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2012-12-29

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WOMBS 1 (IKKI COMIX)

WOMBS 1 (IKKI COMIX)

WOMBS 2 (IKKI COMIX)

WOMBS 2 (IKKI COMIX)

WOMBS 3 (IKKI COMIX)

WOMBS 3 (IKKI COMIX)

WOMBS ウームズ 4 (IKKI COMIX)

WOMBS ウームズ 4 (IKKI COMIX)

WOMBS ウームズ 5 (IKKI COMIX)

WOMBS ウームズ 5 (IKKI COMIX)

異世界の風習や生活の描写を得意とする白井弓子の、異星SF漫画。

一言で言うならば「戦略の要を担う、女だけの部隊」の話……なのだが、恐らくこの言葉からイメージされるものとは程遠い、がっしりと骨太な戦争SFである。


長く続く、第一次入植者ファースト第二次入植者セカンドの戦争。両者の出航時期には200年に及ぶ断絶があり、科学技術の発展にもまた同じだけの差がある。

ファーストから見れば、長いテラフォーミングを経てようやく開拓を開始したところに現れ惑星の自治権を主張するセカンドは「侵略者」であり、これに屈することは入植の努力を、先人の犠牲を無にすることと同義となる。

物語はファースト側の視点から描かれるため、セカンドの思惑を諮るのは難しい。ただ、(何故既に入植の目的地として選択されていた星を目的地としているのかは不明ながら)(ファーストは事故に伴う空間漂流の末に本来とは異なる惑星に入植しており、偶然それがセカンドの目的地と重なったようだ)彼らとて長い距離を越えてここまで来た以上、今更撤退もしくは他星への移動という選択肢は恐らくあり得ないのだろう。

いずれにせよこれは両者とも引くに引けないアイデンティティの戦いでありイデオロギーの戦いである。戦争の動機としては最悪の。


前述の通り、両者の科学技術には格段の差がある。正攻法では、戦力差は明らかだ。ここでファースト側は、原生生物の「空間転移能力」を活用した特殊輸送部隊を創設することでセカンドとの格差解消を試みた。空間を飛び越えて部隊ごと移動する強襲部隊によるゲリラ戦術。

その特殊部隊こそが、「女だけの部隊」である。それがどのようなものかは敢えて語らないが、決してアイドルのような代物ではないとだけ述べておく。


セカンドは特殊部隊、及びその技術手法を「非人道的」として非難し、嫌悪感を植え付けるプロパガンダを展開する。ファーストもセカンドの「欺瞞的虐殺」を非難し、また情報統制や民衆への「教育」によって戦意を支える。

どこかで聞いたような話だが、つまるところ全面戦争とはいつの世でもこういうものだ。

国には国の思惑があり、上層部には上層部の思惑が、個々の兵士にもまた個人の思惑が。どれが正しいのでも間違っているのでもなく、それらが絡み合い織り成す中に物語がある。こういうものをきちんと描ける人は、それほど多くない。

物語は主に、新米転送兵の視点を通じて描かれる。どのような訓練を経て、どうやって惑星規模の空間認識を得、それを使いこなしてゆくか。人間的成長というより、超能力の開拓過程といった風情であるが、「人間が本来持たぬ知覚」の描写は実に力強い。


白井弓子は2007年度の文化庁メディア芸術祭に於いて、「天顕祭」でマンガ部門奨励賞を受賞しているが、同作は同人誌(というか個人誌)であり、商業出版されていない作品の受賞は初めてのことであった。

それほどの力量で描かれた作品ながら、2年前に刊行された1巻から2012年の3巻まですべて重版のかかった形跡がないというのは不思議なことだ。よほど初版刊行数が多かった……とは考え難い。つまり、注目されていないということだろう。実に勿体ない。


若い世代には受けの悪い作品なのかも知れないが、竹宮恵子「地球へ……」や萩尾望都「銀の三角」など70年代頃の名作SF漫画に匹敵する傑作であると言い切りたい。

WOMBSが、2017年2月に発表された第37回日本SF大賞を受賞

s-fugas-fuga2012/12/29 13:04>何故既に入植の目的地として選択されていた星を目的地としているのかは不明ながら
ファーストは、漂流してたどり着いた旨の記述があったので、当初目的としていた星じゃなかったんじゃないかな。
試し読みしたけど、確かに力強い。

DocSeriDocSeri2012/12/29 13:12ああ、確かに「漂流の末」とはあるんですよね。これは事故か何かで当初の目的地ではない星に到達したってことなんだろうか。

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2012-12-15

[]『この空のまもり』 『この空のまもり』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『この空のまもり』 - 芹沢蔵書目録 『この空のまもり』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)

