芹沢蔵書目録 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-05-02

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太陽系外からの侵入者が構築した軌道リング。それが上空にある時だけ引き起こされる「究極的忌避」及びテレパシー作用。リング崩落物による忌避エリア形成、及びその中で活動する異形の生命体「キッカイ」。それに抗するために作られた人型決戦兵器「ダイナミックフィギュア」。


ファーストコンタクトSFでありながら生態系SFでありロボットSFであり、地政学SFでもある。それぞれに魅力的な要素を兼ね備えつつ、互いの要素が絡み合ってひとつの作品を作り上げている点は正に重厚で、2段組の四六判にして400ページ上下巻というヴォリュームもあって実に読み応えがある。京極を4時間で読む私の読速を以てして丸一晩をかけた。


入り組んだ設定故に、物語の舞台説明だけでも饒舌にならざるを得ない。


軌道リングには、生物に対する謎の忌避作用があった。自転に伴う1日2回の「忌避時間」、それへの感受性による人類の分化。地上に崩落した一部が形成する無生物エリア、そこに増殖する異形の生命体。

日本では「キッカイ」と名付けられたこの巨大な生命体は、極めて特異な繁殖と進化を見せた。牡個体が「経験」を体内の特殊器官に蓄積、死の瞬間にこれを付近の牝個体に(リング内ではたらくテレパシー作用を使って)伝達するのだ。次世代は経験を反映させた「手強い」タイプになり、行動も形態も凄まじい勢いで進化する。

人類はこれを戦力によって「封鎖」することで席巻を凌いでいるが、そのために「飛行」という概念を与えることを極度に恐れた。翼ある飛行体の使用は、たとえ音速で飛来する砲弾であれ禁じられ、故にキッカイへの対応は地上兵力で当たるしかない。

死によって強力な次世代を作ることがないよう、処理にあたってはまず「走馬灯」器官を"去勢"し、次いで生命活動を停止させる必要がある。


ニューギニアでは国連軍がエリア一帯の直轄を宣言し事に当たっているが、徳島にリングが落下した日本では主権の放棄をよしとせず、あくまで自力対処の道を選んだ。そのための手段として投入されたのが、たとえば「誤って致命傷を負わせてしまった個体を去勢処理までの間生存させておく」蘇生部隊であり、あるいは「山間での大型モンスターとの柔軟な戦闘に対処するための人型決戦兵器」であった。

全高20m以上の人型戦闘車両。軽量化を図っても数百tは下らないであろう質量を時速100kn以上で軽々と運び、無補給で720時間以上の連続稼動すら可能なそれは明らかにリング同様オーヴァテクノロジの産物であり、各国は日本が「その気になれば他国を制圧し得る」戦力を運用することを強く警戒し、使用にあたって他国の承認を必要とするなどの制約を科した。


身も蓋もない表現をすれば、これはエヴァでありガンパレである。人類を脅かす謎の存在。唯一それに抗し得る人型兵器。日本の国土上に敷かれた防衛線。若者たちの出陣。たった一人で戦況を覆す決戦存在。


複雑な状況下で研究者が、軍が、政治家が、革命家が、それぞれの思惑を以て動く。物語の中心はSF的な部分よりもむしろ地政学的群像劇に置かれている。立場なりの理念、立場なりの嫌らしさ。決して二元化された単純な対立構造に陥るでなく、それぞれに持ち得る正義と野望によって世界が揺れる様は充分に引き込ませてくれる。

ただ、惜しむらくは人を中心に据えて物語を描くには些か人物描写が甘い。個々の人物像はともかく、複数の人物による「場の雰囲気」的なものを描こうとした時に空回りしているような印象を受ける。また、得意でないにも関らず「人」に焦点を当てる物語構造にしてしまったことにより、ラストがいかにも精神論的な、尻窄みな感じに落ち着いてしまったのは残念という他ない。

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