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2004-05-312004年5月

[]今月の三冊 3/12 はてなブックマーク - 今月の三冊 3/12 - BookSynapse

[]注目新刊リスト書式 はてなブックマーク - 注目新刊リスト書式 - BookSynapse

現行の形式だと、ログへ移したりするときに手間だったり、発売予定の段階では判形がよくわからなかったりするので、できれば日付で並べたいのですがどんなものでしょう。発売日が逃げ水みたいな本の場合は困りますか。

2004-05-30穂村弘『もうおうちへかえりましょう』

穂村弘『もうおうちへかえ

[][][][][][][][]穂村弘『もうおうちへかえりましょう』 はてなブックマーク - 穂村弘『もうおうちへかえりましょう』 - BookSynapse

ISBN:4093875081

内容

『世界音痴』ISBN:4093873739に続く歌人、穂村弘のエッセイ集。2002年から2004年前半までの諸雑誌掲載原稿を編集したもの。日常エッセイから懐古、読書エッセイを中心に、短歌鑑賞、恋愛論、不条理ショートショートを数編含む。

感想

I、II、IIIの三部構成で、Iは相変わらずの世界音痴ぶりがこれでもか、と披瀝され、事実上の続『世界音痴』になっている。IIは趣を変えて、いくら青春ゾンビといえど、人並みにおじさん的な感覚の芽生えもある、そのフィルタを通した現代批評的な要素を含んだ、脱「青春ゾンビ」的なもの。そしてIIIが、本の雑誌で連載されていた本に関するエッセイで、読後その書痴っぷりが強く印象づけられて、全体としては穂村弘という人の幅の広さ、多面性が印象に残る。

『もうおうちへかえりましょう』という誘ってるんだか気弱なんだか、何が言いたいのかいまいちよくわからないタイトルは、たぶんIIにつけたものなんだろう。この気弱かつ尊大な、ダメ人間のふりをするけどじつはもてまくるとんでもない男(ほめ言葉)が発するメッセージは、次第に地に足をつけつつある。ダメエッセイと比べるとその部分はいわゆる「よくある話」になっていないこともないけれど、誰もが感じていることを「楽しめる」文章にする芸を堪能できる、それだけでいいという気がしてくる。

外観

小林キユウ撮影のカプセルホテルでの写真。あいかわらずイメージ通りのいい写真で。ジャージとジーンズが似合う黒縁伊達めがねの40男。

帯の、

白馬に乗ったお姫様はまだ?

っていう文章は確かに文中にあったけど、白馬に乗ったお姫様なんか来ないことは、十分悟った上で、むしろそれを楽しんでいる(断じて楽しんでいない、ということならその副産物を利用している)ので、ちょっと看板に偽りありかも。

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続『世界音痴』として薦めるのはちょっと心が痛まないこともない。IIIの部分については、穂村版『吉野朔実劇場』として扱ってもいいような気がする。

反応

周囲はみんな楽しみにしてましたとも。ちなみに2004.5.30現在、アマゾンの『世界音痴』はまだちゃんと「た行の著者」に分類されている*1。修正される日はくるのだろうか。

関連

  • 吉野朔実劇場』ISBN:493846358XISBN:4938463873ISBN:4860110129…時々穂村弘が出演するのであわせて読むと状況が立体的になっておもしろい。(「恐怖的瞬間」)
  • 『子のつく女の子は頭がいい』ISBN:4896915828…子どもの名前というのは如実に価値観を反映する。世の中の急激な変化による世代の乖離は誰もが感じていることだとしても、その行く先を誰も知らない。(「「怜央」と「幸子」と「う」」)
  • 「リンダ リンダ」歌詞…初めて聴いたのは高校の文化祭で、90年代においてはすでに「定番」を通り過ぎて「古典」的位置づけらしかった。80年代論はなんかいい本がありそうだけど思いつかない。(「八〇年代最大の衝撃」)
  • 小倉千加子『結婚の条件』ISBN:402257884X酒井順子負け犬の遠吠えISBN:4062121182…「お互いに高めあう恋愛」の呪縛のくだりは、男の側からの「負け犬」論とも読めないことはない。ついでに山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』ISBN:4480058184も。この人はパラサイト・シングルでもあったりする。(「愛の暮らし」「わかりあえるか」)
  • たぶん世にダメエッセイはたくさんあるんだけどオーケン原田宗典あたりしか思いつかない。ネット上には同類のWeb日記もたくさんあるけど、芸のうまさでは全然敵ではない。何たって年期の入り方が違う。

