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2006-08-23

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人獣細工

人獣細工

追い詰められる精神描写の冴え渡るホラー短編集

表題作はサイコ/バイオホラーとでも言うか、アイデンティティ問題を中心とした良作だが、真骨頂は「本」というそっけないタイトルの短編である。小林泰三得意のクトゥルフ的描写が素晴しい。

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密室・殺人 (角川ホラー文庫)

密室・殺人 (角川ホラー文庫)

小林作品には(多分)珍しいミステリもの。但し、断片的にクトゥルフ風味を鏤めてある。

登場人物が全員、探偵小説の類いを強く意識して行動するというメタなミステリで、決して読み難い文体でもないのに妙に進んだ気がしない。

探偵像としてもかなり斬新ではなかろうか。少なくとも私の乏しい知識の中にこのパターンは類型を見出せない。

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2006-08-21

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顔のない男

顔のない男

カヴァーが違ったので気付かなかったが既読。とは言え全体を通したオチは記憶にあったが、個別のストーリーは朧気にしか思い出せなかったので、結果として普通に楽しんだ。

ある事件を追ううちに浮かび上がる正体不明の男と、それに纏わる事件の全貌。短編を繋いで一つの流れを作る、北森鴻お得意の手法が冴える良作。

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Θ(シータ)は遊んでくれたよ (講談社ノベルス)

Θ(シータ)は遊んでくれたよ (講談社ノベルス)

ギリシャ記号を冠したGシリーズ第2作。これまでのシリーズが探偵役の頭文字だったのでGって誰のことかと思っていたが、要するにGreekのGか。

どうもこのシリーズで気になるのは犀川の存在である。S&Mでは「冴えたワトスン」約の西之園に対してアームチェア・ディテクティヴぶりを如何なく発揮してきたが、Gシリーズでは探偵たる海月及介の推理に対し「言われる前から気付いてたけどね」的ポジションにあって、言い替えれば頭の良さを示す物差し的な使われ方をしているようで引っ掛かる。

とは言えミステリとしては普通に楽しめるのだが。

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τになるまで待って (講談社ノベルス)

τになるまで待って (講談社ノベルス)

なんともスッキリしない作品。

大方の森ミステリでは犯行の動機自体は重要視されず、手法の動機とでも言うか、「なぜこのような手法を取らねばならなかったか」という部分を主体として解かれ、外連の強い状況であっても何らかの納得が得られるものなのだが、この作品に於いては全てが手品的であり、「如何に不可解な状況を作るか」のみで構成されているかのような印象がある。

ある意味で正しい新本格なのかも知れないが、どうしても評価は一段落ちる。

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ロックンロール七部作

ロックンロール七部作

この人の作風はどうも、最後まで計算尽くで書かれたものとラストのイメージと書き出しだけ決めて勢いでそれを繋げるようなものがあるという気がする。本作は明らかに後者。

7つの大陸でそれぞれ発生したロックの来歴を語る。それは如何にして生まれ、如何にして変容し、如何にして埋葬されたか。ロックを通した20世紀史。

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のだめカンタービレ(7) (KC KISS)

のだめカンタービレ(7) (KC KISS)

のだめカンタービレ (8)

のだめカンタービレ (8)

のだめカンタービレ(9) (KC KISS)

のだめカンタービレ(9) (KC KISS)

のだめカンタービレ(10) (KC KISS)

のだめカンタービレ(10) (KC KISS)

のだめカンタービレ(11) (KC KISS)

のだめカンタービレ(11) (KC KISS)

のだめカンタービレ(12) (KC KISS)

のだめカンタービレ(12) (KC KISS)

のだめカンタービレ(13) (KC KISS)

のだめカンタービレ(13) (KC KISS)

のだめカンタービレ(14) (KC KISS)

のだめカンタービレ(14) (KC KISS)

のだめカンタービレ(15) (KC KISS)

のだめカンタービレ(15) (KC KISS)

どうやらツタヤのレンタルコミックは「最新刊は入れない」という約定もしくは暗黙の了解があるようで、14巻までしかなかったので最新刊は購入。どうせそのうち全部揃えるし。


10巻あたりから漸く少女漫画(……じゃないか、何だろう?男性で言えば青年誌とかその辺りの区分だと思うのだが)らしい展開になってきたような。ヒロインにその風格が出てきた……というよりは主人公が諦めたから?

