2005-10-31
■ [ロバート・J・ソウヤー]『ヒューマン』


- 作者: ロバート・J・ソウヤー,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/06/23
- メディア: 文庫
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ネアンデルタール・パララックス第2部。前回あまり追及されなかった事件の続きであり、今回は主に2世界の交流が描かれる。
SFではしばしば、架空の社会を描写することがあるが、例えばスティーヴン・バクスターがディストピアとして疲弊しまた腐敗した末期社会を描くのに対し、ジェイムス・P・ホーガンやグレッグ・イーガン、ソウヤーなどはどちらかというとある種のユートピアとしての社会を描く傾向にあるようだ。特にこのシリーズではそれが色濃く出ているような気がする。
無論、完全な社会などあり得ないからここでも様々な弊害が見えはするが、少なくともソウヤーの視点は、(主にアメリカを中心とした)猜疑心が強く暴力的で見栄っ張りな人間社会に対するアンチテーゼとしての「向こうの地球」を見ているのだろう。
そしてもう一つ、後書きでソウヤーが「オタク」であることが語られているが、それは理想社会の人間たちの設定からも伺える。イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)のトソク人が赤外線視覚から嘘を見破れたり、ネアンデルターレスが発達した嗅覚でフェロモンによる感情伝達を行えるなどの設定は、多分作者自身あまりコミュニケートの得意な方ではないが故に発想されるものなのではないだろうか。
2005-10-28
■ [スティーヴン・バクスター]『虚空のリング(上下)』


- 作者: スティーヴンバクスター,Stephen Baxter,小木曽絢子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1996/05
- メディア: 文庫
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- 作者: スティーヴンバクスター,Stephen Baxter,小木曽絢子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1996/05
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時系列的にはジーリー・クロニクルの最後を飾る話。タイムワープの結果暗澹たる未来を知った人類は種を存続させるための航海を決意、そのクルーの視点から人類の、そしてジーリーの歴史が語られる。
短編集で一度語った内容を再編して長編に仕立てたもので、これまでの各作品との関連は面白いが、実際のところストーリーとしては少々退屈。とは言え超弦や暗黒物質の描く壮大な宇宙像は興味深い。
■ [ロバート・J・ソウヤー]『ホミニッド』


- 作者: ロバート・J.ソウヤー,Robert J. Sawyer,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/02/01
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ネアンデルタール・パララックスと題された3部作(多分)の一。
平行宇宙よりホモ・ネアンデルターレスの物理学者が飛ばされて来る。「こちら側の」地球では驚くべきニュースとして迎えられるが、一方「あちら側の」地球では共同研究者が居なくなった学者を殺人した嫌疑で告発される。
物理学に属する部分の理論は些か怪しいが、本書の主眼はそこにはない。ソウヤーお得意の異生物文化シミュレートと法廷ミステリ(ミステリではないが)が炸裂。
所々に、作者の政治や宗教に対するシニカルな態度が見え隠れする。例えば、「CNN調査による、ネアンデルタール人に質問したいトップ3」の3番目は「あなたはキリストを信じますか?」
ところでこの作品、ちょっと章を細かく区切り過ぎではないだろうか-----凡そ10ページほどで1章の構成なのだ。いや読み易いし切り上げ易いので助かるが。
2005-10-25
■ [スティーヴン・バクスター]『フラックス』


- 作者: スティーヴンバクスター,Stephen Baxter,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1996/01
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これもジーリー・クロニクルの一つ。今度は中性子星が舞台である。
中性子星と言えばロバート・L・フォワードの『竜の卵 (ハヤカワ文庫 SF 468)』が思い出されるところだが、あれが中性子星表面を舞台としていたのに対し、こちらはその内部が舞台となっている点が目新しい。
体長僅か10ミクロンの「人間」たちは錫を主体とした組成を持ち、僅か10cmほどの厚みの中性子星内部の超流体大気の中で生きている。なんと広大な微小空間であることか!
2005-10-24
■ [石川雅之]『もやしもん(2)』


- 作者: 石川雅之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/10/21
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あまりに地味な表紙で平積みに気付かなかったもやしもん2巻。内容自体は全部本紙で読んでいるんだけれど、矢張り読み応えがある。
新たにゼミ生・武藤を迎えて女っ気が増えてきた樹ゼミ。日本酒の話を中心に醗酵ネタいろいろ、と思いきや異様な学園祭に突入。相変わらずドタバタして面白い。
■ [杉浦守][押井守]『紅い足跡』


- 作者: 杉浦守,押井守
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/10/26
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ケルベロスシリーズの外伝的作品。動乱の中を脱出し国外逃亡した都々目紅一を中心にした、映画「ケルベロス」を髣髴とさせる構成である。
画力も内容も悪くない、がどうにも科白回しが引っ掛かる印象。このあたり映画的演出では藤原カムイの方が上である。
■ [スティーヴン・バクスター]『天の筏』


