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2008-09-05

[]『ファイナル・シーカー レスキューウィングス』 『ファイナル・シーカー レスキューウィングス』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『ファイナル・シーカー レスキューウィングス』 - 芹沢蔵書目録 『ファイナル・シーカー レスキューウィングス』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

自衛隊の航空救難隊、なかでもとりわけハードな降下救助員の話。


航空救難というのは第二次大戦期のドイツ空軍に始まったもので、当初は主に北海に墜落したパイロットの救助を想定していたという。(海面着色剤ダイマーカー)などもドイツ軍による発明。

この当時は

  1. 水上機で遭難者捜索
  2. 浮舟を投下
  3. 着水して救助

だったが、現在ではヘリによる救助が主となっている。時折災害救助を行なっているのが報道されるので見覚えあるだろう。


ヘリからのロープによる(懸垂降下ラペリング)といえば空挺部隊の任務とするところであり、空挺部隊はどの国でも陸軍きっての精鋭部隊であるが、降下救助員というのは正にそれを専門とし、かつ(実戦投入されることのない空挺と異なり)実務を幾度も経験しているという稀有な存在である。

海上保安庁が海上自衛隊よりも実戦経験豊かであるように、航空救難隊は習志野の空挺部隊より精鋭であると言える。なにしろ彼らの出番というのは自衛隊ならまず出動しないような状況-----濃霧による視界不良や荒天の中での飛行・滞空、増水する急流や高波で荒れる海面への降下など、救助作業それ自体が自身の身を危険に晒すような行ないなのだから。


自衛隊の救難部隊というのは色々な意味で矛盾に満ちた存在である。人を殺すのが仕事の軍隊にあって人を助けるのが任務の部隊であり、また人を助けるために自らの命を賭す存在。


プロフェッショナルを書かせたら右に出るものはない小川一水による、プロ中のプロの仕事を書く一作、面白くなかろう筈もない。

ただ、ライトノベルレーベルからの出版だったためか「幽霊憑き」などの設定がやや邪魔ではあるかも知れない。それだけが残念。

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2007-11-02

[]『時砂の王』 『時砂の王』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『時砂の王』 - 芹沢蔵書目録 『時砂の王』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

何度、総毛立ったことか。小川の得意とするふたつの路線が見事に融合した、これは本当の傑作だ。


26世紀、突如として機械軍団の侵略を受け太陽系から撤退した人類は、自らの存在を賭した大攻勢に出る。即ち、時間遡行による過去時点での防衛線構築である。

歴史をどこまで改竄しようとも、人類種の存続という時間線だけは死守するための戦。統合機械知性体と、その指揮下に戦う肉体を持った知性体による軍を仕立て、永劫の時間を戦い抜く。


これは時間SFであり、それ以上に社会SFである。22世紀官僚社会の確執、20世紀の権謀術数、……3世紀日本の絶望的な武力。

敵はエネルギーと資源さえあれば無限に増殖する。エネルギーは陽光でも充分、過去ならば資源はまだ手付かず。従って通常の戦と異なり、「撃退したら守りを固めて体制を整える」なんていう余裕はない。損害覚悟で連戦に連戦を重ねて最後の1拠点まで完全に殲滅する以外に、勝ち目などない。

そして戦線は、地上平面だけでなく過去=未来時間線にも築かねばならない。いずれかの時点で殲滅されてしまえば、それ以降の時間線が消失するからだ。従って人類発祥以来の全時間を守る必要がある。あらゆる時間線での、あらゆる社会での全面戦争。


惜しむらくは280ページ弱と短かいこと。この内容ならば、やろうと思えば全12巻ぐらいの長大な戦記に仕立てることだって出来ただろうに。

同人レヴェルで個々の戦記が描かれたりしないものだろうか。


書き忘れた。時代移動の度に1から施設構築し直し/確保した資源に応じて使える技術が変化するあたり、非常にRTS的な感じを受けた。ある種のRTSノヴェライズとして読むのも一興(あるいは逆か?RTSが戦記のゲーム化として優れたシステムであるとも言えるのか)。

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2006-09-15

[]『疾走!千マイル急行(下)』 『疾走!千マイル急行(下)』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『疾走!千マイル急行(下)』 - 芹沢蔵書目録 『疾走!千マイル急行(下)』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