*1:「アシホたち」に詳述

2004-05-23アレン・カー『禁煙セラピー』

アレン・カー『禁煙セラピ

[][][][]アレン・カー『禁煙セラピーはてなブックマーク - アレン・カー『禁煙セラピー』 - BookSynapse

ISBN:4845411636ISBN:4845405059

内容

たばこをやめたいのにやめられないと嘆く人は、心の底ではタバコをやめたいとは思っていない!喫煙者がタバコをやめられない心理を分析し、タバコが必要だという思いこみを捨てることで、禁煙する方法を提案する。

感想

受動喫煙防止策が具体化して、喫煙場所がどんどん減り、たばこも値上がりしたので、「やめる」「やめたい」という話をよく聞くようになった。今までも科学的な事実を羅列する事で、たばこの害を説いて禁煙を勧めるオーソドックスな本はあったものの、搦め手で攻めるこの手の本が一冊ぐらいあってもいいだろうということで選んだのがこれ。

当方生まれてこのかた、一服たりとも吸ったことがない非喫煙者なので、途中までは「はははは、かわいそうー」と読んでいたのだけれど、読み進めるうちに喫煙者の不安や苦しみを慮った記述の数々に、自分も吸いたいのに、やめるよう説得されているような妙な気分になってくる。

で、ふと思い立って自分がやめようにもやめられない趣味嗜好を「喫煙」当てはめてみて、この本の残酷さを思い知った。

  • 「読書」をやめられないのは、読書すること自体が、次の本をまた読みたくさせるからです。
  • 「ネットをする」ことで、何かいいことがありますか?お金と時間と健康を損ねるばかりではありませんか。本当にそれが自分にとって必要なのかどうか、よく考えてみてください。

…恐ろしい。

結局、喫煙をはじめとする人間の全ての嗜癖行為は自分の脳がさせていることであって、それを断ち切るには脳から変えるしかない、という『唯脳論』ISBN:4480084398みたいな論理なんだろう。安野モヨコ『脂肪という名の服を着て』ISBN:4396762798で、エステサロンの店員が主人公を「心がデブ」と表現したのを思い出した。喫煙者は身体が喫煙者なのではない、心が喫煙者なのだ、という。

喫煙者の苦しみを知り、非喫煙者であることの幸せをしみじみと実感できる本。そしてまた、自分の中のやましい部分も刺激されてはらはらする。自己啓発セミナーの洗脳プログラムみたいなところもあるので、その手の手法の前向きな*1利用としてちょっと新鮮でもあった。

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黙って置いておいて、自分から手にとってもらうしかないような。この本は結局、やめたい、とどこかで少しでも思っている人にしか効果がないと思う。

外装

表紙のたばこはどう見たって変なデッサン。廉価版ISBN:4845405059の方がシンプルだけどなぜかマッチの絵。

関連

*1:煙草吸って悪いか!という人には気に障るだろうけど

2004-05-20注目新刊リスト

[]注目新刊リスト はてなブックマーク - 注目新刊リスト - BookSynapse

→感想 http://book.g.hatena.ne.jp/Hebi/20040530

このキーワード、一ヶ月ごとにキーワードたててログを保存すると、そのまま時系列の目録になって便利かもしれません。消すのはもったいない。

2004-05-16bookグループをどう使うのか

[]書く場所 はてなブックマーク - 書く場所 - BookSynapse

はてなグループについてここに書くべきか、はたまたbetaグループに参加すべきなのか…でも私の考えることはbookグループ限定なのでここに書いておいた方がいい気もする。

[]本家とグループの連携? はてなブックマーク - 本家とグループの連携? - BookSynapse

そもそもプライベートに引っ込んだのは、はてなダイアリーがあまりにも便利で、個人的で日常的なことをどんどん書きたくなってしまったから。一方で検索に引っかかりまくるので見に来る人にとって迷惑だと思ったこともあって。でも情報を共有できなくなるのは寂しくもあったので、グループができてほんとにうれしかったのです。