キャラが次々増えるが、ちゃんと書き分けられているし死蔵されないのは流石の一言。R☆Sの面々も再登場を期待。

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王様の仕立て屋 1 〜サルト・フィニート〜 (ジャンプコミックス デラックス)

王様の仕立て屋 1 〜サルト・フィニート〜 (ジャンプコミックス デラックス)

ごく初期に発見して、誌面では度々読んでいるのだが、コミックスを購入していないので最初の数話を知らないままであった。偶々ツタヤのレンタルコミックにあったので1巻のみレンタル(こういう借り方をする理由の半分は、妻が嵌まって続きを借りるよう仕向ける意図も少々)。

要するに服飾のブラック・ジャックなのだが、よもや最初はこんなにもやさぐれていようとは。今は随分穏かになったものだ。

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ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス)

「人気コミックはひょっとして面白いんだろうか」シリーズその3。因みにその1はのだめカンタービレ(大当たり)、その2はNANA(妻は受け付けなかったようで、私は手に取る気も起きなかった)。


判定:なんというか……普通に読めるが続きを読みたいという気分にはならないという感じ。手近にあって他に読みたいものがなければ読むだろうが、わざわざり買ったり借りたりするまでもない。

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2006-08-15

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凍りついた香り (幻冬舎文庫)

凍りついた香り (幻冬舎文庫)

調香師の見習いであった彼の自殺から始まる長編。彼の遺したメモにあった言葉は匂いを示すもので、それを追ってゆくことで死者の輪郭が浮かび上がる。

香りというモティーフの所為か、やや茫洋として掴みどころがないイメージ。

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まぶた

まぶた

ここにもまた香りと分類をキーワードとした小編が収められている。数学と並んで彼女の好むモティーフなのだろうか。

そうと意識したわけでもなさそうだが、これまで読んだ他の作品に較べホラー/ファンタジー的傾向がやや強めに出ている。

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2006-08-11

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夏の名残りの薔薇

夏の名残りの薔薇

旧いホテル。陰鬱な柱時計。猟奇的な作り話を繰り返す三姉妹。望まぬにも関わらず毎年訪れる客たち。

そんな舞台で、少しづつ変化しながら語られる6つの話。

6人それぞれの視点から語られるこの事件の真相は?


本当に、恩田陸は闇を抱えた人間を書くのが巧い。

後ろめたい所のある人々同士が集まり、表面上は穏やかに、水面下では腹を探り合うような雰囲気。

ミステリーというよりある種の怪奇小説的に楽しむのが正しいのかも知れない。

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クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

一言で言えば「想像力が貧困」。


火星の極冠で発見された多細胞生物は、明らかに生物として不自然な分布を見せていた。これは「貝塚」のような一種の遺跡ではないか、その線から研究するために若き考古学者が火星へ派遣される。

始まりからはファースト・コンタクトを想起させ期待が持てるが、展開はむしろ電子世界を中心としたものだった。しかも、そのネットワーク世界の描写は3Dで描画される空間内を歩き回り、怪物の姿をしたプログラムが襲ってくるような、1990年代初頭で全滅したと思われていたチープな代物。読んでいて正直げんなりする。

人物も薄っぺらい。別にしっかりした肉付けを期待するわけではないが、それならそれで観察者に徹すればよいものを、不必要に内面の描写が多いから辛くなる。

『ハイドゥナン』でも見られたスピリチュアルなもの、とりわけ沖縄と縄文文化への傾倒……というか特別視が強く出ているのも鼻に付く。なんで火星と縄文文化に共通点があるのだ。


火星ドームを覆う特異点とか、突き詰めたら面白くなりそうなネタを引っ張ってくる割に考証は置き去りで、その辺を無理矢理スピリチュアルで解決してしまう感じ。

最初はいかにもハードSFのようだが、実際には精々ニューウェーヴSFといったあたり。80年代ノリ。

これで1999年度のベストSF1位というのはちょっと信じ難い。

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のだめカンタービレ(1) (講談社コミックスキス (368巻))

のだめカンタービレ(1) (講談社コミックスキス (368巻))

のだめカンタービレ(2) (KC KISS)

