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2007-12-21

[]『エピデミック』 『エピデミック』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『エピデミック』 - 芹沢蔵書目録 『エピデミック』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

エピデミック

エピデミック

疫学小説である。分類上は社会小説あるいはSFに分類されるのだろうか、しかし読後感はむしろミステリ。


疫学とは、大雑把に説明すれば流行性疾患を防止するための学問である。病の機序を解き明かす病理学とも症状の対処を旨とする医学とも異なり、統計学を道具として感染源や伝播経路を推定し元を断つことで被害の拡大を防ぐ。

疫学の機能を端的に説明する例としては1848年のコレラ感染を終息させたブロードストリート事件などがある:患者の住居を地図にプロットした結果、患者の集中する地域の井戸を感染源と推定、「この井戸水を使っていたかどうか」を調査することで説を裏付けたもので、コレラ菌が発見される30年前のことである。

(参考:疫学 - Wikipedia)

このように、疫学は病原不明でも感染を防止することができる。


患者のデータを仔細に分析し共通項から感染源を推定、また特定条件に曝露された群とされない群の発病率を比較することで仮説を検証してゆく様は、作中にも語られる通り医者よりは探偵に近い仕事に思える。逆に推理小説に手法として取り入れたら面白いかも知れない。


ところで以前から気になっているのが、川端氏が度々語る「医学は疫学を科学と見做していない」という話。医学側からの発言を直接確認したものではないが、少なくともこれは私が疫学に抱いた印象と食い違う。

疫学の調査手法は明らかに科学的思考に則ったものだ。確かに「恣意的にパラメータを変動させた統計に基づく」というのは危うさを感じぬでもないが、それは推定のための道具に過ぎず、仮説に基づく検証は欠かしていない。

それに科学としての不安定さは医学とて似たようなものだ。ほとんどの知識は経験に基づくもので、「どうしてこうなるかは解らないが効くことだけは確か」というものも多い。病理学にしても総当たりによる病原特定など、凡そ理論的とは言い難い手法がしばしば用いられ、科学としての洗練はない。

疫学は、科学と言えば充分に科学の範疇だし、理論科学でないと言えば医学も病理学もその範囲にない。「同じ穴の狢」なんじゃないかと。

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2007-01-22

[]『星と半月の海』 14:26 『星と半月の海』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『星と半月の海』 - 芹沢蔵書目録 『星と半月の海』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

星と半月の海

星と半月の海

動物園/水族館を中心とする短編集。色々考えたくなるようなバックグラウンドを示しつつ、読み物として純粋に楽しめる作品。

やろうと思えばこれ一つ一つで長編か書けるんじゃないかと思うとちょっと勿体なくもあり、しかし著者独特の浮遊感というか疾走感のようなものを考えると、これくらいの長さで丁度良いのかも知れない。

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2006-11-17

[]『リスクテイカー』 『リスクテイカー』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『リスクテイカー』 - 芹沢蔵書目録 『リスクテイカー』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

リスクテイカー

リスクテイカー

川端初期作品、金融SFである。「もし市場の動向が予測できる技術が登場したらどうなるか」その一つのシナリオがここにある。

金儲けには全く興味ないが、市場経済のシステムには興味がある。その辺りを判り易く学べたのは収穫。ていうか読みながらずっと頭の中でゲームシステムへの置き替えを考えてしまうのは職業病というか(職業じゃないけど)。

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今ここにいるぼくらは

今ここにいるぼくらは

小学生日記。半分覚えがあるだけにむず痒い。

藍色藍色2009/11/09 01:32こんばんは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
[川端裕人]『今ここにいるぼくらは』をこの記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。

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2006-11-08

[]『せちやん〜星を聴く人〜』 『せちやん〜星を聴く人〜』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『せちやん〜星を聴く人〜』 - 芹沢蔵書目録 『せちやん〜星を聴く人〜』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

せちやん―星を聴く人

せちやん―星を聴く人

星ネタだったのでかなり期待しながら読んだのだが、これは外れ。

なんというか、主人公の半生をだらだら聞かされるだけの作品になってしまっている。

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はじまりのうたをさがす旅  赤い風のソングライン

はじまりのうたをさがす旅 赤い風のソングライン

このところ「緩い」作品を中心に読んでいたので忘れかけていたが、そう言えばこの人の持ち味はテンションの持続にあるのだった。


フォークシンガーがアボリジニのソングライン探索の旅に放り込まれる話。冒険譚でもあり政治的な物語でもある。

音楽論が理性的に過ぎる反面、その力が歌詞を中心に語られてしまうことと、終盤やや精神論的な方向が見られるのは残念。

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2006-10-26川端裕人フェア:続き

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みんな一緒にバギーに乗って

みんな一緒にバギーに乗って

保育士小説。特に男性保育士を中心に描いている。

そう言えばこの人、PTA活動などを中心に教育分野にも強い関心を持っているのだった。

私の好きな川端作品は科学に論点を置いたもので、その点では少し外れるが、丁度保育園の通園経験がある上の娘が今度は幼稚園に通う年齢になったあたりで、無縁の世界でもない。

まあ、それはあくまで保護者の視点であって保育士の視点ではないのだけれど、それなりに思うところがあったのも事実で。

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銀河のワールドカップ

銀河のワールドカップ

私は基本的にスポーツとは無縁で、とりわけ球技に関してはする方はおろか見る方も殆ど関心がない。例外は多分ゲートボールぐらいだ。

まったくの無知というわけもなくて、サッカー好きの友人に多少の講釈を受けたりして一応の知識は持っているが、積極的にサッカー漫画やサッカー小説を読むようなことはなかった。

それがまさか、こんなにも夢中になろうとは。


少年サッカーの話である。元J2のFWが草サッカーをしていた数人の少年に請われコーチに就く。才能溢れるが我が強く組織に馴染めなかった三つ子を中心にチームは急成長し、終には「銀河軍団」と試合う……筋だけ語ってしまえばそういうことになる。


無理のある話だ。どれほどの才能であろうと、たかが小学生のサッカーチームが大の大人、それもスペインの強豪とやりあおうというのだから。

無理を無理でなくするためには天才が必要だ。だから、この話には何人もの天才が登場する。

けれど、単に天才の伝説、ではない。どんなチームも天才だけでは構成できないのだ。幾人かの天才を、凡庸なチームメイトが補佐する。彼らは凡人で、度肝を抜くような才能は持ち合わせていない。けれども時々、きらりと光るものを見せる瞬間がある。これはそういう話だ。そういう話の積み重ねだ。


川端裕人の文章はイメージさせる力が強い。描写力-----とは少し違うような気がするが、文章がすんなり頭に入ってきて、具体的なイメージが結実する。これまでの作品ではそれが主として科学的説明に活かされてきたのだが、本作ではそれが戦況と戦術の説明にぴたりと嵌まっている。


サッカー好きの人がこれを読んでどんな感想を抱くのかは判らない。けれども、サッカーに思い入れのない人でも-----あるいはそういう人こそ、楽しめる作品だと思う。


今月の三冊に推す。残り二冊は考えてないけど。

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