でもグループで書いても本家のキーワードページに載らないのなら、グループに参加してくれる人はどれくらいいるかなぁとも思わなくはない。

私みたいにネタバレ満載で、未読者というより既読者向けの覚え書きみたいな内容だと、本家キーワードにリンクされないのは気が楽*1でもあるけど、bookグループの参加者によってグループ内に書かれたレビューが、本家の読書コミュニティ*2の視野に入らないのはもったいないような気もする。本の場合はISBNという誤爆のない*3識別子があるので、パブリックのグループはそこだけでも本家と連携することはできないものだろうか。そこをたどってbookグループに参加してくれる人がいればいいなという気持ちもあって。

作家名なんかなら、記事単位でグループから本家キーワードにトラックバックを送ると「含む日記」に表示される方式なんかどうだろうか。ある作家に関する大論文とか書いたときにでも。後はグループキーワードから本家にトラックバックするとか。

ただnobodyさんのこういう文章を読むと、それはそもそもグループの目指すところとは違う、のかもしれないとも思いますが。(分散させるつもりが、もっと大きくしてどうする、という)

[]本家とグループのキーワードの差別化? はてなブックマーク - 本家とグループのキーワードの差別化? - BookSynapse

すでに本家ではかなり使える読書データベースができあがっていて、これとbookグループのキーワード群とどう絡めていったらいいか(絡めていかないのがいいか)がよくわかりません。

の、誤爆のないはてなダイアリーという方向性にはとても共感するのですが、では本家とどう差別化すべきか、差別化した結果としての二度手間(本家のキーワードの内容をそのまま転記するのはありやなしや?)をどう解消(もしくは利用)するかの方向性がなかなか見定めがたくて、キーワードが作れないのです。

ただただ淡々とレビューを書くのならグループである必要はないわけで、じゃあ企画的に使うのが一番かとも思いますが、それははてなダイアリークラブじゃだめなのか、とか。

本家の内容の下に、グループ専用のキーワードスペースを設ける(つまりグループ内のキーワードに本家のキーワードの内容を自動引用する形…bookグループキーワード『煙か土か食い物』に「本家キーワード内容欄」みたいのを作って、本家の煙か土か食い物の内容を表示させる)とか、本家の関連キーワードへのリンク欄を作るとか、どんどん負荷を増大させる方向(そして差別化というより本家との一体化)でしか思考が働かなくて全然スマートではありません。

そもそもグループって何?どうやって使うのが一番楽しいの?というあたりへと思考がさまよっていってしまって戻ってこれません。

キーワードの所有権の問題ともなんとなく絡んでくるような気がします。

[]企画案 はてなブックマーク - 企画案 - BookSynapse

グループメンバーによる推薦式ブックリストを作るとおもしろいかも。はてなダイアリークラブにするにはちょっと特殊すぎるテーマで。

  • 完全に意表をつかれたミステリー
  • 血のたぎる家族小説
  • 雨の日に読みたい本

とか。

あ、人名、作品名じゃないからだめですね。うーん。

*1:うっかり未読者にネタをばらしてしまう危険性が減るという意味で

*2:自然形成されている漠然としたもの

*3:一応無いことになっている(笑)

2004-05-15伊坂幸太郎『重力ピエロ』

伊坂幸太郎『重力ピエロ』

[][]伊坂幸太郎『重力ピエロ』 はてなブックマーク - 伊坂幸太郎『重力ピエロ』 - BookSynapse

ISBN:4104596019

内容

巷を騒がす連続放火事件。そのルールを見つけたという弟、春にのせられて、兄である泉水、そして入院中の父は次第に謎解きの深みにはまる。周囲にちらつく正体不明の美人、探偵…事態は思わぬ方向に。お互いに全く知らないまま、兄弟は同じ目的を持ち、そして復讐は果たされる。DNAと過去の呪縛を突破する「家族」の物語。

「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」


感想

非常に工夫して書いているのがそのまま見えてしまうので、逆にこちらが冷静になってしまう。比喩やエピソードの特徴付け方が鼻につく感じは否めない。それが何かの仕掛けになっているのかと思えば、そうでもないので、もっと意表をつく展開を期待して読んでいくと、肩すかしを食らった気分になってしまう。意表をつかれたのは夏子さん=郷田順子コノハナサクヤビメくらい。遺伝子関連は高校レベルの知識があればさほど驚くような仕掛けはないし。

