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2005-04-23サンジョルディの日
■ [bookG]サンジョルディの日にトラックバックで本を贈ろう 
日本ではサンジョルディの日、4月23日というと新年度が始まって間もない頃です。あわただしくてプレゼントどころじゃないせいか、お祭り好きの日本にしては認知度がいまいちのこの習慣、広がればいいなぁと思って参加します。
旧ID(watercolor)時代に交流があった方への時候の挨拶の意味も込めて。本を贈るのって、相手に「読まなくては」という圧迫感を与えるような気がして気が引けるのですが、あくまで話の種にって事で、気軽に受け取って頂けたらと思います。
■ 焚書官(d:id:mutronix:20050416)さんへ『書物の敵』ISBN:4896948491 
まずは企画の発案者さんに。
火、水、埃に紙魚に、無知で狭量な人間たち。10種類の書物の敵を取り上げて、それらのもたらす甚大な被害を語った本です。書かれたのが一世紀以上前とあって、時代背景からくる偏った内容もまた乙。貴重なものが失われるエピソードって何でこんなに魅力的なんでしょうか。そして、本当に貴重なものというのは、限られた一握りの人にしかその価値がわからないからこそ、貴重でもあるのだと再認識した本です。私も百年後には「書物の敵」として後世の人にののしられているかもしれません。
一目見て焚書官さんのことを思い出したので、この機会に謹んでお贈りします。
■ d:id:adramineさんへ『新装版 フル・ムーン』ISBN:410538502X 
いつもお世話になってます、bookグループの頼れる大家さんadramineさんへ。もう持ってるかも知れないなぁと思いつつ、ひとに贈りたくなる本なのです。
アポロ計画で撮影された写真を、マイケル・ライトが選んだ上で構成、月への往還が描かれています。星や月や神話は好きだけど、ロケットやアポロ計画にはさほど興味がなかった私にとって、当時の興奮と、後世に永く伝えられるその意義とをふたつながら感じさせてくれた写真集です。
あまりにもクリアで現実離れした美しい写真に見とれたあとで、読む解説が全く別の見方を促します。ひたすらフロンティアを目指して突き進んできた人間たちに、今度ばかりは帰路があったということ。写真(たとえそれが記録写真であっても)も人の解釈によってその意味を変える芸術であるということを強く感じさせられる本です。
■ まんぷくや(d:id:manpukuya)さんへ『メイド・イン・トーキョー』ISBN:4306044211 
(心は)宙飛ぶ編集者のまんぷくやさんとは、路上観察趣味を共有。24dではぶっちぎりで「近い/似ている」かも知れない人です。勝手に親近感を抱いています。
これは路上観察じゃないと著者たちは言ってはいますが、類似カテゴリのお気に入りの一冊を。
田舎住まい*1の私にとって、東京という街の無理のある重層性はまさに驚異です。地下鉄の下にもまだ地下鉄があって、山の下にアーケードが埋まっているわ、橋の上に道が通っているわ…テレビゲーム顔負けのダンジョンです。疲れるけれど、どこか非現実的で魅力的、そんな東京の「変」な所を凝縮したような本がこれ。
佐藤雅彦の線を思い出す真面目かつコミカルなイラストと、淡々と特徴を述べているようで時々密かにくすぐりを入れてくるコメントと、各建築物に付けられた名前が乙。パチンコ店と消費者金融が入ったビルが「パチンコカテドラル」、スーパーマーケットの上の自動車学校「スーパー・カー・スクール」。疲れた時にぱらぱらっとページを繰るだけで、にやにやしてしまいます。
■ 芹沢(d:id:DocSeri)さんへ『沈黙博物館』ISBN:4480803556 
第1回本屋大賞受賞作『博士の愛した数式』で一躍メジャーな存在となった小川洋子ですが、私はどちらかというと中期の、物への執着や美意識を感じる暗い影の差す作品群(今もその名残はありますが)が好きで、中でもこの『沈黙博物館』の底を流れる死のにおいと、物に染みついた人の思いを見事に結晶させた堅固な構成が好きなのです。唯一開放感あふれる野球場の描写までも、どこか現実離れした描写で、スポーツに縁遠い私にとって、野球ってこんなスポーツだったかなぁと非常に印象的でした。