のだめカンタービレ(2) (KC KISS)

のだめカンタービレ(3) (KC KISS)

のだめカンタービレ(3) (KC KISS)

のだめカンタービレ(4) (KC KISS)

のだめカンタービレ(4) (KC KISS)

のだめカンタービレ(5) (KC KISS)

のだめカンタービレ(5) (KC KISS)

のだめカンタービレ(6) (KC KISS)

のだめカンタービレ(6) (KC KISS)

家に帰ったら6巻まで転がっていた。近所のツタヤが始めた貸本サーヴィスで1冊30円だったらしい。


噂に違わぬ面白さ。噂では「面白いオーケストラ漫画」という以上のことが伝わってこなかったのだが、これは……何と言うか、破天荒だ。

塵溜めの中のグランドピアノ。クラブサンドとエスプレッソが提供できる中華料理店。食い気と色気を勘違いしているのだめ。胴着経験から飛行機にも船にも乗れない才色兼備の主人公。ていうか主人公のだめじゃないし←ここにまずびっくり。

現在15巻ぐらいまで出ているらしいので、取り敢えず貸本で欲求を解消しておいて、余裕を見て買おう。

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夏のロケット

夏のロケット

1週間ぐらい前に読んだのだが書き忘れていた。


あさりよしとおなつのロケット (Jets comics)の原作かと思って読んでいなかった作品。見たところあまりSF畑の人でもなさそうだったし。

「なつ」は小学生がモデルロケットを手作りする話だったが、「夏」の方は高校の天文部でモデルロケットを作っていた同級生たちが30になって本当に宇宙まで飛ぶロケットを作るという話。幾つかのご都合主義(一人でロケット設計をすべて担当する天才的科学者と材料工学にも長けた天才技術者と様々な資材を入手可能なつてを持った商社の営業マンと億単位の資金を投入可能なミュージシャンとロシアの宇宙開発畑にコネのある科学部の記者が一同に会するあたり)はあるものの、総じて現実的に「一民間人がロケットを打ち上げることは可能か」という命題*1に取り組んでいる。

読み易い文体で読者を引き込む良作で、ロケット趣味の人は勿論、興味のない人でも面白く読めそうな気がする。

*1:SpaceShipOneが民間初の宇宙飛行を成功させる前の話である

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2006-08-09

[]『復活の地『復活の地』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『復活の地』 - 芹沢蔵書目録 『復活の地』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地 2 (ハヤカワ文庫 JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

復活の地〈3〉 (ハヤカワ文庫JA)

病床の身で読むものではない徹夜小説?。恐らくは小松左京の傑作『日本沈没』と『復活の日』あたりを意識して書かれたものだろう。


舞台は未来の地球外惑星。一度は高度に発達した科学技術を以て繁栄したものの戦争により地球は滅び、人類は通商を失って分裂した。現在は、暗黒期を乗り切った国が再び宇宙に進出し、幾つかの星を支配下に置いた帝国主義が幅を利かせている。

そんな中、惑星レンカは自力での宇宙技術を持たない後進国であり、戦前日本の如き君主制をとっている。入植以来四百数十年の浅い歴史にも関わらず、既に人種摩擦が発生しており、レンカ帝国人が他人種を支配し圧政を敷く。

数年に渡る外征を終え、惑星統一を果たしたレンカ帝国は大国と対等の立場にあるべく星外への進出を目論むが、そんな折発生した大地震で首都は壊滅、主人公は官僚として災害の復旧と復興を指揮する。


簡単に言えば、これは合理的で冷静な一官僚と、その周囲に渦巻くどろどろした政治的思惑の衝突を書く話である。もっと言えばモヒカン族とムラ人の……いやまあ。

日頃政治とは意識的に距離を置き、人間ドラマの類を遠避ける傾向にある私にしては珍しいことだが、流石は小川一水というべきか、最後まで退屈することなくほぼ一息に読み切ってしまった。これは偏に、彼の描写の巧さ故であろう。

それぞれの立場、それぞれの思惑から愚かしい行動を取りつつも、彼らなりの正当性によって単なる憎まれ役ではなく一人の人間として機能する脇役たち。下手なドラマや映画より遥かに面白い。

