • 限りなく△に近いけど…。目的論的自然観と中庸の関連が分かりません。
  18. 焼き肉で読み解く筒井康隆の『虚人たち』△
    • 焼き肉の例えはごく一部なんだけど(ジョイスの「鍋」と同じようなパターン)筒井康隆や『虚人たち』に対する敬意や愛が伝わってきて、読んでいて楽しい。読んでみようかな、という気にさせてくれる。

まとめ

前編『お厚いのがお好き?』の時も書いたように、あまたあるあらすじ本のなかでこれが飛び抜けておもしろいのは、無理矢理だろうが何だろうが、「芸」として成り立たせる意志があるところ。(あくまで意志のレベルだけど)それでも、やっぱり中身を知っているものの点は辛くなりがち。これはぜひ、専門家に「こっちの方が適切だ」という例を示して欲しいものです。(その場合笑えなくなるんだろうけど)

さらにわがままを言えば、時代がバラバラで読みにくい。現代哲学の直後に古代哲学ならあきらかに違う文脈だと分かるけど、微妙に影響を被ってる人が前に出てたりすると、どっちがオリジナルか分からなくなる。そのために「ひと目でわかるお厚い哲学の流れ」がついてるんだろうけど、上巻のページ数も入れて欲しかった。最終回は本には収録しなかったみたい。メタな感じで読んでみたかったのに。

巻末対談

小山 ある意味で、本というのはひとつの知的富士山だと思うんですよ。(中略)だから僕が思うのは、「お厚いのがお好き?」を見て、またこの本を読んで、これでなんとなくわかった気になってしまって終わらず、この中で一番自分に合いそうで、面白そうな本を1冊買って、全部読み終えてみるのもいいんじゃないかなぁと思うんです。

2冊通して、一番読みたいのは断然ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』ISBN:412160069Xです。すごい親近感。是非とも「同苦」したい。

メディアの作り手として、番組を作っていく上で、常にひとつの使命を持っていないといけないと思うんです。それは何かといつも自分にいい聞かせているんですが、”見た人にきっかけを与えること””気づいてもらうこと”なんです。そういう風に、見た人を動かしたりしたいなぁというものがあるんです。

本の感想書くのにも、そういうところがあるなぁ。小山さんの番組はそういうところが好きです(地方在住者なのでなかなか思うように見られないんだけど)。

関連

*1d:id:siken:20041004#1096885533にも同じ指摘が

*2:特に途中のイラストギャラリーみたいのは何なんですか

*3:「人間は遊ぶために生きている!」ISBN:406208743X

*4:昔心理学の入門書で読んで、どうみてもオカルトだと思った

*5:ちなみに五木寛之の『夜のドンキホーテ』ISBN:4041294096はドンキホーテ現代日本バージョンで、かなり品がないけどおもしろい。

*6ISBN:4048733397←こんな感じで。滝本竜彦はニーチェじゃなくてショーペンハウアー路線でいた方がいいと思う

*7:言ってることはなんかあまりにも現実そのもので解説不要。はてなは欲望する機械の最先端みたいなもんだし

*8:違ったみたい…http://www.ne.jp/asahi/hiding/base/morisaki/mk/mk4.html

*9:現象学なら『姑獲鳥の夏』ISBN:4061817981がうまく体現してると思います。これもかなりお厚いけど

2004-05-30穂村弘『もうおうちへかえりましょう』

穂村弘『もうおうちへかえ

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ISBN:4093875081

内容

『世界音痴』ISBN:4093873739に続く歌人、穂村弘のエッセイ集。2002年から2004年前半までの諸雑誌掲載原稿を編集したもの。日常エッセイから懐古、読書エッセイを中心に、短歌鑑賞、恋愛論、不条理ショートショートを数編含む。

感想

I、II、IIIの三部構成で、Iは相変わらずの世界音痴ぶりがこれでもか、と披瀝され、事実上の続『世界音痴』になっている。IIは趣を変えて、いくら青春ゾンビといえど、人並みにおじさん的な感覚の芽生えもある、そのフィルタを通した現代批評的な要素を含んだ、脱「青春ゾンビ」的なもの。そしてIIIが、本の雑誌で連載されていた本に関するエッセイで、読後その書痴っぷりが強く印象づけられて、全体としては穂村弘という人の幅の広さ、多面性が印象に残る。

『もうおうちへかえりましょう』という誘ってるんだか気弱なんだか、何が言いたいのかいまいちよくわからないタイトルは、たぶんIIにつけたものなんだろう。この気弱かつ尊大な、ダメ人間のふりをするけどじつはもてまくるとんでもない男(ほめ言葉)が発するメッセージは、次第に地に足をつけつつある。ダメエッセイと比べるとその部分はいわゆる「よくある話」になっていないこともないけれど、誰もが感じていることを「楽しめる」文章にする芸を堪能できる、それだけでいいという気がしてくる。

外観

小林キユウ撮影のカプセルホテルでの写真。あいかわらずイメージ通りのいい写真で。ジャージとジーンズが似合う黒縁伊達めがねの40男。

帯の、

白馬に乗ったお姫様はまだ?

っていう文章は確かに文中にあったけど、白馬に乗ったお姫様なんか来ないことは、十分悟った上で、むしろそれを楽しんでいる(断じて楽しんでいない、ということならその副産物を利用している)ので、ちょっと看板に偽りありかも。

宣伝

続『世界音痴』として薦めるのはちょっと心が痛まないこともない。IIIの部分については、穂村版『吉野朔実劇場』として扱ってもいいような気がする。

反応

周囲はみんな楽しみにしてましたとも。ちなみに2004.5.30現在、アマゾンの『世界音痴』はまだちゃんと「た行の著者」に分類されている*1。修正される日はくるのだろうか。

関連

  • 吉野朔実劇場』ISBN:493846358XISBN:4938463873ISBN:4860110129…時々穂村弘が出演するのであわせて読むと状況が立体的になっておもしろい。(「恐怖的瞬間」)
  • 『子のつく女の子は頭がいい』ISBN:4896915828…子どもの名前というのは如実に価値観を反映する。世の中の急激な変化による世代の乖離は誰もが感じていることだとしても、その行く先を誰も知らない。(「「怜央」と「幸子」と「う」」)
  • 「リンダ リンダ」歌詞…初めて聴いたのは高校の文化祭で、90年代においてはすでに「定番」を通り過ぎて「古典」的位置づけらしかった。80年代論はなんかいい本がありそうだけど思いつかない。(「八〇年代最大の衝撃」)
  • 小倉千加子『結婚の条件』ISBN:402257884X酒井順子負け犬の遠吠えISBN:4062121182…「お互いに高めあう恋愛」の呪縛のくだりは、男の側からの「負け犬」論とも読めないことはない。ついでに山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』ISBN:4480058184も。この人はパラサイト・シングルでもあったりする。(「愛の暮らし」「わかりあえるか」)
  • たぶん世にダメエッセイはたくさんあるんだけどオーケン原田宗典あたりしか思いつかない。ネット上には同類のWeb日記もたくさんあるけど、芸のうまさでは全然敵ではない。何たって年期の入り方が違う。

*1:「アシホたち」に詳述

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