■ ふみね(d:id:fumine)さん『毎日がこはるびより』ISBN:4081020507 
伊藤まさこさんとそのむすめ、胡春ちゃんの暮らしをつづった本です。
ご出産おめでとうございます。日記を拝読するたびに、しみじみ子育てって毎日が嵐のようだと思います。この本のような日々はまだまだ先のことだとは思いますが、きっとこんな素敵な母娘になられるんだろうなぁと今から想像しています。
■ d:id:sugioさんへ『翻訳語成立事情』ISBN:4004201896 
直球ストレートで申しわけないです。「いままでの社会にはなかった新しい概念、異質な価値観」を何とか吸収しようとする「翻訳」という行為の創造性と、それを取り巻く、一時もじっとしていない生き物のような「ことば」の不思議さに触れられた本です。これを読むと「おまえなんか、訳してやる!」って高尚なサイトだなぁと思ってしまいます。(じゃあ今までどう思ってたんだって話ですが…ポップでキュートと思ってました)
あわせて、訳に使えそうな『数え方の辞典』もどうぞ。
■ 無体(d:id:nobody)さんへ『文体練習』ISBN:4255960291 
バスの中の乗客同士のこぜりあいというちょっとした事件を、99通りの文体で書きあらわした無謀きわまる本です。書いた人も偉いですが、訳した人も相当すごいです。
これを読めば13人の無体さんが99人になることうけあい!そのうち何人かは何を言っているのか全くわからなくなることもまたうけあいですが…。
■ おうる(d:id:owl)さんへ『知恵の輪のすべて』ISBN:4998090747 
いつも手を動かして、何かわくわくするようなものを作っているおうるさんに、知恵の輪の本を。
私はこういう「合理的なのに不思議なもの(質感が良ければなお良し)」が大好きなのですが、脳のスペックが足りなくて3Dにまでは手が出ないので、本を眺めては「さっぱりわからん」とつぶやいています。写真も図も豊富で、作るところまでカバーしているのでとても親切、見るたびにふだんは使わない頭の特殊な部分を刺激されます。
■ d:id:jounoさんへ『大手拓次詩集』ISBN:4826219121 
詩集らしい詩集を1冊だけ手元に置きたいと思った時に、選んだものです。読むたびに印象が違って、何より書き手の顔が透けて見えないところが潔くて飽きません。文学作品は作者と離れたところにあって欲しいと思っているからかもしれないと思います。
■ d:id:tripletさんへ『任意の点P』ISBN:456850256X 
これもまた、ひとに贈りたくなる本のひとつ。付属のめがねで真上から下の絵を覗くと立体図が浮かび上がります。私は裸眼立体視が出来ず、いわゆる3Dアートが見えたためしがないので、これを見た時は本当に感動しました。
「これを美とする」という佐藤さんの言葉に納得し、この感覚を多くの人と分かち合おうという本のコンセプトにも打たれる、とっておきの1冊です。美しいものは人を幸福にする、と思います。岐路において無理矢理選ばなくても、かたわらにいつも携えていくことができればいいのではないかと、最近は思っています。だれもがそれで、満足できるとも限らないのがつらいのですが。
■ ゆかっち(d:id:yukatti)さんへ『熊の敷石』ISBN:4062106353 
表題作の中に、貝の火のたとえが出て来て、そのときふと宮沢賢治のキーワードを思い出しました。初対面の者同士が、ときおり共有するある感情のともしびを、いつもいつも誠実につつみ守っているゆかっちさんに贈りたいと思った本です。文庫もありますがあえてハードカバーで。
知らない者同士が出会い、交流する過程で無意識のうちに投げつけてしまう「敷石」のような言葉を、「愚かな友人」としての他者を、それでも肯定しようとする意志と、逡巡と、痛みとを伝えてくる静かな一冊です。
*1:田舎の建物は基本的に地階から上層に至るまで、同じ構造をしています