そんな内容ながら単なる社会ドラマではなく、未曾有の大地震についての描写ではきっちりハードSFとしての側面を見せる。伊達にハヤカワSF文庫から出ていない。


3冊合わせて1200ページほどとかなりのヴォリュームがあるので、夜半に読み初めるのは止めた方が良い。読み終えるまでに一晩かかってしまうから。

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2006-08-01

[]『ダイヤモンド・エイジ』 『ダイヤモンド・エイジ』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『ダイヤモンド・エイジ』 - 芹沢蔵書目録 『ダイヤモンド・エイジ』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

サイバーパンクのようでサイバーではない(パンクではあるが)未来世界の地球。高度に発達したナノテクで望みのものを作り出し、管理経済の崩壊から国家が消滅、代わりに「種族」などと呼ばれる新たな共同体が乱立する時代。

新ヴィクトリア王朝に所属するナノテク技師ハックワースはその能力を買われ貴族の孫娘のために企画された「若き淑女のための初等読本」制作を任される。彼は沿岸チャイナ共和国の租界にて密かにその本を複製、自分の娘に与えようと画策するが、それが元でチャイナ、ヴィクトリア双方の陰謀に巻き込まれてゆく……


ニール・スティーヴンスンは文章に関してあまりエンターテイナーではないようで、(以前読んだ『クリプトノミコン』でもそうだったのだが)話の展開が唐突で、また一つ一つの章は平坦で盛り上がりに欠ける印象を与える。にも関わらずそこには一抹の魅き付けられずにはいられない何かが含まれているようだ。


ダイヤモンド・エイジの世界ではネットワークこそ発達しているがサイバネスティクス方面はほとんど未着手と言って良い。何故ならば、それらはナノテクの発達により不要な技術となったからだ。身体的欠陥は殆どナノテクにより補い得るし、どんなに身体を強化しても分子レヴェルで分解・変性を可能とするナノマシンの前には無力である。

驚くべきことに、身体強化以外に唯一サイバネスティクスの優位と考えられる情報処理技術についてさえ、ナノマシンは予想だにしない方法で追随してみせる。


「若き淑女のための初等読本」は、牙を抜き平凡な人材を育てるだけの教育制度に不満を持った貴族が自分の孫娘を理想的な淑女に育てるために開発させた「インタラクティヴな」本である。バッテリを内蔵し、表示を自在に変化させるばかりか音声処理まで実行するスマートペーパーで製本されたそれは、通信機能と音声/光学センサまでを持ち合わせ、読者の行動に合わせてインタラクティヴに内容を変える。

ストーリーは基本的に共通構造を持った寓話集で、読者の社会基盤に合わせてキーワードを変化させる仕組みになっている。例えばトリックスター役がキツネであったりコヨーテであったり、悪役が悪魔であったり鬼であったり、というふうに。

幼少期には簡単なお話に合わせて文字の読み方からレクチャーし、話の途中で発せられる疑問に答えるためサイドストーリーを挟み、また時には読者自身に主人公の行動を選ばせることで摂理を教え、そうして学校に行かずとも必要充分な教養を身に付けることができるように考えられたそれは、言わば成長を共にする壮大なRPGのようなものだ。

これはある意味で本の究極形である。これ1冊あれば他のどんな本も要らないのではないかと思わせるだけのものを秘めている。飽きることのない童話、広範な辞典、娯楽であり教育的でもあるゲーム。そして本という、今もってWebが追い付けないダイレクトなUIを具えた形態。その見地からすれば、これはハイパーテクストの利点とペーパーメディアの利点を兼ね具えた代物と言える。

現代世界でもペーパーディスプレイの開発は進行しているが、それらは基本的に紙のような反射表示の視認性と歪曲可能な自由度を求めた結果に過ぎない。本当に紙にように使えるようになる日がいつか来るのだろうか。


……話が逸れたが、この作品が見せる退廃した未来の風景や物質文明崩壊の予兆、融合的なアイデンティティの提示などは明らかにサイバーパンクの流れを汲むもので、また前時代的な雰囲気やキーワードはむしろスティームパンクを想起させるものである。言わばこれは双方の橋渡しをする、もしくはその両方を吸収しつつ新たな境地を切り拓く「ナノテク・パンク」とでも言うべき新たなジャンルである。

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