BookSynapse

一部物語の種明かしの部分をCSSで隠してあります。
消えている部分」を見たいときはマウスで選択、反転して読んでください。

カテゴリ一覧: [Reader日記]/ [今月の三冊]/ [注目新刊]/ [bk1はてな]/ [その他本に関する話題]/ [bookG]/ [はてな全般]
[過去の記事一覧]   id:Hebi:about/ 24d/ a/ b/ d/ f/ i/ グループ:BookSynapse/MultiSynapse

2004-05-10綿矢りさ『蹴りたい背中』

綿矢りさ『蹴りたい背中』

[][][]綿矢りさ蹴りたい背中はてなブックマーク - 綿矢りさ『蹴りたい背中』 - BookSynapse

ISBN:4309015700

第130回芥川賞。

内容

主人公ハツは高校一年生。クラスの中のグループ化に乗り遅れ、「あまりもの」となりつつある。同じくクラスで浮いている「にな川」はあるモデルの熱烈な「ファン」で、彼女と会ったことがあるハツに「彼女と会った場所を教えて欲しい」と声をかけてくる。孤独をおそれているにもかかわらず、部活にもなじめず、かつての親友のグループへの誘いを受け入れられないハツは、にな川を嫌悪し、軽蔑しながらも意識するようになる。そんな頃、にな川がファンであるモデルのイベントがあり、にな川、ハツ、ハツの親友の3人で出かけるのだが…。

感想

まず相変わらず年に似合わず文章が巧み。過去の「文学」の蓄積を意識した書き方をするので、同世代の若者よりも、むしろ年長の「文学」愛好者に評判がよいと思われる。教室内の描写、プール後の着替え、部活でのやりとりなど、学校生活の様々な場面を書く筆致は落ち着いていて、空気も心理も匂い立つような的確さで描き出す。その冷静さと一人称があいまって、ハツが非常に聡明に感じられるが、しかし実際はその愚かさ、傲慢さをも容赦なく描写していて、カズオイシグロの『日の名残り』ISBN:4151200037を思い出させると言ったら褒めすぎだろうか。その辺の違和感が弱点なのか、意図したものなのか、判断に迷う。主人公ハツの斜め後ろに分身としての著者がいて、過去の自分の断片を分析し、描写している感じがする。

インストールISBN:4309014372と同じく、現代的な事象を書きながら、決してリアリティを損なうような過激な展開に走らず、作品世界は決定的な崩壊には至らない(過激ないじめも、逸脱行為も、人間関係の変化もない)。そこが若いにもかかわらず突き抜け方が足りないところであり、むしろ現代的な印象を与える所以という気もする。

実際にクラスで浮いている10代の少年少女たちがこの小説を読んでも、救われることはないだろうし、そういう読者はむしろ、やりすぎなくらい誇張された嶽本野ばらの『エミリー』の方を支持するだろう。現役の学生よりもOG、OBに「あのころ」を振り返らせながら、「今の子はこんななのか」と思わせる小説、という感想を持った。

最後の場面に谷崎潤一郎の『刺青』を連想したのは短絡に過ぎるかも知れない。SMの芽生え、と言われないためにさんざん予防線が張り巡らせてあり、「名前のない関係」を描こうという姿勢は、何か新しいものを確信を持って読者に提示するというより、「実際あったけれど、既存のなにものにも当てはまらない奇妙な何か」を知って欲しくて書いた、という気がしてならない。

主人公=作者の構図は意図的なものだとは思うし、いつまでもこれでいけるわけではないことは分かってやっているのだろう。これをにな川視点で書いたら、意外と近頃ありがちな話になってしまうので、新しい切り口を補強するための戦略ととるのはうがちすぎだろうか。

外観

インストール』と同じく水色の背景に、明らかに著者をイメージさせる少女のイラスト。高校生くらいの女の子が書きそうなイラストは間違いなく、10代にアピールする。

宣伝

「17歳で文藝賞を取った女子高生」としてメディア露出が多かったので、その余波を利用するに如かず。高校一年生の話だというのもポイント。しかし読んで「これ」といったわかりやすいものがあるわけではないのでその辺は苦しい。

反応

女子高生ブランドはいまだに効力があるらしい。

受賞後問い合わせ殺到。

関連

学校生活の描写が作者の年齢に関係あるかと思ったけどそうでもなかった。

2004 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 |
2005 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 |
2006 | 05 |
2012 | 01 |