一番もったいないのは、二人の兄弟のどちらかに焦点を絞ることを選ばなかったがために、意外性を完全に犠牲にしているところ。隠し事をする語り手隠し事をする依頼者がダブルで縛りになってしまっているので、話をわかるように持って行こうとすると、なんだか見え見えのほのめかししか残らなかったんじゃないかと。その混迷を書きたかった感じもなくはないんだけど。放火予測地点に消火器じゃなくてペット持ってくあたりや橋の上で謎の青年に会うところなんかは、とても不自然でもったいない。探偵も魅力的なキャラクターなのでもう少し活躍させてあげたかった。

ところで春の「性的なるもの」への嫌悪はその後どうなっただろうか。やっぱり進む船の甲板の上で反対側に歩き続けるのだろうか。

外観

天童荒太路線。もしくは片山恭一路線。現代美術のオブジェ風の写真なのでスマートだけれども、いまいち訴求力は低い。(たぶん対象年齢層が学生から20代前半)

帯は当初担当編集者によるもので、おいおいと思ったものだったが、ちょっと後のこれもそれを引きずっている。

未知の感動がここにある!

小説はまだまだ進化する!

この興奮を、あなたに!!

興奮しているのは担当者の方かも。

後日こんな記事も。http://d.hatena.ne.jp/nao3307/20040611#p6

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遺伝子関連や動物生態学まわりは、一見の読者にとってちょうどおもしろいところをピックアップして書いてあるので、理系を志し始めた向きにはいいかもしれない。エンタティメントで知的好奇心も刺激。そして大前提として基調が正の方向に振れているので後味がよくて、割と誰にでも薦めやすい。いい感じの「父親像」、強い絆で結ばれた「兄弟もの」としても。

関連

  • 家族小説…「新しい」家族小説というと、どうしても舞城王太郎の『煙か土か食い物』ISBN:4061821725が連想されてしまって、そこからするとちょっとこの兄弟は生々しさが足りない。まあそのぶん万人向けともいえる。(さすがによく知らない人にいきなり舞城王太郎は薦めにくい)
  • リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』ISBN:4314005564…眉につばをつけながら読むとちょうどいい。結果的にこうなってますよという、おもしろい「解釈・ものの見方」の本なのに「真理」と思われてしまうのが悲劇のはじまり。これを意図的に拡大解釈すると、竹内久美子のトンデモ系なんちゃって科学芸になる。
  • 『ヒトに最も近い類人猿ボノボ』ISBN:4484003112…これほしいなぁ。
  • ジーン・アウル『大地の子エイラ』シリーズISBN:4566021122~…ネアンデルタール人とクロマニョン人と聞くとまずこれが出てきてしまう。ネアンデルタール人に拾われたクロマニョン人の少女の『醜いアヒルの子』みたいな話。
  • 板谷利加子『御直披』ISBN:4043536011…「魂の殺人」レイプに関して一番わかりやすかった本。

2004-05-13

[]キーワード形式 はてなブックマーク - キーワード形式 - BookSynapse

bookグループのキーワードがどういう形で使われるのかということが、まだ具体的にイメージできないので、自分の意見というほどのものはもてないでいるのですが、一つだけ個人的な希望を。

単行本は『』、作品名は「」という形式に長年慣れ親しんでいることもあって、やはり単行本のタイトルには『』をつけたい気持ちがあります。

たとえば今私が読んでいる本は北村薫の単行本『語り女たち』で、この本の中には「語り女たち」という作品は含まれていないため、単行本自体をさして「語り女たち」と表記するのは違和感があります。また、舞城王太郎の単行本『熊の場所』には「熊の場所」という短編が含まれていますが、『熊の場所』と表記したときはほかの2編の収録作「バット男」と「ピコーン!」も含んだ一冊の本を指すことになります。

これを突き詰めていくと"熊の場所"をキーワード化する際、『』にするのか「」にするのか、それとも両方作るのかといった問題も出てきてしまうので、なかなか悩ましいところではあるのですが、今のところは単行本に括弧をつけるのならば『』もしくは『という形にしたいという意見のみ、表明します。

2004-05-12お世話になります

今日からbookグループに参加します。パブリックの感覚がなかなか戻ってきませんが、よろしくお願いします。

とりあえず昔書いたものを貼り付けています。

2004-05-11

京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』

[][][][][][]京極夏彦陰摩羅鬼の瑕はてなブックマーク - 京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』 - BookSynapse