- 作者: スティーヴンバクスター,Stephen Baxter,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1993/12
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ジーリー・クロニクルの系譜に連なる長編。シリーズの短編集(プランク・ゼロ (ハヤカワ文庫 SF―ジーリー・クロニクル (1427))か真空ダイヤグラム―ジーリー・クロニクル〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)、どちらかは忘れたが)に原型が短編として収録されている。
ジーリーを追ってゲートに飛び込んだ人間がやってきたのは重力定数が10億倍の宇宙である。重力は元々極めて微小な力であるので10億倍しても我々の生命が重篤になるほどではないが、個人個人が周囲に影響を及ぼせるほどの重力場を持つ程度には大きい。
こういう極限環境下の文明を想像するのは大変愉しいことだ。
描かれるのは死にかけた陰鬱な世界であり、物語としても単純な冒険譚に過ぎないが、老博士が予言する大重力下での新たな生命パターンの可能性は心躍るものを感じさせる。
2005-10-21
■ [三雲岳斗]M.G.H.


- 作者: 三雲岳斗
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2000/06
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以前読んだ海底密室 (徳間デュアル文庫)の前作にあたる、SFミステリ。無重力の宇宙ステーションで起きた墜落死の謎を解く。
どういう意図か、「昔の事件」を匂わすなど事件と直接関係ない部分でキャラの設定が盛り込まれているのが少々鼻につく。この手法は、彼がライトノベルを多く書いているらしいことと無関係ではあるまい。
ミステリとしてはそれなりに楽しめるが、謎解きではやや専門知識が要求される感があり、フェアとは言えないかも知れない。ついでに言えば基礎部分は海底密室とも共通する。同じ手法を連続で使うのはちょっと……
作者の経歴を読んだら国文科卒とある。てっきり工学部かと思ったので少々驚いた。
■ [北森鴻]孔雀狂想曲


- 作者: 北森鴻
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/10/26
- メディア: 単行本
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うっかりしていて以前読んだことに気付かずリクエスト出してしまった。
2回読んでも矢張り面白い。考古学=古美術シリーズと料理シリーズは全部揃えても損無しと再認識。
以前のレビューが出てこないようなので書いておこう。
今回の主人公は、狐シリーズに度々登場する下北沢の雅蘭堂主人・越名集治。こうして複数の作品にまたがってキャラが出演するのが味わいの一つでもある。著作を渡り読むことで世界が広がるのは愉しい。
ネタとしてはかなり狐と被るのだが、あちらは主に中〜長編であるのに対しこちらは短編集なので、少しばかり趣きが違う。狸な奴等の陰謀はこの世界の常だが、狐がやや情緒的な面を強く出すきらいがあるのに対し、こちらは少しばかりドライな印象。
私は北森の作品としては短編の方を高く評価しているので、できればこちらのシリーズも続けて欲しいところだ。
2005-10-18
2005-10-14
■ [森博嗣]四季・夏/四季・秋


- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/11/08
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- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/01/09
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以前「春」を読んだきりだったので、まとめて借りる。冬は貸し出し中であった。
犀川&西野園シリーズと保呂草&瀬在丸シリーズ、双方の集大成とも言えよう連作。非人間の象徴たる天才・真賀田四季博士を中心に、これまでの人間関係を整理する。
秋まででほぼやり終えてしまったような印象があるのだが、この後どうするのだろう。
2005-10-13
■ [寮美千子]ノスタルギガンテス


- 作者: 寮美千子
- 出版社/メーカー: パロル舎
- 発売日: 1993/07
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これは無限に生成する廃墟とその創造主を巡る魔術書である。名付け得ぬものと命名の呪縛、呪縛装置としての写真。
命名により固着し、解体により理解し、模倣により学習する。けれどもそうすることで本質を失う。
児童文学に分類されているように、主人公の一人称視点により平易な文体で書かれているが、大人が読んでも充分に楽しめる作品。
■ [北森鴻]写楽・考〜蓮丈那智フィールドファイルIII〜


写楽・考―蓮丈那智フィールドファイル〈3〉 (新潮エンターテインメント倶楽部)
- 作者: 北森鴻
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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迂闊にもタイトルからシリーズ3作目であることに気付かなかった。解っていれば図書館リクエストではなく即購入したものを。
今回の各話のキーワードは「依代」「鳥居」「保食神」(最後の一つは特に秘す)。いずれも楽しませてくれた。特に最終話、表題作である「写楽・考」だが、発想の飛躍は大変素晴らしい。ただ、辿り着いた結論については少々引っ掛かる。
冒頭の絡繰り箱がなんであるかは、注意深く説明部分を読めば直ぐに理解できよう。しかし、写楽との結びつきは説明不足の感がある。
あれの特徴は写実性であるが、写楽にその傾向は見られない。むしろその作風は誇張的・漫画的である。歪曲によるバランスへの着目は見事だが、それだけを論拠とするには弱くないだろうか。その点で減点してBプラス。
あとタイトルでネタバレするのはどうかと。原題「黒絵師」のままで行って欲しかった。