久し振りに、読んだ本の感想を書こうという気になった。


近未来政治SFである。「平成が終わって15年」、まあ大体現在から15〜30年ぐらい先の話ということになる。

少子化が進行し小学校は10人を下回る超少人数制。高齢者が圧倒的多数となったこの社会では少数派の若年層は政治的に無視されている。電子情報社会に対応できなかった日本政府の遅れた法整備は強化現実の無法状態を許し、社会は無数のタグに埋め尽くされた。宣伝や他国の政治スローガン、誹謗中傷やプライヴァシーの漏洩。そういったものが野放図に仮想空間を汚す。

政府に、現実社会に失望した若年層は独自に行動を開始した。強化現実の「国土」を守るべく自宅警備員たちが(室内で)立ち上がり、ネットの支持を得てAR自警団は数を増やし、組織化されて架空軍となった。増え過ぎたネット民意をまとめる目的で政治部門が発足し、それは架空政府となった。

この時代の日本には2つの政府が、二重の社会が存在している。


見ようによっては、現在の政治状況に対する寓話とも言える。少子化と不況がもたらす社会構造への影響。そうした状況を受けた国民の感情。登場人物たちは、それぞれが政治思想のモデルケースだ。

「愛国」を掲げた人たちが排外主義をもたらし、「悪いタグを掃除」したその手で中傷タグを付ける。「平等」を掲げた教育界は少子によって縮小した日本人に代わって移民を受け入れ、失業率の上昇と賃金の低下を招く。そのどちらにも与しない「中立」層は政治アクションを起こすことなく居場所を失ってゆく。

誰が正しいのでもない。それぞれの立場にはそれぞれの正しさがあり、軽い衝突を繰り返しながらバランスを録ってゆくものだ。極端な偏りは碌な結果をもたらさない。それは個人のバランスについても同様で、右であれ左であれ、極端に偏った先には破滅の淵が口を開けている。


なにぶん現実と強くリンクしているため、社会は八方塞がりで、それをぶち壊す異能も与えられない。こんな重いテーマではあるが、ネットスラング混じりの軽妙さがそれを救っている。笑いながら、考えながら、あっという間に読み終えてしまった。

奇しくも明日は衆議院議員選挙である。些か紹介が遅きに失した感はあるが、今なればこそ是非読んで頂きたい。できれば、投票よりも前に。

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2011-05-02

[]『ダイナミックフィギュア』 『ダイナミックフィギュア』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『ダイナミックフィギュア』 - 芹沢蔵書目録 『ダイナミックフィギュア』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

太陽系外からの侵入者が構築した軌道リング。それが上空にある時だけ引き起こされる「究極的忌避」及びテレパシー作用。リング崩落物による忌避エリア形成、及びその中で活動する異形の生命体「キッカイ」。それに抗するために作られた人型決戦兵器「ダイナミックフィギュア」。


ファーストコンタクトSFでありながら生態系SFでありロボットSFであり、地政学SFでもある。それぞれに魅力的な要素を兼ね備えつつ、互いの要素が絡み合ってひとつの作品を作り上げている点は正に重厚で、2段組の四六判にして400ページ上下巻というヴォリュームもあって実に読み応えがある。京極を4時間で読む私の読速を以てして丸一晩をかけた。


入り組んだ設定故に、物語の舞台説明だけでも饒舌にならざるを得ない。


軌道リングには、生物に対する謎の忌避作用があった。自転に伴う1日2回の「忌避時間」、それへの感受性による人類の分化。地上に崩落した一部が形成する無生物エリア、そこに増殖する異形の生命体。

日本では「キッカイ」と名付けられたこの巨大な生命体は、極めて特異な繁殖と進化を見せた。牡個体が「経験」を体内の特殊器官に蓄積、死の瞬間にこれを付近の牝個体に(リング内ではたらくテレパシー作用を使って)伝達するのだ。次世代は経験を反映させた「手強い」タイプになり、行動も形態も凄まじい勢いで進化する。

人類はこれを戦力によって「封鎖」することで席巻を凌いでいるが、そのために「飛行」という概念を与えることを極度に恐れた。翼ある飛行体の使用は、たとえ音速で飛来する砲弾であれ禁じられ、故にキッカイへの対応は地上兵力で当たるしかない。

死によって強力な次世代を作ることがないよう、処理にあたってはまず「走馬灯」器官を"去勢"し、次いで生命活動を停止させる必要がある。


ニューギニアでは国連軍がエリア一帯の直轄を宣言し事に当たっているが、徳島にリングが落下した日本では主権の放棄をよしとせず、あくまで自力対処の道を選んだ。そのための手段として投入されたのが、たとえば「誤って致命傷を負わせてしまった個体を去勢処理までの間生存させておく」蘇生部隊であり、あるいは「山間での大型モンスターとの柔軟な戦闘に対処するための人型決戦兵器」であった。