ISBN:4061822934

5年ぶりの妖怪シリーズ最新作。

内容

信州白樺湖のほとり、通称「鳥の城」では主の婚礼の度に、新婦が殺される事件が4回も続いていた。5度目の婚礼にあたり、主である由良伯爵は、探偵榎木津に事件の防止を依頼する。

花嫁薫子や伯爵と親しく言葉を交わすうち、何としても事件を未然に防ぎたいと願う関口。しかし榎木津、関口の努力にもかかわらず花嫁は殺されてしまい、そこへ過去3回の事件を捜査した元警官の伊庭が到着、取り調べを始める。そして事件が起こったら真相を明らかにすると約束した中善寺が、ついに「鳥の城」へとやってくる。憑き物落としの拝み屋は、犯人と世間との「死」の概念の違いが招いた悲劇を語るのだった。

感想

前作『塗仏の宴』が読者の期待に応えようとあらゆる要素を詰め込んだ結果、いささか息苦しい状態になっていたのに比べれば、今回は至極シンプルな作り。『姑獲鳥の夏』以来「世界はひとつではない」「主観によって物事はいかようにも解釈される」という世界観を延々と繰り返してきたこのシリーズにおいて、犯人あての楽しみは前もって奪われている。全巻ひたすら「なぜ」の部分をあぶり出していく構造になっている。読者が慣れている分、カタルシスは薄いが、誤植かと思った表記「ご婦人」が核心に関わるヒントだったので、そこだけは意表をつかれた。

前回気になった、キャラクターを全員出さなくちゃ、とか絵になる場面を作らなきゃ、といった呪縛からある程度は逃れることが出来ているので、次は字面やレイアウトの呪縛から逃れていただきたい。全体に冗長なのはどう考えても、文章が2ページにまたがってはいけないという妙な縛りのせいだとしか思えない。

外観

帯がもうやけくそ。「京極小説」ってそれ何にも説明してないし。

凄い!京極小説。

あの「夏」の衝撃が甦る。未体験の京極ワールド。

何か矛盾してませんかこれ…。

例によって例のごとく、妖怪の図。これまた例によって厚いので、中の行を読むために力を入れると、背の部分が折れそうで怖い。装備する身にもなって欲しい。

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どうがんばっても、京極を続けて読んでいる人にしか薦められない。5年前に比べればどうしても勢力は衰え気味なので、もっと取っつきやすいものを一冊出してくれないだろうか。

反応

もちろん目を輝かせて楽しみにしている人も一部にはいる。

関連

  • 菊田まりこ 『いつでも会える』ISBN:4052010558…最初に連想したのはこの一冊。伊庭に京極堂が語るせりふはこの本の趣旨そのもの。
  • 内田かずひろ『ロダンのココロ』ISBN:4022572388…同じ状況も解釈次第で全く別の意味を持つ、ということの平易な例。もちろん伯爵ロダンである。
  • 内井惣七『科学の倫理学』ISBN:4621070541…捏造関係でWebcat Plus検索。「盗作事件、捏造事件など様々な事例」
  • 松谷みよ子監修『はやたろう』ISBN:4097472267…早太郎の話は「やまたのおろち」の話にもちょっと似ている。化け物を倒した後、遠い道のりを故郷まで走って帰ってくるあたりが泣ける。早太郎リンク(GIFアニメ「file5 早太郎」が面白い)

儒学や弔いの関係で柔らかい入門書はないだろうか。

2004-05-10綿矢りさ『蹴りたい背中』

綿矢りさ『蹴りたい背中』

[][][]綿矢りさ蹴りたい背中はてなブックマーク - 綿矢りさ『蹴りたい背中』 - BookSynapse

ISBN:4309015700

第130回芥川賞。

内容

主人公ハツは高校一年生。クラスの中のグループ化に乗り遅れ、「あまりもの」となりつつある。同じくクラスで浮いている「にな川」はあるモデルの熱烈な「ファン」で、彼女と会ったことがあるハツに「彼女と会った場所を教えて欲しい」と声をかけてくる。孤独をおそれているにもかかわらず、部活にもなじめず、かつての親友のグループへの誘いを受け入れられないハツは、にな川を嫌悪し、軽蔑しながらも意識するようになる。そんな頃、にな川がファンであるモデルのイベントがあり、にな川、ハツ、ハツの親友の3人で出かけるのだが…。

