芹沢蔵書目録 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-04-11

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動物相を持たない珪素生態系の森に覆われた惑星。落差5千mにも達する断崖に隔離された高地への入植。惑星自治政府と、低地の独占開発権を有する私企業、蔓延し始めた流行病を警戒する星間評議会間の政治的な駆け引き。化学専攻にして公務員であるという立場から来るものだろうか、デビュー作であるにも関わらず実に魅力的な舞台設定と堂々たるリアリティを有する完成度の高いSFである。

些か詰め込み過ぎの感がないではない。高度30kmから未知の森林地帯へのダイヴ、珪素植物相の生化学的相互作用、行政同士の駆け引きと高度情報社会描写、いずれもそれ一つで作品として描写し得る程度のアイディアを一冊に押し込んだ結果、個別の描写は低密度にならざるを得ない面がある。そのことを若干勿体無く感じると同時に、しかし相互関連性を持たせて詰め込んだからこその物語密度でもあろうと思う。あるいは逆に、物語の軸を絞り込んでも魅力を減じることなく書き切るだけの実力があるかどうかについての見極めが必要かも知れない。


解説で(本書が受賞した第11回日本SF新人賞の選考委員である)山田正紀氏が解説するように、このリアリティの源泉は「説明しない」ことにある。SF的な種々のギミックを、「この世界では既知の事実」として説明抜きで簡潔に扱うことによる実在感の演出。世界を描写するというSFの特徴を文章レヴェルで体現したメタ手法。作品内世界の変化文法を地の文にまで適用したジャック・ウォマックほどではないにせよ。


いずれにせよ、今後の活躍が楽しみな作家であることは間違いなさそうだ。

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