上巻がいま一つ乗れなかったので下の購入を躊躇っているうちに忘れていた。図書館のティーン向けコーナーで発見したので確保。


何が気に入らなかったかと言えば、偏にこれがSFでないことに尽きる。私は小川一水の社会的政治的作風が嫌いではないが、それはあくまでSFに立脚しているときの話だ。これはフィクションではあるが、サイエンスをベースとしたものではない。

それでも、価値観の転換を含むSF的作法は見て取れたし、機関車という前世紀の遺物には思い入れがあるから、そういう点は大いに楽しんだ。


ところで市立図書館、ティーンズ向けの分類がおかしくないか。グレッグ・イーガンと古橋秀之が並んでいる光景はなんともシュールだ。

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2006-09-06

[]『天涯の砦』 『天涯の砦』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『天涯の砦』 - 芹沢蔵書目録 『天涯の砦』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

本当に小川一水は絶望的な状況を作り出すのが巧い。

日本の低軌道宇宙ステーション「望天」。疑似重力のために回転する居住区と無重量工業のために回転しない工業区を併せ持つ複合施設である。

全体を静止或いは回転させるなら話は簡単なのだが、相対的に回転するブロックを持つということは構造的に難しい部分が多い。望天は巨大なベアリングによって回転軸を支えていたが、グリスの選択ミスによって致命的な事故が発生、構造体は崩壊し、居住ブロックが八方に飛散した。

そのうち一つ、月面往還船と衝突したブロックを舞台に繰り拡げられる脱出劇。小川一水お得意のカタストロフィSFである。


本当に小川一水は癖のある人物を描くのが巧い。

惑星間飛行士の試験に落ちて世を拗ねた作業員、診療報酬を巡る事件で月面を放逐された医師、肚に一物ある制御環境学者、秀才だが社交性に欠ける青年と金持ちで美人だが社交性が全く欠如したお嬢様……ある意味でスペシャリスト揃いで、またある意味で碌な人間がいない。

彼の面白いところは、癖のある人物をただ癖があるものとして描くのではなく、そうなるに至った背景をも説明し、人格に沿った行動を取らせることで説得力……とでも言うか、物語の厚みを出せる点である。只の悪役、只の邪魔者はいない。人間にあまり関心を持たず、文学性の薄いとされるSFに於いてある種貴重なタイプだ。

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2006-08-09

[]『復活の地『復活の地』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『復活の地』 - 芹沢蔵書目録 『復活の地』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

病床の身で読むものではない徹夜小説?。恐らくは小松左京の傑作『日本沈没』と『復活の日』あたりを意識して書かれたものだろう。


舞台は未来の地球外惑星。一度は高度に発達した科学技術を以て繁栄したものの戦争により地球は滅び、人類は通商を失って分裂した。現在は、暗黒期を乗り切った国が再び宇宙に進出し、幾つかの星を支配下に置いた帝国主義が幅を利かせている。

そんな中、惑星レンカは自力での宇宙技術を持たない後進国であり、戦前日本の如き君主制をとっている。入植以来四百数十年の浅い歴史にも関わらず、既に人種摩擦が発生しており、レンカ帝国人が他人種を支配し圧政を敷く。

数年に渡る外征を終え、惑星統一を果たしたレンカ帝国は大国と対等の立場にあるべく星外への進出を目論むが、そんな折発生した大地震で首都は壊滅、主人公は官僚として災害の復旧と復興を指揮する。


簡単に言えば、これは合理的で冷静な一官僚と、その周囲に渦巻くどろどろした政治的思惑の衝突を書く話である。もっと言えばモヒカン族とムラ人の……いやまあ。

日頃政治とは意識的に距離を置き、人間ドラマの類を遠避ける傾向にある私にしては珍しいことだが、流石は小川一水というべきか、最後まで退屈することなくほぼ一息に読み切ってしまった。これは偏に、彼の描写の巧さ故であろう。

それぞれの立場、それぞれの思惑から愚かしい行動を取りつつも、彼らなりの正当性によって単なる憎まれ役ではなく一人の人間として機能する脇役たち。下手なドラマや映画より遥かに面白い。

そんな内容ながら単なる社会ドラマではなく、未曾有の大地震についての描写ではきっちりハードSFとしての側面を見せる。伊達にハヤカワSF文庫から出ていない。


3冊合わせて1200ページほどとかなりのヴォリュームがあるので、夜半に読み初めるのは止めた方が良い。読み終えるまでに一晩かかってしまうから。

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