感想

まず相変わらず年に似合わず文章が巧み。過去の「文学」の蓄積を意識した書き方をするので、同世代の若者よりも、むしろ年長の「文学」愛好者に評判がよいと思われる。教室内の描写、プール後の着替え、部活でのやりとりなど、学校生活の様々な場面を書く筆致は落ち着いていて、空気も心理も匂い立つような的確さで描き出す。その冷静さと一人称があいまって、ハツが非常に聡明に感じられるが、しかし実際はその愚かさ、傲慢さをも容赦なく描写していて、カズオイシグロの『日の名残り』ISBN:4151200037を思い出させると言ったら褒めすぎだろうか。その辺の違和感が弱点なのか、意図したものなのか、判断に迷う。主人公ハツの斜め後ろに分身としての著者がいて、過去の自分の断片を分析し、描写している感じがする。

インストールISBN:4309014372と同じく、現代的な事象を書きながら、決してリアリティを損なうような過激な展開に走らず、作品世界は決定的な崩壊には至らない(過激ないじめも、逸脱行為も、人間関係の変化もない)。そこが若いにもかかわらず突き抜け方が足りないところであり、むしろ現代的な印象を与える所以という気もする。

実際にクラスで浮いている10代の少年少女たちがこの小説を読んでも、救われることはないだろうし、そういう読者はむしろ、やりすぎなくらい誇張された嶽本野ばらの『エミリー』の方を支持するだろう。現役の学生よりもOG、OBに「あのころ」を振り返らせながら、「今の子はこんななのか」と思わせる小説、という感想を持った。

最後の場面に谷崎潤一郎の『刺青』を連想したのは短絡に過ぎるかも知れない。SMの芽生え、と言われないためにさんざん予防線が張り巡らせてあり、「名前のない関係」を描こうという姿勢は、何か新しいものを確信を持って読者に提示するというより、「実際あったけれど、既存のなにものにも当てはまらない奇妙な何か」を知って欲しくて書いた、という気がしてならない。

主人公=作者の構図は意図的なものだとは思うし、いつまでもこれでいけるわけではないことは分かってやっているのだろう。これをにな川視点で書いたら、意外と近頃ありがちな話になってしまうので、新しい切り口を補強するための戦略ととるのはうがちすぎだろうか。

外観

インストール』と同じく水色の背景に、明らかに著者をイメージさせる少女のイラスト。高校生くらいの女の子が書きそうなイラストは間違いなく、10代にアピールする。

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「17歳で文藝賞を取った女子高生」としてメディア露出が多かったので、その余波を利用するに如かず。高校一年生の話だというのもポイント。しかし読んで「これ」といったわかりやすいものがあるわけではないのでその辺は苦しい。

反応

女子高生ブランドはいまだに効力があるらしい。

受賞後問い合わせ殺到。

関連

学校生活の描写が作者の年齢に関係あるかと思ったけどそうでもなかった。

2004-05-09小野不由美『くらのかみ』

小野不由美『くらのかみ』

[][][]小野不由美『くらのかみ』 はてなブックマーク - 小野不由美『くらのかみ』 - BookSynapse

ISBN:4062705648

編集者宇山日出臣氏の企画による講談社「かつて子どもだったあなたと少年少女のための ミステリーランド」の第1回配本。

内容

本家の跡継ぎを決めるために山の中の旧家に集まった親戚一同とその子どもたち。四人で部屋の隅を回る「四人ゲーム」が「できない」ことを確かめようと試したところ、4人しかいなかったのはずの子どもが5人になっていた。一体誰が5人目なのか…。その後も怪異はとどまるところを知らず、食事に毒草が入っていたり、人魂が現れたり、次々と起こる問題に子どもたちは立ち上がった。

感想

出だしからして秀逸。「四人ゲーム」がなぜ不可能なのか、頭の中に四角い部屋を思い浮かべて、その中で人を動かしてみると、ふだん使っていない部分に血が通ってエンジンがかかる。

タイトルになっている「くらのかみ」はむしろおまけで、中身は子どもたちの少年探偵団が大活躍。これを子どもの頃読んだら盛り上がっただろうなぁ。理路整然とした行動力がたまらない。10~12歳の子どもというのは大人が想像するよりずっと聡いし何でも出来る。