全高20m以上の人型戦闘車両。軽量化を図っても数百tは下らないであろう質量を時速100kn以上で軽々と運び、無補給で720時間以上の連続稼動すら可能なそれは明らかにリング同様オーヴァテクノロジの産物であり、各国は日本が「その気になれば他国を制圧し得る」戦力を運用することを強く警戒し、使用にあたって他国の承認を必要とするなどの制約を科した。


身も蓋もない表現をすれば、これはエヴァでありガンパレである。人類を脅かす謎の存在。唯一それに抗し得る人型兵器。日本の国土上に敷かれた防衛線。若者たちの出陣。たった一人で戦況を覆す決戦存在。


複雑な状況下で研究者が、軍が、政治家が、革命家が、それぞれの思惑を以て動く。物語の中心はSF的な部分よりもむしろ地政学的群像劇に置かれている。立場なりの理念、立場なりの嫌らしさ。決して二元化された単純な対立構造に陥るでなく、それぞれに持ち得る正義と野望によって世界が揺れる様は充分に引き込ませてくれる。

ただ、惜しむらくは人を中心に据えて物語を描くには些か人物描写が甘い。個々の人物像はともかく、複数の人物による「場の雰囲気」的なものを描こうとした時に空回りしているような印象を受ける。また、得意でないにも関らず「人」に焦点を当てる物語構造にしてしまったことにより、ラストがいかにも精神論的な、尻窄みな感じに落ち着いてしまったのは残念という他ない。

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2011-04-16

[]『さらい屋五葉』 『さらい屋五葉』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『さらい屋五葉』 - 芹沢蔵書目録 『さらい屋五葉』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

さらい屋五葉 第1集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第1集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第2集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第2集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第3集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第3集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第4集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第4集 (IKKI COMICS)

さらい屋五葉 第5集 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 第5集 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 6 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 6 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 7 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 7 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 8 (IKKI COMIX)

さらい屋五葉 8 (IKKI COMIX)

オノ・ナツメの漫画は妙にヨーロッパのにおいがする。舞台としても欧米を描くことが多いけれど、それだけでなく絵のタッチも物語も、なんとなく日本っぽくない。コントラストの高さがそう思わせるんだろうか。

さらい屋五葉は江戸の話で、日本でない要素なんてひとつもないのに、にも関わらず日本ではないどこかの物語のようだ。ハードボイルド……というのも少し違うが、なんとなくそういうイメージを抱かせる。

ラフな絵なのに緻密で、丸っこい筆致なのにかっちりしていて、情緒的なのに怜悧で、斜に構えているのに真っ直ぐな漫画。

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2011-04-11

[]『樹環惑星──ダイビング・オパリア──』 『樹環惑星──ダイビング・オパリア──』 - 芹沢蔵書目録 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『樹環惑星──ダイビング・オパリア──』 - 芹沢蔵書目録 『樹環惑星──ダイビング・オパリア──』 - 芹沢蔵書目録 のブックマークコメント

動物相を持たない珪素生態系の森に覆われた惑星。落差5千mにも達する断崖に隔離された高地への入植。惑星自治政府と、低地の独占開発権を有する私企業、蔓延し始めた流行病を警戒する星間評議会間の政治的な駆け引き。化学専攻にして公務員であるという立場から来るものだろうか、デビュー作であるにも関わらず実に魅力的な舞台設定と堂々たるリアリティを有する完成度の高いSFである。

些か詰め込み過ぎの感がないではない。高度30kmから未知の森林地帯へのダイヴ、珪素植物相の生化学的相互作用、行政同士の駆け引きと高度情報社会描写、いずれもそれ一つで作品として描写し得る程度のアイディアを一冊に押し込んだ結果、個別の描写は低密度にならざるを得ない面がある。そのことを若干勿体無く感じると同時に、しかし相互関連性を持たせて詰め込んだからこその物語密度でもあろうと思う。あるいは逆に、物語の軸を絞り込んでも魅力を減じることなく書き切るだけの実力があるかどうかについての見極めが必要かも知れない。


解説で(本書が受賞した第11回日本SF新人賞の選考委員である)山田正紀氏が解説するように、このリアリティの源泉は「説明しない」ことにある。SF的な種々のギミックを、「この世界では既知の事実」として説明抜きで簡潔に扱うことによる実在感の演出。世界を描写するというSFの特徴を文章レヴェルで体現したメタ手法。作品内世界の変化文法を地の文にまで適用したジャック・ウォマックほどではないにせよ。


いずれにせよ、今後の活躍が楽しみな作家であることは間違いなさそうだ。

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