増えた子供は誰か、ドクゼリを入れたのは誰かというふたつの謎を両方とも合理的に解決するのかと思っていたら、「くらのかみ」という超現実的なものをそのまま受け入れることで、ドクゼリ事件の合理的な解決に結びつけるという驚きの展開。

夢は壊さず謎は解くというこの塩梅が巧い。

小野作品は最後に世界を破壊して終わるパターンが多いので心配していたら、この作品に限ってはその破壊がいい方に決着していて後味も良かった。

外観

凝った装丁。丸いのぞき穴が開いた箱に、どちらからでも入れられるようになっているので、二通りの外観*1が楽しめる。が、この箱どうしよう。またしても装備の悩みが。

村上勉の挿絵がすばらしい。したたるような夏の緑が匂い立つよう。何を考えているのかよく分からない人物の味も作品と合っている。ただ、挿絵のタイミングが早すぎて、読む前に先が分かってしまうのは、もう少しやりようがあったんじゃないかと思えてならない。

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十二国記が出ずっぱりで需要は常にあるので、問題なし。今まで小野主上の一冊完結の単行本はやたら厚かったり(『屍鬼』)怖すぎたり(『黒祠の島』)して薦めにくかったので、手頃なのが出て嬉しい。

子どもが主役だと渋る向きには、小野作品特有の青年(常とか静信とか、ここでは三郎)も登場することを忘れずアピール。値段がちょっと高いけど。

反応

「これ十二国記の人ですかー?」そうですよ(にこにこ)。

関連

ところで驚きの超常現象を受け入れることで合理的解決を導くパターンの話って他にあるんだろうか。知っている人がいたら教えてください。

*1:男の子が右向きor左向き

HebiHebi2004/05/12 20:13herecy8さんから「黒い仏」を薦めていただいて、読んだのに、あまりのすごさに感想が書けなかったのです。ごめんなさい。

2004-05-08渋井哲也『出会い系サイトと若者たち』

渋井哲也『出会い系サイト

[][][][]渋井哲也『出会い系サイトと若者たち』 はてなブックマーク - 渋井哲也『出会い系サイトと若者たち』 - BookSynapse

ISBN:4896917510

こういう本は分類に困る。が、分類に困る本ほど新しくて情報源としては重要だったりする。

内容

  • 序章 若者を引き寄せる「出会い系サイト」
  • 第1章「出会い系サイト」とは何か?
    • 変遷、種類、利用者層、コミュニケーション形態の社会学的分析
  • 第2章「出会い系サイト」を利用する若者たち
    • 実際の利用者たちへの取材結果
  • 第3章「出会い系サイト」関連事件簿
  • 第4章「出会い系サイト」規制のなにが問題か?
    • 新法制定の経緯と問題点
  • 最終章「出会い系サイト」のゆくえ

感想

第1章は「出会い系」を知らない人が、議論の前提となる歴史や仕組みを知るための章と思って、お勉強のつもりで読んでいくと、

(個人のHPも)出会いそれ自体が目的ではないにせよ、匿名の他者に出会うことを結果的に保障してしまっている。

なんていう他人事でない文章が出てくるのでびっくりする。「●パーソナルメディアとしての「出会い系サイト」(35p)」以降は社会心理学を交えた堅い話になっていて、実際にメールやチャットをやったことのない人にこのニュアンスが分かるのだろうかという気もする。

第2章はうってかわって利用者たちの赤裸々な体験談。商売として割り切る女性、メンタル・家庭面での問題を抱えた典型的なのめり込み型の女性、自衛のためにメルマガを発行する女性、満たされていても刺激を求めて利用を繰り返し、HPで成果を誇る男性…しかし多数派で「選ばれる」立場であるはずの男性も、かなり「選べる」立場の利用者しか取材してないのはどうなんだろうか。

第3章も「出会い系」がらみの犯罪の増加についての統計上の考察のあとは、実際あった事件の経緯、被害者加害者の事情などを解説。2、3章だけどうもどぎつい印象だと思ったら、巻末によると初出は雑誌の特集記事だそうで。事実と憶測が入り交じっているあたり、ちょっとうさんくさい印象は否めない。

そして第4章。多分ここが著者としても、今の社会状況としても最も問題にしたいところだと思われる。最大の論点は「未成年の出会い系サイトへの書き込みを処罰の対象とするか否か」で、この秋から援助交際する未成年も罰せられるという話は聞いていたものの、「書き込み(条文では誘引)」も処罰の対象になるというのは初耳だった。「出会い系サイト」を取り締まる側が定義することの問題と、守られるべき子どもまでが「処罰の対象になりうる」ところが問題だと指摘している。最終的にはリテラシーの問題であるというところは大いに共感。

全体的に書き下ろしで硬めの1、4章と、実態を報告した2、3章の方向性が違っているので、少し戸惑う。

外観

ごく普通の新書。

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果たして新法が適切か否か、どう運用されるか、というところが最大のポイントか。対象がいまいちつかめないが、1、4章を見るにおそらく中高年の知識人向け。丸ごと「出会い系」を扱った新書として(おそらく丸ごと一冊「出会い系」のおかたい本というのはこれが初めてなのでは)手頃なので、統計面や歴史的経緯、新法の把握に便利。

関連

  • ももち麗子『であい1』ISBN:4063652297…漫画。この本では分かりにくい細かいニュアンスが描き込まれていて、ものすごくわかりやすい。子どもも大人も読める間口の広さがポイント。同じ作者の問題提起作品集シリーズ初の続き物、ゆえに今後が心配でもある。
  • インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(Mainichi INTERACTIVE)…条文
  • 高知県警察のHP…どんな行為がどう罰せられるのかわかりやすく書いてある。でも子どもに「誘引」って言っても分からないだろう。
  • Y!ニュース - 出会い系サイト問題
  • お元気でクリニック…著者渋井哲也氏のHP。どうやってこの本が書かれたかが伺える。ネットのことはネットで情報収集、というのは手法としてわかりやすい。最近のライターはこうやって双方向メディアをうまく利用している人が多い気がする。
  • 糸井重里『インターネット的』ISBN:4569616143…ネット=怖いという安直な先入観を与えないために、その明るい可能性もセットで是非。つまり道具は道具に過ぎず、使う人次第という当然のことを知るために。ただ最後の方はちょっと曖昧なので、その辺が整理されたものが出てほしい。

2004-05-07横山秀夫『半落ち』

横山秀夫『半落ち』

[][][][][]横山秀夫半落ちはてなブックマーク - 横山秀夫『半落ち』 - BookSynapse

ISBN:4062114399

内容

現職警察官が頼まれて妻を殺したと自首してきた。警察は身内の不祥事に慌て、なるべく早く事態を収束させようとする。しかし容疑者は犯行後自首までの2日間、何をしていたか話そうとしない。容疑者がなんとしても守りたかったものとは何なのか、分からないまま仕方なくでっち上げた供述で裁判を進めようとする警察側と、組織に縛られながら真相を知ろうとする男たちの駆け引きの物語。

感想

中高年の義理と人情と意地としがらみの話。登場人物が謎を次々とリレーしていくという構造は分かりやすいので、すっきり読める。しかし、肝心のクライマックスで「血が呼んだ」という論理性無視の書き方をされているのが、良くも悪くもこの作品を端的に表している。つまり理屈ではない親父世代の感動ものを書きたかったのだろう。

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明らかに中高年向きではあるが、高校生くらいから十分読める。基本的にオジさんしか出てこないので、可愛い、かっこいいキャラクターが無しでは読めない層には不向き。一方で出来る職業人は出ずっぱりなので、渋くて有能で葛藤を抱えたオジさんが好み、という向きには良い。

組織と個人的な信条との間で、板挟みになるシチュエーションが基本なので、そういう面倒くさい話が嫌いだと辛い。ただし読み飛ばしても結末に大した影響はないので難易度はそれほど高くない。

ミステリーといっても探偵小説のような派手さはないので、物足りなく感じるかも知れない。また、厳密な論理重視のミステリ好きは、最後で卓袱台をひっくり返したくなるかも知れないので注意。

空白の2日間の謎にポイントを絞って薦めるのが王道。

結果として刑事裁判の過程が分かりやすく読めるので、フィクションだということに注意を促した上で、法曹関係志望者の入門書として、下手な実用書より使える。

人によっては、直木賞がらみのごたごたのエピソードを使うのもいいかも知れない。

外観

表紙は渋い。ターゲットを意識した作り。

反応

割とすらすら読んで返してくる。感動した!という人はあまりいない。たぶん感動の種類が若者向きではないのだろう。

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